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いつかこの復讐が灰になるまで 〜すべてを奪われた青年は、紅蓮の炎で空虚な獣を焼き尽くす~  作者: 不知火 ヌイ


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7話  『不協和音のプレリュード』(2)

 ショッピングモールの屋外に広がる荷捌きスペースは、さながら灼熱の地獄と化していた。


 次々と湧き出す虚獣たち。

 その数は三十を超えていたが、それらすべてを相手取る奏斗の瞳に、焦りの色はなかった。


「オラァ!!」


 奏斗が放つ紅蓮の炎が、夜の闇を真紅に染め上げる。

 圧倒的な火力の前に、虚獣たちは近づくことすら叶わず、次々と灰の山へと変えられていった。


「……あんたらの無念ごと、俺が灰に還してやる」


 炎の中で、奏斗は誰に聞こえるでもない小さな声で呟いた。


 彼らは子どもを奪われ、殺され、死してなお怪物として操られた哀れな被害者だ。

 せめてこれ以上、望まぬ戦いをさせないために。


 奏斗は両手から渦巻く炎の竜巻を放ち、残っていた十体以上の虚獣を丸ごと飲み込んだ。

 断末魔の叫びと共に、荷捌きスペースを埋め尽くしていた死の群れが、塵となって風に攫われていく。


 その時、インカムから順と怜の声が届く。


『奏斗、こちら怜。子供たちの保護、完了したわ。怪我はない。これから安全なルートを通って、一階のエントランス側へ退避する』


『奏斗サン、無理しないでくださいよ! 俺らも子供たちを逃がしたらすぐに加勢に行きます!』


「心配すんな。こっちもすぐ片付ける」


***


 一方、その頃。


 奏斗が相手取る虚獣の群れのすぐ向こう側、積み上げられたコンテナの陰で、夜霧は標的である本体と対峙していた。


「見つけたぞ、クソ虫」


 夜霧は右腕を黒い『衝角』へと変形させ、弾丸のような速度で地面を蹴った。


 狙うは胸部の奥で鼓動する『核』。

 必殺の一撃が、虚獣の胸部へと突き刺さ――。


 ――ガギィンッ!!  火花が散り、甲高い金属音が夜の荷捌き場に響き渡った。


「硬いな……」


 夜霧は驚愕に目を見開いた。彼女の衝角は鋼鉄のコンテナすら容易に貫く。

 だが、虚獣の黒い装甲はわずかにキズが入っただけで、完全に弾き返されたのだ。


「ギチチチ……」


 虚獣が不気味な音を立てて嗤う。


 接近した夜霧は、カマキリ虚獣の異様な雰囲気に気づく。

 全身を覆う鈍く光る硬質な装甲。そして、子供を誘拐するという普通の虚獣なら行わない行動。

 そこから導き出されるのは――


「こいつ……十三骸使徒から力を与えられた、特異個体か……!」


 夜霧がそれに気づいた瞬間、虚獣の両腕の鎌が猛烈な速度で振り下ろされた。

 防御に回るが、外骨格ごと肉を深く抉られ、吹き飛ばされる。


 コンクリートの壁に叩きつけられた夜霧の口から血がこぼれる。


 追撃とばかりに、虚獣が両腕を交差させ、巨大な不可視の刃『鎌鼬』を放つ。

 躱す余裕も、外骨格を出す間もない。直撃すれば両断される。


 死を覚悟した夜霧の視界を、極太の『炎の柱』が横切った。


 轟音と共に、炎が鎌鼬を完全に焼き尽くし、相殺する。


「てめぇ、仕留められてねぇじゃねぇか。偉そうに吠えてたくせに」


 瓦礫の中から顔を上げた夜霧の前に、肩で息をする奏斗が立っていた。


「黙れ。あの虚獣、十三骸使徒に力を与えられてる。並の攻撃じゃ核まで届かない」


 奏斗は虚獣の黒い装甲を睨みつけた。

 分厚い装甲。奏斗の炎でも、表面を焦がすだけで致命傷を与えられるか危うい。


