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1-10話 廃墟での素材探し

第一章:異世界リスタエルス:


「やった… これは当たりじゃないか?」


 廃墟の最奥にある三角屋根の二階屋は、どうやら共同の鍛冶場跡だったらしい。建物探索の最後で大当たりである。


 大麻の茎に覆われた入り口へ、白狼が顔を突っ込んでクンクンと内部の気配を確かめている。


「外からは分からなかったけど、中は酷い有様ね… 屋根が抜け落ちてるんだ… 天井がすごく高い」


 月歌(ツキカ)が見上げると、木組みだけを残した天井の大穴から、今にも降り出しそうな曇天が見えている。直下には小さな水たまりと、天井から垂れるつる草が、伸びた麻の葉に絡んで萌えていた。


 三角屋根に見えたのは、各炉から集合させた大煙突の名残らしい。屋根の高い横長の敷地は、古い時代の市場のような印象だった。


 焼煉瓦(レンガ)を積んだ、広い室内は数箇所のブースに区切られていて、石積みの炉と作業場が点在している。近づけば日本の工場(こうば)のような、炭と鉄錆(てつさび)の匂いでむっとする。


「でもこれ、お宝掘り放題だぞ!」


 大翔(ヒロト)が麻とつる草の中に身を押し込むと、見慣れない羽虫が数匹まとめて飛び立った。


 鍛冶場道具こそ残されては無いものの、鉄の鉱石や、熔けて固まった鉄塊や、鉄片の山や、制作の途中で放置された、(くわ)や、刃物や、鉄鍋の残骸が、彼の眼には全て材料に映っていた。まとめて収納すれば、すぐに精錬して鉄の鋳塊(インゴット)に変えていく。


「大収穫だよ。これだけの材料が集まるとは思わなかった」


「ねね、ヒロト、この割れた壺に入ってるのお塩だね?」


 鉄屑(てつくず)に夢中になる大翔(ヒロト)の背に、後追いしていた月歌(ツキカ)が、そう言って身を乗り出した。振り向けば、盛大に生えていたはずの、大麻草の大半が彼女の『倉庫』に消えている。


「再びの塩分発見ですか?」


「というか、この形の壺は全部が塩みたい… ほら炉の側にたくさん置いてあるじゃない。これって鍛冶職人たちが、熱中症対策に舐めていたんじゃないかな? 鍛冶場って塩を常備してるって、何かで読んだことがあるわ」


「なるほど… ツキカは博識で助かるよ。それじゃ塩の回収は任せたよ… 麻も大量に収穫したんだな」


「うん… 麻布(あさぬの)をたくさん作って、裁縫師のレベルを上げたいの。塩は… これだけあれば、石鹸を作っても良いかしら…」


 そんな事を小さくつぶやく黒髮の美少女。


「うわ! まじですか… これは素晴らしい!」


 そこで、再び興奮した大翔(ヒロト)の声が、建物に反響した。宝探しをする男の子の精神は、多分、小学生並にまで退化する… 突き当りにある、鉱石置き場らしい煉瓦(レンガ)の枠中に、黒っぽい細かな岩が、一山になっている。




:鑑定:

『黒鋼石』

精錬すると黒鋼の原料(インゴット)になる 鉄よりも硬質で軽い




「黒鋼石が手に入るなんて… これは何としても武器師のレベルを上げて、ツキカ用の黒鋼製の槍を作らないと!」


 彼の宣言に、月歌(ツキカ)が表情を柔らかくして、よしよしと彼の背に手を乗せる。


「そんなに頑張らなくても… この鉄の薙刀(なぎなた)でも満足なのよ?」


 アッシュ カウの革で作った、即席の背負いベルトで固定された、薙刀(なぎなた)にそっと触れてみる。その重さは、何故か彼女に安心感を与えている。月歌(ツキカ)にとっては、特大のお守りのような品だった。


