第五十四話 稲盛 春
納得いくまでは行かないが、蒼真が月詠様の子である事は理解した。
これでサイカス大神官が言った七名全ての神の子が集結した。
「頼もしい仲間がこれで全員揃ったのですね!」
「では蒼真にも防具を準備せねばならぬな」
「いえ、国王様。私は必要ありません」
「それは・・・遠慮せずとも良いのだぞ?」
「私はヴォルテクス・レゾナには入りません」
「どうして!力を貸してはくれないのですか?」
「そうではありません。私には裏側からすべき事がありましてね」
『…』
「裏方と言うのはどんな事ですの?」
「わかりませんっ!」
「わかりませんっ!?」
「あはは、いえわからないと言うか、皇国での対応もあります」
「対応ですか?」
「悠真達がこちらに拠点で事に備えるのは、必要な事」
『…』
「穢人が発生する可能性は共和国側の方が多いのですから」
「だが、皇国にも悪霊は発生するか?兄貴」
「さすが、悠真! 僕達の力を一箇所に集めておく訳にはいかないんだよ。それに――」
「それに?なんですの?」
「いえ、ここまでで納得いただきたい」
『…』
「うむ、蒼真が言うなら何か理由があるのじゃろ。わかった」
「そして、ここまでお話ししたのでもう隠す必要もありませんので、私の代わりにあのカラスが飛んでくる事が有るかもしれません」
ガガァ!
「その時は迷わず僕からの連絡とお思いください」
「わかった」
「…ここでの事は皇王、父上にはいずれ話しますが、それ以外には内密に」
会議室から出た七人は食堂へ向かった。
部屋から出た途端に春は悠真にべったりである。
「ちょっとは抑えるにょ春!まだお城の中にょ!」
「はぁい」
「なぁ兄貴?」
「なんだい?」
「兄貴の事、陽菜様も知っているのか?」
「鋭いねぇ」
「豊穣祭の日、陽菜様は兄貴を見て行動をさせたんじゃないか?」
「正解だよ。あの日満月にうっすら霧がかかったんだ。だから陽菜様と僕は不穏な空気を感じた」
「それで兄貴はどこへ消えたんだ?」
「もちろん【清流の街】だよ」
「じゃぁ、家にきた警備兵が言っていた応援要請は」
「あぁ、僕の仕業だねぇ!あはははは」
「兄貴といい、陽菜様も、まだ何が隠しているだろ?」
「あははは!さぁご飯を食べたら君達の婚約の儀の準備すすめなさい」
「えっ…」
それを聞いた春の目はキラキラと輝きだした。
「しばらくは安全だからね―――」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「春!ちょっと一緒にきなさい、ラティスも」
「はぁいセイラ様」
「悠真様、悠真さまは私とご一緒にお願いします」
「え、俺も?」
白髭にモノグラムをつけたベテラン執事が、悠真を呼んだ。
一体なにが始まるのか。
「なんだ?二人して連れて行かれちまって」
「きっとあれにょ、結婚式の衣装あわせにょ」
「えらい気が早いな、セイラ様」
「そんな事ないにょ、もう一ヶ月ないにょ」
「そんなもんなのかねぇ」
「そんなものよぉ」
「いよいよ悠真と春も夫婦か」
「なんにょ?羨ましいにょ?」
「いゃ、小さい頃から知ってるが故に、なんかな」
「二人の小さい頃かぁ。気になるにょ」
「なんも変わんねぇよ」
功はほったらかしにされてるポピンとユズハ、蒼真の四人で昔の話で盛り上がった。
悠真と春。
十歳ほど歳の離れた幼馴染と言うよりは、兄妹のように育ってきた。
「あの二人を見てると、なんか癒されたよねぇ」
「ですね。春が泣くと必ず悠真が慰めて」
「何処に行くにも、悠真の袖を掴むかおんぶだったよねぇ」
「蒼真様もずっと見守ってましたよね」
「あははは、功も含めて危なかっしいからね」
「すいませんでした」
「春はいつから悠真を好きになったにょ?」
「しりたぁい」
「さあなぁ。十五の頃には悠真を見る目は違ってた気はするなぁ」
「悠真はどうだったにょ?」
「いまのままだよ。鈍感そのもの」
「悠真らしいわねぇ」
「でもその年だったねぇ、春が変わったのはねぇ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「春、そろそろお前も侍女となる勉強を始めなさい」
「えぇ〜面倒くさい」
「もうお前も十五歳だ。このまま何処かへ嫁にいくのならまだ良いが」
「嫁?どこに?」
「それはわからんが、早く見つけなさい」
「…」
「侍女になるなら別だが、なにもせず家に居るだけなら当主様にも示しがつかん。それに…」
「それに?」
「悠真様もだんだん忙しくなるし、奥様となるべき方も探し始めねばならない歳になってらっしゃる」
「…」
「次男と言えど、上級術継承三家のお一人。最低でも一般教養、作法、知識は兼ね備えた方しか選ばれない。わかるな?」
「はい…」
「お前は、どうしたいんだ?」
「…」
「本日より、お世話になります!稲盛 春と申します!よろしくお願いします!」
「よろしくね春ちゃん」
「おお、春。今日から働くんだってな!」
「うん、悠真!」
「こら春。悠真様とお呼びなさい!」
「あ、すいません。悠真様」
「頑張れよ」
「はい、ありがとうございます!」
「悠真様、お食事の支度ができました」
「わかった、ありがとう」
「悠真様」
「春、悪いちょっと出かけてくるから皆によろしく!」
「…承知しました」
「悠真様…」
「おはよう春、出かけてくる」
「承知しました……」
