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ぼくと執事と守りたい街  作者: たかと
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これからのエピローグ


 ぼくはその後、ひとりで病院を出た。一之瀬家のみんなにはとめられたけれど、お主人としての規則を守るためには、あまり遅すぎるのはよくない。辺りはもう暗く、門に向かって立ち並ぶ電灯が帰り道を照らしていた。


 病院の門を抜けると、黒い人影が壁に背中を預けるようにして立っていた。執事だった。ぼくは驚いた。彼とは龍館で別れたし、まだ今日の決断は伝えていなかったので迎えに来ることは想定していなかった。


 執事はこちらをまったく見なかったし、何も言わなかった。腕を組み、車の行きかう道路に視線を向けていた。


 ぼくは緊張に身を硬くしていた。龍館で待っているとばかり思っていた執事がここにいる。気持ちの整理はまだついていなかった。一之瀬家のみんなと話したあと、少し落ち着く時間がほしかった。伝えるべきことは決まっていても、なかなか言葉が口から出てこなかった。


 まごまごしているぼくに、クラクションが鳴らされた。病院から出てくる車の進路を塞いでいたことに、そのとき気づいた。ハッとしてよけると車は勢いよく車道に飛び出していった。


 ぼくは執事の真横に立っていた。近くで見た執事の頬が緩んでいるように見えたのは気のせいかもしれなかった。それでもぼくは、その些細な変化に勇気付けられた。


「あの、ぼく決めたから。これからはお主人として生きていくよ。だから、よろしくお願いします」


 ぼくは頭をさげると、一息にそう言った。


 執事はしばらく無言だった。ぼくの頭にじっと視線を注いでいるのがわかる。


 そろそろ頭を上げようとしたとき、彼は口を開いた。


「――晴人だ」


「え?」


 頭を上げたとき、執事はすでに歩き出していた。晴人というのが彼の名前であることに気づいたときには、かなりの距離が開いていた。すたすたと速度を緩めずに歩いていく執事。ぼくは駆け足でその後姿に追いつくと、彼の横顔を見ながらこう言った。


「ぼくは、ぼくは、一之瀬悠太っていうんだ」


 そんなことは百も承知だ、と執事はつまらなそうに口を動かした。


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