第64話 リンとエル
「ここは……まさか…」
気が付くとそこはあの白い空間だった。
「またここに来たってことは私は死んだのか」
「いや、今回は死んだ訳じゃないぞ?」
誰ともなく呟いたとき、後ろから声がかかる
「…前にも言ったけど背後から声をかけないでくれる?」
振り返るとそこには自分が異世界に行くキッカケを作った張本人が立っていた。
「相変わらずつれないなぁ、今回は結構呼ぶのに手間がかかったんだから労いの…」
「なんで私はここにいる?」
「…やれやれ、相変わらずだな。なら早速用件に入ろうか…リン、最後にお前さんに会いたいと願った人物がいてな…我々としても救済を与える事は責務なのだよ。本来ならこの様な手段を取ることはないが…少々事情があってな」
すると神様は指をパチンと鳴らした。
「すまない…あまり時間は取れないが、最後の願いは叶えられたかな?」
神様が自身の背後へと語りかけると……
「ありがとうございます…!」
礼を言いながら現れたのは一人の女性。
「あなたは…まさかエル?」
リンの目の前に自分の姿と酷似した女性…レンの本当の母親であるエルが姿を現した。
「…あの時は助けてあげられなくてごめん。私達がもう少し早く駆けつけていれば…」
リンが頭を下げる。
「いえ…!レンが…あの子が助かっただけで私は…それに神様からここへと導かれるまで私は貴女とレンの側で見ていました。
レンの事を他人である貴女は優しく見守ってくれているのも知っています」
「…でもよかったわ、あなたとは一度ちゃんと話をできたらよかったのにって思っていたから」
「それは私もですよ?あの時、私は救われました。リンさんが駆け付けてくれなかったらもっと凄惨な死を味わっていたんですから…本当にありがとうございました」
それからは二人で色々な話をした。
エルが今までどんな人生を歩んできたかとか、レンと暮らしていた時のちょっとした思い出…後は私の事とか…とにかく色々な話をしたわ。
楽しい時間はあっという間に過ぎるもので…
「…盛り上がっているところ悪いが…そろそろ本来の目的を果たそうか。あまり時間が無いんだ、エルにもリンにもな」
「…私にも?ってどういうことよ?てゆうか本来の目的って…」
「それは今から話すが…リンは自分と瓜二つの人間…エルを見た時に疑問に思わなかったか?『なぜ瓜二つなのか?』ってな」
「そりゃあね、そもそも自分の生き写しに出会ったら死ぬって話があったから私と出会ったせいでエルが死んだのか…って考えた事もあるし」
元居た世界でも有名な話…ドッペルゲンガーを思い出したからそう思ったんだけど…
「ドッペルゲンガーか、あれはあれで厄介なんだが…リンとエルはそういった類いの話では無い。
これが本題なんだが、リンとエルはそもそも同一人物なんだ」
え?まさかの想定を軽く振り切った答えだった。
「ちょっと待って、どういうことよ?確かに顔はそっくりだけど…」
ふと、エルの方を見ると驚いていないようだった。私の視線の意味に気づいたのか口を開く
「私は先に神様から聞かされて納得もしていますから…リンさんも最後まで話を聞いてみて下さい」
「…わかったわ、それで?」
「リンが居た世界、エルが居た世界…あと他にも無限と言える位には無数の世界があるんだが…簡単に例えるなら木の枝なんだ。無数に枝分かれした世界。お前達は平行世界って言ってるがな…アーレスと俺が受け持っているリンが居た世界は元は同じ世界だ…元の世界から分離したアーレスの枝はヘレナが管理、地球の枝は俺が管理している」
その後も説明が続いた。
「でだ、リンが今回アーレスに来る事になった俺の願いを覚えているか?世界と世界を繋ぐパイプにって話なんだが…最初に言っておくと1つの世界に同じ人物は同時に存在する事は出来ない。…だが今回エルが死んだのはリンが来たからでは無い、エルは元からあの時よりも少しばかり前に死ぬ予定だったがヘレナに頼んで干渉してもらった。そしてリンはあの時の戦闘で死ぬ事が決まっていたのを俺が干渉してアーレスにパイプ役として送ったって訳だ」
「…それはわかったけれど、同じ世界に存在出来ないならなぜ私とエルは存在出来ていたのよ?」
「だから言っただろ?ヘレナ…アーレスの神に干渉して貰ったって。勿論エルにも俺の世界で転生してもらう事になるが…転生は問題ないが転移は別なんだ。その世界に存在を固定しなければならない…要はエルの後を引き継ぐ時間が必要だった訳さ、エルの子供があっさりとリンという存在を認めたのも、リンがそれを受け入れたのもエルの事を引き継いだからだ。勿論本人の努力もあるが」
その話を聞いてあまり納得は出来なかったものの、事実は事実として受け入れた。
「これで俺が話せる事は話したが…リン、最初に言ったがお前は死んだ訳じゃない。だが!お前は正直いって普通に死にかけだったんだぞ?なにをどうすればあんな騒動に巻き込まれるのだか…まぁ元からお前は運が悪いって運命だからなんともいえないがな」
「あれを運が悪いで片付けて欲しくはないけれどね…」
その後、エルを転生させる時間がきた
「…話にはあまり納得出来なかったけれど、エルは…」
「私は…それが運命なのであれば。レンと別れるのは辛いですが…本来レンも一緒に死ぬ運命だったらしいんです。リンさんがあの場にいたから助かったのだと…そう聞きましたから。レンが生きていてくれる、そしてリンさん…つまり私と同じ存在に託す事が出来た…これ以上を望むなんてバチが当たりますよ」
寂しげに微笑むエルに私は…
「…ごめん、だけどあなたの気持ちは私が引き継ぐから…!」
そこまで言うとお互いの頬を涙が伝う……本来なら交わる事が無かった自分。
「……最後まで泣かないようにしようって決めてたのに…リンさんが泣くから私も涙がとまらないじゃないですか…」
そうして最後にお互いを抱き締める。
お互いの耳元で二人同時に囁く
「…エルの転生に幸福がありますように」
「…リンとレンが幸せでありますように」
言い終えた時、エルの体は光に包まれてわたしの腕の中から次の人生へと旅立って行ったのだった…




