王国編『 時と月』
ーーートアール王国の現王、レークス・グロリオーサ・トアールは、炎の英雄王と呼ばれる生きた伝説である。
その異名の名の通り、火の上位魔法である極炎魔法を操る彼は、かつてこのトアールを襲撃してきた魔王幹部を撃退させた英雄だ。
《 鉞のTATSUYA 》と呼ばれているドラゴン、魔王幹部の竜王・タツヤと三日三晩戦い続け、飲まず食わずの戦いの後、四日目の朝に英雄王お得意の最終奥義『ファイナル・スーパー・スペシャル・グレート・ファイヤブルサンダー 』を使って住民に犠牲を出すことなく追い返したと言われている。
また、国王としても非常に優秀であった。
先代の王であるプア・トアール王『賭博負け借金馬鹿家畜王』という異名を持っていた馬鹿が作った借金を、その手腕により瞬く間に返済してしまった。
さらには先代王が食糧難に陥った際に、全て売り払ってしまった家畜を様々な方法で集めてきたうえ、農地改革と言われる新たな作物の栽培方法や、上下水道という物を世界に広めるなど、いくつもの歴史を残してきた王だ。
そんなトアール王が最近、100年前に現れた魔王『レイニーレイ』の討伐に乗り出すと発表したのである。
雨魔王と呼ばれるレイニーレイは、今現在いる魔王の中で最も人類を脅かしている魔王と呼ばれている。
その実力は魔王内で中の中でありながらも、広範囲殲滅魔法『レイニーレイ』を用いてアルカス小国を崩壊に導いたのだ。
国王から国民まで全て殺し尽くしたその残虐性は恐ろしいとしかいうことがない。
「そんなこんなで、今回、トアール王国は勇者召喚の秘術を使ったという訳なのだよ!」
...そんな話をドヤ顔でしてくるバカ……もといトアール王。
「という訳で、ちょっと魔王倒してきて!シクヨロ!」
「……」
「アレ?どうしたの?元気ないねー!
……あ!もしかして、喜び過ぎて声も出ないか!
うんうん!わかるわかる!ボクもこっち来た時は喜んだね!異世界転生キタコレって感じで、もぅうれしくってうれしくって!
でもねー!そこから大変だったよ~!しばらく成長して大人になってから気づいたんだけど、紙とかなくてさー!いやぁー!ここまで来るのに苦労したね!あ!そう!親もやばくてさー!…もう借金まみれよ!いやー、親の国庫資料見た時の衝撃ったらないよね!(笑)でさー……(しばらくどうでもいい話が続く)」
……トアール現国王レークス・グロリオーサ・トアール王、五十歳。炎の英雄王と呼ばれ、国民の憧れの的であるこの男。
今現在も自分の事を日本語で語っているこの男は、前世の記憶を持ったまま転生した、元日本人の転生者だった。
……こんな状況になった理由は俺達がこっちに来た時まで遡る。
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「頭、いってぇ~!」
なんじゃぁごりゃあー!頭がぐわんぐわんなってる!世界が揺れてる!
「……うっぷ。やば……吐きs…おrrr(見せられないよ!)」
「ぎゃー!えいすけが吐いた~!」
「おま…ちょ、そんなのされたr…おrrr(見せられないよ!)」
内蔵出ちゃう!ヤバい!そのくらい気持ち悪い!
昔の王城のような綺麗な空間だがそれどころではない。周りは阿鼻叫喚と吐瀉物の嵐。
俺達の大体は床に突っ伏したり、下を向いて吐いたりしていた。そんな中でも自分は吐かないと頑張っている女子のカースト上位達。
そんな状況であると言うのに、王らしき人の近くにいる大臣みたいな人が話す。
「静まりたまえ、勇者よ!王の御前であるぞ!そんな事をしていいと思っているのかッ!」
なんか言っているが今はそれどころではない。さっきも言ったが、凄まじい吐き気である。
……あ、ヤバ、またでぉrrrr(見せられないよ!)
