プロローグ③『 そして物語は動き出す……のか?』
「ーーーということで、皆さんをお呼びしたのです。」
この場にいる約半数が夢の世界に旅立っている中、身振り手振りを交えながらサナエルが話している。その顔は、どこか悲しそうな顔をしているが、何故だろうか?
まぁいい、どうやら話は終わったようだな。
……え?俺はちゃんと聞いてたよ。……うん聞いてたよ?(震え声)
「……ふむ。
にわかには信じ難いが、簡単にまとめるとこういうことだな。
……皆今から掻い摘んで説明するから起きろー!」
寝ていなかった1人である、蒔田 壮甫が皆に呼びかける。
こいつは大輝とよくつるんでいるやつで、サッカー部に入っている。
成績優秀、顔も上の下程度のためふつうはモテてもいいのに、委員長である大輝の影に隠れてしまっている哀れな男である。
我がクラスの副委員長を務めてしまったがために、直ぐに問題を抱えてくる上(白崎大輝)と、直ぐに問題を起こす下に挟まれて、胃薬と頭痛薬を常備するようになった哀れな苦労人である。
「う~……」
その呼びかけで、さながらゾンビのように起き出す2‐1組一同。
なかなか起きない者もいたが、そういう奴らはレディース達に叩き起こされていた。
……俺?俺は刀衣に起こされましたよ。
あ、いや、最初から起きてたよ?ほんとだよ……?
「よし!みんな起きたみたいだな。
……いや、若干1名起きていないようだがいつもの事だな」
足を掴まれその状態で回転される、『メリーゴーランド』という野々原の得意技を食らっても目をつぶったままの彼女はほっておいて、話は進むようだ。まぁ彼女はいつも寝ているから仕方ない。そういう人もいるよね!
「それじゃあ説明するからよく聞いてくれ」
ぐだっとした体勢で頷く2‐1一同。
「……えーと、異世界のとある国、トアール王国。
その国が、魔王を倒すために他の世界から力のある者を召喚する秘術。勇者召喚の秘術というのを使ったのが、今回の事件の始まりだ」
サナエルが話したことを噛み砕いて伝えているためか、少し考えるような動作をしたあと話し出した蒔田。
いつも皆に説明する立場なので、やはりわかりやすい。
うむ、先程とは違ってみんな顔を上げている。大きな進歩だ。
「サナエルさんは、その世界の管轄の神から助けてー!と、Gメール……あ、いや、GOD mailが来たので、最近人が増えすぎてる日本から適当に探していた」
蒔田は隣に立っていたサナエルさんに「あ、GOD mailです!」と訂正を受けている。こしょこしょと耳元で話をされて、少し顔が赤くなっているのは、まぁ仕方ないだろう。
サナエルさん女神ということもあって滅茶苦茶可愛いから……
……ぁ、隣にいる刀衣からすごい睨まれてる。ナニモカンガエテナイヨー……!
「そしたら、とある航空機の事故に巻き込まれて死ぬ予定だった我々を発見。ギリギリの所で時空魔術というのを使い我々をこの空間に呼び出した…と言うことらしい」
蒔田は時空魔術という言葉がなにかわかっていないので、半信半疑で説明しているようだ。
しかし、それをサナエルさんに看破されたようで「えっと、時空魔法と言うのはですね!時間軸座標と空間魔法を合わせた……」
と、専門用語満載のわかりにくい説明を受けていた。
流石の蒔田も理解できない様子だ。
可愛らしい身振り手振りで説明してくれていたサナエルさんに、ほんわかと笑みを浮かべながら謝って話を遮っていた。
うんうん。恋だな……!
「そして、ちょうどえいすけの手がいい感じに胸に当たっていて、テンパって今に至ると」
こほんと1つ咳をして、そう締めくくった。
あ〜こっちに来た時のあの感触は胸だったのか……
ならばもっと楽しんでおけば……ごめんなさい。謝るので睨まないでください刀衣さん……
「……分かったか皆?」
皆にそう問いかける蒔田。
俺たち2‐1はその問いかけを聞き、当然だよなぁ、と頷きあってこう答えた!
「「「「「「なるほど分からん」」」」」」
「……よし!いつも通り完璧だな!……はぁ」
そう答えた俺等を見渡して、目尻を指でぐっと押さえたあと、何かを飲み込むように呟く蒔田。
可哀想に……元気出せよ!
