第五十六話 右と左
「おめでとう、春。」
「ありがとうございます、蒼真様!」
「今日から僕の妹だねぇ!」
「はい!よろしくお願いします、蒼真お兄様!」
「うんうん!じゃぁこれ、お祝いの贈り物!」
「わぁ!ありがとうございます!開けていいですか?」
「もちろんだとも。」
結婚の儀の後、瑞璃家に戻った所で、蒼真から渡された木箱。
まだ全員揃っている瑞璃家の居間は大賑わいだった。
「何をもらったのじゃ?」
「まだ開けてませんよ、皇王様!」
「この中身によって、我々の贈り物も考え直さねばならぬかもな・・・」
「ええ、そうなりますわ・・・」
「皆さん、大袈裟ですよ。しかもこれ、本来は春のものですからねぇ。」
首を傾げながら春は箱を開けた。
そこには透明の石・・・・無の神霊石が入っていた。
「にょっ!神霊石にょ!?」
「本来は私のってどう言う事ですか?」
「まぁまぁ、握って残響を込めてごらん。」
春は言われるがまま、神霊石を手に取り集中した。
ポンッ!!
白い煙があたりに溢れる。
皆咳き込んだので、侍女が慌てて窓を開けて煙を出した。
くぅぅ!
「えっ・・・・コンっ?」
キュッ!?
「あれ?コン居る?じゃぁこの子・・・」
秀真は嫌な予感がした。
また・・・・金がかかるのか・・・・と。
「その子はあれだね、右側だよぉ。」
やっぱり・・と秀真は頭を抱え、皆は驚いていた。
どこから見てもコンと同じ狛狐。
そして蒼真の言う右側。
そう、瑞璃家の鳥居横に居る狛狐だ。左側はコンの召喚と共に像が消えて、ようやく新しい狛狐が座ったばかり。
そして今、右側と言って召喚されたならおそらく像がまた無くなっている。秀真はそれに頭を抱えていたのだ。
右側の狛狐は春に擦り寄り甘えている。
コンは嬉しくて跳ね回っていた。
「これで揃ったねぇ。」
「・・・・俺だけ居ませんが。」
「あ、功まだだっけ?」
皆が少し哀れんだ顔で功を見つめる。
頭をぽりぽりかく蒼真。
しろやウル達は神獣同士で戯れていた。
「あははは、まだ揃ってなかったねぇ・・・・」
「いや蒼真様!わかって言ったでしょ!?」
「あははは・・・・なんのことだい?」
「ひどいです・・・」
悠真が目を瞑り頷きながら功の方をポンポンと叩く。
ポピンはしろをそっと功の頭の上に乗せた。
セスは真っ赤なクリクリの目をウルウルさせながら、功を見つめていた。
「何だよ!憐れむなっ!でなんだよお前わっ!」
「私のはくに何を言うにょ!」
「何をって!こいつは人の頭の上で何這いずり回ってるんだよ!?」
「慰めてくれてるにょ・・・惨めな功を・・・」
『あはははは』
皆が大笑いした後、一瞬だけ蒼真は真顔になった。
その顔を見逃さない悠真。
「で、兄貴。功の眷属について何が言いたいんだ?」
「悠真は相変わらず鋭いねぇ。」
静まり返った居間。
皆が蒼真の【先読み】の加護が発動するのを待ち構えた。
「次の祠・・・・だね。」
祠・・・・聞きたくない言葉だった。
過去数回の祠での恐怖が皆蘇る。
「祠はどこにあるのですか?」
「それはアルスティアに戻れば分かりますよ、セイラ様。今日はめでたい日なのですから、もうやめましょう!」
それもそうだと、皆は再びたわいもない話で盛り上がった。
「春!眷属の名前はどうするのだ?」
「うーん、どうしよっか。相方がコンな訳でしょ・・・・」
「キョン!キョンはどうだにょ?」
『却下!』
「にょ・・・・」
「ゴンはどうかしらぁ」
『ややこしい!』
「あらぁ・・・」
「狐でいいじゃねぇか!」
『黙れ!』
「なぜ俺には皆厳しいんだ・・・」
「なら真っ白な毛並みが雪みたいだから、冬・・・トウってのはどうだ?」
『・・・・いい』
「メティって名付け上手よね。」
「そ、そうか・・・」
「いいんじゃないか、トウ」
「うん!あなたは今からトウよっ!」
くぅぅ!
