後編
特進クラスという場所は、人数が少ない分、一度できた距離を変えるのが難しい。二年生の終わり、あの雨の夜から、クラスのみんなと広がった距離は変わらず、そのまま三年生になった私は、教室の隅の席で一人黙々と教科書や参考書を開く日々を送っていた。
そんな新学期、隣国の伯爵令嬢であるエミリー様が交換留学生としてやってきた。
実家は大商会を経営する大富豪で、本人も驚くほど可愛らしく優秀、そして何より気さくな方だった。彼女はあっという間にクラスの中心になり、みんなが楽しそうにエミリー様を囲んで笑っていた。かつての自分を思い出し、少し胸が苦しくなりつつも、私は手元のノートにペンを走らせていた。
最終学年。平民である私にとって、自分の将来を決めなくてはいけない大事な時期だった。思う存分勉強できる機会は今だけ。選択肢を広げるため、できるだけ資格を取得しておきたかったし、けど、特待生として成績は維持しなくてはいけない。これまで以上にやることに追われていた。
だから、周囲にどう見られているか、どう思われているか、まったく気づいていなかった。
夏の初めにもなると、特進クラスでは、交流の輪の中にアイリスがいないことが日常になっていた。そんな時、「ちょっとお話したいことがあるの」と、寮にクラリス様が訪ねて来た。
手土産の、口に入れると甘い味がふわっと広がり、ほろりととけていく大変おいしいクッキーに驚愕し、夢中になっていたら、「エミリー様と何かあったのか」と、急にそんなことを聞かれて、回答に窮する。
「何かかあったっていうほど交流も会話もしたことないですし、挨拶以外、まともに話したことないですけど…」
そう言う私に「そうよね…」なんて首をかしげる。
クラリス様曰く、エミリー様はいつもどことなく私を非難されるのだという。
「アイリスさんって、いつも本当に熱心にお勉強されているのね。でも、そんなに毎回、首位を取ることが大事なのかしら? 学園時代にしかできないことや、人との交流をもっと大事にしようと思わないのかしら……。なんだか、私たちと関わるのが嫌みたいに見えて、悲しいわ」とか「アイリスさんはいつも一人で……声をかけても毎回断られるの。私、嫌われちゃったのかしら」
と、いたるところで言いまわっているらしい。
「あなたそもそも、エミリー様に関心もってるように見えないのだもの…。」
クラリス様は、かつて自分と一緒に貴族の呼び出しに応じ、共に嫌がらせに耐えた仲だ。多分特進クラスの中でも一番私の本質を知っている。そのため、エミリー様の言葉を耳にするたび、小さな違和感を積み重ね、それとなく彼女と距離を置いているという。
「何事もなければよいのだけれど。もし何かあるようであれば私やオスカー様に相談して頂戴」そう言い残して、クラリス様は帰っていった。一人残された私は、残ったクッキーと週末の試験のことに頭がいっぱいで、エミリー様のことはすぐに忘れてしまった。
「エミリー、君はもう十分にクラスにも学園にも慣れたみたいだね。僕たちが四六時中ついていなくても大丈夫そうだ」
ギルバート様はある日、そう言ってエミリー様に柔らかく、けれど明確な一線を引いた。
元よりお二人は生徒会の人間として交換留学生が学園になじめるようにと、エミリー様の傍にいたようだった。ただ、それを機に、みんな以前のように自分の勉学に重きを置くように戻っていった。
だが、以前のみんなを知らないエミリー様は、特進クラスの面々から急に距離を置かれたと感じたようで、休憩時間やお昼時間になると普通クラスの方で過ごしているようだった。彼女が、以前からアイリスを嫌っていたレナード様や、ギルバート様の婚約者であるフランチェスカ様と親し気にしているところを見かけることが度々あった。
ある日の放課後、私は一人で机に向かい、分厚い専門書と格闘していた。国家一級魔導技師、上級政務官、王宮監察士――どれも合格率が数パーセントに満たない、国を動かすための超難関国家資格だ。平民の私が卒業後にやりたいことをして生きるために、難関資格には片っ端から挑戦していた。
