第63話 リンはゾンビよりも…
二人の対決は同時にお互いの心臓を破壊したことによって幕を閉じた。
「鍛練場の結界の中じゃなかったらと思うとゾッとするよね」
アディとカオリは気絶したリンをギルド内にある応急室のベッドに寝かせると先程の戦いの顛末を思い出す。
「最後にあの女の人がなにかしたのは分かったんだけれど…黒いオーラが揺らめいた後は速すぎてなにがなんだか…」
先生が負けたのを初めて見たけれど…前に私達と鍛練した時よりも反応が鈍いように見えた。
ガチャっと音がして部屋の扉が開いた
「リンの教え子かの?すまんがちと邪魔するぞぃ」
現れたのはこのギルドの最高責任者にして学院の理事長でもある『魔導元帥』アルバートだった。
カオリとアディは椅子から立ち上がるとすぐに深くお辞儀をするが
「気にせんでもよい。ワシはリンの様子を見に来ただけじゃしな」
そういって手を振ってカオリとアディを椅子に座らせるとアルバートはリンの近くに歩いていく
「……ふむ。これは…」
リンをひとしきり眺めた後そう呟くアルバートの顔は険しい。
「えっと…どうかされましたか??」
「お主は先日の件の…いや、リンはいつもと変わりなかったか?」
「…?はい、特には…」
先生は普段となにも変わった所は無かったと思う。
ふむ、と考え込むアルバート。
「そういえば相手の方は大丈夫なのですか??」
「む?おぉ、シーラならすぐに気が付いてリンが目を覚ますのを外で待っておる。あやつも悪気があったわけじゃないのでな…ちと融通は効かぬがの」
しかし…
「鍛練場でのダメージによる気絶はすぐに覚めるはずなんじゃが……やはり…」
ベッドに寝ているリンは目覚める気配がない。
「あの黒いオーラのせいですかね??」
鍛練場で見たあの黒いオーラは禍々しく、あれが原因だと言われても不思議ではなかった。
「いや…あれはじゃな…」
「それは私から説明します」
アルバートの言葉を遮るように突然現れたシーラにアディとカオリは驚いて数歩後ろへと下がった。
「…失礼。驚かせるつもりは無かったのですが…」
少し申し訳なさそうに眉を下げるシーラ
「…今回の件に関しては完全に私の調査不足でリン様に理不尽な仕打ちを致してしまった事を謝らなければいけません。もちろんご本人が気が付いてから改めて謝罪した上での処罰も甘んじて受けるつもりです」
「それなんじゃがのぅ…リンから予め『もし私が負けたなら謝罪はいらないと伝えて』と言われておってな…処罰云々は無しで考えておる」
「しかし…!」
シーラの言葉を遮るようにアルバートは手を振る。
「本人が決めた事じゃ。そもこやつは恐らく負けるだろう事を考えておったみたいじゃしな」
カオリはリン自身が負けると思っていたと言ったアルバートの言葉に驚く。
「でも先生が負けるなんて…」
アルバートはおもむろにリンのベットの側まで歩くと
「リンが今日ワシの所へと来たのはなシーラが抱いていた疑念をどう晴らせばいいかを考えたから実行に移す為じゃったし、シーラがリンの身辺を調査していたことも全てリンは知っておった。多分言葉を重ねた所で納得させることが出来ないだろうとな」
「私とて彼女についての納得がいく説明を受けたのならばこのような…」
「シーラよ、リンが何故経歴不明なのかについてはワシは知っておった…リンは、彼女は異世界人なんじゃよ」
シーラはアルバートの話を黙って聞いていたが…
「異世界人…送り人は黒髪黒目なのではないのですか…?」
シーラがカオリの方を見ながらそう問いかける。
「リンがシーラ、お主の誤解を解くのに難儀したのはそこじゃよ。リンは黒髪黒目じゃない…こちらの世界の住人にしか見えぬ自身の容姿故に言葉での説明が難しいと判断した…特に自身に疑いを持った人物に対してはのぅ」
あやつは刹那的に行動しているように見えてその実ワシらが考えている以上に考えて行動にしておる。
