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MHISTORYM  作者: しおにまる
第3章 交流編
24/24

3-9 協力

「今日は救助・搬送訓練だ」


リキトがそう告げると、生徒たちの視線が実技場の一角へ集まった。

そこには、見慣れない建物が用意されていた。

木材や石材が積み重なり、壁はところどころ崩れ、屋根の一部も傾いている。

遠目には、今にも倒れそうな廃屋に見えた。


「中に取り残された人間を助け出してもらう。今回は敵はいない。戦う必要もないからな」


リキトは背後の建物を指さした。


「中には要救助者役の生徒が一人いる。足を怪我して動けない設定だ。そいつを安全に外まで運び出せば成功」

「崩れたりするんですか?」


ソウタが尋ねる。


「仕掛けで建物が崩れることはない。ただし、瓦礫を適当に動かせば、ほかの場所が崩れるかもしれない。そういう想定で作ってある」


リキトが端末を操作すると、建物の周囲に数機の小型ドローンが浮かび上がった。


「重い資材も使ってるから、無茶はするな。時間も記録するが、安全に運び出すことが最優先だ」


生徒たちが建物を見上げる。

入り口は狭く、奥の様子は外からではほとんど分からなかった。


「今回は二つの小隊で協力してもらう。人数が多ければ、それだけできることも増えるだろ」


リキトは端末に目を落とした。


「次、レインフォード小隊とアークレイン小隊」


ユエルは顔を上げた。

少し離れた場所では、アーサーもこちらを見ていた。


「お前らと一緒か」

「不満か?」

「別に。足引っ張るなよ」

「その言葉はそのまま返そう」


二人の間に、早くも張り合うような空気が流れる。


「また始まった」


アルレアが呆れたように笑った。

隣でソウタも苦笑する。


「仲がいいんだね」

「どこがだ」


ソウタの言葉に、ユエルが即座に返す。

アーサーは小さく笑い、建物へと視線を戻した。


二つの小隊が集まり、訓練の準備を始める。

ユエルたち六人に、アーサーたち五人。合わせて十一人の大所帯だった。


「まずは中の状況を確認したいね」


アーサーが建物の入り口へ目を向ける。


「俺が見てくる。何かあっても、すぐ戻れるからな」


ユエルが答える。


「そうだね。ただ、瓦礫で視界が遮られている。君の魔法でも、見えない場所へは移動できないだろう?」

「分かってる。だから近くまで行って確認する」


ユエルは入り口を指さした。


「お前はみんなをまとめててくれ」

「分かった。気をつけて」


ユエルが建物へ向かう。

その背中を見送りながら、アーサーは残った仲間たちへ目を向けた。


「中の状況が分かるまでは、動けるように準備しておこう。ソウタ、君にも手伝ってもらえるかい?」

「うん。俺も全体を見ておくよ」


二人が役割を確認している間に、ユエルは建物の中へ足を踏み入れた。


内部には、外から見た以上に多くの瓦礫が積み重なっていた。

倒れた柱や木材が通路を塞ぎ、奥へ進める場所は限られている。

ユエルは隙間から見える場所へ瞬間移動し、さらに先を確認した。


しかし、奥へ続く通路は大きな木材で塞がれていた。

その向こうは見えない。


「ここから先は無理か」


ユエルは木材の周囲を調べた。

横には人が一人、しゃがめば通れそうな隙間がある。

だが、その先の床には細かな瓦礫が散乱しており、無理に進めば足を取られそうだった。


「ユエル、どう?」


入り口の方からアルレアの声が聞こえる。


「奥は見えない。狭い隙間ならあるけど、俺じゃ通りにくそうだ」


ユエルが戻って状況を伝えると、アーサーは少し考えた。


「まずはその隙間を確認しよう。ニーア、周囲の瓦礫を支えることはできるかい?」

「見てみる」


ニーアが建物へ入っていく。

傾いた柱と積み重なった木材を確認すると、地面へ片手を向けた。


足元から氷が広がり、柱の根元を包み込む。

さらに木材の間へ氷がせり上がり、傾いた部分を支えた。


「これで少しは安定する」

「すげぇな。そんなこともできんのか」


ダンが感心したように声を上げる。


「動かすなら、先に言って」


ニーアが短く答えた。


アーサーは頷き、狭い隙間へ視線を向けた。