「アイリス」
不意に上から声をかけられ、見上げると、そこにはギルバート様、オスカー様、そしてクラリス様が立っていた。私は緊張で身を硬くしたが、クラリス様が私の机の上に広がった複雑な魔力回路の図面や、法学の専門書を見て、得心がいったように声を上げた。
「アイリス、あなた……ずっと、これを勉強していたの?」
「あ、はい……来月国家資格の試験がありまして……」
「そうだったのか」
オスカー様が感心したように顎に手を当てる。
「僕たちは卒業すれば一定の役職が保証されているから、学園の勉強だけで満足していたな。君は自分の未来のために、すごい努力をしていたんだね」
ギルバート様は、私の手元にある、端がボロボロになるまでめくられた参考書を優しい目で見つめていた。
「私は今頑張っていますが、皆さまは幼少のころから頑張っていたのでしょう。それに皆さまはすでに家の仕事もされているのですし…」
「まぁ、そうだね。頑張っている時期がずれているってだけなのかもしれない。」
「でも、そうか、単純に忙しかったのかな?君が僕たちを嫌って避けているのだと思っていたよ。そんな資格があることすら知らずに……本当に申し訳ない」
「いいえ! そんな、皆さまが謝ることではありません!単純に私に余裕がなくて…」
慌てる私に、ギルバート様は優しく微笑んだ。その笑顔を見た瞬間、また胸が熱くなる。
かつて、私の努力を「ちゃんと見ている」と言ってくれたあの時の温かさが、濁りのない形で私の中に流れ込んでくる。ああ、私はやっぱり、この人のこういう実直なところが好きだなぁ。
「僕たちはすでにある程度の道が決められていて取らなくても問題はないけど、持っていればこれ以上ない箔になるし、何より、主席の座を争う僕としては君の努力をただ見ているだけなんて、男が廃るな」
ギルバート様がそう言って不敵に笑うと、オスカー様も「負けていられませんね」と同意した。
それをきっかけに、特進クラスの空気が変わった。
ギルバート様やオスカー様、クラリス様がそれぞれの道に関係する難関資格の勉強を始めると、元々勉強好きのクラスメイトたちも「ギルバート様やオスカーもやってるの?持ってた方がいいかな」と、次々に資格勉強に精を出し始めたのだ。また、その空気は普通クラスにも伝わり、最上級生の間で資格取得が流行りだした。
「ねえ、アイリス、この法学の解釈なんだけど、どう思う?」
「あ、そこはですね、三年前の判例を基準に考えると分かりやすいですよ」
気づけば、教室の中でまた自然とみんなと言葉を交わすようになっていた。資格勉強を通して、お互いに分からないことを質問し、答える。
かつての賑やかさとは少し違うけれど、互いを尊敬し合う、確かな信頼関係がそこにはあった。わだかまりは、自然と消え去っていた。
そんな穏やかな日々に、突然嵐が吹き荒れた。
秋に学園の大講堂で行われた研究成果発表会。そこで教壇に立ったエミリー様が発表したのは、私が一年生の頃から密かに研究していた『魔力の還元効率化に関する研究成果』だった。
「お待ちください! それは、私がずっと研究していたものです!どうしてエミリー様が知っているんですか――」
私が叫んだ瞬間、会場は騒然となった。壇上のエミリー様は涙を流し、「どうしてそんな嘘をつくの」と被害者を装う。フランチェスカ様やレナード様たちは「平民が留学生の成果を盗もうとしている!」と一斉に私を戦犯のように責め立てた。
特進クラスのみんなも、私がその研究をしていたことを知らなかった。けれど、彼らは私ついてくれた。
「静粛に!」
ギルバート様が凛とした声で場を圧する。彼は私の前に立ち、私を守るように立ちはだかった。
「アイリスがそんなことするわけないじゃない!」
クラリス様もオスカー様も、特進クラスの全員が私の側に立ってくれた。その事実だけで、私の心は震えるほど救われていた。