 どうする――。

 装甲が分厚すぎて、核まで溶かし切る前に奏斗の体が限界を迎える。

 奏斗は、『核への道(深い穴)』だけを命懸けで溶かして作り、残りを夜霧にぶち抜かせることにした。


「……おい、馬鹿生意気野郎」


 奏斗は虚獣から目を逸らさずに言った。


「俺が奴の装甲を一点集中で溶かし、核への穴を開ける。そこに、お前の全力を打ち込め」


 夜霧は息を呑んだ。


「正気か? あの装甲を溶かすには多少時間かかるだろ、その間、お前も無事じゃ済まないぞ」


「足手まといのお守りは御免なんだろ? グダグダ言ってねぇでさっさとやるぞ」


 奏斗は有無を言わさず虚獣の元へ向かう。


 鎌鼬を紙一重で掻いくぐり、虚獣の元へたどり着いた奏斗は胸部の装甲に両手を当てる。


「『燼滅炎……溶突ようとつ』ッ!!」


 ただ炎を放出するのではない。一点に圧縮し、放つ。

 炎の色が真紅から、超高温の青白せきはく色へと変化していく。


「おおおおおッ!」


 異常な高熱に、奏斗自身の両手の皮膚が焼け始め、激痛が脳を揺らす。


 虚獣は苦し紛れに鎌を振り回し、奏斗の背中や肩を容赦なく切り裂いた。

 血が舞うが、奏斗は決して炎を緩めない。


 そして――数秒の拮抗の末、分厚い装甲が飴のようにドロドロに溶け、深々とえぐれる。

 だが、核へ届く直前で、奏斗の体と炎が限界を迎えた。


「今だ! ぶち抜けェ!!」


 奏斗は、虚獣の元を離れ、トドメを夜霧に託す。

 夜霧は全身のバネを解放し、黒い流星となって夜の闇を駆け抜ける。


 奏斗が命懸けで溶かし、抉り開けた装甲の穴。

 そこに、夜霧の最大速力を乗せた黒い衝角が突き刺さった。


 ――ミキィッ!!


 ガラスが砕け散るような音と共に、虚獣の身体深くの核が完全に破壊された。


 ピタリ、と虚獣の動きが止まる。


 巨躯が内側から崩壊し始めたその時、虚獣の喉の奥から、怨念に塗れた不気味な声が響いた。


「アァ……アァ……ア……」


 特異個体のカマキリ虚獣は崩れ落ち、やがて完全に塵となって消滅した。


 静寂が戻った荷捌きスペース。

 虚獣が塵になったことを見届けた奏斗はその場に座り込み、荒い息を吐きながら焼けた両手をだらんと垂れる。

 

 夜霧もまた、衝角を解き、壁にもたれかかって息を整えている。


『奏斗! 聞こえる!? 大丈夫!?』


 インカムから、怜の声が響く。


「ああ、大丈夫だ。こっちも討伐完了だ」


『よかったわ。子供たちも怪我一つなく無事よ。順のシールド様々ね』


『俺、頑張りましたよ!』

 

 順の明るい声が聞こえ、奏斗は小さく笑みをこぼした。


 通信を切り、立ち上がる奏斗。無言でこちらを見ている夜霧へと視線を向けた。

 その目には、戦闘前の様な敵意は無かった。


「……てめぇ、次は絶対に俺の射線を塞ぐなよ」


「そっちこそ、二度と私の邪魔をするなよ」


 決して相容れることのない二人。

 だが、その罵り合う言葉とは裏腹に、二人の間に先程までの刺々しい殺意はなかった。


 この死闘を経て、互いの確かな実力と復讐への執念だけは、お互い理解していた。


「さて、さっさと帰るぞ」


「……指図するな」


 軽口とも悪態ともつかない言葉を交わしながら、二人は歩き出す。

 互いの憎悪の対象である『黒焔』、そして十三骸使徒。


 彼らとの本格的な闘争の始まりを予感させるように、冷たい夜風が、不協和音を奏でる四人の部隊の背中を、静かに押していた。


紅莉隊、仲良くしてね。


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