1-12話 石鹸と新スキル
第一章:異世界リスタエルス:
月歌は藍染色の寝台にうつ伏せのまま、ベッドの脇に積んである布の山を指差した。
「これ、とりあえずの下着と靴下と羽織りものと、その下はパンツかな? 寝間着と、着替えは必要でしょ? 試作品なのでサイズとか合わなかったら、また作るから」
「まじですか! 着たきりを覚悟してらから… ありがたいです!」
一番上に畳まれていた服を、手にとって広げてみる。それは若草色の甚平ぽい羽織りものだった。ほとんど日本の既成品と遜色ない出来栄えだ。
「本当に良い感じだなぁ、ありがとなツキカ。これは嬉しいよ」
「そう… 良かったわ。麻製品だから、どうしても硬めで、ごわつく感じはあると思うの。綿花が手に入るまで、それで我慢ね」
そういって少女は、薄く紅色に染まった頬を隠すように、するっとベッドから立ち上がる。そして革のサンダルを引っ掛けると、沸いた大鍋とケルトの湯を火から降ろした。
「わたし、お湯で身体を拭くから、少し水を使わせてもらうね… の、覗いたら絶対駄目だからね!」
月歌はそう言って、湧いた湯を手にすると、パタパタと水場の壁の中に姿を消した。
何故だろう… 「覗かなきゃ絶対駄目だからね!」に聞こえたのは、願望の表れということですね…。
しばらくすると、湯桶を使う音や、ちゃぽんという水音が漏れてきて、洞窟部屋に小さく反響をする。僅かな湯気の湿気や、水が流れる音は、銭湯や大浴場を連想させ、懐かしいと感じてしまった。
懐かしい… どうなのだろう? 俺が死んで、どれだけ時間が経ったのか? 一瞬で転生した気もするし、長い時間、別の場所に留まって居た気にもなる…。
「ねぇ、ヒロト、石鹸用の平皿を作ってくれないかな?」
仕切りの向こうから、月歌の声が部屋に響いた。
「えぇ? 鉄製の皿で良いのかな?」
「うん、お願いね、置くところがなくて…」
大翔はさくっと手のひら大の皿を作ると、扉の下部に空いている隙間から滑り込ませた。その僅かな隙間に、しっとりと濡れた指先が現れると、皿をすくい上げていった。
細くて綺麗な指だな… ツキカは華奢だけど、胸は意外にありそうだからなぁ… って、何を考えて…。
木扉を挟んで、月歌の裸と向かい合わせに居る事実に、とたんに羞恥と、無駄な高揚感が沸きあがる。彼は焦って作業場の木棚に向かうと、煩悩を祓うように、一心不乱に剣系の鉄器を作り始めてしまった。
17歳の少年にとって、同じ部屋に全裸の女性が居るという現実は、それだけで人生の一大事なのだ。たとえ実際には、何も起きないと分かっていても…。
そうして、気がつけば木棚の机の上に、十数点の剣や、ナイフなどを並べていた。
「お先です… お湯は半分残してあるから、ヒロトも身体を拭くと良いよ」
濡れ髪を麻布で巻いて、薄桃色の浴衣を着た月歌が、ちらっと彼を伏目がちに見る。その少女らしい可憐で、少しだけ色気を含んだ立ち姿に、思わず視線をそらせてしまった。直視するには、余りにも魅力的すぎたらしい。
「ああ、そうするよ…」
ぎこちなく答えて水場に向かうと、少女の浴衣姿とすれ違ってドキリとした。甘い何かの花の香りが心地良い。
「ツキカ良い匂いするな… それって石鹸なのか?」
「そぉ? 良かった… 石鹸を作ってみたのよ。岩塩で食塩水をつくって、それから苛性ソーダに分解して… あとはオーリブ油とカモミールを材料にしたの。使ってみたけど、肌荒れとかはしてないから、ヒロトもどうぞ」
「まじか… 石鹸まで手に入るのか、凄いなツキカ…」
「それは錬金術師さんのお手柄だから」
そう言って月歌は、ふふっと少女らしく表情を和らげる。
「あと、あのウォータータンクの形で、強度高めで密閉されたものとか作れる?」
「ん? 密閉って… 缶詰でも作るのか?」
「缶詰も良いわね… あのね苛性ソーダに分解すると、余計な気体が残るのよ。外に直接捨てるのも怖いから、何かに入れて捨てようと思って」
