中学③
「そういうわけで、野島くんのご厚意で、ときどき参加させてもらいます。よろしくお願いします」
水本は、俺が誘ったときはあんなにドギマギしてたのに、部室で部員みんなにあいさつする際、普段の堂々とした態度で、そう述べて頭を下げた。
「ちなみに、私と野島くんは付き合ってなんかいません。私は気にしないので構いませんが、野島くんは好きに思われているコからアプローチされづらくなって迷惑なようなので、私たちを恋人みたいに扱うのはやめてくださいね」
それを聞いて、間近にいる辰巳というでしゃばりな奴が俺に話しかけた。
「お前を好きなコって、どこにいるんだよ?」
この言葉を受けて、あちこちで笑いが起きた。
「だって、サッカー部のエースですもん。好意を寄せている女子生徒なんていっーぱいいますよ」
水本が言った。
「え? マジで?」
俺が心の中で思ったのと同じ台詞を、辰巳が口にした。
「多分そうだろうなってだけですけど」
「何だよー」
辰巳がコケる動きをし、再びメンバーたちから笑いが漏れた。
チッ、水本め。余計な発言をして、俺を笑い者にするなってんだ。
でも、今のやりとりで、水本とみんなの距離が一気に縮まった感じがするし、まあ、いっか。
「ありがとね」
その日の帰り、昇降口のところで、水本が俺にお礼を述べた。
「ああ。もういいよ、感謝するのは。それで終わりな」
「わかった。ねえ、野島は、将来はJリーガーを目指すの?」
水本は笑顔でそんなことを口にした。
「ええ? 無理、無理、プロの選手なんて。なれるわけねえじゃん」
「え? なんでよ。だって、何試合も続けてゴールを決められるくらい上手なんでしょ? 私みたいな素人だけじゃなくて、サッカー部のみんなもあんたのことをすごいって言ってるんだし、頑張れば可能性はあるんじゃないの?」
「たくさん点を取ってるっていっても、中学の部活レベルの話で、全国的に有名な強豪校相手とかでもないからさ。本当に上手い奴は、プロの下部組織に所属してるんだよ。まあ、なかには学校のクラブでずっとプレーしてプロまでいく人もいるだろうけど、俺のゴールは、何人もドリブルでかわしてみたいんじゃなくて、こぼれ球を押し込むようなのが大半だし、ちゃんとサッカーのことを理解してる奴なら、俺はそこまでのプレイヤーじゃないってすぐにわかるよ」
「ふーん、そう……」
水本は、うなずきつつも、完全には納得していない様子だ。
そこへ、小山という、サッカー部で、俺とクラスも一緒の男子が、そいつも帰るので近づいてきた。
「よー。なに話してんだ?」
水本が、その問いかけに反応して、言葉を返した。
「ねえ、野島って、どうしてモテないのかな? サッカーがすごく上手なうえに謙虚で、顔だってハンサムではないけれど悪くはないし、私をわざわざ部に誘ってくれるくらい親切なのに」
「ああ、しかもこいつ、勉強もできるんだぜ」
「えー、ほんとに? だったら、なおさら」
「おそらく、すげえ変態だったりすると思うんだ」
ぶっ。
「何だよ、それ!」
俺は腹を立てているぞという口調で言ったが、小山は少しも悪びれず平然とした顔をしていやがる。加えて、反撃する調子でしゃべった。
「世の中に完璧な人間なんていないだろ。それに、そんなとこでもなけりゃ、割に合わないってこと」
「なるほどね。そっかー、気をつけよう」
水本がふざけて俺を怖がるジェスチャーをした。
「おい!」
俺はツッコむ感じで水本にも怒りを向けた。
そして、可笑しくなって、三人で笑い合った。
こんな具合で、俺は楽しく充実した毎日を送っていた。
その平和が、この少し後に崩壊することになるなどとは、まったく思いもしていなかったのだった。




