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蒼碧のつかい  作者: ひよよ
上ノ編
20/65

参ノ三

 

 皆が出て行ったのを見計みはからったように、ビィビがそろそろっと部屋に入ってきた。

 鍋から芋のかゆをすくって器に盛ると席に座り、肩ひじをつきながら粥をさじでクルクルとかき混ぜた。その横でキッセは、皆が食べ終えた木の器と片づけ始めた。


「無理するなよ。まだ、体の具合悪いんだろ?」


 すっかり冷めた粥を食べながら、ビィビが話してかけても、キッセは相手にしなかった。


「オイらはビィビ。あっちにいるのが……」

「ルーシとスリクだろ」

 キッセが答えると、ビィビは目を丸くして驚いた。


「キミ、話せるんだな。一言も話さないから、オイらてっきり言葉が通じないかと思ったよ」


(――バカか、コイツ)


 キッセはイラっとし、無視をしたが、ビィビは気にするそぶりもなくキッセに話しかけた。


「器はあそこのたらいに入れて、表の流し場で洗うんだ」


 ビィビはさじでひょいひょいと、隅に立てかけてあったたらいを指した。


(腹の立つヤツだ!)


 キッセはそのたらい食台しょくだいの上にバン! と置き、ビィビをにらみながら木の器をたらいの中にぶち込んだが、ビィビは平然と粥を食べていた。



「ねえ、これなんかどう?」

 奥の部屋からルーシがころもを手にしながら出てきた。


「ミシャが直してくれた上衣うわごろもなんだけど、色も大きさもキッセに丁度いいと思うの」

 ルーシは若草色わかくさいろ上衣じょういを広げ、キッセの体に合わせようとすると

「こんなの着るかよ!」

 キッセは上衣じょういをルーシに押し返した。


 キッセは今まで一度もころもなど身にまとうことなど無かった。ガロの孤児だったキッセは食い物を探すこと精一杯で、衣など無縁の生活だった。

 

 けれど、ここでは皆がころもを着ていた。


 ルーシは丈が短い袖なしの上衣じょうい、ビィビも前にボタンが付いている半袖はんそで上衣じょういを着ていた。ペルたちも着ていたし、隅にいるスリクでさえ黄色の半袖の上衣じょういを着ていた。


「でも……そのままだと外、歩けないよ」と、ルーシが言っても

「こんなモン、いらない!」

 ぶっきら棒に言い放ち、キッセは器を入れたたらいを持って表へと出た。

 

 表の井戸へ向かおうとするキッセに、後ろからルーシがついてきた。


「今の時間だと、井戸の水は溜まってないから、外のアーロィを使うの」

「アーロィ?」


 ルーシは「こっち」と、井戸でなく、表へ出る木の戸を開け、表の通りに面した石造りの共同水場アーロィを指さした。

 水が豊かな蒼国そうこくでは、いたる所に大小様々なアーロィと呼ばれる共同水場きょうどうみずばがある。


 キッセは水をもうと共同水場アーロィへ行くと、先に共同水場アーロィで洗い物をしていたガロやカロックのおばさんたちが一斉にキッセを見るやいなや


「あらあら。どこの子だい?」

上衣うわごろもも着ないで、うろついて……」

「赤ん坊じゃあるまいし、そーんな、みそぼらしい格好で歩いているんじゃないよ! 早く家に帰ってなんか着ておいで!」


 キッセは次々とおばさんたちに怒られた。


 おばさんたちに圧倒あっとうされたキッセは、ムスっとした顔で戻ると、木の戸の横で見ていたルーシが片方の眉を上げた。

「ねっ、言ったでしょ」


 キッセのバツの悪そうな顔を、ルーシはあきれた顔で見ていた。



 ♢♢♢



 部屋に戻るとキッセはしぶしぶ、ルーシが選んでくれた若草色わかくさいろ上衣じょういを身に付けた。


「キッセはまだ背中の毛が、まだらに生えているから長めの丈にしたの。色も寸法も合ってる」


 丈がしっぽの上辺りの長さで、そでが無く、襟元えりもとにボタンが一つ点いている。ところどころ継ぎ接ぎだが、綺麗につくろってある。


「キッセの毛色によく合うよ」


 何故かビィビが嬉しそうに言った。

 なんだが着慣れないせいか、衣が毛に触れてこそばゆい。


 ルーシは無事にキッセに上衣じょういを着させると


「よし! じゃあ、器洗いとスリクの面倒はビィビに任せて、私とキッセは洗濯よ!」


「えぇ」と、ビィビ。スリクは「ボクも洗濯する!」と言うが


「ビィビは皿洗い! スリクはお留守番!」


 ルーシはピシャりと言い放つと、キッセに洗濯物入った籠を背負わせ、自分は洗濯道具と小さな水桶みずおけを持つと、さっきの共同水場アーロィへと部屋を出た。



 

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