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その8 女の子の足への冒涜は許さん服屋


 Lvアップ進化への道はともかく、ボクの手の中で光る硬貨を見つめながら心はウキウキだった。

 何しろ、これはボクがこの世界で初めて稼いだお金だ。何に使おうか、記念にとっておこうか。


 カレンと別れギルドに帰る途中で、自分の服が汚れているのを思い出した。

 これ、絶対洗った方がいいよね、泥だらけだもの。


 冒険前にカレンと出合った洗濯場を思い出す、あそこで洗うのはいいとして、問題なのは外だという事。

 服を洗う為には脱がないといけないのだ、しかし替えの服が無い為に裸で洗う事になる。


 まだまだ外は明るいのだ、でもまあ別にいいかなとも思うが、今朝鑑定士に足を凝視されただけで死にそうになった事を思い出し、着る物を確保する事にした。


 朝は眺めるだけで諦めたが、今回はどうしようもない事はない、お金があるのだ。

 なにせボクは今、天下のゴールド持ちなのだ!


 これから攻略するのは、今朝覗いた服屋さん。勝利をこの手に掴むのだ。

 通りを抜け程なく服屋さんに到着、外から店内をそっと覗きこみ、店主がオジサンなのを確認してから入店する。

 女性だったら、ボクが服に到達できるかも怪しいからだ。


「らっせー」

 店主の声に迎えられながら、今朝見た男性用のボトムスの所まで直行、どれにしようかな♪ と選び始める。


 これでやっとスースーとさようならできるんだ。

 そこには山のように男性用ボトムスが積まれていた。オジサンが穿くようなズボンが山積みだ、涎が出そうな程のお宝の山だ。


 しかし、なんだろうな。この服を選ぶ楽しさときたら、ボクがプラモ屋さんに入った時を軽く凌駕する高揚感があるぞ。


 今まで服選びなんて、ただただめんどくさい作業だったのに、とてつもなく楽しい!

 今朝もこのお店に入りたくて仕方なかったんだよ。


 なに~~これ~~。

 たのし~~。


 夢中で選んでいると、店主が近づいてきた。


「彼氏にプレゼントかい? それともお父さんかな」

「いえ自分で穿くのですが」

「女の子がズボンをかい!」


 な、なによ、そんなに驚かなくていいじゃん。

 ホラー映画でも見たみたいな顔で驚愕されても困るんですけど。


 少し後ずさりしてオジサンから離れる。


「女の子が長ズボンを穿くなんてとんでもない、それは足に対する冒涜だとは思わんかね? 天地がひっくり返っても許されていいものではないよ」


 ワケのわからない事を言い出したぞこの店主、足への冒涜とか意味がわからない。胸じゃあるまいし。

 気に入ったズボンを数着手に取り、オジサンを納得させられる言葉を告げる。


「ボクは男の娘なのです」


 キョトンとするオジサン、よし納得したかな。


「男の娘の足への冒涜も許されないぞ」

 納得させられなかったようだ。


「もういいですよ、強行突破して買いますから!」


「お嬢ちゃん、やめなさい、だめだめ これは忠告だ」

「ボクを説得しようったってそうはいかな……」


「男の娘が男の服を着ると、精神が崩壊して再起不能になるんだぞ」

「…………」


 なんなのこのワケのわからない種族は――!


「諦めてこのマイクロミニスカートにしとけってお嬢ちゃん、安くしとくぜ?」


 ボーゼンとオジサンが渡してきたスカートを受け取り、カクンと首を落としてソレを見る。

 マイクロ、なんですって?


「わっわっこれ短すぎて、ちょっと屈んだだけでお尻が見えちゃうじゃないですか!」

「それが何か?」


 何を言ってるんだこの子? みたいな顔で見つめられても困る。

 この場面で何をどうしたら、そんな不思議そうな顔ができるんだ。


「お嬢ちゃん達は皆を幸せにする義務があるんだよ、そこら辺ちゃんとしてくれないと困るんだけどね。それじゃ妥協して、こっちの最初から丸見えのスーパーウルトラマイクロミニスカートなんかどうだい?」


「それ、穿く意味あるんですか」

 もうあえて妥協の部分にはつっこまない。めんどくさいからいちいち拾ってられない。


「フフン、お嬢ちゃんはまだまだスカートの奥深さをわかってないねえ、まあスカートの奥を探求するのが男のサガでもあるんだがな、がっはっは」


 無視してもう少しまともな服を選ぶ事にする。


 スカートでもせめてもう少し大人しめなやつを、とスカートの山を物色。

 うん、まあ女性服選びもめっちゃ楽しいわ。服屋ってお宝でできたお店だったんだ。


 フンフン~とスカートの山をあっちに行ったりこっちに行ったり楽しんだ後で、膝上のフレアスカートを手に取った。

 とりあえずフレアスカートの値段を聞く。


「これはいくらですか?」

「百ゴールド」


 フレアスカートをそっと山に返す。


「こっちもどうだい? お嬢ちゃんにとても似合うよ」


 と勧めてきたのは、胸がやっと隠れるかくらいのめちゃくちゃ短い紐みたいなキャミソールだ。


「これちっぱいだから隠れるけど、胸が大きかったら出ちゃうしろものじゃないですか。似合うってそういう意味ですか、頭の毛毟りますよ」


 少女の残酷な言葉にオジサンがひるんだ内に、キャミソールの山も見る。

 

「これにしようかな?」

 上着も見なきゃいけないのだ、無難な黒いキャミソールを手に取る。


「オジサンこれは?」

「百ゴールド」

 そっと山に放してやる。


 別のタンクトップを手にする。


「こっちは?」

「百ゴールド」

「これは……」

「百ゴールド」

 ……コレ。

「百ゴールド」


 ない、ないよ、買えるのないよ、このお店、高級ブティックだったよ……


「ち……ちなみにさっきのお勧めキャミソールとマイクロミニスカートのお値段は……?」

 ぶるぶる震えながら聞いてみる。


「上下セットで一ゴールド」


 一応安い商品もあるんじゃん!

 ちょっと復活して大雑把に聞いてみる事にした。作戦を変えて攻め方を修正するのだ。


「こっちの棚にあるので安い商品を教えてください」

「全部百ゴールド」


 作戦頓挫。


「この店の……」

「紐キャミソールとマイクロミニスカート上下セット以外は、全部百ゴールド」


「うう……上下セット一ゴールドのやつください……」

「まいどありー」


 半泣きになりながらお金を支払った。


 異世界は恐ろしいところだった。


 モンスターに勝ち、服屋に負けたのだ。


 次回 「外で服を着替えるのも女の子は大変だ」


 みのりん、女の子の服を着替えるという生死を分けた行為をする。

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