第47話 ぴかりと観月
あっけないものでありんした。アドルフたちは、まさに瞬殺されんした。たった一振りの剣撃に――
「……ぴかりん、残念でならない。だけど――」
セスのお坊ちゃんが剣を構えて飛び出しんした。わっち迷わず操作盤を使い、明智鎧を展開させんす。そして、放つ――
白き光が音を超えて走りんす。軌道は間違いなく、セスのお坊ちゃんを捉えんした――
一面の景色が変わった先には、驚きの光景が待っていたのでありんす。
「……堪えた、でありんすか」
遠くに見えるセスのお坊ちゃんは、剣を盾に防いだようで、身体中に火傷を負い、立ってるのも奇跡という見た目でありんした。
ガクガクとしていた膝が力なく崩れると、セスのお坊ちゃんは前のめりに倒れんした。
わっちはトドメを刺そうと近づきんした。すると、掠れる声でセスのお坊ちゃんが何かを言っているでありんす。
聞き取れるまで近づきんした。
「き、君は、だ、騙されて、いるんだ。魔王、レムレスに…… エレーナが、心配、して、いる」
「……はてさて。何の事でありんしょう」
「レム、レスは、幻覚を、君に見、せてい、る。エレーナ、なら、治せ、る」
騙されているだの幻覚だのと、現を抜かすセスのお坊ちゃんに、わっちは呆れておりんした。
それにしても、エレーナ姐さんは何でそんな口車を放ったのでありんしょう?
いかにせよ、この方はお強うありんす。生かしておいてはこちらも危険でありんしょう。
「年貢の納め時でありんすな、セスのお坊ちゃん。言い残したいことはありんすか?」
「ぼ、僕は、君との日々を、信じ、てる」
「おさらばでありんす」
先ほど拾った剣先をセスのお坊ちゃんの胸に向けて、振り下ろ――
(やめて観月っ!)
手が。動きんせん。こんなことは初めてでありんす。はてさて――
◇◇◇
真っ暗でどこまでも続く空が広がる透明な湖の上に指先だけが触れるようにして立っていた。目の前には、髪をほどいたあたしが同じように立っている。
ぴちゃん…… どこかで水の落ちる音がした。
「……はてさて、ここは何でありんすか」
「あたしにも分からない」
「やはりぴかりでありんしたか。直接話すのは初めてでありんすなぁ」
「うん。観月、いつも助けてくれてありがとう。ずっと直接、言いたかったんだ。叶うと思ってなかったけど」
「気にしなくていいでありんす。わっちはぴかりの制御装置と機能したまででありんす」
「色々考えたんだよ、あたし」
「……」
「もう、こんな言い訳、やめようと思う」
「辛くないでありんすか?」
「辛いかもしれない。苦しいかもしれないけど、あたしは自分で全部を決めなきゃ駄目だと思うんだ」
「別の世界と知った時は驚きんしたが……成長したんでありんすなぁ」
「うん。やっと自分の力で歩けるようになったと思う」
「それなら、この茶番も終いにいたしんしょう」
「今までほんとにありがとう、観月」
あたしと観月の身体が重なる。その瞬間、世界が眩い光に包まれ――
◇◇◇
あたしは目の前のボロボロの青年に肩を貸した。
「……ぴかりん。どうして?」
「セスさんにはお世話になったし、それに一度見逃してもらいました。そのお礼です」
あたしより大きいから、背負っていて大変だけど、ホバリングで走れる重さだったため、町を目指す。
「君は、魔王に、騙さ――」
「騙されてませんし、幻惑も見せられてません。それを一番、レーナ……エレーナが知っているはずです」
町の入り口で人目に付く場所にセスさんを下ろす。
「何故、君は、魔王軍、に」
「ただの流れです。では、セスさんお大事に」
立ち去ろうとしたけど、振り返る。
「次はこちらもないですよ?」
◇◇◇
「ぴかりん、君が裏切ったというのは本当かい?」
突然、レムレス様から呼び出されたのはそれから2日後。
「裏切ってませんけど?」
「君が勇者にトドメを刺さずに逃がしたという情報が入っているよ」
「確かに逃がしました。だけど、前回見逃してもらったお礼であり、向こうでお世話になった恩返しです。二度はしません」
「そういうことなら問題ないかな。何分、君は最高司令官だからね。部下の志気にも影響が出るのも忘れないようにね」
「はい。分かってます。ちなみに、その情報源はエレーナですよね?」
「……隠すのもおかしな話だから言うけど、聖女エレーナからだね」
「分かりました、ありがとうございます」
「ところでぴかりん。君はまた人が変わったように見えるんだけど、気のせいかな?」
立ち去ろうとしていた背中にそんな言葉を浴びたあたしは、振り向いて微笑んだ。
「はいっ! 全部解決したもので」
「そうかい? 元気ならそれでいいよ」
「はい。失礼します」
最初の手紙から、2度目の約束、そしてこの裏工作……レーナはあたしを消そうとしてる? でも、何で?
最後に会った日を思い出す。特に変わった事はなかったように思えるけど……
時折、不快そうな顔をしていたけど、理由が分からない。何が不快なの? 考えても分からないのループだった。
こうなれば、今度はこっちが直接乗り込んで話を聞きに行こう。そう決めたあたしは、全ての魔導具に魔力を充填し、出発するのだった。




