とある男の東京出張③
「―――竹科さん!」
「え、あ…すまん。もう一度頼む」
比嘉さんと別れ、午前中をなんとか乗り切った。
和久井に昼食は?と誘われそうになったが、南を盾に逃走した。
南には迷惑料として、昼飯を奢ったから大丈夫だろう。
午後になり、班になってのグループワーク。
梅田と高橋のいるグループのアドバイザーとしているわけだが…。
「竹科くんがボーっとしてるなんて珍しいね」
「ああ…ソウデスネ」
和久井 雫。
なぜこいつが同じ班にいるのか。
関西支社であるコイツの班と、中部支社である自分たちの班。
人数的に絶対に一緒になることはないと思っていたのだが…。
コイツ…講師に色目使ったか?
せっかく南と美味い昼飯を食い、上機嫌になった午後。
午後一でその気分は見事に破壊された。
というか香水キツイから吐きそう…。
「竹科さんらしくないですね!」
「ほー…、帰ったらおやつ抜きな」
「そ、それはダメです!」
梅田の性格がこういう時だけは助かる。
少しでも和久井から意識を逸らさせてくれ…。
「それでですね…」
「ふんふん…」
あー…、早く終わってくれ…。
「お疲れ様」
「………オツカレサマ」
本日の研修も無事に?終了し、南と話していると、背後から和久井が声をかけてきた。
梅田と高橋は、久しぶりに同期会えたため、同期と飲んでくるという。
二人には明日の集合時間を伝え、羽目を外さないように注意して、本日の引率役は終了だ。
南と久しぶりにどこかいくかーと話していたらこれだ。
俺はお前に用はないんだけど…。
「どこか行くなら私も一緒にいっていい?」
首を横に倒して可愛くしたつもりか。
首が痛いなら整体にでも行ってこい。
「悪い。今日は南と約束してて」
「私も一緒に行っちゃダメ?」
こいつ…!
遠回しに来るんじゃねーと伝えているのに…。
社会人なら気づけよ。
「今日は女の子の店に行くから。和久井さんには申し訳ないけど」
「ええー…」
ナイス南!
空気の読める男は違うね!
比嘉さんと二人にしたことは許さんがな…。
「ということですまんな」
「それじゃ」
「あ、ちょっと」
これ以上関わるのも面倒なことになりそうなので、南ととっとと逃走した。
ホントやめてくれ…。
「助かったわ」
「せやろ」
一服しようぜ、ということでいつもの喫煙室に。
はー、和久井が近くにいないから気持ちが楽だ。
精神衛生上よろしくないわ。
「なんであそこまで付き纏われるのか謎」
「そりゃあ、竹痩せてイケメンに戻ったし、前より雰囲気柔らかいからな」
イケメン?どこにイケメンがいるんだ?
痩せたがイケメンではない。
フツメン…より上でお願いしたい。
「まぁ、あと一日の我慢だな」
「あと一日もあるのか…」
「久しぶりに行くか?」
「そうだなー。軽く行くか」
タバコを吸い終え、南と夜の街へ。
夜の街と言っても食事だけだけど。
女の子の店?
酒の飲めない俺が行くわけない。
愛海がいるからそんなとこには行かん。
『今何してる?』
『ごろごろ』
『電話していい?』
『おけーい』
南と食事を終え、ホテルに戻ってきた。
風呂や明日の準備をして、愛海にメッセージを送る。
どうやら家でごろごろしているみたいだ。
『お疲れ様。どうした「疲れたよおおおおおおおおおおお」の?』
愛海がすぐに電話に出てくれた。
すぐさま泣きついた。
今の俺を癒せるのは愛海だけだ。
『研修ってそんなに疲れるの?』
「研修自体はそこまでかな。嫌なやつがいて…」
『あらら。あと一日我慢。明日帰ってくるんだよね?』
「そうそう。終わったら名古屋に帰るよ」
何気ない会話に癒される。
荒んだ心が浄化される…。
愛海マジ癒し。
一家に一人は欲しい…。
あと一日だけなんとか耐えよう。
我慢した分だけ愛海で癒されるんだ。
お土産は何買って帰ろうかな。
愛海何がいいかなー。




