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いつかこの復讐が灰になるまで 〜すべてを奪われた青年は、紅蓮の炎で空虚な獣を焼き尽くす~  作者: 不知火 ヌイ


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5話 『夜の霧』

 深い闇の底から奏斗の意識を引き上げたのは、降り注ぐ温かな光だった。


「いくよー! きゅーちゃんの愛で、みんなに癒しをデリバリー! 『奇跡のステージ』、オンステージ!」


 甘い声と共に、キラキラとした星屑のような光が奏斗の全身を包み込んでいた。


 痛覚が麻痺するほどの激痛を発していた全身の火傷や骨折が、みるみると治っていく。


 ゆっくりと目を開けると、ド派手なフリフリのアイドル衣装に身を包んだツインテールの少女が、奏斗の顔を覗き込んでいた。


「あらら~、お目覚めだね! 今回も派手にやっちゃったねぇ、奏斗きゅん!」


「……救、ちゃん……?」


 薬師寺やくしじきゅう

表の顔は国民的アイドルグループ『Starlight Cure!』の不動のセンターにして、裏の顔は霊対室・医療部門に所属する極めて希少な治癒師(ヒーラー)


 彼女の能力『奇跡のステージ』は、対象の生命力を活性化させ、肉体のみならず精神の疲労すらも癒す。凄惨な瓦礫の山が広がる埠頭に、彼女の放つアイドルのオーラはあまりにも場違いだった。


「おおおお、本物のきゅーちゃんだ……! 生『奇跡のステージ』、尊すぎる……!」


 背後で、順が顔を真っ赤にして拝むように手を合わせている。


「……ライブの途中に抜け出して来たの? 相変わらずね。マネージャーが泣くわよ」


 怜は腕を組み、救のハイテンションを少し煙たがるようにため息をついた。


「も~、怜ちゃんは相変わらずつれないんだから! でも、響也様からのお願いなら、地球の裏側からでも駆けつけちゃうんだからねっ☆」


 救が頬に手を当てて恋する乙女の顔をした視線の先では、先ほどの青年が、銀髪の少女を乱暴に肩に担ぎ上げていた。


 霊対室・最高戦力『六戦神ろくせんしん』が弐席、”雷轟らいごう紫電しでん 響也きょうや


「奏斗。よく生きてたなお前」


「響也、さん……」


「今はあんま喋るな。とりあえず数日休んで、動けるようになったらお前ら全員荷物まとめて、とっとと本部に来い」


 響也は普段の軽薄な笑みを消し、鋭い視線で、担いている少女を見ている。


「こいつと、お前らについて話がある」


 響也はそう言い、雷の如き速度で夜の闇に消えていった。


***


 数日後――


 霊対室本部、地下最深部。

 総司令室に繋がる重厚な扉の奥で、厳格な空気が部屋を支配していた。


 壁一面のモニターには日本各地の虚獣出没情報が映し出され、その中央のデスク越しに、霊対室のトップである"天蓋てんがい"産土神うぶすかみ 厳十郎げんじゅうろうが深く椅子に腰掛けていた。


 厳十郎の傍らに立つ響也が、手元のタブレットを見ながら淡々と報告する。


「……総司令、検査結果が出ました。彼女は、数年前から続いている誘拐事件の被害者の一人であり、複数の虚獣の核が埋め込まれた半虚獣の改造人間でした。 また、驚くべきことに、奏斗の幼馴染である『神楽美咲かぐらみさき』のDNAが組み込まれています」


 厳十郎の眉がわずかに動く。


「なるほど…… 組み込まれている、というのは、どういうことかな?」


「素体は誘拐された子供で、虚獣の核を埋めるためにDNAが組み込まれたという理解です」


「となると、彼女は……」


「ええ。 神楽美咲は『人間と虚獣の核の適合力を上げる特異体質』を持っているのではないかという見解です。奴らは、その特異体質を何かしらの形で利用し、このような人体実験を繰り返していると考えられます」


 響也の声には、吐き気を催すほどの嫌悪感が混じっていた。

 

「紅莉隊の報告が確かなら、やつは通常の虚獣よりも、賢く、強い。もし、敵が半虚獣を造る技術を完全に手の内にしていたら、とても厄介です」


「そうだな、半虚獣を造っている敵の目的が読めないが、オリジナルである神楽美咲本人は、まだどこかで生かされている可能性があるな…… 響也君、この情報、紅莉隊には?」


