その複雑な胸中は
ゲルドは俺を睨みつけ、その体からは殺気が溢れている。
こいつ、本気で俺を……
「なにしてるんですか、ゲルドさん! だ、誰か……!」
「無駄だぜ、人払いは済んでる」
周囲に、人の気配はない。いるのは俺たち三人と、兵士だけだ。なるほど、じゃあここにいる兵士は全員、『知ってる』わけね。
なんか不自然だとは思っていた……念の為、警戒に全集中をかけておいてよかった。
「ゲルド、なんで……俺たち、仲間だろ」
ゲルドが、個人的に俺を狙うその理由が、わからない。初めて会った時も、ゲルドの方から話しかけてくれた。
正直、今回再会した時は殴りかかってやろうかと思った。だが、できるだけ前世の流れを辿るため露骨に嫌うことはできなかったし……ここで事が起こるとわかっていたから、それまでは安心も出来ていた。
それに、前世で殺された恨み……その複雑な想いが揺らぐほどに、ゲルドは俺と仲良くしてくれた。それが、なぜ。
「なんで、だ? 決まってるだろ……俺は、お前が気に入らねぇ」
「気に、入らない?」
「あぁそうさ」
はっきりと、ゲルドは言った。俺のことが気に入らないと。だが俺は、ゲルドに嫌われるようなことをした覚えはない。
俺の無意識のうちに? だとしても、殺されるほど恨まれる覚えはない。
「……俺は、天才だ」
「は……?」
なにを言い出すんだ、急に。
「小せえ頃からなんでも出来た。武道も、勉学も。女だって思いのままだった。だが……お前が、現れた」
「俺?」
「俺は何年もかけて、この域にまで鍛え上げた。だが、それをお前は、わずか数ヶ月で上を行きやがった。初めてさ、誰かに追いつこうと必死に努力をしたのは……だが、追いつけなかった」
「それは……」
俺が、ゲルドを上回った……確かに全体的には、そうかもしれない。だがそれは、『スキル』の影響だし、ゲルドに勝ったなんて思ったことはない。
それに俺は、前世の記憶があったから小さい頃から鍛えていた。だから、基礎体力も前世よりかなり上がった。
……その前世でも、いつの間にかゲルドを追い抜いていたという事実はあったが。
「わかるか!? 俺が必死に努力して得たこの力を、お前は僅か数ヶ月で超えていった……この、無力感!」
「けど……俺は、ゲルドのほうが優れてると、思う。努力は素晴らしいものだし、女の子にも、モテるし」
「はっ、確かに俺様はお前より優れてるが……それとこれとは、別だ」
ゲルドの怒りの底にあったのは、俺へのいわば嫉妬心。まさか、ゲルドがそんな想いを抱いていたなんて、知らなかった。
嫉妬、そんなことで人を殺すのか。……人の思いなんてわからないし、今それをぶつけたところで、ゲルドの神経を逆なでするだけだというのはわかる。
「ゲルドさん、そう自分を卑下することはありません。ロアさんの【勇者】は、そういう『スキル』なのです。ゲルドさんの努力が足りないとかではなく……授かる『スキル』の、運で……」
「つまり俺は、運でもロアに負けてるってこった」
シャリーディアが場を取り持とうとしてくれるが、ゲルドは聞く耳を持たない。
これは、良くない流れだ。
「待ってたんだ、この時を。ホントは王の間に連れて行きたかったが……仕方ねぇ。おっさんもミランシェも、ガキもいない今がチャンスだってな」
「? なんで、シャリーディアは含まれていないんだ?」
「あぁ? そりゃ、お前を目の前で殺して、シャリーディアを俺のものにするためだろうが」
不意に、話が自分に振られシャリーディアは困惑。俺も同じだ。なんで、俺を殺すとシャリーディアを手に入れられるのかわからない。
だが、そう悠長にしてもいられない。すでにゲルドは、言いたいことを言った……会話をする気は、なさそうだ。
「じゃあ、始めようぜ! とっとと俺にぶっ殺されなロ……っ!」
……ゲルドの言葉は、最後まで紡がれることはなかった。なぜなら、俺がゲルドの喉元に、拳を突き立てているから。ただし、寸止めで。
俺は、即座に動いた。ゲルドに、行動させる暇は与えないように。
「な……んだよ、てめぇ。俺の知ってるロアって人間は、仲間の衝撃の事実ってやつを聞いたら、しばらく動けなくなる奴だと思ってたんだがな」
「……そう、だな」
あぁ、ゲルドの言うとおりかもしれない。もし、なんの心の準備もなく今の話を聞いていたら、話を聞いて頭が真っ白になり、動けなかっただろう。そして、俺は殺されていた。
そうならなかったのは、やはり……前世の経験が、あったから。ゲルド個人が俺に嫉妬心を抱いているのは予想外だったが……
それでも、心の準備が、できていたからだ。
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