だが、事態は複雑だった。この研究は、関係者以外、国王陛下や宰相、学園長ら一部の人間しか知らない国家の極秘プロジェクトだった。学園の一般の教師たちも何も知らず、「エミリー様がこの学園に来た当初から、自分に相談してくれていた」と証言した教師もいた。
「アイリス、何か僕たちに説明できることはないか?あれが君の研究だと証明できる研究成果とか、見せてもらえないか」
放課後、特進クラスでギルバート様に聞かれたが、私はきつく唇を噛んで首を横に振るしかなかった。
「……申し訳ありません。私からは、何もお話しできないのです」
国家機密である以上、いくら信頼する彼らであっても口外することは許されない。もし言ってしまったら、彼らは、私以上の罰を受けるかもしれない。
説明ができない私に、学園内では「やっぱりアイリスが嘘をついているのでは」と不審を持つ人も多かった。けれど、ギルバート様は私の手をそっと握り、真っ直ぐな目で言ってくれた。
「いいんだ、アイリス。言わないのではなく、言えないのだろう。大丈夫、それでも、僕たちは君を信じる。」 その手の温もりに、私の胸は切ない痛みで満たされた。この人を好きになってよかった。身分が違っても、この想いだけは消せないのだと、心の底から思った。
事態が動いたのはその数日後で、突然の全校集会が開かれた。
講堂の壇上に現れたのは、学園長ではなく、この国の最高権力者――国王陛下その人だった。
陛下は拡声器を通し、地を這うような声で宣告した。
「――全校生徒に告ぐ。この度、交換留学生のエミリー・モンテグレアが発表した研究は、特待生アイリス・カーターが三年前の推薦入試時に提出し、我が国が国家機密として秘匿していた論文の盗用である!」
悲鳴のようなざわめきが広がった。
「王国の調査により、エミリー・モンテグレアがアイリス・カーターの寮部屋から書類を盗み出した証拠、そして普通クラスのフランチェスカ・ディベリーニ、並びにレナード・ハイゼンベルクがそれを手引きし、アイリス・カーターを陥れようと画策していた事実もすべて掴んでいる。――エミリー・モンテグレアは即刻、我が国から追放処分とし、身柄を隣国へ引き渡す。フランチェスカ・ディベリーニとレナード・ハイゼンベルクは退学処分とし、ディベリーニ侯爵家、並びにハイゼンベルク伯爵家は、爵位の降格と賠償を命じる。そして、本日を以て、我が息子ギルバートとフランチェスカ・ディベリーニの婚約は破棄とする!」
私への疑いは完全に晴れた。だが、それ以上に特進クラスの皆が私のことを信じられないような目をして見つめてくる。
「あなた、授業と試験勉強以外に、そんな研究もしてたの!?」
「違うんです!あれは趣味と言うか、面白くて、息抜きなんです!」
視線が痛くて、そんなよくわからない言い訳をしてしまう。
エミリー様、フランチェスカ様、レナード様は近衛兵に連行され、講堂を去っていった。
私は、隣にいたクラスメートに深く頭を下げた。
「皆さま……私のことを信じてくださって、本当に、本当にありがとうございました」
「当然のことをしたまでさ」
ギルバート様はそう言って、悪夢が去ったことを祝うように、私の頭を優しく撫でてくれた。
学年の終盤を迎える頃には、過酷だった資格試験の合格発表もすべて終わっていた。
結果は、特進クラスの全員が、それぞれの目指した難関資格を見事に取得するという快挙で、学園側も鼻が高かったようだ。
「アイリス、本当にありがとう! あなたがいなかったら、私、こんな資格に挑戦しようとも思わなかったわ。お父様もお母様もすごいってとてもほめてくださったのよ!」
クラリス様が合格証書を胸に抱きながら、涙ぐんで私に微笑む。
他のクラスメイトたちも、「この資格取ったら周りから見直されたんだ」「俺も。今まで貴族の坊ちゃんがって見られてたのがなくなった」と、口々に感謝を述べてくれた。