「今回の決闘もシーラをわざと煽る言動をして決闘に持ち込み勝つにしろ負けるにしろシーラがリンの言葉に耳を傾ける機会を作る予定じゃったが…焦っておったんじゃろう。生徒を拐われた、ならば次は息子かもしれない…そんな中で不安要素を出来るだけ無くしたかったが為にの」
アルバートは話ながらシーラを手招きする
「ワシが見るわけにはいかんが…お主らは同じ女性じゃからの、リンの服を脱がしてやってくれぬか?ワシも先程見て気がついたんじゃ…」
アルバートは見えないように衝立の向こう側へと行って椅子に腰掛けた。
体格的な問題からシーラがリンの服を脱がしたのだが…シーラ達は目に入った光景に息を飲む。
「嘘…」「……!」
「この方はこれで平然として私と闘い…いや、そもそも日常を送っていたのですか…?」
リンの身体には無数の包帯が巻かれていた。
もともと顔の傷はそこまで深い傷ではなかったからか治りが早かったが、身体に受けた銃弾やこちらの世界に来てから受けた傷…アルフレッドからの魔法によるものは内臓にダメージを残し、カオリが拐われた時、森の中で二人の騎士によって受けた細かな傷、カオリを庇った時に貫かれた傷は巻かれた包帯に滲んだ血から分かるように治ってはいなかった。
ちなみにカオリからの一撃もかなりのダメージだったが…。
「…リンはワシも気が付けぬ位に平然としておった。分かっていればお主との勝負なんぞ認めんかったがの…だがその状態でもお主相手に引き分けたのは驚嘆に値するといえるのぅ…」
つまり最初から鍛練場のダメージ限界を超えていたのである。
「私は…」
「申し訳ないと思うのは分かるがの、今回はリンも悪い。こやつは他者には思いの外優しいが…自身を蔑ろにしすぎる。…なぁに死にはせんじゃろ、見た目に反して存外にリンは頑丈じゃからな。なんせその状態で平然と動き回るくらいじゃし…ゾンビよりタフかもしれぬわぃ」
それだけ言うと、後は頼むと告げてアルバートは部屋を出ていってしまった。
皆が黙する中、最初に口を開いたのはアディだった
「と、とりあえず包帯だけでも換えましょ!もしかしたら痛みで飛び起きるかもしれないしさ」
アディの言葉にカオリとシーラも動き出す
「そうだよね、私お湯を貰ってきます!」
カオリはお湯を貰いに行っている間にシーラはリンの残りの服を脱がせようと抱き抱えてまた驚く。
「お、重い…」
リンが聞いたらそれだけでキレそうな発言だった。
「え?でも見た感じそんなに重そうには…」
アディも不思議に思ってシーラを手伝う為に反対側からリンを抱えようとして
「重っ!!先生ってもしかして鉄かなにかでできてるんじゃ……..?」
アディはおもむろにリンの自己主張しているある部分を鷲掴みしてみる
もにゅん。
「な、なにをしているのですか?!いくら意識が無いと言っても同じ女性のむ、胸を触るのはどうかと…」
「あはは、つい…こんなに重いのはオッパイのせいじゃないかと…むぅ、柔らかいのにこの弾力…欲しい」
自身の控えめな胸を触りながら比べているアディに目眩を覚えながらもシーラは先程までの暗い気持ちが少し軽くなった気がした。
「…先生がアルバート様に謝らなくて良いって伝えてくださってたんだから気にしなくても良いと思いますよ?疑いも晴れたのなら先生の目的は達成出来たでしょうしね」
暫くしてカオリが湯を持って戻ってきたので3人で包帯を外し、身体を拭いたりしているとなにやら外が騒がしくなっているのに気付く。
「……リ……分………!?」「…駄目……ま….!!」
そんな途切れ途切れの声が聞こえたかと思った次の瞬間には部屋の扉が壊れるかの勢いで開いた
「離せベアト!勘違いだろうとリンにこんな仕打ちをした奴は俺がぶった斬る!!」
「だーかーら!リンの方から仕掛けたんだって!何回説明したら理解するのよ!?そもそも本人から説明されてたでしょ?話聞くフリして胸ばっかりみてるからこうなるのよ!これだから童貞は……」
物凄い勢いで天剣絶刀ことガストロノフと灰塵ベアトリクスが言い合いをしながら部屋へと雪崩れ込んできたのだった。