「そう… 気体なのか? じゃ完全一体型の、ただのタンクを作っておくよ」
そう言いながら、水場の扉の奥へと消えていった。
この2日ほどで、この世界が暖かな季節、もしくはそういう地域に居ることに気づいていた。昼間に活動すると暑く感じることもある、という程度の初夏のような気温である。
しかし、この洞窟部屋は、大きな岩山の中にあって、今は少し涼しげで、とても快適な室温に保たれている。多分、地下室というものは、そういうものなのだろう。夏が涼しく、冬は暖かい…。
「はー さっぱりしたよ。やっぱり石鹸で洗えたのが良かった… 少し多めに作って、分けてもらっていいかな? 外でも使いたい」
「うん、じゃ多めに作っとく… そのかわり岩塩を結構使うわ、染料や布を柔らかくするのに、苛性ソーダが結構必要だから」
少女は上がり床の上で、女の子座りで軽くクッションに寄りかかっている。まだ生乾きの髪がほつれて、うなじに掛かり、その浴衣に濡れ髪の艶っぽい姿は、どこかで見たCMの女優のようだと思った。
「塩は鍛冶場跡で、大量に仕入れたから良いよな?」
彼女の手作り甚平を、上下のセットで着ている大翔。その少し硬めの着心地も、湯上がりには風通しも良く快適だった。
「君の黒髮は、浴衣にとても似合うのな…」
彼も居間に登ると、月歌の横に腰を降ろした。
「そぉ? そっか… なら頑張って良かったかな」
大きなクッションを胸に抱えて、そこに照れた顔を埋めている。出会った時はキツイ物言いと整った表情に、冷たい印象のあった月歌だが、今はすっかりと柔らかく笑み、まるで修学旅行の初夜のように浮かれてみえる。
きっと緊張をしていたんだろな… 今なら確かに同世代の女の子にしかみえないよ。
すでに寝る支度は万全で、木の盆の上には、水の入ったピッチャーとガラスのコップまで用意されてある。入り口の大岩は一度収納してから、白狼を部屋に呼び入れて、再び封鎖するために取り出されていた。
ホワイト ビーストは大きく欠伸をすると、上がり床の横でうつ伏せに寝てしまった。
「そういえば、わたし達レベルアップしたね。ちょっと確認しとこうかな」
そういった黒髮の美少女は、大翔の真横に横ずれてくると、そのままクッションを抱えて瞳を閉じる。
ち、近いぞ… 美少女!
離れるのも失礼な気がして、そのまま彼もステータスを開いてみた。
:ヒロト シマナ: 人族 ♂ :LV5:
:ステータス:
体力 85 (30 +55)12up
魔力 150(30 +120) 31up
気力 75(25 +50) 21up
力 90(30 +70)10up
敏捷 55 (25 +30)3up
知力130(30 +100)27up
器用100(30 +70)21up
運 29
:職業:
*暗殺者LV5(AGI+15) *魔道士LV5(INT+15) *盗賊(AGI+15) LV5 * 付与術士LV5(INT+15) *修道士LV5(HP+15)
:二次職:
鑑定士 LV3(INT+30)*付与師 LV2(MP+20)*武器師 LV2(DEX+20) *細工師 LV2(DEX+20)*探検家 LV3(HP+30)
:技術 パッシブ:
*短剣術LV3(STR+30) 無属性魔術LV3(MP+30) *付与術LV2(INT+20) 気功武術LV2 (VIT+20)光魔法LV1 (MP+10)
:技術 アクティブ:
暗襲LV1(STR+10)*魔力弾LV3(MP+30) 気配探知LV3 (DEX+30)混乱の香りLV2 (MP+20)*連撃LV3(STR+30)
*潜伏1LV1(VIT+10)*潜伏2LV1(VIT+10)*魔力身体強化LV1(MP+10)*身体能力強化LV1(INT+10)*神の祝福LV1(INT+10)
:スキルコンボ:
無し
:ユニークスキル:
無し
:称号:
ディメテル連合戦士(HP+10)(VIT+10)
:装備:
初期装備一式 黒鋼ネルガの短剣(Unique)
(*はレベルアップした職業と技術)
おおっ!新技術が増えてる! やっぱりLV5ごとに、次の技術が開放されていくらしい… 潜伏が二個あるのは、暗殺者と 盗賊の技術が、被らずに重複するってことか…。
:技術:
潜伏
一定時間、外部からの認識を阻害する。視覚、音、気配の何れにも有効。レベルによって有効時間、索敵抵抗の効果が上昇 効果時間300秒 Delay600秒
というか… これ潜伏を二個持ってると、攻撃しなければ永遠に隠れてられるんじゃ… あとは、魔力身体強化、身体能力強化、神の祝福って、まさかの強化スキルが三種って…。
「なぁ… 俺の新技術に、強化スキルが三種もあるんだけど?」
「それって凄いんじゃないの? わたしも巫女の技術で一個、神楽舞って強化がきたわ… ちょっと試しに使ってみようか?」
そういうと、両手を優雅に差し上げた月歌は、一瞬だけ手のひらを泳がせて、不思議な舞を踊って見せる。それが神楽舞のスキル発動なのだろう。
とたんに大翔の身体が、暖かい心地よさに包まれるのが分かった。彼もお返しにと、三種の強化を続けて唱えた。暖かい気や、気持ちのよい風が二人を巡ると、身体が異常に軽くなったのを実感する。
「ヒロト… これ、ステータスが大変な事になってるけど…」
「え?」
彼がもう一度、ステータスを開いてみる。
:ヒロト シマナ: 人族 ♂ :LV5:
:ステータス:強化支援効果
体力〔174〕85 〔x205%〕
魔力 〔263〕150 〔x175%〕
気力 〔141〕75 〔x188%〕
力 〔176〕 90 〔x195%〕
敏捷 〔110〕55 〔x200%〕
知力〔228〕130 〔x175%〕
器用〔145〕100 〔x145%〕
運 〔61〕29 〔x210%〕
「…………」
とりあえず大翔は絶句してみた。ちなみに月歌のステータスも…。
:ツキカ ササラギ: 人族 ♀ :LV5:
:ステータス:強化支援効果
体力〔103〕50 〔x205%〕
魔力〔276〕190 〔x175%〕
気力〔85〕45 〔x188%〕
力 〔137〕70 〔x195%〕
敏捷〔50〕25 〔x200%〕
知力〔324〕185 〔x175%〕
器用〔160〕110 〔x145%〕
運〔36〕25 〔x210%〕
ツキカさん… 知力324って… 黒髮美少女の魔法力のインフレが怖いです。
「さすがに、初期レベルの強化でも、4種重ね掛けすると凄い効果になるのね… 一種がx120%ぐらいなのかなぁ。ヒロトの持ってる、付与術士の強化技術が効果高そう」
「体感できるぐらいステータスが伸びるって、どうなんだ? 効果時間は、おおよそ15分… 俺ら15分間なら一般人の4倍越えのステータスで戦えるって事だけど、これって普通に普及してる?」
「それは無理よ。だってこの世界の最大パーティー数は6人だもの。6人の中に4人もの強化持ち入れたら、攻撃力無くなちゃうわ。それにこういう世界で、付与術士系の職業取る人って少ないじゃない」
「そ、そうか… これも俺達だけの特権なのか… ゆるーいチートだよな。これだけステータスが高いと、同レベルの敵ならパッシブスキルの通常攻撃だけでも余裕だなぁ」
そういう言葉が出るほどに、二人は自らの能力上昇を、その身で体感できてしまうのだ。
「そうね… しかもまだスキルレベル1だもの…」
「ステータスの上昇って、思考速度にも影響ないか? なんか今、ステータスの計算が見ただけで、一瞬で解けていくんですが?」
「た、確かにそうかも、知力上昇の影響でしょうね… なんかゲームぽいのに、効果を自覚できるのが凄いし、逆に違和感も大きいかな…」