コンとトウは仲良くじゃれ合っている。
そこに他の神獣達も加わり賑やかな動物園のようだった。
「でもねぇ、君達はまだこの子達と一緒に戦うことができていないんだよ。」
「・・・確かに兄貴のカラス達はすごいよな。」
「もっと眷属との絆を深めるといいよ。一緒に苦難を乗り越えるのも、この子達の役目なんだからねぇ。」
「さて春、あなたはアルスティアに戻ったら早速公務がありましてよ。」
「ええぇぇー」
「ははは、頑張るのだ春。」
「ラティス、あなたもですわよ。」
「・・・はい」
「いつ戻るにょ?」
「明後日には出ないといけないな。」
「春、明日は実家に帰ったらどうだ?」
「ん?どうして?」
「どうしてって・・・・特に理由もないが。」
「えーっ悠真も一緒なら帰る!」
「・・・一緒って同じ敷地内じゃねぇか。」
「そうだな春。結婚した後だが、親子水入らずで一日過ごしたら良い。お前にも特別休暇を出そう。」
「親方様、宜しいのですか?」
「かまわぬとも。春、親孝行しなさい。このバカ息子みたいにフラフラしてるだけではダメだぞ。」
「承知しました、親方様!」
「ポピン、明日は山に連れてってやるよ。」
「山?何するにょ?山菜でも取るにょ?」
「神霊石の山だよ!」
「!!ほんとにょ?」
「ああ、悠真も行くだろ?」
「そうだな、メティとユズハはどうする?」
「私は一緒に行こう。」
「私は、できたらもう一度【清流の街】へ言ってみたいの。」
「清流の街?なぜだ?」
「実はあの時、珍しい薬草が生えているのを見つけててねぇ・・・。」
「なら、私がユズハと一緒に行こう。」
「あらぁ、ごめんねラティ。」
「問題ないさ。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ここにょ!?」
「あぁ、昔はここでよく無の神霊石が取れたんだってよ。」
「俺たちのもここで見つかった神霊石なんだ。」
「にょおぉ・・・・・・ちょっとはく!」
はくはポピンの右目を尻尾で優しく撫でる。
神眼を発動させたポピンは周りをじっくり見渡していた。
「んー。特に反応がないにょ。」
「だろうな。ここで見つかったのはもう何百年も前らしいから。」
「しかし、昔もポンポンと掘り出せたわけじゃないんだろ?」
「さぁな。でもここは水晶の鉱脈で、残響が蓄積して神霊石に変化した。」
「一部だけが変化するのか、この鉱脈の水晶全部が変化したのかは疑問だな。」
「うーん、なんか。なんかありそうでなさそう。」
「どっちだよ。」
白がポピンの左側の肩に位置を変えて顔を擦り付け、ポピンと同じ方向を見る。
ブォオン・・・・
ポピンとはくの前には、いつも神眼が発動させる時に現れる術印が大きく現れた。
ポピンの動きが止まる。
「な、な、はく?何したにょ?」
シュゥ!?
「わかんないって・・・でも・・これ・・」
「どうしたんだポピン?」
「今・・・はくの視野と重なってるにょ。」
「だから・・・はくが見てるものが私にも見えてるにょ。」
「?」
「はく・・・・あそこにすごい光があるの見えるにょ?」
シュウゥ!!