「神楽美咲の件は伝えていません。奏斗はこれを聞いたら何をするか分かりませんから」


「そうだな。この情報の管理は君に一任する」


 コンコンコンコン――


 厳十郎が呟いた時、部屋の扉がノックされる。


「入れ」


「失礼します」


 扉が開き、奏斗、怜、順の三人が入室してくる。

 その後ろから、特殊な拘束椅子に厳重に縛り付けられた銀髪の少女も運ばれてくる。


「よく来てくれた、紅莉隊の諸君」


 厳十郎は穏やかな声で迎え入れる。


「総司令、お久しぶりです」


 一礼する紅莉隊の三人。


 少女は、静かに総司令を睨み付けている。


 「さて、早速本題に入ろう。少女よ、君を造り出した者のこと、そして君について話してもらおうか」


 少女は鼻で笑う。


「……フン。私から情報を聞き出したかったら、私をお前たちの組織に入れろ。そして私に虚獣狩りをさせろ」


「お前、今の状況理解できてるか? 取引できる立場だと思ってんのか?」


 響也が静かに凄むが、少女は怯まない。


「お前らは、私の持つ情報が喉から手が出るほど欲しいはずだ、引き出したいなら、それなりの取引は飲め。言っておくが、拷問されても私は吐くつもりは無い、時間のムダだ」


 しばしの沈黙の後、厳十郎が頷いた。


「……よかろう。君の提供する情報次第で、協力者として生かす道も検討しよう」


「そこの金髪と違い、お前は懸命な判断が出来るようだな。一回しか言わないから頭使ってよく聞けよ」


 少女は響也を煽ったあと、少しだけ安堵したように息を吐き、静かに語り始めた。


「私を造ったのは、人間と同等の知能と、圧倒的な力を持つ特殊な虚獣たちだ。虚獣の分際で、寄り集まって組織をつくっていた。名前は『十三骸使徒じゅうさんがいしと』」


「虚獣が組織を……」


 驚き、思わず声を漏らす怜。


「奴らの目的は『救済』。全人類を虚獣に変えることで、人間による争いのない世界を創るというくだらん内容だ」


「なぜ虚獣が争いの無い世界を作ることを望んでいるのかな?」


 厳十郎が問う。


「それは知らん。ただ、十三骸使徒じゅうさんがいしとは奴らのトップの命令にしたがって動いている。そのトップの虚獣が『救済』を謳っていた。という所までしか私は知らない」


 少女の口から語られる言葉に、順と怜が息を呑む。


「あとは奴らについては、何体かの見た目・能力以外に、知っていることは何もない」


「そうか。では、君の話を聞かせてもらおうか」


 少女は、少しの沈黙のあと、再び喋り始める。


「……私は奴らの管理する施設で造られた『半虚獣の改造人間』だ。私の心臓部には、複数の虚獣の核が埋まっている」


「なっ……」


 驚く紅莉隊。


「改造される前の記憶は?」


 今度は響也が問う。


「無い。あるのは虚獣の核が埋め込まれてからの2年の記憶だけだ」


「そうか。紅莉隊、お前らにも情報共有をしておこう…… こいつの言っている『半虚獣の改造』、これは合っている。しかも、素体は数年前に誘拐された少女だ」


「え…… そんな事がありえるんすか」

 

 驚愕する順。


 奏斗は、考え事をしているかのような険しい顔で床を見ながら、淡々と話を聞いている。


「核を埋め込まれてから、先日、紅莉隊の前に現れるまではなにを?」


「奴らの研究施設で、日々、人体実験だ。核の適合具合や、能力の出力度、肉体の強度の確認とかな。散々切られ、抉られ、一通り痛い目には遭った。その中で、ある事がきっかけで脱走した」


「その、あるきっかけとは?」


「……あんな地獄のような場所で、私には唯一の『友達』がいた。だがそいつは……たまたま施設に来た十三骸使徒の一人の『実験』という名の道楽で、殺された。許容を超えた炎で生きたまま身体を焼かれ、苦しみながら死んでいった」


