十三話 責任
大きく口を開けたダンジョンマスターを見て、脳裏でドラゴンのブレスが思い浮かんだ。
昔エクトールにいた時に聞いたことがある。
南のダンジョンには獣系の魔物が多く出て、西のダンジョンは普通。
そして、北のダンジョンはドラゴン系の魔物が多く出る。
ドラゴン。ドラゴンと言えば高威力のブレスだ。
もし、こんな場所でダンジョンマスター級の魔物によるブレスが放たれればどうなるだろうか?
考えるまでもない。この辺りが更地になる。
魔力で守れば、俺は助かるかもしれないが氷像にされた人たちは確実に死ぬだろう。
口先から、光の玉が現れた。
他人の魔力を感知できない俺でも分かる。空気が寄せ集められている感覚がする。
あれはすごい圧縮された魔力だ。
属性のある魔法じゃない。
純粋な魔力。
どんな使い方をしようとも破壊の権化になれる。そんな代物が一瞬で発生した。
徐々に大きくなる魔力の塊を盾で弾くなんてしたら破裂して俺の反対側にいる氷像を壊される。
犠牲を出さずにするには魔力を一気に解放される前に首を落とすか、奥の手かだ。
正直、迷っている余裕はない。
奥の手。あんまり使いたくはなかったが、この状況なら丁度いい。
目の前の魔力と敵に意識を集中させた。
すると、頭の中に言葉が思い浮かんできた。まるで昔から知っていたみたいに出てくる。
これが奥の手だ。俺が使える唯一の空間魔法。
詠唱もこんな感じで忘れても大丈夫だから、俺でも使える。
「すべてを喰らう暴食の王よ。眼前の空間を喰らい、我に力を与え給え。代償は我が全魔力と人類に対する情。また、月が満ちるその日までこの肉体の譲渡。さあ、喰らいたま――」
詠唱が完了する寸前で、俺の隣に何かが刺さる音が聞こえた。
目を向けるとそこには白銀の剣があった。
「使って!」
シャーネの声と同時に俺は詠唱を中断し、剣を握った。
「これは……」
一瞬でダンジョンマスターの首を切り落とした。
統率されていた魔力が指導者を失い、ゆっくりと空気に散っていった。
この剣を俺は知っている。
数年前、合同パーティーを組んだ時にA級のパーティーにこの剣を使っている女がいた。
確かこの剣の名前は『雷神の剣』。
世界に一本しかない特殊な剣だ。
切れ味だけ見てもすごい代物だが、こいつの真価は別にある。
この剣の持ち主の噂は最近聞かなかったが、こんな所にあるとは。
一体、どこから持ってきたんだろうか?
……今は詮索をする時間じゃない。
頭を切り落としたダンジョンマスターの頭が再生を始めている。
被害を出さない為にもさっさとけりをつけるか。
剣に魔力を流す。
この剣は魔力を『雷属性』に変える能力がある。
この雷属性はなんの補助もなければ、世界最強と言われている魔法使いしか使えない特別な属性だ。
そして、この雷は俺の体を駆け巡る。
原理とかはよく分からないが、これでめっちゃ早く動ける。
あの女の人の動きは当時の俺では見えなかった。あの時の目が焼ける様な輝きと強さは数年経った今でも鮮明に覚えている。
どうやら、俺はこの剣に嫌われているのか全身が針を刺されたみたいに痛む。剣から手を放したいが、我慢する。
再生が終わったダンジョンマスターと再び対峙した。
「ギャギャ」
「すぐに消し炭にしてやる」
敵の動きがゆっくり見える。
頭を一回切り落としたから動きが鈍くなったか?