でも、私の方こそ、彼らの支えがなければきっと乗り越えられなかった。
すべての重荷から解放され、私にもようやく余裕ができ、最後の数ヶ月は、今まで断り続けていたお茶会や買い物、王都への観劇など、学園の思い出作りとしてみんなで仲良く遊びに行くことができた。
その中心には、いつもギルバート様がいた。
並んで歩くとき、ふと触れそうになる手。目が合うたびに交わされる、言葉以上の温かい眼差し。
私がギルバート様を好きなこと。そして、きっと、ギルバート様も私を想ってくれていること。私もギルバート様も、そしてクラスメイトたちも、薄々気づいていたと思う。
けれど、誰もそれを口にはしなかった。平民の私と、第四王子の彼。身分的に二人が結ばれることがどれほど不可能に近いか、全員が知っていたからだ。この曖昧な関係が一緒にいられる理由になると、私たちを想う、みんなの優しさだったのだと思う。
そして迎えた、卒業パーティーの前夜。
私は忘れ物を取りに、夕暮れ時の誰もいない特進クラスの教室へ戻った。そこには、窓辺で一人で夕日を見ているギルバート様がいた。
「アイリス、どうしたの?」
「ギルバート様……うっかり忘れ物をしてしまって。ギルバート様はどうしてここに?」
ギルバート様がゆっくりと私に近づく。夕日に照らされた彼の瞳は、かつてないほど真剣だった。
「もうすぐ、僕たちはそれぞれの道を歩む。
飲み込むつもりだったんだけど、今、会えてしまったから。
今しか言えないことを言わせてほしい。
―― アイリス、ずっと好きだった。」
胸が、張り裂けそうだった。溢れそうになる涙を必死に堪えて、私は彼の目を見つめ返した。
「……ありがとうございます、ギルバート様。
私も、あなたが好きです。世界で一番、お慕いしております。
……でも、私たちは一緒にはなれません」
「分かっている」
ギルバート様は切なく、けれど満足したように微笑んだ。
「全部分かっている。それでも……どうしても、君にこの想いを伝えたかったんだ。
僕の最初で最後の恋を、無かったことにはしたくなかった」
「はい……私も同じです」
翌日の卒業パーティーで、会場の華やかな音楽の中、ギルバート様は私をダンスに誘ってくださった。華やかな会場でステップを踏み、初めてつないだ彼の手の温もりを感じた。
一生に一度の恋をした。
私はこの場所で、一生に一度だと思う恋をした。
そこに居られることを、幸せだと思った。
それでなくても、振り返れば楽しいことが山のようにあった。
だから、手は自分から離さなくてはいけない。
打ちのめされてから去るくらいなら、さっさと離れなくては、
そんな大事なことまで、否定されてしまう。
曲が終わり、私たちは微笑み合って、繋いだ手を静かに離した。
学園を卒業後、私たちはそれぞれの戦場へと赴いた。外交の表舞台に立ち、諸国を飛び回るようになったギルバート様。一方の私は、宰相室直属の魔導技師として、国内主要都市の大規模な魔道具再構築プロジェクトの責任者となり、地方を転々とする日々を送った。お互いに目が回るほど忙しく、連絡をとる余裕すらなく、五年の月日が流れた。
そして、王太子殿下が新しく国王に即位されるのに合わせ、大きな政変があった。
第四王子であったギルバート様が、兄の即位に伴い正式に臣籍降下し、自らの功績で「伯爵位」を得たのだ。そして私の方はといえば、前年、国内の魔導インフラを完璧に再構築した功績を称えられ、平民としては異例中の異例である『王獅子大勲章』を国から授与されていた。
即位記念パーティーの夜。華やかな王宮の広間に、私は勲章を胸に飾った美しいドレス姿で出席していた。
「アイリス!!」
懐かしい声に振り向くと、そこには少し大人びた特進クラスの面々が揃っていた。クラリス様とオスカー様は、二年前に結婚しており、仲睦まじく腕を組んでいる。
「みんな、久しぶり!」
久しぶりの再会に思い出話は尽きず、私たちはパーティーの合間を縫って、サロンの片隅で言葉を交わしていた。
