3-9話 アンサンブルの異端児たち
第三章:クラン A.ドボルザーク:
「まぁ、アンサンブルというのは、いわゆる多職持ちの僕らを示す、隠語みたいなものだね。人前でも使いやすいだろ?」
香音はあっさりと、多職持ちという言葉を口にする。
「ということは… やはり、メンバー全員が?」
みんなが同時に頷いてみせる。
「アンサンブルには共通した特徴があるんだ。もう分かるだろ? 僕らには前世の記憶がある… 僕らはみんな元日本人なんだ」
ああ… このひと言が、どれだけ頼もしく思えたのか… それだけで、自分も仲間なのだと、強く納得できてしまった。
「みんなはデュオ、二職を同時に持っている。僕だけが三職持ちでトリオになるね。いちおう信頼の証として、僕の職業を教えておくよ… レベルは28、多分、今の陣営内では最高レベルなはずだよ」
レベル28で陣営最高レベルなのか… 以外にレベルが低いのは、やはり成長する前に、みんな消失してしまうのだろうか?
「一次職は メインは聖騎士に見えてるはずさ。そして更に魔法使いと魔術師のスキルを使えるよ。二次職は学者、賢者、薬剤師だね。まぁ、こんな感じでお堅いのは前世の影響らしいんだ」
「植物使いと精霊魔法師とか… 結構、凶悪ぽい遠距離魔法特化だな…」
「うん、実際にコンポスキルも強力だよ? その辺の披露はまた後でだね」
香音は、大きな瞳の上目遣いで、機嫌良さそうに笑みを浮かべる。そのはにかんだ表情は、少し中性的で不思議な魅力があった。
「じゃ、次は俺いっとくか?」
厨房の奥から顔を覗かせた、イケメンの大男がエプロンで濡れた手をゴシゴシと拭いている。
「俺はまぁ、見た感じのままで重騎士に、悪魔使いを併用してる。デビルズナイトなんて呼ばれてるな。重装甲のまま飛べるんだぜ!」
「幸太郎も飛べるのか? 羨ましい…」
「だろ? 生産は調理師に、鍛冶師だな。金属系の防具のメンテや改造なら任せてくれ」
「それは、有り難いな… 本職の防具職人を見てみたかったんだ」
「おぅ! そして、そのアプリコット パイを食べてくれ… 自信作だ」
そう勧められて、慌てて一口齧りつくと、甘酸っぱい旨味が、さくさくのパイ生地と一緒になって絶妙に美味しい。
「うわ、何だこれ、めちゃめちゃ美味いんだけど…」
「そうだろ! ははははっ! 料理全般は任せてくれ。胃袋を掴んでやるぞ」
「男の胃袋掴んで… 誰得なんだよ…?」
大翔が苦笑すると、猫耳少女が「おかわりー」とパイの皿を持ち上げる。
「サクラはねー ご想像通りで吟遊詩人がメインだよ。後は回復役の聖職者でもあるの。完全に癒し系でしょ? そして踊り子と、地味に未来予知ができちゃう占い師をやってまーす」
サクラは印象通りの、分かりやすい組み合わせなんだな…。
「占い師とはちょっと異色だな?」
「占い師はね、たまーに、実現可能な幾つかの未来が見えるんだよ。どの未来を選ぶかはわたし達の、行動次第って感じなの」
「なるほど… ある意味、危険予知や、探知に近いのか…」
「危険だけじゃないよー 楽しいこと、哀しいことも見えるからね。ヒロトくんがうちに来ることも、最初から見えてたよ!」
黒地に内側が白毛の可愛い猫耳が、ピコピコと動いて見ていて飽きない。
「そうか… そのうち俺の未来も占って欲しい…」
特に月歌との未来と行く末を…。
「良いけど… あまり遠くの未来は不確かだからね。近々未来予測って呼ばれるぐらいだから…」
「そうなんだ… それでも何時かお願いするよ」
「はーい」
桜咲も機嫌良さそうに、可愛く敬礼をして見せた。
