第3話:物流クライシスと底辺の逆襲〜安い労働力だけで現場が回ると思ったか?〜
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前回、コスパ至上主義で現場のヒューマンたちを一斉にリストラした大商会のエリート幹部。しかし、現場のノウハウ(インフラ)を甘く見た代償は、たった3日で彼に牙を剥きます。
ジンの「3日待て」という底意地の悪い予言の結末と、痛快な逆転劇をお楽しみください!
ジンの予言から、きっちり3日後。
王都最大の物流拠点であるバルデス大商会の東区倉庫は、文字通りの地獄絵図と化していた。
「違う! それは北区の武具屋行きだ! なぜ西区行きの馬車に積む!」
「ガァァッ!?」
エリート幹部のヒステリックな怒声に対し、虎の獣人が混乱して巨大な木箱を落とす。
ガシャァン! という絶望的な音と共に、中に入っていた高価な魔石のランプが粉々に砕け散った。
「ああああッ! それで今日何個目だと思ってるんだ!」
幹部は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
倉庫内は、行き場を失った荷物と獣人たちで完全に「動脈硬化」を起こしていた。獣人たちは腕力こそあるが、繊細な荷物の扱いや、細かいラベルの文字を読み分ける知能がない。さらに、彼らの巨大な体躯は狭い通路ですれ違うことができず、ただでさえパンク寸前の倉庫内で大渋滞を引き起こしていた。
おまけに、納品遅延に激怒した貴族や大商人からのクレーム状が、朝から雪崩のように幹部のデスクに積まれている。今日中にこの大混乱を収拾できなければ、確実に自分のクビが飛ぶ――いや、違約金で一生奴隷落ちすらあり得る。
「……ヒューマンだ。あいつらなら、あの複雑なラベルの仕分けを完璧に暗記していた……!」
血走った目で立ち上がった幹部は、プライドをかなぐり捨て、王都の裏町へと馬車を走らせた。
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「た、頼む! すぐに文字が読めて、狭い路地にも入れる労働者を回してくれ!」
王都第三職業斡旋所(寄せ場)。
勢いよく扉を開けて転がり込んできたバルデス大商会の幹部は、息を切らしながらカウンターに縋り付いた。
「獣人どもじゃ繊細なピッキング作業が全くできん! 倉庫が回らないんだ! この間クビにした連中でいい、すぐに手配しろ!」
なりふり構わず唾を飛ばす幹部に対し、俺はゆっくりと安煙草の煙を吐き出した。
「おや、これは大商会のエリート様。獣人はヒューマンの3倍働き、給料は半額の『コスパ最強の労働力』だったのでは?」
「ぐっ……そ、それは……! いいから早く出せ! 紹介料ならはずむ!」
「あんた、現場の『適材適所』って言葉を知ってるか? 力仕事だけじゃ物流は回らねえんだよ」
俺が顎をしゃくると、ギルドの奥の待機スペースから、3日間たっぷり休養を取ったヒューマンの若者たちがゾロゾロと姿を現した。
彼らを見た幹部の顔に、パッと希望の光が差す。
「お、お前ら! ちょうどよかった、今すぐ倉庫に戻れ! 私の寛大な措置で再雇用してやる!」
偉そうに命令する幹部に対し、俺は一枚の羊皮紙をカウンターに叩きつけた。
「いいか。あんたが先日『役立たず』とリストラしたこいつらは、単なる荷運びの人足じゃない。文字を読み、空間を把握し、倉庫の構造を熟知している『物流ディレクター(現場指揮官)』という専門職だ」
「ぶつりゅう……でぃれくたー?」
「今日からこいつらを雇い直すなら、専門技術手当込みで、日当は獣人の3倍。いや、以前のお前らが払っていた額の『2倍』である銀貨4枚を払ってもらおうか」
俺の提示した条件に、幹部は目をひん剥いた。
「なっ……ふざけるな! 足元を見る気か! そんな額払えるか!」
「あっそう。じゃあ、倉庫のポーションが全部割れて、貴族様からの納品遅延の違約金で首が飛ぶのを、指をくわえて眺めてるんだな。おいお前ら、今日はもう解散だ。酒でも飲みに行け」
「「「お疲れ様でしたー!」」」
「ま、待て! 待ってくれ! 払う! 払うから頼むぅぅぅッ!!」
泣き叫びながら、エリート幹部は高額な再雇用契約書にサインをした。
インクが乾くのを見届けた俺は、若者たちに向かって頷く。
「よし。お前らの新しい仕事は『荷物を運ぶこと』じゃない。『獣人を動かすこと』だ。お前らの頭脳と、あいつらの筋肉を繋ぎ合わせてこい」
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その日の午後。バルデス大商会の倉庫は、劇的な変化を遂げていた。
「オッサン、その箱はこっちだ! 西区のルートに乗せる!」
「ガルッ!」
「それは割れ物だから丁寧に置け! そこのデカい虎、通路を塞ぐな、迂回しろ!」
現場に復帰したヒューマンの若者たちは、もはや重い荷物を持っていなかった。
彼らはクリップボードのような木の板を持ち、狭い通路をスルスルと抜けながら、迷える獣人たちに的確な指示を出し続けていた。
文字が読めず混乱していた獣人たちは、ヒューマンの明確な指示のもとで、その圧倒的な腕力を100%発揮し始めた。複雑なパズルを解く頭脳と、それを実行する生きた重機(獣人)。
適材適所による完璧な連携作業により、滞留していた荷物は嘘のようにスムーズに流れ出し、夕方にはすべての遅延を取り戻すことに成功したのだ。
その光景を、エリート幹部はただ呆然と立ち尽くして眺めているしかなかった。
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「安物買いの銭失いってやつだな。結局、ヒューマンの若ぇのの給料が倍になっちまった」
仕事終わり。
マリーのいる裏路地の大衆食堂でエールを飲みながら、同僚のバッツがガハハと笑った。
「安い労働力を適当に突っ込むだけで社会が回るなら、誰も苦労しねえよ。現場の知恵とインフラを舐めるからああなるんだ」
「全くだ。それにしても、先生の手腕は見事だったな。あいつら、ギルドに戻ってくるなり『一生先生についていきます!』って泣いて喜んでたぞ」
「だから先生って呼ぶな……俺はサボりたいんだよ……」
俺は安い魔獣肉の串焼きをかじりながら、深くため息をついた。
前世は実家の部屋から一歩も出ず、社会の底辺ですらなく枠外にいた男だ。そんな俺が、異世界で底辺労働者たちの「救世主」のように扱われているこの状況は、どう考えても胃に悪い。
「はい、先生! おかわりのお肉、少しオマケしておきました!」
「お、マリー。気を使わせて悪いな」
「ううん! 先生にはこのお店を紹介してもらった恩がありますから!」
満面の笑みでジョッキを置いていくマリーを見ながら、バッツがニヤニヤとこちらをつつく。
俺は居心地の悪さから逃げるように、冷えたエールを喉に流し込んだ。魔法もチートもない、泥臭くて世知辛い異世界の夜は、今日もこうして更けていくのだった。
最後までお読みいただきありがとうございました!
現場のノウハウを持ったヒューマン(頭脳)と、圧倒的な腕力を持つ獣人(筋肉)の連携。ただのリストラ被害者を「物流ディレクター」というそれっぽい専門職に仕立て上げ、給料を倍に跳ね上がらせたジンの手腕でした。
適材適所で大団円……と言いたいところですが、またしても「先生」としての株が上がってしまい、ジンの胃痛は悪化する一方のようです(笑)。
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