何故か気疲れした少女が、寝具の上にハタリと倒れ込む。とたんに籾殻の香りが周囲へと沸き立った。自然と大翔も、並ぶように掛け具の中に潜りこむと、なぜか恐々と横向きに身体を傾けた。そこで彼を見詰める少女の瞳と、当たり前のように向き合ってしまう。
その黒い瞳は少しだけ潤んで、表面に煌めきを湛えて、美しくこちらを覗き込む…。
「君は… とても綺麗だな… あ、 って何言ってんだ… ゴメン」
うわ… しかも小学生レベルの語彙力だぞ…。
「………」
伸びてきた月歌の手が、彼の胸をぽすっと叩いた。切れ長の瞳の、でも目尻を少しだけさげた癒やしの表情で、少女は大翔と向きあったままだ。
「ねぇ… 同じ寝具とかにしてゴメンなさい。でも嫌じゃなかったら、隣で一緒に眠って欲しい… 安心できるの」
そうお願いする彼女の掌が、もう一度彼の胸を打つ。
何故に叩く… 解せぬ…。
「多分… 前世の記憶は曖昧だけど、昨日はここ最近で、一番良く眠れたの… ふふふっ、あんな酷いゴロ寝だったのにね?」
昨夜の埃まみれの小屋を思い出して、同時に苦笑を浮かべてしまう。
「ツキカがそれで良いなら、俺が拒否する理由なんてない… 俺も、その… 暖かい気持ちになったから」
「ヒロトが、怖いなら言えって… そう許してくれたの、嬉しかったな」
もぞっと彼女も掛け具の中に潜り込むと、再び手を伸ばして二の腕に柔らかく触れている。
「やっぱり怖いんだと思う…」
彼の腕は筋肉質で、見た目よりも逞しい…。
「ねぇ、ヒロト… わたし貴方にどこかで逢っていた?」
その問に答えは戻ってこなかった。いつの間にか眼を閉じて、小さく寝息をたてている彼。少女は困ったように溜息をつくと、昨日のように彼の指を探しだして、自分の指先を絡めてみる。
「おやすみ… ヒロト」
◇
「ツキカ起きろ… ちょっと、おい、抱きつくなってば」
「んっ… なに?」
まだ覚醒できない眠い意識で、自分が抱きつく少年の顔を見上げている。
「ツキカ、起きろって。多分、敵対生物らしいんだ… というか魔物だなこれ。小屋の前に3匹と、廃墟の町中に十数匹。静かに装備を身に着けよう…」
月歌は、その言葉でようやくと事態を理解した。
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:付録:
月歌のステータス
:ツキカ ササラギ: 人族 ♀ :LV5:
:ステータス:
体力50(25 +25)2up
魔力190(35 +155)32up
気力45(25 +20)11up
力 70(30 +40)21up
敏捷25
知力185(30 +155)32up
器用110(30 +80)41up
運25
:職業:
*召喚術師LV5(MP+15) *巫女LV5(MP+15) *黒魔道士LV5(INT+15) *戦乙女LV5(HP+15)
:二次職:
*調理師LV3(DEX+30)*錬金術師LV2(DEX+20)* 裁縫師LV3(DEX+30) 学者LV3(INT+30)
:技術 パッシブ:
召喚術LV3 (MP+30) 神通力LV3 (MP+30) 闇魔法術LV3(MP+30) *槍術LV2(STR+20) 精霊魔法LV1(INT+10)
:技術 アクティブ:
サモン ビーストドックLV2 (INT+20) 破魔矢LV2(INT+20)* 影針投擲LV3(INT+30) *連突きLV2(STR+20)
*サモン ワーキャットLV1 (INT+10) *神楽舞LV1 (VIT+10) *影縫いLV1(INT+10) *火炎弾LV1(MP+10)
:スキルコンボ:
闇影破魔矢LV1(INT+10 MP+10)
攻撃力x220%
:ユニークスキル:
無し
:称号:
アルテミス銀翼同盟戦士(HP+10)(VIT+10)
:装備:
初期装備一式 鋼鉄の薙刀LV4
(*はレベルアップした職業と技術)
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