「あの隙間から入れるにょ?行ってくれる?」
はくは言われた場所にするすると入り込んでいく。
ポピンは黙ったまま、目を閉じた。
「これは・・・これわぁっ!!!」
「何だよポピン!?」
「でっかい神霊石・・・・・・」
『ええっ!?』
「結構奥にょ・・・」
「見えてるのか?」
「うん・・・」
「間違いないのか?」
「この光の強さは間違いないにょ!」
「親父達に報告して掘る準備をしてもらおう。」
帰った悠真は秀真に話をしてすぐに人員を手配した。
ポピンの話通りであれば、掘り出すまで数週間はかかりそうなほどの奥深く。
「すごいな、はく。」
「ずっと隙間を進んで行ったのか?」
「そうにょ、ニョロニョロと。」
「さすが蛇だな・・・。」
「で、ポピンはそれがずっと見えていたのか?」
「自分が進んでいるかのようににょ。」
「どうすれば発動するのかわかってるのか?」
「わからない・・・偶然にょ。」
「調べなきゃな、まぁそれはポピンの得意分野か。」
「うん、任せるにょ。」
そこへメティラとユズハも帰ってきた。
大きな麻籠にはたくさんの草が入っている。
「見てぇ!こんなに沢山取れたわぁ!」
「おお!なんの薬草なんだ?」
「これはねぇ、お腹の痛みを治すのに使うのよぉ。」
「お腹痛・・・」
「そう!その中でも最上級の薬草!しかもっ!」
「しかも?」
メティラの顔色が変わったのを見て想像がついた。
「見てぇ!ヌメツチホリチュウがこんなに取れたのぉ!」
パカっと開けたその箱の中には・・・・
ニョロニョロと動く真っ直ぐで、ヌメヌメとしたどこが顔かもわからない・・・・
「わかった!わかったから蓋を閉めてくれ!」
「あらぁ、メティちゃん嫌いなの?」
「いや・・・そういう訳では・・」
「この子達の滑りをねぇ、擦りとって薬草と混ぜたらお腹痛いのなんて一瞬よぉ!」
『・・・・・』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「悠真ぁ!」
「ん?」
「ちょっときて!」
「何だよ、もう親孝行は終わったのか?」
「うん、久々にお母さんのご飯食べて一緒に寝たんだぁ。」
「親父さんは?」
「えーっ?なんかずっと泣いてるからほっといた。」
「冷たいやつだ・・・・。」
「そんなことより見て、あれ!」
瑞璃家の入り口。
鳥居が立つ両脇にある狛狐像に、コンとトウが座って朝日を見つめていた。
「ちゃんと自分たちの位置がわかってるんだね。」
「本当だな。」
コンは左側の自分の代わりとなった狛狐像と一緒に。
トウはまだ変わりが座っていない台座だけの右側に。
ちょこんと座って眩しい光を浴びていた。
「ふふ・・・」
「かわいいな。」
「私?」
「・・・・まぁそうなんだが・・・今はコン達だろ。」
滅多にそんな事を言わない悠真の腕を抱きしめ、顔を添えた春。
同じく眩しい光を受けた春の輝きに悠真は少し照れた。
「私たちと一緒ね・・・・」
「何がだ?」
「私達と同じ立ち位置。ずっと悠真が左で、私が右側。気づいてた?」
「・・・・・そう・・・だな。」
「それはわかって無いやつ!」
「わ、わかってるさ・・・・。」
「ふふふ・・・・私が悠真の右側を守ってあげるね。左側は自分で守りなさい!」
「何だよそれ・・・・」
春の明るい笑顔に悠真は優しく包み込まれる。
今はもう、それが自分の幸せだと何の迷いもなく思えた。。
「右も左も関係ない。俺はお前の全部を守るよ。」
「・・・・かっこいい事言うねぇ!・・・・・でもよろしくね。」
「あぁ、任せておけ・・・・」
□□□□□ラティの日記□□□□□
◯月×日
悠真、春。おめでとう。
友として、仲間として、姉として嬉しい。
でもたまには残響を分けてもらう事を許してくれ・・・。
抱きついたりはしないから・・・・多分・・・。
アルスティアに戻ったら公務だ・・・。
嫌だなぁ。




