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「これ……」
チェリルはひとしきり笑ったあと、手に持っていた魔石を見つめた。
「フリの魔石、お墓に埋めてあげなきゃ。家の裏手にお墓があるの」
淡く笑うチェリルに、トライワイトがふうんと魔石を見下ろしてからチェリルを見た。
「せっかくだ、持ってろよ」
「え?」
「形見なんだからよ」
その言葉にチェリルはぱちりと一度瞬いた。
「持ってて、いいかな……」
「そのほうが師匠も喜ぶんじゃねぇの。お前みたいな奴、心配でしょうがねぇだろうし」
酷い言い草だ。
でも、と思う。
「持ってたいな」
取り返したフリの魔石。
メルベルナに取られていたのだから、大事にしてあげたい。
「持ってろよ」
「うん、そうする」
背中を押されて、チェリルは清々しい顔で笑った。
その後、スレッラが戻ってきてホールに行くと、プルートだけでメルベルナは消えていた。
メルベルナの屋敷だったので、どうにか逃げることが出来たようだ。
トライワイトが「つるっぱげにしてやりゃよかった」と言っていたが、さすがに可哀想だろう。
ちなみにスレッラはトライワイトとチェリルが主従契約をしたことを知って、絶望していた。
師匠を置いて帰れないよな、と申し訳なくて謝ったら。
「まさか、ずっと女のままでいなきゃなのか……?」
と真っ青になっていた。
それはそうだ。
このまま順当にいけば、スレッラは女のまま在籍して女のまま卒業することになる。
とんだ黒歴史の爆誕だ。
ちなみにトライワイトに弟子がそんな経歴でいいのかとスレッラが詰め寄ったら「俺じゃねぇから別にいい」と言われ崩れ落ちていた。
悪魔だ。
そして現在。
教室の外に人が鈴なりだ。
それはそうだろう。
今、チェリルの横にはトライワイトが退屈そうに座っている。
従として。
学校に戻ってきて報告したら、校長室にまで連れて行かれて確認された。
トライワイトが何度も自分の意志なのか聞かれて、うざくなってキレていた。
そんなわけでトライワイトは青年だったり猫だったり少年だったりとした姿でチェリルと一緒にいる。
オフィリアとライは目玉を落として転がしそうだった。
ただトライワイトが黒の魔法使いだと騒がれないなと思っていたら、表に出るときは顔を変えていたらしい。
そんなことが出来るんだと思いつつ、この顔だもんなと納得する。
どう考えてもトラブル吸引の臭いしかしない。
そんなわけでクラスメイトは授業中だって気もそぞろにこちらを伺ってるし、休み時間や放課後はチェリルたちのことを興味津々に追いかけている。
まだ話かけてくる猛者はいないけれど、時間の問題かもしれない。
ちなみに名前はクロロ呼びだ。
さすがに名前は有名すぎるし、以前の黒猫と同一人物だと校長室で説明したからだ。
そんなことをつらつら考えながら、チェリルはトライワイトを見やった。
くあ、とトライワイトが小さくあくびをしたら、きゃあっと黄色い悲鳴が上がる。
なんか面白くない。
チェリルは半眼をトライワイトに向けた。
「猫でいてよ」
「何でだよ」
了承ではない言葉にむっとして、チェリルは勢いよく立ち上がると教室を出た。
もちろんトライワイトがついて来る。
なんなら歩幅が違うので横に並ばれた。
「何拗ねてんだ」
「……落ち着かない」
呟くようにぶすっと言えば、トライワイトが不敵に笑った。
「周りか? それとも俺の見た目か?」
「……」
「ふぅん」
黙り込むと、にやにやとトライワイトが笑う。
そして不意打ちで頬にキスをされた。
「ひゃあっ」
「慣れろ。ずっと一緒なんだからな」
涼しい顔でそんなことを言ってくる。
学校に戻ってから、ずっとこんな感じだ。
なんか翻弄されている。
自室では今までどおりのくせに、それ以外では好き勝手に遊ばれている。
釈然としない。
(やられっぱなしじゃないんだから!)