「問題は、この先へ誰が入るかだね」


全員が隙間を確認する。

ガルシアやダンでは、肩を通すだけでも苦労しそうだった。

ユエルも少し身を屈めてみたが、剣を持ったままでは動きにくい。


その時、後ろから小さな声が上がった。


「あ、あの……」


ノノだった。

手にした槍を胸元へ寄せながら、遠慮がちに一歩前へ出る。


「私なら、通れるかもしれません」


ユエルが振り返る。


「ノノ、行けそうか?」

「は、はい。多分……」


ノノは隙間を覗き込んだ。

狭くて暗い通路だった。奥へ進めば、外の様子もほとんど見えなくなるだろう。


「怖かったら無理しなくていいからね」


ソウタが声をかける。


「だ、大丈夫です。やってみます!」


そう答えたものの、ノノが槍を預ける指先はわずかに震えていた。

もう一度隙間を覗き込み、ぎゅっと手を握る。

それから小さく息を吸い、ゆっくりと吐き出した。


ノノは地面に膝をつき、慎重に身体を滑り込ませた。

ニーアが氷で支えた柱の横を抜け、地面に手をつきながら進んでいく。

瓦礫に服が引っかかるたび、ノノは動きを止めて周囲を確かめた。


奥で何かが小さく軋んだ。


「ひっ……!」


思わず肩をすくめる。

だが、しばらく待っても何も起こらなかった。


ノノはもう一度息を整え、先へ進んだ。


「向こう側、見えるか?」


ユエルが呼びかける。


「は、はい! もう少し先まで行けそうです!」


返事が聞こえ、ユエルはほっと息を吐いた。


その間、ほかの生徒たちは入り口付近で待機していた。

ニーアは氷で柱を支えたまま、周囲の状態を確かめている。


カイルは手にした機械仕掛けの槍を調整しながら、隣にいたクロードへ顔を向けた。


「そういえばさ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「握手のことかい?」

「初対面で断られたから気になってさ」

「知っていたとしても、僕から話すことじゃないよ」

「そっか。……お前、王女様と随分仲いいんだな」

「図書館で何度か会っただけさ」

「へえ、何度もね」


カイルは少し笑って、槍の留め具を確かめた。

クロードはそれ以上何も言わず、建物の奥へ視線を向ける。


その時だった。


「み、見つけました!」


奥からノノの声が響いた。


「人がいます! 足が瓦礫の下に……!」


全員の表情が変わる。


「ノノ、無理に動かさなくていい。様子を教えてくれ」


ソウタが呼びかけた。


「は、はい! 足の上に板が乗ってます。でも、意識はあります!」


ユエルは隙間から奥を覗き込んだ。

ノノの姿はかろうじて見えるが、その先の要救助者までは確認できない。


「くそ、ここからじゃ見えないな」


ユエルが身を乗り出そうとしたところで、アーサーが肩に手を置いた。


「焦っても仕方ない。ノノが中にいるんだ。彼女に任せよう」


ユエルは少しだけ考え、頷いた。


「そうだな」


奥では、ノノが要救助者役の生徒に声をかけていた。


「だ、大丈夫ですか?」

「うん。足が挟まってる設定だから、動けないんだ」

「わ、分かりました。今、助けますね!」


ノノは足元を確認した。

脚の上には軽い板が置かれ、その周囲に瓦礫が積まれている。

一人で動かせそうな板だったが、周囲の木材に引っかかっていた。


「板を外せば、足が動かせそうです!」


ノノの報告を聞いて、アーサーが周囲へ視線を向ける。


「何か道具を渡せればいいんだが」

「それなら、俺の槍が使えるかも」


カイルが一歩前へ出た。


「柄が伸びるから、普通の棒じゃ届かないところにも届くんだ」


カイルは訓練用の穂先を確認すると、近くに用意されていたロープをその先に結びつけた。


「ノノ、こっちからロープを渡すよ。受け取れそう?」

「は、はい!」


カイルが槍を隙間へ差し込む。

手元の機構を操作すると、金属音とともに柄が伸びた。

狭い通路の奥へ、ロープの結ばれた穂先が進んでいく。


「もう少し右です!」

「こっちかな?」

「は、はい! 届きました!」


ノノがロープを受け取った。


カイルは槍を引き戻し、仲間たちへ振り返る。


「これで奥まで道具を渡せるね」


ソウタが頷いた。


