最終話 一緒に死んでもいいけど
「やはり、貴女ね、ぴかりん」
澄み渡った空に響く鳥のさえずりのような美しい声が部屋に響く。
「……レーナ」
あたしは、アイリーンちゃんに客間に通されていた。つまり、レーナは誰にも言わずに裏工作をしていたことに他ならない。
まあ、それまでの境遇でそうすることに長けていたのだろう。
「アイリーン、屋敷から出なさい」
「え? しかし、お茶も出して――」
「いいから出なさいっ!」
「は、はいっ!」
怒鳴るレーナにとても驚いた様子で、アイリーンちゃんは、慌てて部屋を飛び出して行った。
「……レーナ。王国軍を待ち伏せさせ、セスさんと戦わせ、レムレス様にあたしを裏切り者として吹き込んだのは、何故?」
しばらく沈黙があった。まさか、レーナと戦うはめになるのかな……そんなの嫌だ。
「あたしが魔王軍だから?」
その言葉に、レーナは薄笑いを浮かべる。
「ふふ、そんな小さいことで」
「じゃあ、何でなのっ!」
その余裕のある勿体ぶった話し方が少し頭に来たあたしは、強い口調で問う。
「……貴女が、全部持ってるから」
「え?」
「貴女ばかりズルいわっ! 最初に助けたわたしのことなんて無視して、リネットやミラージュと楽しそうにしてたり、セスとも懇意にして――」
バンとテーブルを叩いて、レーナが立ち上がる。
「気付けば、何よ? 魔王軍に引っ越し? ふざけないでっ! それで何、幹部? 最高司令官? 浮かれてるんじゃないわよっ!」
何も言い返せなかった。
「あんな美麗な殿方のお近くで、大好きな魔石いじりもできて、さぞや楽しかったでしょうねっ!」
「でも、これはレーナのため――」
「頼んでないからっ! わたしは一度も守ってほしいなんて、頼んでないからっ!」
大粒の涙をボロボロ零しながら、レーナは叫んだ。そう。勝手に守りたくなって、守ろうとしていただけなんだ。本人が望む望まぬを無視して。
「もう、ぐすっ、わたしの前から消えてよ…… 貴女がいると、ぐすっ、努力が全て、無駄に感じるのよ……」
あたしに向けて手をかざすレーナ。空間の歪みが見える。魔法を使うつもりだ。少し、感情を制御したレーナは微笑んでいた。
「レーナッ! 落ち着いて話そう?」
「レムレス様に詳しく聞いたわ。ミラージュは貴女を庇って死んだそうじゃない? リネットの時も、ミラージュも、貴女がいなければ、死ななかった……」
……間違いじゃない。あの2人はあたしが殺したと言ってもおかしくない。あたしだって悔しいよ。悲しいよ。
だから、2人の分までレーナを守ろうと。
「わたしだって、あの国政会議以降、ますます扱いは酷くなったのに、貴女のためだと耐えていた……馬鹿らしいでしょう?」
知らなかった。そんなことが起きている想像すらしていなかった。
「……ごめん」
「貴女が異世界に召喚できたのだから、わたしが異世界に移ることもきっとできる」
かざした魔力が膨れ上がる。これはもしかして、話だけ聞いていた聖女魔法最大の攻撃魔法、破壊の祈り?
明智アーマーじゃ、それに耐えられないかもしれない。
それに、それを使えばレーナの命は――
「レーナッ! ダメだよっ! 早まらないでっ!」
「もういいの……わたしは疲れたから。終わりにする。リネット、ミラージュ、今から行くよ……」
「ダメだって、レーナァァァッ!」
あたしは、慌てて席を立ち、レーナの元に向かう。呪文が聞こえる。あと一歩。腕を回す。届いた。ギュッと抱き締める。
死ぬなら一緒がいい。だけど、止められるなら止めたい。明智アーマー……魔力全解放――
◇◇◇
「ぴかりん、それでね、アイリーンが暗殺学校に通い始めたの」
「そうなの? 強くなってくれるといいよね」
魔王城のあたしの自室で向かい合って座るレーナにお茶を出す。
それにしても、髪。ずいぶん思い切ったなぁ。でも、やっぱりベースが超絶美人だから、ボブカットが羨ましいほどの似合いっぷり。
「ね、あの子も魔力量は黄色で、魔法で戦うのは難しいだろうから、生きるすべとして必要よね」
「レーナはほんと、現実的だよね〜。あたしは駄目駄目だ〜」
その言葉に、レーナは微笑みを浮かべてから、お茶を飲む。ふぅと息を吐き、少し頬を膨らませて言う。
「よく言うよ。別の世界からやってきて、魔導砲を作ってから、魔王軍の最高司令官になっちゃって……そのうち、わたしの手の届かないところにでも行くつもり?」
「何それ? レーナとはずっと一緒だよ」
「本当に?」
「ほんとに」
ふふと笑い合って、お茶を飲む。
結局、あの日、明智アーマーに充填されていた魔力が破壊の祈りを上回ったのか、事態は事なきを得た。
気づいたら2人とも床に倒れていて、先に目を覚ましたあたしが、目覚めても泣きじゃくるレーナをただ抱きしめていた。
そこからは2人でいっぱい話し合って、誤解してたところを全部解消していって、お互いすっきりできたところで、終わりにしようという流れになった。
「……ぴかりん、ごめんなさい。自分でもどうかしてたと、今は思う」
「いいよ、レーナ。誤解はあったけど、あたしは初めからずっと、レーナ推しだったんだからね」
「おし?」
「応援してたってこと」
「……本当にごめんなさい」
「それでも、あたしはレーナ、君が大好きなんだっ!」
「ありがとう……わたしも大好き」
この世のものとは思えない美しい泣き顔を、あの日、あたしは見たのだった。




