中学②
「どうやったら、そんなに点を取ったり、サッカーがうまくなれるの?」
「……はい?」
俺は、ぽかんとなって、まばたきを何回もした。
「私、自分で言うのもなんだけど、運動は得意で何でもできるのに、サッカーだけはいまいちなんだよね。他人に教えを乞うのは好きじゃないんだけど、それよりもサッカーが下手なままのほうがしゃくに障るからさ。教えてよ」
……どうやら、会話のとっかかりなどではなく、純粋にサッカーについて話したいみたいだ。
チェッ。まあ、いいや。水本は、整った顔立ちではあるものの、ショートヘアで男勝りといったイメージで、おしとやかなコがタイプの俺の好みではないし、怒るとすごく怖そうだったりと、性格がきつそうだから。
水本は、サッカーに対して、非常に熱心だった。
「教わった通りにやってみたんだけど、うまくできなくて」
技術のアドバイスをした翌日の休み時間にそう言ってくるなど、ほぼ毎日俺のところにサッカーの話をしにくるのだ。
感心するが、それゆえ、会話の内容を耳にしていない友人やクラスメイトなんかに、「お前ら、付き合ってんの?」と訊かれたり、どうやらそういう関係ではないとちゃんとわかっている奴から、「デートは学校の外でやれよ」とふざけて恋人扱いされたりしてしまっている。
「なあ、嫌じゃないの?」
学校の廊下で、その日も助言を求めにきた水本に、俺は尋ねた。
「え? 何が?」
「こうやってしょっちゅう一緒にいることで、付き合ってんだろって、からかう奴がいるじゃんか。平気なわけ?」
「ああ」
水本は、興味ないといった、冷めた表情で答えた。
「別に、全然大丈夫。ほんとアホなことをぬかす男子っているよね。そんなのいちいち気にしてたら疲れるだけだから、なんとも思わない」
「そ、そう」
まあ、たくましいこと。周りの眼に敏感になってた自分が恥ずかしい。
それで、「へたに反応すると、余計に面白がって冷やかされるな。水本を見習って気にしないようにしよう」と心掛けるようになったなか、教室でクラスの男子からこんな話をされた。
「昨日、学校から帰った後、野島の彼女を見かけたぞ」
「ああ、水本だろ。彼女じゃないけどな」
「道端で、一人ぼっちで一生懸命サッカーの練習をしてたんだ。お前、相手してやれよー。かわいそうに」
え。
「ふーん……」
何だ、あいつ、男のきょうだいとか、一緒にやってくれる人はいないのか?
「なあ」
「ん?」
水本と学校の廊下でまた顔を合わせた際に、俺は言った。
「いっそのこと、サッカー部の練習に参加しろよ。そのとき教えてやるから、口で説明するより手っ取り早いだろ」
「え……」
水本は戸惑った。関わるようになってまだ日が浅いとはいえ、こいつのこんな弱気な感じのところは初めて見る。
「女子の部員は、いないんだよね?」
「おそらく女性は自分一人になるのだろうから躊躇してしまう」というニュアンスの訊き方だ。
「あれ? そんなの気にする性格じゃないと思ってたけど?」
俺は軽い調子で返した。本当に平気だと思ったんだが。
「まあね……それはいいとしても、私、下手だから、迷惑じゃない?」
「問題ないよ。うちのサッカー部なんて、ま、けっこう強いけど、公立校で、遊びじゃねえんだぞって雰囲気の名門チームなんかじゃ全然ないんだから。たいして上手くない奴だって何人もいるし、嫌な奴はいないし」
「……だけど、私、陸上部で、そっちも大事だしな」
「だったら、例えば週一回とか、都合のいいときだけで構わないよ。メンバーが少なくて試合に出られないからって頼まれたりして、部を掛け持ちで活動する生徒なんて珍しくないんだからさ」
「うーん。でもやっぱり、野島はよくても、迷惑に感じる人もいそうだし……」
へー、意外と繊細なんだな。
「迷惑っていうなら、今のほうがだぞ」
「え?」
「だって、俺のことを好きな女子が、告白したくても、水本がいっつもそばにいるから、近寄れなくてできないだろ」
すると、水本はきょとんとした表情になった。
続けて、ぷっと吹きだすようにして笑った。何だ?
「そっか、なるほどね。わかったよ。あんたの恋のためにも、サッカー部で活動させてもらうわ」
「ん? ああ」
最後のリアクションはよくわからんが、良かったようだな。




