殺し損ねたその後
……リリーが、ロアの安否を気にしていた日々を送っていた一方。ロアの安否を気にかけているのは、彼女の他にもいた。
国王である、ザーラ・マ・ファルマーその人だ。
「ぐ、ぬぅ……あの男め、一体どこへ行ったのだ!」
日々、国王としての責務に追われている。だからといって、愛しい愛娘どの時間を犠牲にすることはあってはならない。
だから、こうしてロアのことを捜索するのに費やす時間は、限られている。無論、普段は部下に探させてはいるが……
「くそぅ、どうしてこんなにも奴のことを考えねばならん!」
「ビビり過ぎなんだよ。自分の命を狙ったからって、わざわざお礼参りに来るような奴じゃねぇよロアは」
「黙れ!」
頭を抱えるザーラ。国王である彼には本来、軽口なんて叩こうものなら即座に首が飛ぶ。
しかし、その人物はそんなものお構いなしだ。現に、この部屋には国王と男の二人だけ。国王本人も気にはしないし、それを咎める者もいない。
「だいたい、あのときお前がロアをきちんと始末しておけば、こうして頭を悩ませる必要もなかったんだぞ! ゲルド!」
「……」
ザーラは音を立てて立ち上がり、ソファーにのんびりと座る人物……ゲルドに、指をさす。
ビシッ、と効果音が付きそうなほどに勢いよく指をさされても、しかしゲルドは眉一つ動かさない。なんなら、小指で耳をほじっている。
「だからその件は前にも言ったろ。不意打ちならともかく、気取られた時点であいつを殺すのは無理だってよ」
「し、しかしだな、お前の『スキル』なら……」
「あぁ、この【鑑定眼】で相手を見れば、弱所……つまりは急所が見える。そこを突けば、どんな相手でも命を絶つことができる」
改めて説明することでもない……が、ゲルドはわかりやすく、ザーラに説明する。その能力は、しかしザーラ自身説明されるまでもなく、理解している。
だからこそ、ゲルドにロアの暗殺を指示したのだ。
「そんなことはわかっている。だからこそ……」
「だからこそ、【勇者】の『スキル』を持つあいつには、一撃目で仕留めないと……通用しない。殺意を殺して、あいつにむしろ俺が隙を見せ、一秒もかけずに一撃で命を奪う。それくらいしねぇと、あいつには俺の力は通用しねぇ」
「……それほど、か?」
「それほどさ。そして、俺はこれまでの人生で一番集中し、ロアの命を狙い……失敗した。まさか、気取られるとは思ってなかった。まるで……」
最初から、ゲルドがロアの命を狙うことを、わかっていたような……
あのとき確かに、そう感じた。ロアほどのお人好しが、仲間に命を狙われることを警戒していた……それは、考えにくい。
まるで、先の展開……ゲルドに殺されるという未来を、見てきたかのような。そんな錯覚さえ、覚えてしまうほどだ。
未来を知るなど、さすがにそのような能力は【勇者】にはないと思いたいが。
「ちっ。まあ、過ぎたことを言っていても仕方がない」
「お前一分前の台詞思い出してみろ」
ザーラは、ロアを殺すことに執着している。勇者という凄まじい力を持つ存在が、自分の地位を脅かすと考えている。
正直、ゲルドに言わせればそんなことはあり得ない。ロアが、誰かを……それも、私利私欲を持って人を殺すなどと考えられない。
だが、それを言ったところでこの国王は聞く耳を持たないし、実際持たなかった。我が強いというか、臆病者というか……
「で、さっきからなにしてんだよ」
「無論、ロアの居場所を捜索させている。奴の居場所を突き止め、追手を差し向け、殺すためにな!」
ロアの居場所を突き止め、殺す……ザーラの頭にあるのは、ただそれだけだ。この国にはいないようだが、だからといって安心はできない。
その存在を、消し去る……そのためには、手段など選んでは、いられないのだ。
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