そんな中でも平然としている大輝に大臣が話しかけてくる。
「おい、そこのおまえ!これをどうにかしろ!王の御前でこんなこと許されないぞ!……おい聞いているのか!返事をしろ!」
眼前まで迫っている大臣っぽい人に怒鳴られて、大輝は意を決した様に話し出そうとする。
……が。
「……分かりました。すぐに静かにさs…おrrr(見せられないよ!)……あ(やっちまったという表情)」
あーぁ、そんなに揺らすから……
大臣は、その服を大輝のGeroまみれにして一瞬呆けた顔をしたかと思うと下を向き、拳を握りプルプルしながら顔を上げる。
その顔は茹でダコのように赤かった。
「……このッ!野郎!……わ、私にこんなことを……こ、このッこのッ!し、死刑だ!おまえら絶対に、……ゆる、その許さないぞ?!おい!聞いているの……」
「静まれッ!」
そう言って立ち上がる王みたいな人。
その顔は糸目で視線は鋭く、強者の風格的なのを漂わせる切れ者風の男だった。
「下がれ。フェルターよ。我とこの者達のみで話す」
そう言って王がその大臣、フェルターを見た。
そうするとフェルターは青ざめた表情で頭を下げ、恐る恐るといった感じで発言する。
「……で、ですが、おうよ!お一人では何か起こった時対応が……」
王が眉間に皺を寄せる。
あ、その表情見たフェルタービクってなってる、おもろい。
「……ほう?我がこの者達に後れを取ると?
この我、炎の英雄王レークスが?」
そう言って王はフェルターを睨み付ける。
フェルターは青を通り越して真っ白になった顔で、慌てたように、「そんな事は御座いません!」と言った。
「ならば、良いであろう。……全員、下がれ」
そう王が言うと、部屋に一列で並んでいた甲冑を着た兵士達が揃った動きで、ザッと一礼をし、部屋の外に出ていく。
その動きは素晴らしく洗練されたものだった。
「で、でわ、おうよ。……失礼しみゃす……」
失礼しますと言おうとして、もろに噛んだフェルターはそれに気づいて顔を真っ赤にした後涙目になって、一礼して俯きながら早足で帰って行った。因みに言ってなかったがフェルター女である。
背が150後半ぐらいで、童顔のかわいい女の子だ。ちょっと余裕出てきてから女性だということに気づいた。
「よし!誰もいなくなったねー!これでやっと話せるよー!」
……そして話は冒頭に戻る。
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「……いやー!でも面白かったね!ちょっとフェルターは可愛そうだったけどねっ!」
あれから1時間位が経過した。永遠と話していたトアール王も自分の事は大体話終わり、ついさっき起こったことについて話して自分で爆笑している。
……先程までの射殺す様な視線はもう既になく、人の良さそうな笑みを浮かべていた。
その外見は50代というのが信じられないくらい若く、腰ぐらいの長い髪を後頭部でまとめている言わばポニーテールみたいな感じになっている。
線の細い美形で、少しつり上がった糸目がいい感じだ。男と言われなければ今の状態だと気づかなかっただろう。
「……うん!そろそろ皆慣れたかな?いやー!辛かったでしょ!次元を超えるこの魔法は次元酔いって言うのが辛いんだよねー!ごめんね?」
ずっと話してたレークスさんはこちらの様子を見ながら話してくる。
あ、ほんとだ。もうあんまり気分悪くないわ。
「そう言われるともうあまり吐き気がないな?
いやーマジで辛かった。死ぬかと思った。…お前も大丈夫か?刀衣?……刀衣?」
……周りを見渡す。俺はその姿を探すが見当たらない。
???なんでだ?
みんなも気持ちの悪さから回復したようで顔を上げている。
俺は嫌な予感を覚えながら周囲の人、一人一人をしっかりと確認していく。
違う、違う、違う、違う……
汗が湧き出てきた。
ここに来る前の、怒った声が耳に響いていた。
まさか。
まさか刀衣、別の場所に……?
じゃあ、俺のせいで、別れも言えずに……?