「わたしは… 格闘家と降霊術師を持っていてね… どちらも近接戦闘だから、周りが脳筋扱いするので困ってるわ」
彩葉が、紅茶を上品に口にする。そのぽてっと厚めの唇が、陶器の縁に吸い付く様が色っぽい…。
「実際にイロハが怒ったら、手付けられない獰猛な女豹だから、注意しとけよ?」
そう言って幸太郎がにひひと笑うと、彩葉が口を尖らして、ぴんと指先で空気を弾いた。
「うげっ」
その空弾を額に食らって、声を上げて仰け反る幸太郎… 桜咲が「あははは、馬鹿だぁー」と笑い転げる。
「た、確かに、その組み合わせって、完全に近接特化だよな… 格闘家の格闘術と気功武術に、降霊術師の凶悪な魔物パワーが乗るんだろ?」
え? 今の空気を弾いたのか? やべえ…。
「そうね… すぐにヒロトを鍛えてあげるよ? 君も修道士持っているみたいだし」
「それは有り難い… 対人戦は、あまり経験が無いんだよ」
「あら? そうには見えなかったけど… まぁ、わたしも楽しみだわ。それと二次職は裁縫師と… あとは内緒かな… 服は材料があれば作ってあげるから、その皮装備も魔改造できるわよ?」
俺の一張羅は、どんな魔改造されちゃうんだろう…。
「ああ… いずれ頼むと思うので、よろしくお願いします」
「ふふっ、何時でも大丈夫よ」
彩葉が落ち着いた笑顔で、爽やかに笑って見せた。近くで見る彼女は、その切れ上がった瞳に、長く上を向いた睫毛が、涼しく精悍な印象を与える、モデルのような美少女だ。
「さて… ではヒロト、僕らは君の職業を知りたいな?」
香音は柔らかく笑ってはいるが、瞳だけは真剣で、好気の色を浮かべている。
「お、おう… 取り敢えず… 5職持ってるんだけど…」
「…………………… えっ?」
全員が一瞬、真顔で固まってしまう。
「ヒロト、おまっ、 熱ちぃ!!」
幸太郎が完全に手元を見失って、珈琲を派手に零してしまった。
「ごめんヒロト… 僕の聞き間違えでなければ、君は5職持ちの… クインテットということなのかい?」
「そう… なるのかな? トリオ、カルテット、クインテッドという認識で合ってるか?」
「そうなるね、それで、それで! 何の職業持ちなんだい?」
好奇心がダダ漏れのまま、香音の言葉が弾んでいる。
「暗殺者と修道士がベースな感じで、補助に魔道士を使うかな。あとは盗賊、付与術士で、警戒と自己強化に使ってる? 強化スキル使ってからの、短剣での不意打ちと、高速での接近戦闘ってスタイルだよ」
「うんうん、良いね! 君の強化スキルは強力そうだ。そして一般のキャラクターに、潜伏したヒロトを見つけるのは無理だろうね。うちに欠けていた、斥候と探知のポジションで理想的だよ」
「それは良かった。というか… このパーティって、俺も入れたら強化だけで凶悪な数値にならないか? 神の祝福だけでも3人が持ってるって… 更に吟遊詩人の支援有りだろ?」
「そう言われると、恐ろしい事になりそうだね… サクラの吟遊詩人とヒロトの付与術士で、純粋な支援職が2職になったし、瞬間的にはx250%ぐらいにはなりそうかな?」
「いや… もっとだろ? オレ一人でも平均で200%超えるんだぞ?」
「本当に? それは恐ろしいわね… それじゃヒロトは、攻撃速度上昇も使えるのね?」
そう漏らした彩葉の瞳は、言葉に反して生き生きと輝いてみえる。
あっ… やっぱりイロハはパワーファイト嗜好なのね…。
「ステータスの底上げは、この世界の戦闘では圧倒的な差を生むからね。ヒロトを加えた事によって、我々は変わらずに上位クランを維持できそうだ」
香音は子供のような浮かれ顔で、厨房の幸太郎に「珈琲頂けるかな?」と頼んでいる。