「確か武器師LV3 から黒鋼を扱えるはずだから、そんなに掛らない… と、思いたい。というか、それ邪魔じゃないか? 倉庫に入れておいてもよさそうだけど…」


 そう言って、爽やかに笑う笑顔は完全に少年のものだった。


「これでいいのよ…」


 桜色に頬を染める月歌(ツキカ)が、彼に見られない様にうつむいた。







 早朝から二人で連れ立って、廃墟の町を探索すると、かなり多くの収穫物を確保していた。


 彼らは基本的に全ての状況においての、ペア行動を決めている。いつまた、あの狼人間(ワーウルフ)と同等以上の強敵に、遭遇しないとも限らないからだ。


 まずは小屋から近い通りの角で、天井が崩れている大きな井戸を発見した。石畳が円周に取り囲む、元は立派な水場だったのだろう。潰れた石屋根の隙間から確認すると、井戸自体は健在で、近場で飲水を調達することも可能になった。


 まぁ汲み上げる手間を考えると、直接川面にタンクを投げ込んだほうが、何倍も楽なのだが… 『倉庫』が優秀すぎるのだ。


 崩れた家の中にまで侵食していたのは、伸び切った大麻草や真麻(まあさ)の群生で、この大量の茎植物は、その大半を月歌(ツキカ)の『倉庫』に収穫されていった。貴重な麻製品の原料になるらしい。


 食料で言えば、昨日採取した種類を満遍(まんべん)なく追加して、さらに『よもぎ草』や『カモミール』を加えている。


 街の南に重なるひな壇には、オリーブの木が森のように密集して放置されてあった。良いタイミングなのか、常に実をつけているのか? 大量の実を収穫できてご満悦だ。ただ実を一つずつ収納する手作業になるので、低木2本分を摘んだに過ぎない。このひな壇のオーリブを全て二人で収穫するのは不可能にも思われた。


 同じように町を挟んで対面にある、西側の枯れ草に埋もれた平地は、野生化した麦と紅山芋の畑跡だった。これも1時間ほど掛けて、可能な範囲で収穫をした。だが全体では校庭ほどの面積があり、これも日を改めて作業することにする。今日はあくまで、周辺の探索が主任務なのだ。


 この他にも月歌(ツキカ)は、『学者』スキルで調べた、幾種かの野草を集めているようだった。


「しかし… やっぱりこの世界の植生は可怪しいだろ… 何でどの植物も、実をつけた状態で生えてるんだ? 季節関係なく、ずっと実りぱなしなのか?」


「ヒロト… 気持ちはわかるけど、ここは収穫できる事に感謝を! 後で神棚でも作ってお供えしましょう」


 月歌(ツキカ)は、割と真面目な顔でそう言った… なるほど… 彼女は巫女の職業(ジョブ)持ちだったか…。


 大翔(ヒロト)といえば、崩れた住居跡を一軒ずつ周り、錆鉄(さびてつ)の廃品や割れた硝子瓶などを、地道に集めていく。


 午後には樹海へと脚を伸ばして、アレスシダーの巨木を、さらっと『倉庫』に収納した。これだけあれば木製品の材料に、困ることはないだろう。ちなみに、巨木一本で1x5マスを消費してしまった。


 その後は川辺まで行って、昨日作ったウォータータンクに、その場で追加制作した計8本を、約120Lの水で満たして『倉庫』に収める。やはりこの方法が一番てっとり早く、バスタブも直接川に投げ込む予定である。


 帰りの五分ほどの道中で、二匹の『飛岩ウサギ』に遭遇して、さらっと頭を撃ち抜いて討伐してしまった。たった一日で、この凶暴ウサギも、すっかりと雑魚扱いになっている。


 結局その日は、夕方まで廃墟の探索と材料収集に明け暮れて、風呂その他の制作は、明日から本気を出す事となった。


 そして異世界生活二日目が終わった大翔(ヒロト)の『倉庫』は、こんな状態になっていた…。



:倉庫:(ヒロト シマナ)