いや、俺の動きが速くなりすぎているんだ。
剣を振り下ろし、頭から股までを真っ二つにした。
あの堅い肉体が面白いように切れる。
そして、一つ分かったことがある。
首を切った時と比べて、胴体を切断した時の刃の通りが良すぎる。
ここから分かることは一つ。
こいつの弱点は雷属性だ。
このままだとまた同じように再生されてしまう。
再生を使い続けられると、ダメージを負い続ける俺の体の方が先に限界を迎えるだろう。
ここで勝負に出るか。
魔力を雷神の剣に注ぎ込んだ。
力を入れる程、剣から出る光が眩しくなる。
それに合わせて俺の体への痛みが強くなっていく。
雷神の剣から出る雷は遠くまで届くことはないが、魔力を流している俺と近くにいる奴にまで雷属性の魔法が届く。
ダンジョンマスターはその再生能力が強みだが、それは弱みにもなる。
剣を包み込むように肉塊が再生しようとしている。
魔物の知能はよく分からないが、再生能力を持つ奴らは基本的に何があろうとも体の結合を優先させる気がする。
再生をするために自ら弱点に突っ込まないといけない。
弱点属性である雷属性をありったけの魔力を使って肉塊に叩きこんだ。
魔力を止めた。
肉の塊は黒く焼け、湯気が立ち上がっていた。
剣を抜いた。
「ギャ……」
ダンジョンマスターは最後に声を出して崩れ去っていった。
「ふう、これで北は……」
「トラップ! 下がって!」
シャーネの叫びが聞こえた。ほぼ反射的に俺は痛む体を動かし、盾を構えて後ろに下がった。
瞬間。
崩れ落ちた場所が大爆発を起こした。
回避していた俺の体を爆風が包み込んだ。
直撃を受けていれば、かなり危なかった。
まさか、最後の最後にこんなトラップを仕掛けているとは……。
やはりダンジョンの罠は俺には見抜けない。
煙が晴れた。
氷像のいくつかは部分的に壊れているが、被害はかなり抑えられた。
「南に行くぞ」
「先行ってて」
「どうした……出血! これはまずい!」
抑えている手から血が滴り落ちている。
その出血量はかなりの量であり、徐々に量が増していた。
「私のことはいい」
「出血がひどい。下手したら欠損しているかもしれない」
「冒険者になった時からそのぐらいの覚悟はしている」
シャーネは表情を一切変えていない。
だが、顔色は青くなり脂汗が噴出している。
俺は近くに落ちていた剣に目が行った。
その刃先には赤い血が部分的に着いている。
そして、その付近に何か血を噴出している物が落ちていた。
シャーネの隠されている手を凝視する。
指と指の隙間から傷を覗き見た。
「指が……」
右手の小指と薬指がなかった。
「弱い私が悪い」
「止血。止血をしないと!」
これは俺のせいだ。
指を切り落とした剣は俺が解凍して、使わなかった剣だ。
とにかく、このままだと指だけでは収まらず出血のし過ぎで死ぬ可能性もある。
どうすればいい!
こんな大きな怪我の手当なんかやったことがない。
俺の回復魔法は自分にしか使えないし。こんな時、どうすればいいか分からない。
「お困りみたいですね。もしかして、こんな状況は初めてですか?」
「ミーネル!」
ミーネルがやってきた。
「ゼオンさんにしては落ち着きがないですね。まずは止血です。傷見せて下さい」
シャーネの指に糸を巻いて出血を止めた。
「……いい機会なので数年ぐらい隠そうと思っていた能力を教えます」
「どうしたんだ? 急に」
「私のスキルは《調律》と言います。他人のスキルを強化して自分は残りカスを貰えるなんて能力です」
スキルは特別な力だ。
百人いれば一人ぐらいが何かしらのスキルを持っているなんて言われてて
、実践で使える戦闘系のスキルを持っている奴はさらに珍しい。
そんなスキルを複数所持する奴なんて数例しかないはずだ。
「貰ったスキルを組み合わせると意外と便利なんですよ。《付与》と《自己再生》を合わせると」
「血が止まっただと」
「流石に欠損を治すことはできませんが、傷は塞ぎました」
一瞬であの大怪我を治癒させた。魔法を使ってもこんな速さで他人の傷を治せる人間なんて世界に何人いるかといったレベルだ。
やはり、ミーネルはすごい奴だった。
「はい。これどうぞ。雷神の剣なんて扱いにくいですよね。その辺で死んでた人から少しいい剣を拝借したので差し上げます」
「ありがとう。これでまだ戦える」
「それは良かったです」
「南の方に行くか」
「ああー。すいません」
ミーネルが数歩引いた。
「ちょっとやりたいことがあるので、別行動してもいいですか?」
「やりたい事?」
「事情は言えませんが……まあ、またいつか会いましょう」
「待っ――」
かなりの速さでミーネルはどっかに行った。
何が目的か全然分からなかった。
「南に行く」
「そうだな。まずは行かないとな」
シャーネが袖を引っ張ってきた。
ミーネルの事は少し気になるが、それ以上にシャーネの指についてはこの魔氾濫が終わったらしっかり話し合おう。
俺たちは南のダンジョンに向かった。