「それにしてもアイリス、あなたの活躍は本当に素晴らしいわ。まさか『王獅子大勲章』を授与されるなんて、特進クラス全員の誇りよ」
「ありがとう、クラリス様。あの時皆さまがいてくれたから、今の私がいるんです」
そんな風に笑い合っていると、不意に、少し離れた場所にいたギルバート様が目に入った。伯爵位を得て、以前よりもずっと大人の顔つきになった彼と、まっすぐに目が合った。
彼は静かにグラスを置くと、迷いのない足取りで私の方へと歩いてくる。
「――アイリス。少し、二人で抜け出さないか。話したいことがあるんだ」
周囲のクラスメイトたちが、何かを察したようにニヤニヤと微笑みながら「僕たちはここで待ってるから」と私の背中を押した。昔の想いが胸に湧き出すのを抑えながら、彼の先導に従って、華やかな喧騒が響く大広間を後にした。
辿り着いたのは、夜風が心地よく吹き抜ける、静まり返った王宮の空中庭園だった。
見上げる空には、あの卒業の夜と同じように、美しい星々が瞬いている。
「懐かしいね。君とこうして二人きりで話すのは、あの卒業パーティーの前夜以来だ」
「……はい。あの時から、もう五年も経つのですね」
手すりに手をかけ、少し遠くに見える王宮内の輝きを眺める。
沈黙が心地よくも、どこか緊張を孕んで二人の間に流れた。それを破ったのは、彼の一歩、近づく足音だった。
「アイリス。僕は臣籍降下して、伯爵になる。もう、王族ではない」
「……ええ。お噂はかねがね」
「この五年間、一日たりとも、君のことを忘れた日はなかった」
彼の低い声が、夜の静寂に深く染み込んでいく。私は驚いて彼を振り返った。
彼は、あの夕暮れの教室で見せたのと同じ、けれどそれ以上に強くて真っ直ぐな瞳で私を見つめていた。
「あの夜、君は『一緒にはなれない』と言ったね。
……だが、今の君は国を救った『王獅子大勲章』の受章者で、国一番の魔導技師だ。誰も、君の血筋を理由に不当に貶めることなどできない。――それにね、アイリス」
彼は少しだけ悪戯っぽく、けれど愛おしそうに目を細めた。
「父上にも、兄上にも、事前にきちんと了解を貰ってきたんだ。君にプロポーズしたいと伝えたら、二人とも満面の笑みで言ってくれたよ。
『二人で魔道具再構築プロジェクトを諸外国に売り込んで来い』って」
「――っ、」
思わず、息が止まった。
ずっと、絶対に叶わないと、最初から諦めていた恋だった。
けれど、私が必死に歩んできたこれまでの道のりが、いつの間にかその高い壁を、崩し去ってくれていたのだ。
「アイリス、僕と結婚してほしい。君と一緒に人生を歩いていきたいんだ」
彼の温かい手の温もりが、私の手のひらから胸の奥へと広がっていく。
堪えきれなくなった涙が、視界を滲ませ、頬を伝って落ちた。
「……はい。喜んで、お受けします。私も、ずっと、ずっとあなたをお慕いしておりました」
私が微笑むと、彼は愛おしそうに強く抱きしめてくれた。
庭園の影から、私たちの様子をハラハラしながら覗き見していたらしい特進クラスのみんなが、「やったー!」「おめでとう!」と歓声を上げて飛び出してくる。クラリス様は自分のことのように泣いていて、オスカー様が困ったように彼女の背中をさすっている。みんなの温かい祝福の拍手に包まれながら、私は彼の胸の中で、これ以上ない幸福に満たされていた。
それから、さらに数年後。
私たちは無事に結婚式を挙げた。お互いに第一線で働いているため、時間的なすれ違いも多いが、毎日楽しく、忙しい日々を送っている。
私たちの間には可愛い子どもも生まれ、家の中はいつも温かい笑顔で満ち溢れている。
王国に戻った時には、我が家で定期的に特進クラスの「同窓会」が開いている。
子どもたちをあやすオスカー様とクラリス様、昔と変わらず賑やかに騒ぐクラスメイトとその家族たち、そして、私の隣で幸せそうに微笑む彼。
私の一生に一度の恋は、今もずっと続いている。