鉄の鋳塊(インゴット)x500

鉄の鋳塊(インゴット)x500

鉄の鋳塊(インゴット)x74

硝子の破材(カレット)x102

黒鋼石x62

ウォータータンク15L x8

木板x11

アレスシダーの根 72t x1

アレスシダーの枝葉x457

アレスシダーの木材x500

アレスシダーの木材x500

アレスシダーの木材x500

アレスシダーの木材x500

アレスシダーの木材x351

焼き煉瓦(レンガ)x57

岩飛ウサギの毛皮x3

岩飛ウサギの肉x33

ダボラボの革x4

ダボラボの肉x51

アレス アッシュ カウの死体x1

電気石大蛇(トルマリン スネーク)の死体x1

オリーブの実x377

麦x265

紅山芋x56

岩塩 1280g x1

火成岩 7t x1

玄武岩 1024t x1

鉄の皿x4

鉄の深皿 x4

木のボールx1

鉄のマグカップx4

木の箸数x10

鉄のスプーンx4

鉄のホークx4

鉄の大鍋

鉄のフライパン

ガラスの小瓶x7

携帯魔導コンロx11



 まずい… 無駄に『倉庫』を圧迫してきたよ。


 すでに倉庫75マスの2/3近くを、アイテムが埋めている… ちなみに火成岩 7t は、狩り小屋の入り口を封鎖していた防犯用の角岩だ。アレスシダーの根 72tは巨木を素材分解したあとのゴミらしい。


 洞窟部屋に戻ってすぐに、大翔(ヒロト)は水場にウォータータンク7本を並べてから、夕食前に少し調理場を整える事にした。そう、少しでもアイテムを部屋に吐き出したいのだ。


 倒壊した家壁から選んできた、割と綺麗目な煉瓦(レンガ)を、三つの柱に積んでいく。その上に、格子状の厚めの鉄網を乗せれば、立派なバーベキュー用のグリルに見える。あとは下に高さを変えた三段の煉瓦(レンガ)を積んで、魔導コンロを火力によって、乗せ換えれば完璧だろう。その載せ替え用の火挟みも二本ほど作っておいた。


 煉瓦(レンガ)グリルを組む間に、月歌(ツキカ)は延々と、大麻草から麻糸と布を量産し続けていたらしい。


「わぁ! 素敵じゃない… バーベキューとかしたこと無いけど、こんな感じなのでしょ?」


 少女はそのグリルを見て、はしゃいだ声をあげている。


 ん? 北海道民なのに、野外バーベキューをした事がないのか?


 と、一瞬だけ引っかかるが、なぜそこに違和感を感じるかさえ、自分でもよくわからない。まぁ嬉しそうな月歌(ツキカ)を見ていると、そんな疑問もすぐに消えていた。本当に彼女の想像以上のものだったらしい。

 

 とりあえず残った煉瓦(レンガ)を、横の壁際に平たく積むと、そこに大鍋やフライパンや、皿などを並べて置いた。これで10マス以上倉庫が空いた。


 月歌(ツキカ)が上機嫌で、夕飯の用意を始めたので、彼は更に『倉庫』内で、最もシンプルな木の箱型の椅子と、板脚のテーブルを組んで、調理場の奥に並べてみる。 節の多い素朴な食台だが、白木で割と清潔感あって悪くない。


 すぐにもう一脚を組んで、月歌(ツキカ)の料理用の椅子として進呈した。


 どうやら『武器師』のレベルが上がったらしく、更に様々なイメージが湧くようになると、大翔(ヒロト)は調子に乗って、家具の量産を始めてしまう。


 最初に釘やネジ、蝶番などを鉄の鋳塊(インゴット)から量産しておくと、家具にあわせて勝手に消費していくようだ。


 まずは洞窟のコーナー分けをするために、自立式の仕切壁(パーテーション)を並べて、食堂、寝室、作業スペース、水場、風呂場のように大まかに別けてみる。


 まぁ、細かい位置取りは、後で月歌(ツキカ)に相談しよう。


 食堂には箱型のサイドテーブルを追加して、壁際には、全部屋共通で、四段の木棚で、壁面一杯を埋めてしまう。


 隣の寝室兼リビングは、どうしても床を上げて土禁にしたくて、すのこ状の板ピースを並べてみたが、水平ではない岩床は、ガタガタと安定してくれない。諦めて十畳ほどもある、一体型の箱床を作ってドンと置いた。もちろん壁面は一面の木棚仕様だ。


