その7 ボク達パーティの初戦果!
初めてのパーティは、町の外の開けた草原を通り抜け、いよいよ森の中に入っていく。
これモンスター出るよね、出てくるよね。
不安で辺りを見回すボクは、なにしろLvマイナス1なのである、モンスターの鼻息で死に掛けた激弱っぷりは伊達ではないのだ。
しかも装備している武器は、ワケのわからない『木の棒』ときてる。
「ボク……役……立たな……」
「そんな事ないない、みのりんが居れば大助かりだよ!」
果たして、ボクに経験値の半分を渡す価値があるんだろうか、戦うのカレンだよ。
見回した森の中はさすがにボクがいた世界と何も変わらない、普通の木に普通の草だ。細かい種別では色々あるかも知れないけど、見た目は普通の木に普通の草だ。
何の変哲も無い森である、モンスターが出て人を襲ってくる事を除いては。
「ここだと戦いやすいかな」
少し開けた場所に出た。
「この森ってやんばるトントンがすっごい豊富なんだけど、やんばるトントンってさあ、お肉にされちゃうから警戒して出て来ないんだよね」
そんなモンスターあるか?
「そこでみのりんの出番なんだよ、悪いけどそこの広場の中心にいてね。ごめんね」
ふっふーん♪ と少し離れてカレンが座っている、まるで釣りでもしているような風情だ。
………………
釣り?
「あ……あの……カレン……さん……?」
「しー」
カレンが耳を澄ませる。
「来た来た来たよ、大物の予感!」
見えない棒を手に握ったしぐさ。
カレンさん! 見えない釣り竿じゃなくてロングソードを握ってください!
「ブキーーーー」
やんばるトントンが釣り上がった!
突進してくるモンスターとボクの間に入り剣を構えるカレン。
その手に持ったロングソードに光が宿り、周囲に巻き起こる風。
「スパイクトルネード!」
カレンの掛け声と共に一撃で粉砕されるモンスター!
それは圧倒的だった。
風が鋭い刃となって対象を切り裂く彼女の一撃必殺スキル。昨日ボクが助けられたのはこの技なのだ。
それにしても初めてのパーティは、見事にその機能を果たしたみたいでなによりである。
まず『ブキー』の鼻息でボクが吹き飛ばされ、木に激突してヒットポイント1になるのが第一段階。
すかさずカレンが飛び出して、彼女が持っている必殺の剣スキル『スパイクトルネード』を叩きつけ、やんばるトントンを真っ二つにするのが第二段階。
目玉グルグルでノビかけているボクの口に、回復薬を放り込む第三段階で終了。
ワン・ツー・スリーである。
各自の役割を見事に果たした、華麗なる流れるようなパーティの連携なのである。
男の娘はモンスターを惹きつける、昨日受付のお姉さんがそんな事を言ってたっけ……
「いやーみのりんの男の娘スキルさまさまだね!」
カッカッカッカと笑うカレン。
ボクはエサですか!
「まさか……これ今から……何度も……繰り返……」
「まさかまさか! 一日一体だよ!」
ふーっと安心する。そこはカレン、自制してくれる。
「何体も倒したってお肉運べないじゃん、もったいない」
もう帰っていいですか。
「それに……」
声を落として呟くカレンだがその先は聞こえない。
「……?」
「なんでもない。さっ、お肉に解体しよう! 経験値もお肉も仲良く半分こだよ♪」
ボクは倒されたモンスターにゆっくりと近づいた、不思議とした高揚感が湧き上がる。
目の前に横たわるのは、ボク達のパーティによって倒された敵モンスター。
これがボクにとって初めての戦果なのだ、感動が身体の中を駆け抜けていく。
人を襲うモンスターをボク達が倒したのだ!
「どこの部位にしようかな~。部位によって値段が違うんだ」
あの、部位とか言うのやめていただけませんか。
「例えばこの耳も、ミミゴーと言って珍味なんだよ」
珍味とか言うのもやめていただけませんか。
モンスターを倒した感動がフシューって縮んじゃったじゃないですか。
「ブキーーーー」
びっくりした、カレンが鼻歌交じりで解体してるお肉が叫んだのかと思った、まさか彼女の鼻歌じゃないよね。
「まず」
ヤバイという顔をあげ警戒するカレン。
「別のが来ちゃった、てへ」
まずボクが『ブキー』の鼻息で吹き飛ばされ、木に激突してヒットポイント1になる。
そしてすかさずカレンが、ロングソードを構えて新しく出たやんばるトントンの前に出て。
「えいえい」
……?
「えいえい」
カレンさん?
ロングソードでモンスターの鼻面をつついているだけのカレン、やんばるトントンの体当たりを食らってボクの真横に吹き飛んできた。
起き上がったカレンはポーチから回復薬を取り出し、ボクの口と自分の口にポンと放り込むと。
「逃げるよ!」
とボクの手を引いて一目散に駆け出した。
二人は走りに走った、絶対追いつかれると思った。追いつかれそうになると、モンスターは木や枝にぶつかり度々速度を落とす。
ボクとカレンはよくこんな速度が出せたなと、自分でも呆れるほどのスピードで逃げまくった。
森から抜け草原に出たので更に走りやすくなった、でもこれってモンスターにとっても速度を落とす障害が無くなった訳で、絶体絶命である。
だがやんばるトントンは森の外までは追ってこなかった。
草原の真ん中でぜーぜーと倒れこむ二人。
「あはははははははは」
まず笑い出したのがカレン、怖かったねーと言うのだ。
笑い転げるカレンを見てボクも笑った、二人パーティは暫く草原で笑い続けていた。
でも疑問だ、カレンは一撃でやんばるトントンを倒せるはずなのに。
「あはは、ごめんねー。私のスキルって精霊の力を貰って、一撃必殺の剣を使えるんだけど。一発やっちゃうと剣に集めた精霊の力が飛び散っちゃって、また精霊が集まってくれるのに時間がかかるんだ」
「どの……時間……なの?」
「半日から一日、だから一日一体。一日一善みたいでいいよね」
ドヤ顔でキメられても困ります。
立ちあがって草や土を払うカレン、ボクも草と土を払う。服が結構汚れてしまった、外で遊びほうけた子供みたいだ。
帰ろっかと町に向かって歩き出す。途中カレンは残念そうに口を開いた。
「あーあ、お肉回収しそこなったなー、これだけしか持ってこれなかったよ」
カレンが見せてきたのはやんばるトントンの両耳だ、珍味とか言ってたやつ。よく手放さなかったよこの人、執念ってやつかな。
これも立派な成果だという事で、パーティ二人で半分ずつわける事にした。お肉を半分ではなくお肉を売ったお金を、である。
町に帰ると早速二人でお肉屋さんに売りに行き、一人一ゴールドになった。
カレンとお肉屋のオジサンとの攻防戦は見ものだったが割愛。
何はともあれ、今ボクの手の平の上には一枚の硬貨が乗っている。
燦然と光り輝く硬貨。その神々しい輝きに目がくらんでしまいそうだ。
何でことだ、ボクはとうとうゴールド持ちに進化したのである!
モンスターを一体倒した(カレンが)だけで、進化を遂げたのだ!
「みのりん、これからも頑張ろうね。えーと残り百九九体だっけ」
ハイ、ソウデス……
次回 「女の子の足への冒涜は許さん服屋」
みのりん、ゴールドを握り締めて買い物に行く