「えーと?わかって頂けたようでなによりです。……えいすけさんの件については本当に申し訳ないです。すみません」
その様子を困惑して見ていたサナエルが、再度俺に向けて謝罪した。ぺこりと頭を下げるその姿は可愛らしい以外の感想は見当たらなかった。
「あ、別にいいっすよ!」と鷹揚に頷いたら、ぱっと花の咲いたような笑顔を見せてくれた。うむ。いいものだ……
「……えー……それと、その、困ったことがありまして、……ちょっと問題がありましたというか、その……」
俺への謝罪が終わったあと、どことなく気まずい様子で口ごもる。子供が答案用紙を隠した時みたいな反応を見て、胸を抑える男共。きっと恋に落ちたのだろう……
「問題ですか?どのような事でしょうか?
えーと、もう絶対殴らせないので話してくれませんか?
……おまえら、殴るなよ?」
「ちっ……わかったよ」
蒔田にそう言われて、渋々と言った具合で頷くレディース。
それを見て、とりあえず安心したのか、少し申し訳なさそうにぽつぽつと話し出すサナエル。
「……分かりました。じゃあ、お話させていただきますね」
「その問題というのが、あの、、こちらに転移させる時にですね、ちょっと飛行機が墜落してくるまでに時間が無さすぎてですね?」
徐々に眉が下がっていくサナエルさん。
なにか不穏な様子を感じとったのか、いままで横になっていた者達も聞き耳を立てているようだ。
「術の構築が少々強引になってしまいまして、その……えーと魂は大丈夫だったんですが、身体の方が……壊れかけの方が十数名ほどおりまして……」
体が小動物のように震えているサナエルさん。
しかし、今はお話の方が重要である。
「その方々はもとの体ではなく、新しい身体でランダムな種族や場所で転生という形になってしまうかもしれないんですよね。
……本当に申し訳ないです。すみません!」
……と言うや否や、素早い動きで土下座の体勢に移るサナエルさん。その姿は、もう女神ということを忘れそうなほど、哀愁に満ちていた。
「なんだよそれ!みんなと離れ離れになるってことかよ!」
「やだよぉ!私1人なんてヤダ!」
「魂とか転生とかって……ばかばかしい」
「新しい体って、そんな……!いや、いいかも……?」
サナエルさんの言ったことを理解したのか騒ぎ出す2‐1組一同。
1年の時からまとまりが無いと言われてきたとおり、こういう時に自由勝手に発言する。クラスメイト達の悪癖が出てしまっていた。
「皆、落ち着くんだ」
だが、そんな時大輝が一歩、皆の前に出る。
すると自然と皆は静まり返り、その視線が大輝に注がれる。
個性的な奴らが集まった俺たちのクラスを、一年以上もまとめてきたのだ。こういう時に大輝は頼りになる。
大輝は静かになったのを確認すると、サナエルさんに近づいて行きはなしかけた。
「……頭を上げてください、サナエルさん。
確かに貴方はミスをしてしまったかもしれない。
……ですが、それは私達を助けようと必死になってやった結果なのでしょう?」
サナエルが顔を上げて話し出す。
その顔は、希望を見たような、歓喜の表情をしていた。
「……はい。そうでs「ですよね!」
……はい。あと少しで航空機が当たr「うんうん!」
…………なので魔術が荒くなっt「分かります!」
……すみまs「みんな!ということだ!これで分かっただろう!サナエルさんは何も悪くないんだ!」
……あn「だからな!みんなも責めないでやってくれ!転移先で居なかった者達は絶対に探し出してやるから!この俺に免じて!な!頼む皆!」
……(遠くを見つめる)」
それまでは不安そうな面々だったが、その大輝の言葉をきいて、はっと我に帰ったかのように大輝を見つめる。
その目には確かに光が灯っていた。
しかしそれとは対照的に、何処か悲しそうな目で遠くを見つめるサナエルさんがいた気がするが……いや、俺は何も見ていない。
「……そうだな。大輝の言う通りだ!今までも色々あったが、全部この2‐1で乗り切って来たじゃねえか!俺は大輝を信じるぜ!」
「そうよ!皆いつもの元気はどうしたの?!どこかに行ってしまうなら、探し出せばいいじゃない!」
「そうだな、俺も大輝について行くぜ!」
「私も!」「俺も!」「僕もだ!」「うちもや!」「おいどんも!」「アタイも!」「ふっ。我もだ」「僕も!」……(しばらく続く)
「……皆!!そうか……よし!