「……おい、どうしたんだ?えいすけ?大丈夫か?」
……俺は震えた声で、やっと喋り出した。
「……刀衣が、刀衣が。……いないんだ。
いつも……俺の近くにいたのに……」
大輝は周りを見渡したあと、気まずそうに「いないな……」と呟いた。
だがすぐに、表情を変えて、「きっと見つかるさ!」とか何とか言ってたような気がする。
その時、頭の中ではぐるぐると思考が渦巻いていた。
正直、当たらないと思っていた。
自分で言っていてくそみたいな考えだと思うが、自分は大丈夫だと、タカをくくっていた。
いや、自分だったらまだ良かった。
自分がもう送っていいと勝手に言ったせいで、刀衣とちゃんと話すことも無く、こっちに来てしまった。
こうなるとわかっていれば、もっと話し合っていたはずだ。
もっと、もっとちゃんと、情報を集めていたはずだ。
最後。刀衣は怒っていた。
刀衣はきっとそういうところもきちんと考えていたんだろう。
それを、俺は……
……そこからはよく覚えていない。
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【大輝視点】
えいすけは大丈夫だろうか?
刀衣がいないと言ったあとずっと青ざめた表情で俯いていた。あんなえいすけは高校に入ってから見たことがない。心配だ。
……だが、僕はリーダーだ。えいすけだけを見ているわけにもいかない。
まずはみんなを落ち着かせて、いなくなったものの確認をしなければ。
……僕は俯いたままのえいすけから離れ、出席を確認するように点呼をとる。
そうやって調べてみたら、刀衣を含め十名の生徒がいなくなっている様だった。
いなくなった生徒と関わりがあった者は皆心配していたり、泣いたり、とにかく悲しんでいるものが多く居る。
だが、誰もが、すぐに立ち直ってくれた。
……えいすけ以外は。
「えーと?どうしたのかな?何かあった?」
レークスさんがこちらを困惑気味に見てくる。
そうだ、説明するのを忘れていた。レークスさんには話して置かなければならないだろう。
「あの、レークスさん、実は……」
僕はレークスさんにこれまでの事と、十名の生徒が居ないこと、その生徒の捜索に協力して欲しいという事を話した。途中足らないところは壮甫が訂正してくれた。
こういう時にしっかりとまとめてくれる壮甫の存在は本当に有難い。
「ふーん。なるほどねぇー……そんなことがねぇ」
レークスさんは何かを考える様子で答える。
一瞬どこか表情が怖くて、少し仰け反ってしまったが、それを感じ取ったのか明るい表情で話し出す。
「うん。とりあえず今日は休みな?私も何か考えておくからさ!」
「えっ……ですが、これからの事を話さないと……」
僕がそうやって渋ると、隣にいた壮甫が肩をぽんと叩いた。
「……いや、大輝とりあえず今日は休もうぜ。
お前も気分悪そうだし、みんなも疲れてるだろうし……ここはお言葉に甘えてさ。……な?」
壮甫が心配そうにそう言う。
……そんなに僕は疲れているのだろうか?