 少女の赤い瞳から、生々しい憎悪が溢れ出す。


「その時、私はあの虚獣を殺すことに決めた。数日後、施設を脱走し、今はそいつを探している。炎の虚獣・『黒焔こくえん』だけは、私が見つけ出して殺してやる。」


 ――炎の虚獣。

 それを聞いた瞬間、奏斗の心臓が早鐘のように打ち始めた。


「……おい。そいつは……黒い炎を使うか?」


 奏斗が怒りをにじませながら問う。


 少女は驚いたように目を見開いた。


「そうだが。お前、奴を知っているのか?」


 間違いない。九年前、両親を焼き殺し、美咲を奪った宿敵。


 全身の血が沸騰し、奏斗の理性を憎悪が焼き尽くしていく。


「それ以外に情報は無いのか……? 知ってること全部吐けェッ!!」


 奏斗は拘束椅子に駆け寄り、激しく揺さぶった。


 怒りのあまり、奏斗の全身から無意識に炎が噴き上がり、総司令室の空気を一気に焦がし始める。


「奏斗サン、落ち着いて!」


「奏斗! やめなさい!」


 順と怜が止めに入るが、暴走した奏斗の炎に弾き飛ばされる。


「今の見た目はどうなってる! 炎以外の能力は! 知ってること、全部喋れェッ!!」


 炎が部屋の機材を溶かし始めた、その瞬間だった。


「――静まりなさい」


 厳十郎の静かな、しかし絶対的な重みを持つ声が響いた。

 奏斗の全身から立ち昇っていた炎が、音もなく一瞬で掻き消えた。


 六戦神ろくせんしん・筆頭、"天蓋てんがい"産土神うぶすかみ 厳十郎げんじゅうろう


 彼の能力によって、奏斗の炎は一瞬にしてた立ち消えた。


 圧倒的な強者の威圧感に、奏斗だけでなく、少女すらも悪寒を感じ、息を呑んで硬直する。


「紅莉くん。君の怒りは理解するが、今は君の質問の時間ではない。少し身体と頭を冷やしたまえ」


 厳十郎はゆっくりと立ち上がると、奏斗と少女を交互に見据えた。


「互いの宿敵が同じであるならば、話は早い。――少女よ、君の要望通り、霊対室への入隊を許可しよう。君は今日から、紅莉隊のメンバーだ」


「は……?」 「え……?」


 奏斗と少女の声が見事にハモる。


「私の部隊に!? ふざけないでください、こんな得体の知れない半虚獣と……!」


「こっちのセリフだ! こんないきなり襲いかかってくる奴と組めるか!」


 互いに殺意のこもった視線で睨み合う二人を、響也がやれやれと制した。


「総司令の決定は絶対だ。お前らには拒否権はねえ」


 響也は少女の拘束を解きながら、ニヤリと笑う。


「それに、お前ら紅莉隊は今回のS級相当の虚獣撃破の功績を認められ、A級部隊へ昇格だ。これからは、A級案件の最前線で十三骸使徒とやらの尻尾を追うことになる」


 A級昇格。黒焔への復讐を果たすため、そして一年前の親友・隼人との『最強の部隊になる』という誓いを果たすため、奏斗は唇を噛み締めながらもその提案を飲む。


「おいお前……名前は」


 奏斗が睨みつけながら問うと、少女は不貞腐れたようにそっぽを向いた。


「名乗る必要はない」


「んだとコラ……」


 奏斗が少女に殴りかかろうとする。順がそれを静止する。


 それを見た厳十郎、奏斗と少女に向かって威圧感を放ちながら言う。


「仲良くしたまえ」


 こいつに逆らうのは不利益、と判断した少女は、自身の名前を名乗る。


「……夜霧よぎりだ。親友が、そう付けてくれた」


 黒い鎧を纏い、夜の霧に紛れて戦う姿から名付けられたその名前。


「そうか―― 今日からお前は、紅莉隊の夜霧だ。足手まといにだけはなるなよ」


「黙れ、すぐにお荷物になるのはお前の方だ、ザコ隊長」


 こうして、共通の敵を持つというただ一点のみで結びついた、最悪の相性を持つ復讐者たち。

 十三骸使徒という圧倒的な絶望を前に、不協和音を奏でつつも、新生・紅莉隊が産声を上げた。


入れたら何か話長くなりすぎたのでここで供養


響也は合流後、順と怜にC級がA級任務を代理遂行したことについて大・説・教。

ですが討伐したことについては褒めていました。


響也は救ちゃんのマネージャーを脅し、ライブ中の救ちゃんを呼びつける。


そして夜霧を担いだまま仙台→東京に自分の足で移動(所要時間1時間)

その足で厳十郎の元へ向かい、刃金隊が殉職したこと、紅莉隊がA級虚獣を倒した事を直接報告しています。


「仙台・第7号廃棄埠頭に出現したA級虚獣の件。A級第3部隊、隊長の刃金以下5名、全員の殉職を確認しました」

「……そうか。広域戦闘の制圧力はピカイチだったんだがな、残念だ」


的な感じで。



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