「じゃあ、板を動かす前に周りを確認しよう。ほかの瓦礫が崩れないようにしないと」


ノノは周囲の様子を伝えながら、ロープを板へ結びつけた。

外側ではガルシアとダンがロープを持ち、ノノの合図を待つ。


「準備できました!」


ノノの声が響く。


「よし、ゆっくり引くぞ」

「おう!」


二人が慎重に力を込める。

板が少しずつ持ち上がり、周囲の瓦礫から外れていった。


「は、外れました!」


ノノが嬉しそうに声を上げる。

要救助者の足元から板が取り除かれ、ようやく身体を動かせる状態になった。


「よし、あとは運び出すだけだな!」


ダンが笑った。


しかし、ユエルは奥へ続く通路を見つめたまま、眉をひそめていた。


「いや、まだ問題がある」


ユエルが指さしたのは、通路を横切るように倒れた大きな梁だった。


「ノノは通れても、担架は無理だ」


アーサーも梁へ視線を向けた。

太い木材が、通路のほとんどを塞いでいる。


「ほかに出口は?」

「反対側も瓦礫で塞がってる。こっちから出すしかなさそうだ」


ソウタが答える。


「だったら、俺たちでどかせばいいんじゃねぇか?」


ガルシアが腕を鳴らした。

隣でダンも頷く。


「二人で持ち上げりゃ何とかなるだろ!」


だが、ニーアが首を振った。


「そのまま持ち上げると、横の木材に当たる」


梁の周囲には、別の瓦礫が複雑に積み重なっていた。

無理に動かせば、せっかく安定させた通路が再び塞がってしまうかもしれない。


「なるほどね。力任せには動かせないか」


ソウタが考え込む。


ユエルも梁を見つめた。


「俺の魔法で運べれば早いんだけどな」

「君の魔法では、あれを運ぶことはできないだろう?」


アーサーが尋ねる。


「ああ。俺一人なら行ける。あんな大物は無理だ」


ユエルは梁を軽く叩いた。


「邪魔だな、これ」


その言葉を聞いたアーサーが、ふと手元へ視線を落とした。


「邪魔、か」


何かを考えるように、もう一度梁を見つめる。


「アーサー?」


ユエルが声をかけると、アーサーは顔を上げた。


「少し試してみたいことがある」


アーサーは梁の前へ歩み寄った。

一度自分の手に目を落とし、梁へ向かって片手を伸ばす。


「何するつもりだ?」

「ちょっと離れていてくれるかい?」


ユエルが一歩下がる。

アーサーは梁へ手を触れた。


次の瞬間、大きな木材が跡形もなく消えた。


「は?」


ユエルが思わず声を漏らす。


そこには、先ほどまで通路を塞いでいた梁の姿がなかった。


だが、その直後。


ミシッ、と木材の軋む音が響いた。


梁に寄りかかっていた別の木材が、支えを失ってわずかに傾く。

その重みが、ニーアの作った氷の支えへかかった。


「っ!」


ニーアがすぐに地面へ手を向ける。

氷が柱の周囲へ広がり、傾いた木材の下から新たな支えがせり上がった。


小さな破片が床へ落ちる。

だが、それ以上木材が動くことはなかった。


「危なっ!」


ユエルが思わず声を上げる。


アーサーも驚いたように周囲を見回した。


「すまない。支えにはなっていないと思ったんだが」


ニーアは氷の状態を確かめてから、アーサーへ顔を向けた。


「先に言ってと言ったはず」

「……そうだったね。すまない」


アーサーが素直に頭を下げる。

ニーアはそれ以上何も言わず、再び柱へ視線を戻した。


「今は大丈夫。通れる」


その言葉に、ユエルが開けた通路を覗き込んだ。


「お前、それ……」

「ああ。私の魔法だ」


アーサーが静かに答える。


「空間保存、だったか?」

「そうだね」


ユエルは開けた通路とアーサーの手元を交互に見た。


「そんな使い方もできるのか」


アーサー自身も、しばらく何もなくなった場所を見つめていた。


「できることは分かっていたんだ。ただ、こういう使い方はあまりしてこなかったからね」


アーサーは自分の手を見下ろした。

そこにはもう、梁の重みも感触も残っていない。


「おーい! 通れるようになったんなら、早く助けに行こうぜ!」


ダンの声が響く。


アーサーは顔を上げ、仲間たちへ振り返った。


「ああ。そうしよう」


通路が開いたことで、ようやく全員が奥へ進めるようになった。

アルレアとクロードが入り口から担架を運び込み、ガルシアとダンが要救助者のそばへ向かう。


