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先輩しか見えない  作者: ももたろう


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最終話






あれから数年。


季節は、また春を迎えていた。




小春は看護師になった。


忙しい毎日。


夜勤もある。


失敗して落ち込む日もある。


それでも患者から言われる。


「ありがとう」


その一言が嬉しくて、今日も白衣に袖を通す。






一方の黒瀬も、自分の選んだ道を歩いていた。


サッカー経験を活かしてスポーツチームを支える


フィジカルコーチとして活躍している。



昔と変わらず、不器用で口数は少ない。


けれど、小春を見つめる眼差しだけは、学生時代よりずっと柔らかくなっていた。






休日。


二人は桜並木を散歩していた。


「やっぱり…」



「ん?」



「律さんの隣が、世界で一番安心します」




月日は流れ、


小春の、『先輩』呼びは、


『律さん』に変わっていた。










夕暮れ。




風に花びらが舞う。


黒瀬は立ち止まった。


「小春」


「はい」


少し緊張した声。


学生時代には見せなかった表情。


「これから先も」


「うん」


「隣におって。」


短い言葉。


飾らない。


黒瀬らしい。




小春は驚いた顔をしたあと、


目に涙を浮かべて笑った。


「もちろんですよ」







「これからも」


「ずっと隣にいます。」




黒瀬は静かに小春の手を握った。




その手は温かかった。





黒瀬は少し照れくさそうに笑った。


















寮で交わした「おやすみ」。


グラウンドで交わした「お疲れさま」。


卒業式で交わした「忘れないで」。


そのすべてが積み重なって、


今日という日につながっていた。


恋は、突然始まるものもある。


けれど。


ゆっくり育ち、時間をかけて家族のような絆になっていく恋もある。


桜が舞う中、


二人は静かに歩き出す。








──完





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