六話
実験。
俺が今やろうとしてるのはトンでもない実験だった。
例のロゥーパCを先頭にして、所謂パーティの要『壁』として運用できないかというアホな実験だ……。
ボーンに頼んで一体だけ骸骨剣士を引っ張ってきてもらった。
この骸骨剣士が今回の実験での要と言っても良い。
ボーンがこちらに来て、ロゥーパCと場所を変わる。
ロゥーパCは『任せろ』と意気込んで、がっちりと前に立ちふさがると、敵の骸骨剣士がそれを見て、俺達を敵と識別し、一気に剣を振りかぶる。
ゆっくりとした動作で、上段から得物がロゥーパCの体へと振り落とされた。
瞬間、長剣から火花が舞い、ガキーン! と良い音を鳴らして剣の方が真っ二つに折れた。
うそーん……。
俺もボーンも流石に呆気にとられる。
当の本人、ロゥーパCは触手をにょろにょろ動かして折れた剣を拾って……そして投げた。……何故投げたし?
そして大慌てで右往左往しはじめる。察するに自分でもびっくりしたってことか? いや俺達の方がビックリだ! 無傷かよ!
これはあれだ、解説が必要だな。
「なんでこいつ、こんなに硬いの?」
ボーンが残った骸骨剣士を片付けるをの確認してから、ブックを開く。
『……さあな?』
「おい……」
『あくまで仮説だが……この階層には骸骨剣士とロゥーパしかいない』
そうだな。確かにそいつらしか見てないな。
俺も思い出して頷いた。
『迷宮にはフロアマスターという階層ごとにボスの様な者が存在している』
「ほう……? それで?」
『察するに、そこのロゥーパCがフロアマスターなのではないか?』
「……こいつがか?」
到底フロアマスターには見えないが……。
見た目も動きも同じロゥーパだしな……。
何かこう、強い! っていう模様とか、色とか普通違ったりしないか?
『基本的には……だからな?
特殊なフロアマスターも居る……らしいしな。
こいつはその特殊な部類に入るのではないか?』
「なるほどな……それでこんなに硬いと」
それなら硬いってのも頷けるけどさ。
『強い、弱いで物事を片付けるならアレは強いかもしれないだろう』
ブック先生のかもしれない頂きました。
まあ、曖昧だよな。
「かもしれないって……」
『触手での攻撃は全くダメージにはなっていないが、
防御力だけはこの階層においてトップクラスだしな』
「まあ……たしかにな」
『ただし、ただ硬いだけのフロアマスターとは、意味があるのか謎だ』
意味っていわれてもなぁ……。
確かに自ら攻撃してもらう実験もしたが、そっちは本当にただのロゥーパと変わらなかった。打撃力に優れてるわけでもなく、身体的に素早いわけでもない。ただ、単純に硬いだけ……。これにどんな意味があるのかといわれれば……生存しやすいだけか?
「フロアマスターってのはボスって言われる位なのだから、魔力を回収するにはうってつけじゃないか?」
気になったので聞いてみた。一応だが十もあるんだしな?
『残念だが、所詮十程度だ。それなら普通のロゥーパを十体狩った方が効率が良い』
ほほう、つまり十体狩ればこいつ一体分くらいの魔力をもらえるってことか。それだと確かにやわらかい方を斬った方が速いか……。
謎は深まるばかりだ。
『それよりも、ロゥーパ達に長剣を持たせてみたらどうだ?
意外かもしれんが、戦力になるかもしれないぞ?』
「え、本当か? 結構重たいけど、それ持てるのかね?」
ブックの提案で、早速ロゥーパ達に長剣を持たせてみた。
最初はおっかなびっくりで危なっかしかったが、持ち上げて振り落とすだけの単純作業だけでも敵を倒せることが分かった。
どうにか、敵を倒せれば敵の魔力を吸収して成長する事が出来るらしいので、この案は採用することにした。
それから一ヶ月が経過して、段々とロゥーパ達も手馴れた手つきで……。
……いや、この場合は触手馴れた触手でか? ……まあ良いか。アホな事言っても仕方ないな。とりあえず狩りも慣れてきた。
驚く事に、ロゥーパ達は徐々に強くなっていくと長剣を二本持てるくらい強靭な触手にはや代わりしてきた。
サボテンの形をした良く分からない触手が、長剣二本もって襲い掛かるわけだ。これは敵側からすると怖いかもしれん……。
なんか、このまま強くなると、俺とボーンよりこいつらの方が使えるんじゃないかっていう気がしなくもないが……。相手はあくまでもサボテンもどきだ。追い抜かれないように頑張らないとな……いや、もう追い抜かれてるかもしれないが。
そんなこんなで今日も一日の戦闘が終わった。
早速日課となりつつあるブックに自分達の魔力を測ってもらった。
『スレイヴ……二。
ボーン……六。
ロゥーパA……三。
ロゥーパB……三。
ロゥーパC……十五』
おお! ついにだ! ついに数値が『二』にあがったぞ! ブックの基準が良く分からないが、一から二にあがっただけでも嬉しいな!