「……ああ、分かった。今日は休ませてもらおう」
僕はそう言って頷く。
壮甫が安心したように「それがいいよ」と呟いた。
それを見ていたレークスさんがにこにこした笑顔で歩き出す。
「……そうだね、ちょっと待ってねー。今から部屋に案内するから。
……あ、あと私は今からやらなきゃいけないことがあるから、またあしたねー」
そう言うとレークスさんは部屋から出ていった。
暫くすると数人のメイドさんが部屋に入ってくる。
そのメイドさんは優雅な動きで、「此方です」
と僕達を先導してくれた。
そして、部屋が割り振られていった。
……どうやら2人から4人で使うことになるようだ。
流石に王城と言うだけあって客室が大量にあった。
しかも、そのどれもこれもが綺麗に彩られていてすごくお金がかけられている、いうまでもなく豪華な部屋だった。
「何かごさいましたら、外にいるメイドにお声かけください」
そう言って一礼したあとメイドさんは去っていった。
僕の部屋は、
僕、壮甫、あとは土方 那成という、日本でよくつるんでいた3人だった。
土方那成は僕が一方的に話しかけているうちに、よく一緒に居るようになった友人だ。
最初は背が高く何も喋らないなー。という印象だったが、いつの間にか寡黙で優しい武人という印象になってた。
というのも、那成は剣道を習っていて、その実力は全国まで上り詰める強さを持っているのだ。
そして、僕は那成がいつも教室の花瓶の水を変えているのを知っている。まぁとにかく良い奴なのだ。
「……大変な事になったな」
壮甫が呟く。
その顔は、いつもより疲れてはいるが、問題ができた時よくやる深く考え込む動作をしていて、次のことを考えているのが分かった。
こういう時、こいつのこういう強かなところに助けられるのだ。
「ああ、そうだな。これからどうなるんだろうか?」
僕の口から出たその言葉は、ビックリするぐらいに暗い声色のものだった。壮甫に比べて、僕はこういう時に弱い。全く、本当に嫌になるよ。
「……考えても始まらんだろう。今は休む時だ」
そう言って那成はベットに腰掛ける。
那成は相変わらずだ。いつもどうり平常を保っている。
そういえば、修学旅行で道に迷った時も、こいつだけは慌ててなかったな。懐かしい。
「そうそう、考えても始まらない!さっさと寝た寝た。……委員長がそんな顔でどうすんだ、皆を見つけ出すんだろ!ほら、もう外真っ暗だぞ。
月が登って……は?」
僕を元気づけようとしていた壮甫が窓の外を見て固まる。
それを見て僕と那成も気になって近寄っていく。
「どうしたんだ?壮甫、そんなに…かたまっ……て?」
そこには綺麗な満月が浮かんでいた。
地球では見たこともないぐらい綺麗で、満点の星空だった。
そんな中に浮かんでいる大きな満月。
それがいくつもの大群となってこちらを見ている。
1つは、燃え上がり絶え間なく形を変えている紅の月。炎は生きてるかの様に揺らめいている。
1つは、深い深い深海の様な触手の巻きついた蒼の月。その月の主であろう触手は常に脈動している。
1つは、周りの雲を吹き飛ばし進む緑の月。その周囲に、二つの星が回っている。それは風を歩く様に進んでいた。
1つは、黄の月。その周りには固体とも気体とも液体とも言い難い名状し難い何かがあった。
1つは、輝く月。月と言ったが、その形はかろうじて円形と言うだけで、いくつもの半球体や輝く板が長い棒で連結されている。
それは距離感が掴めず平面かもしれないし立体かもしれない。輪郭を辿ろうとしたが恐ろしくなり辞めた。
1つは、美しい月。だが、それと同時に、それが最悪の悪夢の様に歪んで恐ろしいと何処かで理解させられる。
1つは、灰の月。それはよく見ると塵上の何かが纏まった物で、それ自体は時が止まった様に停止している。時折近くに星が現れると、光が刺し、塵になり合わさっている様だ。
1つは、玉虫色の月。それは沢山の球の集合体で、球は絶え間なく形を変え、近ずいて合わさり、また分かれたりを繰り返している。
言うなれば、全てにして1つの月……だろうか。
そして、一際目を引く虹の月、いや、混沌の月と言った方がいいかもしれない。それは様々な色が混ざっていて、そのどれもが互いに共存している。それは千以上の色が有るだろう。その月は月であるにも関わらず自分で動いている、自我を持っているように感じた。
他にも様々な月があった。
僕達はその美しくも、狂気的な月達を、ただ呆然と眺めていた。
誰かが正気を取り戻すまで、ずっと。ずっと。
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【 ???視点⠀】
久しぶりに、この世界の月を眺めた。
美しく、狂気的で、そして、忌々しい者を。
「待っていろ。次こそは必ず……」
男は呟く。
深い深い、怨嗟に塗れたその声で。
「必ず……お前をーーー」
殺してやる。
その言葉は誰に聞かれることも無く、群色の空へ溶けて行った。
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