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第1話 出会い

(〇〇県△△市××、椎名陽太(しいなようた)と申します。いつも見守っていただきありがとうございます。高校生活にも慣れ、早いもので1年が過ぎました。今年こそ、なんなら今すぐにでも!彼女ができますように…!俺に青春が訪れますように…!)




神頼みの作法として、きちんと鳥居に一礼をしてから、二礼二拍手一礼まで。

きちんと意思を持ってやった。

子供の頃は、それに何の意味があるのか分からず、無視もしていた。

だが、高校受験を祈願しに来て以降、俺は来るたびに真面目に作法を完璧にこなし、神頼みをしている。それは自分の学力よりもさらに上の高校に運よく合格したからだ。

受験当日に得意分野が大当たりし、願いが叶ったのはきちんと作法をこなしたからこそだと考えている。

志望校に合格してから願いが叶うことはなくなったが。


オープンスクールで、華やかな舞台や学生の撮影したプロモーションビデオに目を奪われ以来、必死に勉強した。運よく志望校の合格をもぎ取り、美容院でワックスのつけ方を教えてもらい、眉を整え、高校デビューを果たした。これから始まる学校生活に、当時は胸を躍らせていた。


『学生の本分は勉強よ?彼女なんて大学でも社会に出てもできるんだからね?』

俺は親のその発言から曲解して、高校生になれば、なぜか自然と彼女ができるものだと信じ込んでいた。

1年生の夏まで、将来の彼女からの声掛けを俺は待った。


運命を願った。




だが、それが間違いだと気づいたのは、夏休み明けの初日だ。進学校なので、遊びの誘いをかけても、都合が悪いと友人から言われ、それを真に受けていた。

そうしたら、何のことはない。

親しくなったはずの友人は一学期終わりに意中の子に告白し、彼女持ちとなった。熱々で暑苦しい夏休みを、彼女との行事で埋め尽くしていたのだ。二学期の初日にそいつはSNSを始め、彼女との写真をアップしまくっていた。

そんなものを見せつけられ、とても惨めな気分になった。


俺はずっと家でスマホゲームのランキングに乗るために、小遣いをガチャに捧げる日々だったというのに……虚無すぎる。


これではいけないと今度は漫画を、特に少女漫画を読み込み、気になる子に話しかけに行ったのが、冬休み前だ。

全力でつぎ込んでいたガチャ代はWEB漫画代に変わった。

参考にした作品が悪かったのか、現実では強引な男は嫌われるらしい。

告白まがいの壁ドンで、相手の顔を引きつらせてしまったあの瞬間は、以降何度も夢に出てきて、うなされた。

冬休み明けにはその周辺の友人たちからは遠巻きにされてしまったが、幸いなことに他のクラスメイトに知られることはなかった。

少女漫画の記憶を消し、普通に話しかけに行ったのが三学期だ。

それ以降はいい奴止まりだ。

友人の立場として、茶化しながら距離を詰めるのもよくないと学んだ。

「友だちとしてはいいけど、彼氏となるとまた別じゃん」

「ねぇ?」

1人を対象にしていたはずが、もう1人便乗してきて2人から言葉の暴力を受けた。殴られた気分だ。

顔か?顔なのか?



そんな1年生を経て、2年生になったところで何も状況は変わらなかった。

高校生になれば、彼女の一人くらいできるもんだと親も思いこんでいたらしい。

なにしろ、両親は高校生の時に出会って今に至るのだから、息子もなんだかんだそんなものだろうと思っていたらしい。

入学したての頃は、『私たちがどんなに苦労したか、恋愛にうつつを抜かす日なんてないんだからね』と説教かましていた親が今となっては『女友達とかグループで出掛けてきてもいいからね?』と聞いてくる始末。

親の意見は、どちらに転んでも鬱陶しいし、少し悲しくなる。


そんなこんなで、もはや俺なんぞは神に祈るしかないのだ。来年は受験生だ。今年が高校最後のチャンスの年だ。いつもより長く賽銭箱の前を陣取る。誰もいないので気にしなくていい話だが。


「もし今年中に彼女ができれば、お礼参りは奮発しますからどうか……!」



「叶えましょう、その願い」



鈴のような声が後ろから聞こえてきた。あまりに優しい声色に心臓が飛び出るくらい驚き、肩が震えた。俺は慌ててふり向いた。


黒髪で肩くらいストレート、自分よりも一回り小柄な女の子が立っていた。このあたりでは見かけない、深緑色のセーラー服を着ていた。


女の子はにこりと笑い、もう一度同じ言葉を繰り返した。


「あなたの願いを聞き届けました」




これは夢か、幻か。それよりも罰ゲームの冗談か。


「それって……」


そんなことはありえないと思いながら聞いてしまった。


「あなたが神ってことですか?」


なんとまぁ。間抜けな質問だ。


見ず知らずの、それもとびきり優美という単語にふさわしい雰囲気の女の子に、話しかけられるだけで、心臓がドキドキする。それに、なんだかひどく緊張する。


「ふぅん?」


顎に手を当て少女は少し考える素振りを見せ、


「そう。神よ、私」


と、おどけて言った。


間抜けな質問にからかわれるような答えに俺は顔が熱くなるのを感じた。それでもこの少女との出会いを特別なものにしたかった。


「俺なんかの前に急に神が現れるのも、なんだか信じられないんですけど」


「あなたがお賽銭を入れてくれるからよ」


「どういうこと?」


「この神社、寂れてるでしょ?お正月以外だぁれも来ないの。神様はね、信仰心の厚い人が多いと神力も強くなるの。つまりね、お金が必要なのよ?」


「あぁ……なるほど。神様も世知辛いっすね」


少女はクスリと笑う。なんだかその笑顔から目をそらしてはいけないという気持ちになる。


「そう、あなたの祈願が成就すれば、お礼をたくさんしてくれるんでしょ?だったら、私があなたの彼女になれば、あなたの祈願は成就する……でしょ?」


トキメキと、戸惑いと、疑わしい気持ちが少し膨らむ。


「それって、お金目的ってこと?」


「何事にも対価は必要なのよ」


等価交換……と言いたいのだろうか。


それにしてもその条件はかなり不釣り合いだ。神様が彼女だなんて。


周りを見渡す。本当に誰もいなさそうだ。


少し躊躇いもあったが、嘘でもこのチャンスを逃したくない。


「よろしくお願いします!」


神社中に響くような大きな返事に、少女は呆気にとられた顔をしたが、蓮の花がほころぶように笑った。


少女の名前は千早(ちはや)と言った。

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