 上がりスペースが出来ただけで、一気に部屋らしく感じるのは、日本人だからだろう。


 作業スペースは、木棚の一段目を、手前に広く張り出してみる。それで、幅が15mはありそうな、長大な作業机と収納棚が出来上がる。これだけのスペースがあれば、大抵の作業は可能だろう。当然に箱椅子も、4個ほど並べて置いた。


 水場周辺は、まだどうなるか予想がつかないので、三つに折れる、折れ戸式の木見切り(パーテーション)を作って、2セット置いてみる。とりあえず水浴びするぐらいなら、これでも十分に目隠しにはなりそうだ。


 そうして、更には大きな、木の削り出しの桶と、鉄製の洗面器や、バスチェアーも作ってみた。


「ちょ、ちょっと… どんな魔法を使ってるの?」


 料理から意識を戻した月歌(ツキカ)が、その十数分間での、驚くような模様替えに絶句している。


「とりあえず寂しいからさ… と、とりあえずだからな? 後でツキカの意見で調整するから」


 確かにやりすぎた感が満載である… しかし、全て同じ素材を使っているので、見た目には割とお洒落な印象だ。


「そ、そうね… いや悪くない… というか素敵だと思うかな。じゃ、料理はそこのテーブルに並べればいいよね?」


「うん、このスペースは食堂にしていいだろ?」


「あ、そか、それじゃね…」


 少女は一瞬だけ、悪戯するように小さく笑うと、自分の『倉庫』から真っ青な一枚の布を引き出して、テーブルクロスのようにふわりと乗せる。まさにジャパンブルーに近い、鮮やかな青のテーブルになった。


「いきなりお洒落になったけど… それはさっき作ってたやつか?」


「うん、(あい)草を見つけたから、錬金術で顔料にしてみたの。麻布(あさぬの)にそれを使ったら、日本の藍染(あいぞめ)に近い色味でしょ?」


 そのレストランのようなテーブルの上に、フライパンで温め直した『ダボラボとアッシュカウのステーキ』に『ナン』に似た平たい麦と芋のパンに、鉄のマグカップに入ったコンソメ風のスープまでが並んでいく。


「いちおう、よもぎとカモミールの、ハーブティを作ってみたんだけど、急須(きゅうす)とか、ポット的なもの作れないかしら?」


 あまりの料理の完成度に、一瞬、ここが異世界なのを忘れてしまう。


「あ、ああ… って急須きゅうす? というかティーポットか… うーん、ちょっと待って」


 3分ほど目を瞑って思案していた彼が、テーブルに数点の食器を置いた。一つはシンプルな鉄製ケトルと、綺麗な緑色(グリーン)硝子(ガラス)製のポットだった。可愛い取っ手付きの(ふた)もあり、同じ色味の硝子(ガラス)のマグカップが、とても綺麗でセンスも良かった。


「あまり難しい形は無理だからさ、茶葉はこの、鉄製の網目の茶こしに入れて、ポットの口に渡して置けば、お湯を注ぎやすだろ? この茶こしと、硝子(ガラス)の茶器は、細工師のスキルで作ったんだよ、ここまで細かい細工は武器師では無理だから…」


『細工師』とは工芸品や、指輪や首輪などの装飾品を作る二次職なのだ。


「………」


「ど、どうかした? 気に入らないか?」


「い、いいえ… ありがとう。あまりに完璧すぎて驚いただけだから… ヒロトって、結構センス良いわよね… さぁ、冷めちゃうから食べましょう!」


 そうして、二日目の夕食は、サバイバル飯としては、あり得ないほどに充実していた。






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