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私が異世界に流されて…  作者: カルバリン
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閑話 魔族領にて


「ふぁ~ぁ…やっともうすぐお昼だよー」


午前中のギルドはとても忙しい。


冒険者にとってその日の一番最初にやるべき事が依頼を受ける事である。


これは初心者だろうと熟練者だろうと変わらない、なぜなら少しでも割りの良い依頼を受けようとするのはどの冒険者で絶対に譲らないからだ。


必然的に依頼を確認しにくるのが午前中に集中するのは仕方ない事といえるが…冒険者は自身の生活が掛かっているのでそれはもう朝は戦場の様に忙しいのだ。


それはどこにあるギルドでも変わらない。ここもその一つである。


「本日も冒険者ギルドをご利用ありがとうございます!本日のご用件はなんでしょうか?」


ここは…魔族が治める大陸にある唯一の冒険者ギルドだ


「この間の爆発の調査依頼を報告したいんだが…ギルドマスターはいるか??」


そう言った彼は使い古したマントに年季が感じられる鎧…一目見て業物だと判る長剣を剣帯に提げている


「ではギルドカードを提示して頂けますか??」


マニュアル道理に説明してギルドカードを提示するようにお願いすると、彼は腰に下げたポーチからギルドカードを取り出して私に渡してくる…しかし私は受け取ったカードを驚いてポロっと落としてしまった


