とある女と恋の終わり
紅葉から今日は少し帰るのが遅くなるって連絡があった。
残業かな?
大企業の社員さんは大変だねー。
今日は寒かったし、お鍋にでもしましょうかね。
紅葉が帰ってきたら温まれるようにお風呂も準備しとこ。
「ただいま」
「おかえりー。今日寒かったよね。お風呂できてるから入っちゃって」
「ああ…」
うん?
紅葉元気ないけど何かあった?
残業だから萩田さんに怒られて処理でもしてたのかな?
食事を終えた紅葉は相変わらず元気がない。
落ち込んでるってよりも、何か考え事してるみたい。
どうしたのかな。
ガチャン!
「大丈夫!?」
ソファーでまったりしていると、片付けをしている紅葉の方向から何かが割れる音が聞こえてきた。
台所に行くと、洗い物をしていた紅葉がお皿を落として割ったようだ。
紅葉でもお皿落として割ることもあるんだね。
片づけるから足退けてね。
うーん…。
やっぱり紅葉元気ないよ。
私でよかったら聞くよ?
愚痴ってスッキリしちゃいなよ。
「もう長くないんだ…」
「え…」
どういうこと?
「それって…」
「…言葉の通りだよ」
長くないって…。
だから紅葉は…。
「嘘…だよね…?」
「…嘘じゃない」
嘘だと言ってよ。
いつもみたいに冗談だって言ってよ。
「…あとどれくらいなの?」
「…もう限界かな」
「そんな…」
もう長くないって…。
やだよ。
紅葉と別れたくない。
「私を幸せにするって…。嘘だったの?」
「嘘じゃない」
あの言葉は嘘だったの?
私にプロポーズしてくれるんじゃなかったの?
「…そうだよね。残りの期間だけでも一緒にいようね」
「う…ん?」
ダメ。
紅葉だって悲しいんだから。
こんな時こそ私がしっかりしないと。
「愛海?」
「ずっと一緒だよ…。紅葉のこと忘れないから…」
紅葉がいなくなっても私紅葉一筋だよ。
再婚なんてしないから。
あれ?結婚してないのに再婚?
「愛海。落ち着いて」
「こんな時に落ち着いてられないわよ!」
落ち着け?
こんな時に落ち着ける女じゃないわよ!
「愛海?」
「籍だけでも入れよ?未亡人になっちゃうけど、私は紅葉一筋だから」
すぐ籍入れようね。
紅葉と一緒にいた証が欲しいから。
「あのね…」
「子供だけ欲しいか―――」
紅葉との子供さえいれば頑張っていけるよ。
だから…!?
紅葉にキスされた。
なによ。
いいところなのに。
「俺死なないけど…」
はぁ?
どういうことよ!
今までの流れだと紅葉が亡くなるって…。
今鞄を漁るってどういうことよ。
話の最中なんだけど?
「愛海、愛してる。俺と結婚してください」
紅葉が鞄から出したのはケースに入った指輪。
あれ?紅葉なんて?
指輪?
結婚?
紅葉の頬っぺたをつねると痛いって言ったからこれは夢じゃない。
エンゲージリング?
婚約指輪?
誰の?
私!?
え…。
「返事を聞かせてもらえませんか?」
「………」
気まずい。
紅葉が病で亡くなると勘違いしちゃったじゃない!
うわぁ…。
「ん…」
「ありがと」
気まずい私は左手を紅葉の前に差し出した。
これでいいでしょ?
あれ?婚約指輪って左手だっけ?
「言葉で聞きたいな」
「…不束者ですがよろしくお願いします」
「愛海っ!!!」
返事をすると紅葉が抱き着いてきた。
んにゃー!暑苦しい!
暑い!離れて!
「こんなプロポーズになっちゃってごめん」
紅葉が悩んでいた理由を教えてくれた。
眞さんに指輪を頼んでいて、今日できたから取りに行ったとのこと。
指輪を見て、早く私にプロポーズしたいって思ってたけど、色々考えてただけらしい。
長くないって我慢の限界ってこと?
はぁ?
勘違いさせないでよね!
「許さん」
「いひゃいれす」
怒りを込めて紅葉の頬っぺたを引っ張る。
私の心配返せ!
「どうかな?」
「…いいと思う」
婚約指輪なんてはめたことないから、良し悪しなんてわかんないんだけど…。
「エタニティって言って、永遠に途切れることの愛って意味」
へぇ…。
指輪にも色んな種類があるんだね。
え?中にも刻印が彫ってあるの?
totus tuus
どういうこと?
ラテン語で身も心もすべて、あなたにささぐ…。
ふ、ふーん…。
「こんなプロポーズになっちゃってごめん」
紅葉のくせに…。
いつも下準備とか完璧なくせに…。
「許さないから」
「…ごめん」
「罰として私を幸せにしてね。旦那様」
「愛海っ!!!」
ふふ。
私も愛してるよ。