「ノノ、よく頑張ったね!」


アルレアが声をかけた。


「は、はい!」


ノノはほっとしたように笑った。


「カイルもありがとね!」

「いやいや、ノノが頑張ってくれたからだよ」


カイルが笑って答える。


要救助者を担架へ移すと、アーサーとソウタが周囲の状況を確認した。


「出口まではまっすぐだね」

「うん。ただ、足元に瓦礫が残ってる。俺たちで先に片付けよう」


ソウタの言葉に、ユエルが頷く。


「じゃあ、俺は前を見てくる」


ユエルは視界に入る通路の先へ瞬間移動した。

残った小さな瓦礫を脇へ寄せ、搬送できる道を確保していく。


その間にニーアが氷の支えを確認し、アルレアとミアが通路の両側を調べた。


「こっちは大丈夫!」


アルレアが声を上げる。


「右側も問題ないわ」


ミアが答えた。


「よし、運ぶぞ!」


ダンとガルシアが担架を持ち上げる。

二人は普段のように競い合うこともなく、歩調を合わせて進み始めた。


「もうちょいそっち持て」

「分かってるって。お前こそ急ぐなよ」

「急いでねぇだろ」


言い合いながらも、担架が揺れることはなかった。


その後ろをノノとカイルがついていく。

ニーアは最後まで氷の支えを確認し、安全を確かめてから建物を出た。


そして、担架が指定された場所へ運び込まれる。


短い電子音が響いた。


「そこまで。搬送完了だ」


リキトの声に、全員が足を止めた。


「やったー!」


アルレアが両手を上げる。


「無事に終わったね」


ソウタも嬉しそうに笑った。


リキトは端末に表示された記録を確認している。


「まあ、悪くない。少し時間はかかったが、全員で役割を分担して運び出せたな」


リキトは顔を上げた。


「梁をどかした判断も悪くない。ただ、周囲の確認はもう少し慎重にやれ。実際の現場で崩れたら洒落にならないからな」


アーサーが小さく頷く。


「はい。次からは気をつけます」


リキトは端末を閉じた。


「次の組が待ってる。片付けはこっちでやるから、お前らは休んでろ」


そう言って建物へ戻ろうとしたリキトに、アーサーが声をかけた。


「先生、しまった梁を戻しても構いませんか?」

「ああ。元の場所に出しておいてくれ。設営はこっちでやる」


アーサーは頷き、建物へ戻った。

通路には、ニーアが作った氷の支えがまだ残っている。


「ニーア、梁を戻すよ」


アーサーが声をかける。


「分かった」


ニーアは周囲を確かめ、一歩下がった。


アーサーが手を伸ばすと、先ほど消えた梁が元の場所に現れた。

倒れないよう床へ横たえ、リキトに声をかける。


「これで大丈夫ですか?」

「ああ。あとはこっちでやる」


アーサーは礼を言い、建物を後にした。


生徒たちがそれぞれ休憩に向かう中、ユエルはアーサーの隣へ歩み寄った。


「なあ、アーサー」

「何だい?」

「さっきの魔法、便利だな」

「そうかな」

「ああ。あれなら助けにも使える」


アーサーはその言葉に、わずかに目を見開いた。


「……助ける、か」


自分の手のひらへ視線を落とす。


「ただ、邪魔な物をしまっただけだよ」

「それで道が開いただろ」

「そうだね」


アーサーは小さく笑った。


「君たちのおかげでもあるよ」

「俺は見に行っただけだ」

「それでも、助かったよ」

「そうか」


二人は並んで歩き始めた。


「そういえば、ユエル」

「ん?」

「君の瞬間移動も、救助ではずいぶん役に立ちそうだね」

「まあな」

「次はもっと上手く使えるかもしれない」

「お前の魔法もな」


アーサーは少し驚いたようにユエルを見た。

ユエルは前を向いたまま歩いている。


「そうだね。私も頑張らないと」


アーサーが笑うと、ユエルもわずかに口元を緩めた。


その様子を少し離れた場所から眺めていたアルレアが、ソウタへ顔を向けた。


「ねえ、あの二人ってさ」

「うん?」

「なんか、似てない?」


ソウタは少しだけ考え、笑みを浮かべた。


「そうかもしれないね」


アルレアは楽しそうに笑い、ニーアとともに二人の後を追いかけた。

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