そんな闘争心を片手に、いきなりトライワイトの胸元を掴む。
服をぐいと引っ張ると、ほんの少しトライワイトが目を丸くした。
してやったりと頬にキスでもぶちかますぞと思ったときだ。
バン! といきなり近くの窓に何かがぶつかる音がした。
大きな音に、二人そろって目を丸くして窓を見る。
チェリルは頬にキスなどすっかり忘れて、服から手を離した。
「げ」
トライワイトの唇から低い声が漏れる。
「ねえぇぇぇ! やっと来れたあ!」
そこにはベリーショートになったメルベルナが張りついていた。
「うわ!」
思わず体が後ずさってしまう。
メルベルナは窓を勢いよく開けて入ってきた。
「助けてよぉぉ」
ものすごく悲愴な顔をしている。
「何でここにいるの!?」
メルベルナは逃げたはずなのに、何故わざわざこんなところに戻ってきているのか。
チェリルの疑問に、メルベルナはキッとトライワイトを睨みつけた。
「あんたがこんな頭にしたから、まともに逃亡も出来ないのよ!」
「それなのによくここに来れたわね」
「ため込んでた魔道具でも使ったんだろ」
心底面倒くさそうなトライワイトが気のないそぶりで答えた。
それになるほどと頷く。
「もうここにいる必要ないでしょ? 家に帰るんでしょ? 何でもするから面倒見てちょうだいー!」
言いながらメルベルナはトライワイトの足にしがみついた。
大人が全力で年下になりふりかまわず縋りついている。
正直見たくない光景だ。
「帰るわけねぇだろ」
「どうして!?」
「俺はチェリルと主従魔法を結んだからな。そばを離れる気はねぇ」
「嘘でしょ!? 私のときはあれだけ嫌がった癖に!」
「当たり前だ」
驚愕するメルベルナに、トライワイトが吐き捨ててげしりと蹴りつける。
メルベルナは悲鳴を上げてトライワイトの足から手を離した。
女にする態度ではない。
けれどメルベルナも負けなかった。
再び縋りついて、離すもんかと力を入れている。
「そんなあ、お願いよ。捕まっても保護観察者がいたら外にいられるでしょ。トライワイトは適任でしょ?」
「だれがそんな面倒抱え込むか……ああ、でも、そうだな」
そういえばそんな制度もあったなとチェリルがぼんやり考えていたら、トライワイトがにやりとろくでもない事を考えついたように口端を上げる。
そしてメルベルナを見下ろして、高貴な顔で傲慢に言い放った。
「俺はチェリルの従だからな。チェリルの従になるなら類友だ、多少は面倒みてやる」
「ちょっと! 巻き込まないでよ!」
とんでもない提案にチェリルは悲鳴を上げた。
絶対お断り案件だ。
しかしトライワイトにはスルーされてしまった。
「従になれば首輪がつくからな。俺もいるし外にいられるんじゃねぇの?」
「いやいやいや、待って待って」
「くっ……背に腹は代えられないわ」
「あんたも早まるんじゃないわよ!」
メルベルナが決死の覚悟で決断するのを、チェリルはぶんぶんと首を振りながら拒否した。
トライワイトが「魔法もまだ少しは使えるしこき使ってやれ」などと言っている背後で、スレッラが倒れそうな顔で立っていた。
声をかけようとして、話を聞いていたらしい。
そうだよね、そうなるよねと思っていたのに、メルベルナが勢いよく声を上げた。
「従になるわよ! ほら!」
「魔石出さないでよ!」
とんでもない事態にトライワイトを睨みつければ、にやりと笑われる。
心底楽しそうだ。
その顔を見て、チェリルは声を張り上げていた。
「ライトの馬鹿ー!」
「そんな俺が大好きなくせに」
すかさずそんな言葉を返されて、チェリルはぐうの音も出なかった。
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