―今日も話すらできなかった。悠真のそばが良いから侍女になったのに…余計に遠く感じる―
「はい皆さん!今日は来賓の方が大勢いらっしゃいます。粗相のないよう、しっかりおもてなしをお願いします」
『はい!』
「あら、召し上がってらっしゃらないお料理があるわね、お口に合わなかったのかしら…」
「はい…一口もお食べにならず…」
「これは春が担当のお客様なの?」
「はい、左様でございます…」
「春!あなたはなにをしているのっ!あのお方は肉料理が食べられないから別メニューと言ったでしょ!」
「えっ…」
「では別メニューはどうしたのっ!?」
「申し訳ございません!お、お隣の方と間違えてしまいました!」
「なにをやっているのよ!食事会でお召し上がりになれないものを出すなんて!」
「も、申し訳ございませんっ!直ぐに謝罪にっ…」
「あなたが謝罪してすむ話ではないの!」
「も!申し訳ございません…」
「私は当主様につたえてくるわ。そこのあなた、しばらくここをお願い」
「かしこまりました」
「春は奥に控えていなさい。処罰は有るかもしれません」
「も、申し訳ございません…」
「最近のあなたは一体どうしたの!ずっと暗いままで」
「…」
「これでは悠真様も、春への良い印象はなくなりますよ!」
「私は…もう…辞めます…」
「春どうした?」
「悠真様…」
「何大泣きしてるんだ?」
「いえ、何もございません」
「嘘つくな。お前の嘘などすぐわかる」
「…大変な間違いをしてしまいました」
「なるほどな…そりゃ大事だ」
「申し訳ございません…瑞璃家に恥をかかせてしまいました…私はもう辞めたいと思います」
「何を言ってる?」
「ですので、辞めたいと」
「」
「私が…私っ!悠真!侍女なんて向いてない!」
「ははは!確かになっ!」
「…ただ悠真の」
「ん?」
「な、なんでもございません…」
「…バカだな、お前は」
「……」
「お前はお前のままでいいんだ春」
「悠真様…?」
「難しく考えるな。いつもの春でいろ」
「…」
「お前のいい所は元気で周りを明るく出来る所だ」
「そ、そんなこと…」
「そうなんだ!だから元気な春のままでいいんだ。最近のお前は暗い」
「でも…」
「お前と何年一緒にいると思ってるんだ?俺の言う事が信じられないか?」
「でも…」
「あっ、言葉使いは間違うなよ、侍女頭に怒られるからな」
「はい」
「そう落ち込むな春。頑張るんだ」
「…はい」
ガシャーンッ!
「ああぁ!申し訳ない…少し酔ってしまっているのか…」
「悠真!何をしている!」
「親方様、申し訳ありません…。あなた様も大丈夫でございますか?」
「あ、あぁ大丈夫だ…」
「先ほども、私どもの手違いで料理をお召し上がりになれていないと」
「あぁ…そうだな…」
「重ね重ね申し訳ございません。お詫びにぜひ私のお勧めする料理を召し上がっていただきたい」
「すまぬが、私は肉を食べられなくてな」
「存じております。実は今日釣りたての秋刀魚がございまして、後でこそっと食べようと思っておりましたが」
「秋刀魚…か?」
「すぐに準備させますのでお待ちを」
「うまい…」
「でしょう?この時期の秋刀魚は最高ですよ」
「確かにそうだな。悠真殿はなかなか食を分かってらっしゃるな」
「そんな事はございませんよ。ただ、自分が食べたいものを食べる…それだけです」
「自分の好きなものか」
「何より、旬の物を食べるのが一番美味しいのです。だから旬なのですから」
「確かに、その通りだ!」
「先ほどは侍女を含め、本当に申し訳なかった」
「気にしておらぬ。空腹は何よりの調味料というが、まさにその通りだ」
「刺身もいかがですか?」
「ぜひ!お願いしたい!」
「すぐに準備させます」
「悠真様…ありがとうございました」
「俺は何もしていないぞ。春、悔やむ間があったら、お前の笑顔でこの家を変えてしまえ」
「悠真様…」
「あの時の悠真は男ながらかっこいいなと思いましたよ」
「春ちゃんが好きな理由もわかるわねぇ」
「たいしたものだよ。来賓への失礼も春の間違いも全部消してしまったんだよねぇ」
「はい、あの方も最後は大喜びでお帰りになられて」
「だから春ちゃんは侍女頭までなったんだねぇ」
「うん、そこから一気だったよ。前任の侍女頭から指名をうけて全員賛成で若干十八歳の侍女頭の誕生はぁ」
「かっこいいにょ…悠真も春も…」
ガチャッ
「あぁ…首が苦しい!」
『おお!似合う似合う!』
普段とは全く違う、三ボタンのついた灰色の服に身を包んだ悠真が戻ってきた。
そして少し遅れて春も現れた。
「うわぁ…綺麗…」
「うん!素敵にょ!」
「あ、ありがとう…」
純白の生地に幾重もの繊細な刺繍が施され、王家の紋章が目立ちすぎないよう刺繍された豪華なドレスに身を包み、胸元には赤い宝石、頭には輝く冠をつけていた。
普段の侍女服や防護服とはまるで違うその姿は、本物の王姫のようだった。
流石の悠真も目の前の春から視線を離せなかった。
春は照れくさそうに顔を伏せ、ドレスの裾を少し摘んで立ちすくんだ。
「また悠真見惚れてるにょ」
「でも仕方ないわよぉ、こんな綺麗なお嫁さん初めて見たぁ」
「素晴らしいよ、二人ともぉ!」
「いいんじゃないかっ!」
□□□□□ラティの日記□□□□□
◯月×日
春いいなぁ。
綺麗だなぁ。
でも私に殿方を愛するなど出来るのか
お姉様も最近はうるさいし。
でもお姉様も結婚していないのだがな




