迎えと旅立ち
俺が『スキル』を授かることになった十五歳の誕生日……その、僅か数日後のことだ。ついに、俺の運命を変える出来事が、起こることになる。
ある朝のこと。村中に響く、気高き馬の鳴き声。それは、運命の歯車が動き出したことを、意味していた。
村の入り口に、国の兵士隊が現れる。相も変わらず仰々しく鎧に身を包み、馬を走らせ村の門をくぐる。そして、先頭にいた兵士が馬から降り、声を張り上げる。その姿には、見覚えがある。
「我らは、ファルマー王国国王、ザスティア・マ・ファルマーの直属の兵士隊である! 私は兵士長のリデューダ・カイマンだ!」
……なんか、初めてこの村に来た時も、同じこと言ってなかったか? てかいきなりそんなこと言ったらびっくりしちゃうよ。
ともあれ、そこにいたのは以前、この村がモンスターの群れに襲われた時に兵士を引き連れ駆けつけてくれた、リデューダさんだ。
やっぱり、あの頃とあんまり変わらないように見える。戦乙女でもよほど美容に気を付けているのか、顔立ちはしっかりし、艶めいた緑色の髪は輝いてすらいるようだ。
「今回は、とある『スキル』を持つ者を、国王の命の下迎えに来た!」
「とある『スキル』……カイマン様、それは?」
「【勇者】だ」
村人の質問に答えるその声が、届いた瞬間……村人は驚いた表情を浮かべ、次いで俺を見た。
当然だ。国の兵士、それも兵士長が俺を迎えに来たなんて聞いたら、みんな俺を見る。その上国王の命だなんて。
「む……そこの、少年か?」
「はい。俺が【勇者】の『スキル』を先日授かった、ロアです」
「ロアか……いい名だ」
リデューダさんは、俺に近づいてくる。うわあ、やっぱり美人だな、前世も思ったけど。
それから、リデューダさんは俺の体をじっと見つめる。少しドキドキする。彼女の方が少し背が高いので、俺が見上げる形だ。
「なかなか、鍛えているようだな」
「あはは……趣味で」
この会話は、前世ではなかったな。
俺が鍛えたのは、あらかじめ【勇者】を得るとわかっていた今回だからだ。前世では、そのようなことはなかったからな。
この二度目の出会いこそが、俺が『スキル』【勇者】を真に実感した瞬間だ。そして、勇者の重さを知ることになる。
「いきなりですまない。我々と一緒に、来てくれないだろうか」
「俺は、構いませんよ。でも……」
「あぁ、ご両親への挨拶も済ませなければな」
なんだか言い回しがドキドキしてしまうが、彼女は冷静な顔だ。
そんな彼女を実家へと案内し、両親と会わせる。そして、【勇者】の真の意味を、俺たちは知ることになるのだ。
「息子さんを、国へとお連れしたいのです」
「いきなり、王都にと言われても……」
「【勇者】とは、いずれ復活する魔王という邪悪な存在を討ち倒せる可能性を持った、数少ない存在なのです。どうか、国の……いえ、世界のために」
リデューダさんは、頭を下げる。国の兵士長が一介の村人に頭を下げるなんて、前代未聞だ。
それだけ、この案件は重要ということ。両親、特に母さんは俺を抱きしめて話すまいとしていた。
「ろ、ロアにそんな危ないことをぉ……」
「……ロア、お前が決めなさい」
最終的には、父さんが母さんを引き離し、俺に選択権をくれた。
前世の俺は、迷ったものだ。なんせ、いきなり世界がどうと言われても、すぐに決断できるはずがない。
だが、今回は違う……今回は、迷いはない。そして、迷いながらも結論を出した、同じ答えを出す。
「俺、行くよ。誰かの、役に立ちたいんだ」
これがきっかけとなり、俺は村を出ることとなる。もちろん、すぐに行きますとはならず、お別れのために村では大々的なお別れ会が開かれた。
各々と別れを惜しんだり、旅の準備をしたり……結果的に、出発することになったのは、リデューダさんが来てから三日後のことだった。
「ロア、元気でね」
「しっかりやるんだぞ、ロア」
「うん。必ず、また帰ってくるから……必ず」
そうだ……俺は、世界を救い、その上で生き延びる。
仲間に殺される運命を、変える!
「では、行くぞ!」
「ヒヒィイイイイン!」
俺は村を出る。兵士たちに囲まれ、馬に乗り、出発した。
リデューダさんは俺を安心させるためか、度々隣に来て話しかけてくれた。王国には、【探知】という『スキル』持ちがおり、それは目的の『スキル』を持った人間がどこにいるのか、探すことができるのだ。
今回、俺をすぐに見つけたのも、そのためだ。精度を高めれば、『スキル』を持つ人間がどのような人間なのかも、わかるという。
そして、俺は初めての……前世の出来事を抜きにすれば、初めてとなるファルマー国へと訪れることとなる。
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