「……!?も、申し訳ありません!『剣帝』にギルドカードの提示など…すみません!」


何度も頭を下げていると


「…いや、あなたは自身の仕事を全うしただけだ。気にする事はない…それで?ギルドマスターには取り次いで貰えるかな?」


慌ててあたまを上げると少々お待ちください!といって2階へと走って行く彼女…


これはどこのギルドでも良くある光景だが、1つ他のギルドとは違う所がある。


それは…


「なら少し待つとするか…」


彼は近くにあった椅子に腰掛けると装備していたフルフェイスヘルムの面覆いを外す。


そこにあったのは人の顔ではなく…正確には顔から肉が無くなった姿…骨であった。


周りには彼以外も身体が透けている者、同じように骨だけの者、全身鎧に首だけがない騎士…


そう、ここは人ならざるものが住まう地…魔王配下が1柱…不死の王『深淵の騎士』ドゥームが治める国で、彼の地はこう呼ばれている…不死の国ヴァラールと。





時は少し遡りあるギルドで謎の大爆発の調査依頼書が緊急依頼として発令され、多くの冒険者が調査へと向かって暫しの時間が経った頃…爆発現場のすぐ近くにて……



「…おー、死ぬかと思ったが生きているな。おい!レイジ!起きろ!」


近くで気絶していた息子を蹴飛ばすと


「っ?!……ん?ここは…?………はっ!?た、助かったのか…?」


ガバッと起き上がり周囲を見渡し始める息子に対して


「起きたか…、ユウコさんはどうした?お前に掴まってただろ?」


言われて周りを見るがユウコの姿が見当たらない…一瞬脳裏に嫌な予感がよぎるが…


「あら?二人とも目が覚めましたか?一応辺りの索敵は済ませておきましたよ」


木々の間からスッと姿を現したユウコの服は裾を結んだシャツの腹部周辺が血で真っ赤に染まっていた。


「ユウコ!それは?!怪我したのか?!」


レイジが慌ててユウコに駆け寄る。


「え?あぁ気が付いたら岩に串刺しになっていたんですよ、久しぶりに再生したから服まで気が回らなかったですねぇ」


そういってクルリとその場で回ったユウコの背中も服が破れてその白い肌を晒していた。


「がははは、流石は我が家の嫁だ!俺達よりも先に起きて索敵までこなすなんてな!」


そうだった、裕子は強すぎて死ぬなんて無かったから忘れていたが…彼女は普通の手段ではまず死ぬことは無かったんだった。


「…でもですね、少し問題が…」


「なるほど、ユウコさんが言いたい事が分かったぞ!あぁこれは…少なくともS級だな」


ジャックが放つ雰囲気が一気に周りに緊張をもたらす。


「…父さん、何が来る??」


「わからねぇ…巧く気配を誤魔化してやがるからな…まぁ古竜種じゃないことを祈るしかねぇな。竜と闘うのは面倒だ、ユウコさん、ある程度近くに来たら…」


ジャックの声に意図を察したユウコは早速行動に移る。


「分かりました……『影渡り』」


ユウコの身体がズブズブと地面に映る自分の影に吸い込まれていき、すぐに見えなくなる。


「ユウコほど俺達は隠密行動出来ないからな、待ってるとしようか」


「だな」


近くの倒木へと腰掛けたジャック。


レイジは腰のマチェットの握りを確かめようとしたが…


「…無い。クソッ!さっきの爆発でどこかに吹き飛んだのか…」


その様子を見ていたジャックはふと思い出したように自身のアイテムボックスを探る


「確か…仕舞い込んでたやつが…」


暫くしてお目当ての物が見つかったのか、これなら丁度いいだろ?と言って取り出したのは一本の剣。


「ほら、とりあえずこれを使え。俺がこっちの世界で傭兵をやってた頃に使ってたんだが…向こうの世界では使えそうに無かったからな、仕舞いこんでたんだ」


手渡された剣は長大な曲刀で鞘の代わりに黒い布を巻き付けてあり、幅広の刀身は厚みもあり重量も中々の物だった。


「お前なら使いこなせるだろ?しっくりくる得物が見つかるまでソイツを使ってればいい」


渡された曲刀を見つめながらユウコが戻ってくるのを待つレイジだった…




一方その頃…ユウコは自身の能力の1つである『影渡り』で自分達がいる場所に接近して来ていた生物と対峙していた……


「あらあら…まさか見つかるとは思わなかったわねぇ、どうしましょ?」


目の前でこちらの出方を伺うかのように姿勢を低くして威嚇しているのは…


「グルルルル…」


全身に重厚な真紅の鱗を身に纏い、口には鋭い牙が並びその口腔から溢れ出る火炎の息吹…


「本当に異世界なんですねぇ…ドラゴンがいるなんて」


暢気に眺めているように見えるユウコだがその実彼女からは強烈な重圧感プレッシャーが放たれていた。


この時ドラゴンは目の前いる人間?のメスに襲いかかれば確実に殺されると野生の勘が告げているのに従って襲いかかるのを留まっていた。


圧倒的強者であるはずの自身が手も足も出ないと思わせるこの得体が知れないナニカからどうすれば逃げることが出来るか…。


ドラゴンは総じて知能が高い。実力が有れば有るほど長生きして知識を蓄える…この赤竜もそれなりに長い年月を経ていていわゆる古竜(エルダードラゴン)と言われているのだが…威嚇をしながらもどこか探るような視線をユウコに投げ掛けている。


「…あら?襲って来ないのね。そういえばリンが見ていたアニメでは人間の言葉を喋ったり願いを叶えたりしてたわねぇ……」


昔リンが唯一の息抜きで見ていたアニメを思い出したユウコは…


「ねぇドラゴンさん、私はあなたを害するつもりはないのだけれど…それでもあなたは私と戦いたい?」


微笑みながらそう問いかけるユウコは端から見ればその美貌も相まってさながら女神の様に見えるが当のドラゴンには違って見えた。


ドラゴンからみれば血塗れの化け物が獲物を前に舌舐めずりをしながら『死にたくなければ降伏しろ』と言っているように映った。


『わ、我はそなたと戦う意思は無い…巣には我の帰りを待つ子供が居るのだ。まだ死にたくは無い』


絶対強者はアッサリとユウコに降伏した。それはもう平身低頭を体現するかのように地面に平伏したその姿はプライドもなにもかも捨て去ってしまっていた…まさに命大事にである。


