十二話 連携
肉塊。いや、ダンジョンマスターとしておくか。
これまでに奴が見せた能力を少しまとめておく。
斬りつけてもすぐに治る再生能力。人間の腕を一瞬で吹き飛ばす攻撃力。そして、魔法への耐性。
この三つしか分かっていない。
シックブラザーの攻撃力や速度はかなりのものだが、再生能力を前にかなり無力に近い。
二人が散って、ダンジョンマスターの攻撃対象は俺に向かった。
手らしき部位を鞭のようにしならせた。
「チッ!」
大振りな攻撃だし、避けることも考えた。だが、盾で攻撃を受け止めた。
「重っ」
一瞬の接触だったのにも関わらず、巨大な樹木でも乗せられたかのような錯覚を覚えた。
そんなバカみたいな力がある腕が四本生えてきた。
おいおいさっきのはほんの挨拶代わりかよ。
数が増えたからといって威力が落ちることはなく、純粋に攻撃の回数が増えた。
一撃受ける度に少しづつ後ろに下がっている。
それでも、俺は一切避けずに攻撃を受け続けた。
躱せない訳じゃない。仮に周りに何もなければ、こんなちょっと早いだけの攻撃は避けたり盾で流したりしている。
避けないのには理由がある。
周りに氷像が建っているからだ。
アイスドラゴンに凍らされた冒険者だとか一般市民が中に入っている。
あいつの攻撃を避けるとあの氷像たちが割られてしまう。
凍らされても中の人間は生きている。解凍するのは繊細な魔力操作を使う必要があるから今すぐ助けることはできないが、割られたらどうしようもなくなる。
武器が欲しい。刃物があればこの鞭をすべて切り落とせる。
頑丈な盾があるお陰で何とか耐えられているが、このままではジリ貧だ。
っていうか。この盾。頑丈すぎる。
ダンジョンの低層で入手した割にはここまで壊れそうな音すらしない。
敵の攻撃は衝撃派で腕がしびれてしまうほどの威力がある。鉄の盾だと一撃も持たない。ダンジョン製のかなり丈夫なものでもここまで頑丈じゃない。
ただ、このままだと俺の肉体が先に壊れる。
「クロスライン!」
耐久を続けていると、その技名らしき叫びと共に鞭の攻撃が止まった。
「悪いな。時間が掛かっちまった」
ダンジョンマスターの胴体に巨大なバツ印が貫通していた。
「空間魔法を使った斬撃で防御は不可能。時間こそ使うが……」
「兄ちゃん。ちょっと」
「なんだ? 弟よ。説明中だぞ」
「ごめん。あれ見て」
ダンジョンマスターが再生を始めていた。細い肉がバラバラになった体を繋ごうとしている。
「やべぇなこれ。追撃。追撃」
「堅くなっているよ」
「まじで!? うわっ! 剣が弾かれた」
シックブラザーの兄弟は俺の方を向いた。
「すまん! 無理! 撤退するぞ。弟よ」
「分かったよ兄ちゃん」
二人は再生中で動けないダンジョンマスターを放置して逃げ始めた。
「妥当な判断ではあるな」
俺も逃げたいが、そうはいかない。
この程度の魔物を倒せないようでは到底S級にはなれない。
武器がないとか守らないといけない奴らがいるは言い訳にしかならない。
こんな緊急事態だし、凍った奴の武器を貰っても文句は言われないはずだ。
ダンジョンマスターが再生中のうちに使えそうな武器を貰うか。
人間の解凍は時間をかけて慎重にしないといけないが、武器なら適当に解凍しても平気だ。
一応、剣を手に持っている奴からは奪わなかった。手の皮膚まで持っていってしまうかもしれないからだ。
ただ腰に差したまま凍った奴の武器はそれほどいい物はなかった。
鉄の剣を三本手に入れた。
再生が終わった肉塊が立ち上がった。
見た目に変化が起こっていた。
手の爪が長くなり、地面にするほどの尻尾が生えていた。
ドラゴンの特徴を人間に取り入れた見た目をしている。
剣と盾を構えた。
次はどんな攻撃が来る? どんな攻撃でも対応して――
そう考えている内にダンジョンマスターが俺の目の前まで迫っていた。
その動きは人間で言う所の突きだった。
だが、その威力は常軌を逸していた。
瓦礫を吹き飛すには飽きたらず、地面も抉っている。
こんな破壊力をさも当たり前かのように使ってきた。
あんなの受ければ普通の人間ならばミンチになるに決まっている。
だが、この化け物は一度の攻撃で大きな隙を晒している。
伸ばされたままの腕に剣を振った。
「こりゃ。逃げるわ」
剣が一撃で砕け散った。
言うまでもなく相手は無傷。どうしようもない。
三つ用意した鉄の剣じゃあどう転んでも倒せはしないな。
「ギャァ! ギャ!」
「もう。やらせねぇぞ」
トカゲらしい鳴き声を出しながら突きを撃とうとしてきた。
あんな攻撃を何度もされては氷像がぶっ壊れてしまう。それは非常に困る。
溜める為に折り曲げられた肘に盾を挟み込ませた。
これで、力が入っていない撃ち始めを潰せた。
そのまま空いている手で相手の腕を掴み、足を払う。
そして、足が地面から離れた相手を地面に叩きつけた。
顔から落ちた瞬間に蹴りを入れた。
転がる敵の距離を詰める。
あんな攻撃範囲を持っている相手に間合いを見誤ると最悪の事態になるのは目に見えている。
追撃はしない。
手が届く距離を保つ。
「ギャギャ!」
「楽しそうだな」
言語も表情も分からないが笑い声のようにも聞こえる。
さっきの攻防で手と靴が煙を立てていた。
手がジリジリと痛む。スライムとかを触ったらこんな痛みがする。きっと溶かされているんだろうな。
まあ、痛みはこの際どうでもいい。
一番面倒なのが、足の痛みだ。
こいつの硬度は魔法金属並みかそれ以上。
普通の武器じゃあ歯が立たない。
触れば溶けるし、殴ればこっちの方がダメージを受ける。このまま戦闘を続ければ確実に負ける。
奥の手を使えば勝機はあるだろうが、その後がきつくなる。
南の方にもこのダンジョンマスターが出ている可能性がある。
その場合。そいつの強さはこいつよりも強いのはほぼ確実だろう。
南のダンジョンは百五十層目までしか探索されていないが、それでも底が見えない超巨大ダンジョンだ。
S級パーティーがエクトールに来るのがいつになるか分からない。
この世に三つしかないS級パーティーには転移の魔法が使える魔法使いがいる。情報が伝わっていればすぐに来られるはずだ。
だが、S級が来るまで粘るだけって言うのも面白くない。
ここで活躍すればS級になる近道にもなるわけだ。
状況は窮地だが、好機でもある。
この肉塊と手を交えて分かったが、頑丈な武器さえあれば倒すことができる。
特殊能力はいらない。この盾みたいに頑丈だったらなんでもいい。
魔物の動きは単調で読みやすい。
いくら攻撃力や防御力が高かろうと対処ができれば恐るべき脅威ではない。
攻撃は発生する前から潰し、防御はいざとなればどうにかできる。
このまま耐久しようと盾を構えた。
――瞬間。ダンジョンマスターが大きく口を開けた。