「あと二次職は、鑑定士、付与師、武器師、細工師、探検家だよ。探検家の啓示と危険探知のおかげで、凶獣の森で即死しないで済んだんだ」
「ヒロトは、この世界に生まれてどのぐらいなのかな?」
「今日で… 半月ぐらいかな? あの森では10日間を過ごしたんだ」
「え? ヒロトはたった10日でLV17まで育ったのかい?」
香音が、子供のようにぴょんぴょんと小さく跳ねながら、大翔の肩をぐいと掴んだ。
「あ、ああ、そうだな… LV18までいったとこで、死亡ペナルティで17に戻された感じ?」
そこで再び、カウンターがしんと静まり返る。
「えぇ? 何か問題があるのか?」
「ヒロトよ… お前それ、可怪しいからな? 普通は一年でレベル10まで育てば早い方なんだぞ? そんなにぽんぽんレベルって上がるもんじゃない」
慣れた手付きで、香音に珈琲を差し出す幸太郎。
「え… そんな事いってもな… 一緒に森で目覚めた月歌って娘も、同じぐらいの成長速度だったぞ?」
「それはまた興味深いね… その娘はどうしたんだい? この街では見掛けないよね?」
香音が再び、前のめりになると、近づいた彼女の蜜髪がさらっと彼の鼻先をくすぐった。
ちょっと、それ近いからさ… この娘は、興奮すると子供みたいになるのな。
「ずっと気付かなかったけど… 彼女は敵陣営の戦士だったんだ。一緒に殺されて、今は離ればなれだよ」
「彼女もアンサンブルだったんだね?」
「ああ… カノンの言い方だとカルテッドだな…」
「うーん、敵陣営にカルテッドか… まだ推論でしか無かったんだけど、ヒロトの話ではっきりしたよ。アンサンブルは、受けとる経験値が一般人より多いんだ。多分… 僕は3倍… そしてクインテッドである君は5倍じゃないかな?」
蜜色の髪を小さく掻き上げると、困ったように表情を固くする。
「…… まじかぁ!? 経験値にまで多職持ちのバグがあったのか…」
「でもヒロトとその女性って、凄い運命を感じるねぇ! あの森で一緒に目覚めるなんて、わたしと幸太郎以外に、聞いたことないもんねー」
「ということは、サクラと幸太郎は凶獣の森で、同時に目覚めたのか?」
「そうだよー わたしが眼を覚ました時、幸太郎が横で寝ていたの… これってもう運命でしょ? 運命感じるよね? ビバ!ディスティニー!」
「サクラ… お前可愛いけど、ちょっと恥ずかしいからな…」
幸太郎は、でかい躯体で、顔を紅くして照れていた。
「どうにか、彼女の生存を、確認する方法はないのかな…?」
彼は誰に言うでもなく、俯いてそう漏らした。
「ねぇ、ヒロト… その女性の話は、伏せておいたほうが良いよ… というか我々だけの秘密だな。君はまだ自覚が無いかもしれないが、僕たちは戦争中なんだ… 敵国に親しい知り合いが居るとなったら、スパイの疑いを掛けられて、下手すれば追放の罪にさえなる。そこは心して置いて欲しいな」
多分、とても大事な話をしているのだろう… だが何故かそんな饒舌な香音に、小さな違和感を感じてしまった。
「そんなにか… わかった迂闊だったよ。注意するよ」
素直な 大翔の言葉に、一瞬、はっとして焦り顔を横に向けた。
「そうだね、まぁ君がその女性に、心底惚れている事は理解したつもりだよ… ただ、カルテッドとなると… いつか戦場で出逢ってしまいそうだよ」
香音はその、愛らしいエルフの表情で、思案するように瞳を閉じた。
14万字も掛かって、やっとカノンと出会う事が出来ました… ハァハァ。これでやっと役者が揃った!
ご指摘ご感想、↓の☆(ポイント)評価など頂けると、大変に励みになります。




