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呪われた天才陰陽師は、月より落ちたかぐや姫を溺愛する  作者: 猫塚ルイ


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第5話

朝の光が格子戸の隙間から細く差し込み、静謐な寝室を淡い金色に染め上げていた。


空気中に舞う塵さえも、まるで祝福の欠片のように光を反射している。


私は、象嵌が施された重厚な鏡台の前に座らされ、背後に立つ月城様の気配を全身で受け止めていた。


彼の手にあるのは、最高級の柘植の櫛。


かつては己の身なりにさえ無頓着で、ただ妖魔を討つことだけに命を削っていたという


若き天才陰陽師は、今や熟練の職人のような手つきで、私の髪を慈しむように扱っている。


「……月城様。今日も、お忙しいのでは? 陰陽寮での会議があると伺いましたが……」


「君の髪を整えること以上に、優先すべき公務など、この世には存在しないよ」


迷いのない、涼やかな声。


けれど、私の銀髪を梳く彼の指先からは、驚くほど高い体温が伝わってくる。


さらり、と櫛が通るたびに、頭の芯が痺れるような甘美な感覚が全身に波及していった。


「月の光をそのまま紡いだような、美しい髪だ……これに触れている時だけは、私の内側で渦巻くどす黒い呪いが、嘘のように静まる気がする」


月城様はふと動きを止めると、私の肩にその整った顔を寄せた。


耳元に直接かかる、彼の少し乱れた熱い吐息。


首筋の産毛が逆立ち、心臓の鼓動が急激に速まる。


「輝夜……君からは、月の雫を煮詰めたような、甘く清らかな香りがする。私の理性を、根底から揺さぶるほどに」


「あ……あの、月城様。近すぎ、ます…っ。鏡に、映って……」


あまりの至近距離に、恥ずかしさで俯こうとした私の顎を


彼は細長い指先でくい、と強引に持ち上げた。


否応なしに、鏡越しに視線が絡み合う。


仕事で見せる氷のような冷徹な瞳は、そこにはなかった。


代わりに宿っているのは、獲物をじっくりと愛でる肉食獣のような、深い情欲と暗い独占欲。


その瞳に見つめられるだけで、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまう。


「……逃げないで。君の香りは、私を狂わせる。いっそこの長く美しい髪で私を縛り付けて、どこへも行けないようにしてほしいくらいだ」


彼は私の髪を一房、恭しく掬い上げると、そこに執着を込めた深い口づけを落とした。


そして、髪を伝って、無防備なうなじから耳の後ろへと、なぞるように唇が這う。


「ひゃん……っ!?」


不意に敏感な部分を刺激され、情けない声が漏れた。


月城様はその反応を愉しむように、唇を離さず低く笑う。


「いい声だ。……他の男に、こんな顔を見せてはいけないよ。たとえ君を守る式神であっても、君の肌に触れることは、万死に値する。君のすべてに触れていいのは、世界で私一人だけだ」


囁かれる言葉は、喉元を潤す甘い蜜のようでいて、同時に私の逃げ場を完全に塞ぐ強力な「呪」のようでもあった。


月城様は私の首筋に顔を埋めたまま、深く、深く、その香りを吸い込む。


「君をこの屋敷に閉じ込めて、一生、私の所有物として愛でていたい。…ねえ、輝夜。私から離れないと、約束してくれるだろう?」


鏡の中の彼は、狂おしいほどの愛情と、陶酔しきった瞳で私を射抜いていた。


あまりにも深い献身と、重すぎるほどの愛情。


その熱量に圧し潰されそうになりながら、私は必死に言葉を絞り出す。


「…月城様!それやめてください……!意地悪すぎます…!」


「おや、嫌がっているのかい? こんなに耳まで赤くして…かぐやは本当に、可愛がりがいがあるな」


「…っ!もう……!!」


逃げ出したいのに、彼の腕の中に閉じ込められた体は、微塵も動くことを許されない。


鏡に映る自分の顔が、熱で真っ赤に染まっていくのを、私はただただ見つめることしかできなかった。

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