「うっし! やっとあがったか!」
思わず俺がガッツポーズをする。
ボーンもついに六か、やはり俺が寝ている間に部屋を守ってくれてるからな、あがりやすいんだろう。
ロゥーパ達は無邪気に活動してるせいか俺より高い。だが、ロゥーパCだけは意味が分からない。何故だ……どうして十だったのが十五に進化してる……。あれか? フロアマスターだからか? そうなのか? それにしては強すぎだろ? いや硬すぎだろうで良いのか?
『ロゥーパCはもはや規格外だな……ドラゴンに踏まれても平然としているかもしれん』
「いやいやいや、ドラゴンに踏まれたら流石に潰れるだろ」
冗談も程ほどにしてほしい。
『そうでもないぞ? まあ、ドラゴンが出てきたらロゥーパCに任せてみるのも良いだろう』
「いやいやいやいや、そんな状況になんか陥りたくないわ。一目散で逃げるぞ」
だって、ドラゴンって……あれだろ? でかくて、硬くて、火を噴出すアレの事だろう? あんなのどうやって倒せば良いのか検討もつかないぞ。
しかも思い出そうとすると若干身震いがするって、これって俺の一部がそれと戦ったことがある、もしくは関わりがあるって事だよな? 怖いなぁ。
「そういえばブックさんよ」
『なんだスレイヴ?』
「この数値の基準って何なんだ? 一とか二とか魔力の数値だってのは分かったけどな」
俺が本に描かれている数値を尋ねる。
やっぱり凄い気になってたんだよな。
一とか二とかどれくらいの強さなんだ?
『魔力の基準は魔力の基準だが?』
「いや、そういう事じゃなくてだな? 俺が最初ひたすら狩りをして『一』だろ? 狩りをする前は零だったのなら、何が大本の基準になってるのか気になるじゃないか、例えば他の奴を参考に教えてくれよ」
何か比較となる者がいれば分かりやすいしな。
『ふむ……確かにな? お前が生まれた時は確かに零に等しかったしな……。では、分かりやすく人間で例えよう……新米の冒険者は零だ』
「それは簡単な魔法が使える奴でもか?」
『それも零だ』
なるほどなるほど、駆け出しの冒険者でも魔法が使えても零と。
『続けるぞ?』
「どうぞどうぞ」
『冒険者となって、そこそこ強くなった魔法使いが居るとしよう。そんな奴でも零だ』
「まだ零なのか……それはどのくらいの強さの奴だ?」
『そうだな……中級の魔法が使える程度の奴らだな』
……は? 中級クラスの魔法使いが零なの?
魔力って結構使うんじゃないのか?
『続けるぞ?』
「ど、どうぞ……」
『低級クラスのドラゴンを狩れる十人パーティの内の魔法使いが居たとして……』
「……いきなりドラゴン!? ……その魔法使いはどの位の強さだ?」
つーか、こいつ絶対……分かりにくく言ってるよな? その辺が怪しすぎて困る……。
『ふむ強さか……。そうだな、高位クラスの人間の魔法使いと想定してもらって構わない』
「高位クラスの魔法使い!?」
どうすればそんなのがでてくるんだ?
そして、俺の疑問なんかを吹き飛ばしてブックは次のページで文字を浮かび上がらせた。
『そいつでも零だ』
「…………は?」
零という言葉に理解出来ない俺がいる。
高位クラスで零?
何言っちゃってんの?
『続けるぞ?』
「……ああ」
『冒険者達の憧れ、凄腕の有名な魔法使いが居ると仮定しよう』
「……ああ」
もう嫌な予感しかしないぞ。
『人間としては凄腕だ。……そんな彼で』
「彼で?」
『……二くらいだな』
なるほど! 全くわからん!
人間の許容量が小さいって事なのか?
それとも俺達が人外すぎるのか?
魔力の数値って何なんだよ!
あ、でも。俺達は人間ではなかったな……。
『理解できたか?』
「いや……」
この話題で深く考えるのはやめよう。頭痛くなる。
俺はそう深く心に刻んだ。とりあえずお礼だけはしておくか。
「理解出来ないことを理解できたよ。ありがとう」
『それは良かったな』
全く良くないけどな……。