……にのいちぃ~!」
「ファイッ!」
「「「「「「「「オゥッッッッッッ!」」」」」」」」」
「ファイッッッ!」
「「「「「「「オゥッッッッッッ!」」」」」」」
「ファイッッッ!」
「「「「「「「オゥッッッッッッッッ!」」」」」」」
「にのいちぃッ!ファイトッ!」
「「「「「「「「オ~!」」」」」」」」」
その声は、この空間に響き渡り、空気を震わせ、そして皆の心を震わせた。
それはさながら、鬨の声。様々なことを一緒に過ごし、競い合い、助け合ってきた。
そんな我々2‐1の団結力をよく表した光景だった。
「なんか、凄いことになってきたね。えいすけくん」
そう言って肩を寄せてくる刀衣。なんか近くね?とは思うがいつもの事なのでスルーする。
スルーする!
「うーん、そうだな。まだ落ち着きそうもないな!」
今も胴上げを行っている大輝たちを見ながら、俺は青い結晶を弄りくりまわす。
へぇ〜これの浮力すごいな。俺が乗っても下につかない!
「……あのぉ?これどうすればいいんですかね?」
話が進まないこの状況に痺れを切らしたのか、少し離れたところで遊んでいた俺たちに話しかけに来るサナエルさん。
どうすればいいか……か。
大輝たちを見ながら、呆然とした表情で立ち尽くしているサナエルさんに向かって、俺は……
「うーん?もう転移させていいんじゃないですかね!」
そう答えたのだった。
「……えっ、あー……分かりました!」
それを聞くと、一瞬迷った表情をした後、なにかの魔法陣を手にうかべ始めるサナエルさん。
わー青い魔法陣がぴかぴか光って綺麗だなぁー。
「えいすけくん!?え、ちょ、待っ!」
「えいっ!」
サナエルさんがえいっとした瞬間。
俺の言葉をきいて驚愕した顔の刀衣と、満面の笑みの俺と、笑いあって胴上げしている2-1組は、この地球という星の次元から文字どうり消え去ったのだった。
「ファイッッッッッッ!」
「「「「「「「「オ~~ッ!」」」」」」」」
「はっはっはっはっはっはっはっは~ッ!」
「このッ!馬鹿えいすけえーぇー……」
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「行っちゃった…大丈夫かな。ちゃんと世界救えるのかなあの人たち?」
誰もいなくなった空間で、一人呟く女神。
……いや、厳密には、二人だな。
「神とは、傲慢なのだな……そう思わないか?」
そう何気なく呟いた俺を驚愕した顔で見てくる女神。……サナエルと言っていたか。そう言えば寝ていて名前を聞いてなかったな。
「ッ誰ですか、貴方は!?」
「……誰なのか、か。誰なんだろな?」
「?貴方何を言って……」
「…覚えていないんだな。……まぁいい、俺は自由にさせて貰うぞ」
俺は術の構築を始める。
……ひさしぶりだな。この感覚は…。
「本当に何を言ってるんでッ!次元魔法!?それも上位の!?待ちなさい!」
そう言ってサナエルは近づいてくる。
……これだけ言っておくか。
「〘azot-allsu〙に気をつけろ」
ーーその瞬間、次元が歪み男が消え去る。
「ッ!!!その名は!?」
サナエルは呟く。正真正銘一人のその空間で。
「……〘azot-allsu〙」
「《 無限の渾沌に寄生する者 》あの時勇者と共に消えた筈……まさか……また?」
「でも……何故あの少年が?
……少し調べてみる必要がありそうですね。」
そういうとサナエルは素早く術式を構築し発動した。
そして、その空間には誰もいなくなったーーー
ーーーー物語は動き出す。
かつて、神により人生を狂わされた男と。
かつて、神と共に消えた者と。
知らぬ間に罪を背負っていく神と。
そして、巻き込まれてしまった子供たちによって。
物語は動き出した。
ーーーーーーーその終りはまだ誰も知らない。
圧倒的シリアス展開?
そんなの次の話で消え去るよ。ハハッ!




