中学①
味方と敵のプレイヤーが競って、弾んで浮き上がったボールを、詰めていた俺はトラップをせずダイレクトでゴール右下の隅に蹴った。
きちんとコントロールするために、スピードのあるシュートではなかったが、距離が近かったのでキーパーは一歩も動けず、ボールはゴールのネットを揺らした。
「よっしゃー」
俺が喜んで両腕を上げると、チームメイトが駆け寄ってきて、次々に抱きつくなどして派手に祝福してくれた。
「やったな! おい!」
「二桁到達! やっぱり、お前、すげーよ!」
俺の名前は、野島暁斗。中学校のサッカー部に所属し、ポジションはセンターフォワード。チームのエースストライカーだ。
仲間の一人が口にした「二桁」というのは、今のシュートで、俺が決めた連続試合ゴールが十に達したのである。しかも相手チームは、システムが守備的なうえに、センターバックの大崎とゴールキーパーの本永という二人が大柄で能力の高い選手として知られており、クリアするのは難しいと思われていたなか、前半のまだ半分も経過していない時間で成し遂げたのだ。
現代のサッカーは、選手全員で攻めて、選手全員で守るのが基本だ。だからフォワードも守備をするし、タイプにもよるけれども、ポストプレーという、前線でボールを受けて、周囲の味方につなぐ役割を求められたりもする。
それでも、フォワードの価値として、得点は大きなウエイトを占める。今回の十試合連続だけでなく、これまでゴールをたくさん取ることができている俺を、部のメンバーたちはとても評価してくれており、今回の件も自分以上に気にしていて、すこぶる喜んでくれたのである。
俺はこの試合が終了するまでにさらに二点を奪い、ハットトリックで記録に花を添える結果となったのだった。
それは、学校の昼休みだった。
「え?」
廊下に一人でいた俺のもとに、別のクラスの女子がまっすぐ近づいてきた。
マジでか?
俺は緊張した。というのも、知った間柄ではない、でも名前は同学年なのでわかっている、水本紗希というその女子が、少し前に遠目から俺のことをじっと見ていたと、友人の男子に教えられていたのだ。
「あれは、暁斗にホレてるんだな」
情報をくれたとき、友人はそう口にした。
「ええ? テキトーなことを言うなよ」
初め俺はまったくその言葉を真に受けていなかった。
「だって、すげえ熱視線って感じだったんだぜ。あれだけサッカーで活躍してるんだから、それが妥当だろ。そもそもお前の立場なら彼女の一人や二人いてもおかしくないのに、なんで告白もされねえの?」
「そんなの、こっちが訊きてえよ」
そう。俺は、サッカーという大人気スポーツの、花形であるフォワードで、十試合連続ゴールを記録するほど結果を残しているのに、彼女はいないし、告白すらされない。
まあ、そんなにホレられて、モテまくるなんて状態は、漫画の世界の話だ。他の目立っている生徒たちだって、キャーキャー言われているような人間は一人もいない。
とはいえ、顔だってひどくはないと思うし、もうちょっと女子から興味を持たれてもいいんじゃないか? という感覚が自分のなかにもあった。そういった状況での水本の登場だったわけである。
「あのさ、私、水本っていうんだけど」
目の前で立ち止まり、水本はそう俺に声をかけた。
「ああ、知ってるよ」
「ちょっと話があるの。今、いい?」
「う、うん」
やっぱり思いを寄せられているのか? というのが頭に浮かび、告白された経験のない俺はさらにドキドキして、声が上擦った。
ちょうどいい具合に、声がしっかり聞こえる範囲に、俺たち以外誰もいない。それを見計らってやってきたのかもしれない。
そして水本は、真剣な表情をさらに引き締めて、続きの言葉を発した。