「まぁ!やっぱり喋るのね!!…でも私達はオレンジ色の玉は集めてないけれど、お願いは叶えてくれるのかしら??」


小首を傾げながらユウコはお願いを考えているが…


『オレンジの玉??良くわからぬが…そなたが望むのであれば出来る限りは協力しよう…なのでどうか命ばかりは助けて欲しい…』


尊大な物言いの割には切実な願いを口にするドラゴン。


「殺したりなんてしないですよ?お願いを聞いて下さるのなら…私達三人を…」


何処か近くの街まで連れていってと言おうとしたユウコとドラゴン目掛けて物凄い速さで何かが飛来する。


咄嗟に近くにいたドラゴンの首を下げさせて自身はその場を飛び退くと次の瞬間にはドラゴンの頭があった位置をショートソードが通過していき近くの木に刺さると爆発した。


『…な?!』


驚くドラゴンを余所にユウコは攻撃を仕掛けてきた張本人を見据える。


「……いきなり殺そうとするなんてあんまりじゃないかしら?」


「…最優先討伐対象である吸血鬼の真祖ハイデイライトウォーカー赤竜(エルダードラゴン)が1ヶ所に集まってるなら狩るのが普通だろう」


そう言いながら出てきたのは見た目は西洋騎士の様な姿の人物だった。


「あらあら…、私の正体に気付かれたのは何年振りかしらねぇ?でも貴方もさして変わらないんじゃないかしら。貴方からは生気が感じられないもの」


目の前の甲冑からは生気が微塵も感じられないのをユウコは見抜く。


「………」


黙して語らない騎士はそのまま腰に提げた剣の柄を握るといつでも抜ける様にして戦闘体制に入ったが…それよりも先にユウコが動いた


「とりあえず一発は一発なんでこれはお返しですね?」


ユウコはいつの間にか騎士の背後に現れ、太ももからナイフを抜き放ち鎧の隙間に一気に刺し込むが…


「あれ?全く手応えがじゃないですか…中身入ってます??」


普通の人間ならば致命傷になり得る攻撃だったが相手は微塵も痛みを受けた様子が無い。さらに言えば刺した感触も無かったので一先ずやはり人間では無いと判断するユウコ。


ユウコの言葉に返すように腰に提げた剣が振り抜かれたがそれをユウコはゆらりとかわす。


「相当上位の吸血鬼か…おい、お前が先程の爆発を引き起こしたのか?」


ユウコは答えない。ニコニコと笑いながら相手を眺めるだけだった


「答える気が無いのなら答えたくなるようにするまでだ!」


騎士は腰に提げた剣を再度抜き放ちユウコへと斬りかかる。


ガギン!!


それをユウコは手に持ったナイフで真正面から受け止めると騎士のフェイスガードの隙間を覗きこむように顔を近づける。


「…うーん。貴方は…骸骨なんですねぇ?道理で刺しても感触が無いと……」


最後までユウコが言い終わる前に騎士はどこからか取り出した2本目の剣でユウコの胴を切り裂いた。


上半身と下半身に別れたユウコの身体は別々に吹き飛ぶが…


「酷いわねぇ…騎士なら女性は大切にしないと駄目よ?私が生きていた時代の騎士は騎士道精神に溢れていたのに…あ。世界が違えば考え方も違うかな?」


切り飛ばされながらも余裕で喋るユウコを見て舌打ちをしながら後ろへと飛ぶ騎士。


「やはり厄介だな真祖というのは…!」


「まぁ…これでも不死をやってきて何百年ですし?」


言いながらユウコの身体が黒い靄に包まれると次の瞬間には元の位置に平然と立っていた。


「ふぅ…これ(再生)って意外と体力使うんですよ?あんまり切り飛ばさないでくれます?」


ユウコは無造作に右手を騎士に向けて振り下ろす。


「っ!!?」


振り下ろしたと同時に騎士は凄まじい衝撃を受けて近くの木に激突する。


辛うじて防御した騎士だが…


「まだいきますよ?『影槍』」


ユウコの周りのあらゆる影から鋭く尖った影が飛び出して騎士目掛けて殺到するが、騎士は素早く剣を握り直すと迎撃する。


「ヌォォォォォ!!?」


連続して金属音が響き渡る…凄まじい勢いで影と剣がぶつかり合う


「凄いですねぇ、こんなに防がれたのはジャック…お義父様以来ですよ?…と、あまりやり過ぎるのは良くないですね。これ以上は本気になりそうですし」


パチンとユウコが指を鳴らすと今まで嵐のように繰り出されていた影槍が一瞬で消え去る。


「…なんのつもりだ?」


騎士は油断なく構えながらユウコの意図を探ろうとする。


「…そろそろ落ち着いて話せるかと思ったんですよ。私はユウコっていいますけど…貴方は?」


ユウコの問いに敵意を感じなかった騎士はゆっくりと剣を鞘に納める。


「…お前は俺が探している吸血鬼では無さそうだ…すまなかった」


「いえいえ。いきなり殺そうとするから反撃しましたけれど…私は貴方と敵対する気はありませんよ?それよりも一応そこのドラゴンさんも私の友人なので殺さないでくれますか?あくまでも手を出すと云うのであれば…貴方を殺しちゃうかもしれないですね」


顔は微笑みを絶やしていないが目が笑っていない。


「…わかった、こっちのレッドドラゴンにも手は出さない」


そう言われた瞬間レッドドラゴンが安堵したのは言うまでもない。


「それで?お前が爆発の原因を作ったのか?」


再度の問いにユウコは


「いいえ、違いますよ?私はただ空から落ちてきただけですし」


さらっと嘘を吐いた…正確には嘘ではないと本人は思っているが。


そもそも空から落ちる原因は自称神様(へんたい)だし、爆発自体も自身の夫の父がやった事だ、ユウコ自体はなにもしていないので嘘ではないと言える。


「空から落ちる意味がよく分からんがお前が引き起こした訳ではないのだな?…俺の名はカストール、今はハイスケルトンウォリアーになっているがヴァラールで冒険者をやっている…先程は失礼した、吸血鬼相手だと先手を取らなければこちらが殺られるのだ」


「いえいえ、あれくらいなら死にませんし…あ、改めて…私は早坂裕子…まぁお察しの通り吸血鬼ですね。後は私の夫と義父上が近くにいるんですけれど…」


と、言う風に後に魔族領を騒がせる事になるリンの家族達はアーレスの地へと降り立った……。


簡易人物紹介


【名前】 早坂 裕子


【年齢】 ヒ・ミ・ツ


【身長】 170cm


【体重】 内緒です。


【特技・能力】 影渡り 分体分裂 自己再生 吸血


【好きなもの】 零士…後は主に家族 血  


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