第四十七話 商売繁盛
たった二日で皇国を後にし、アルスティアに戻ってきた悠真達。
帰りは無事に回転する事もなく神巫海を渡る事ができた。
これにより、新型のレグナントの生産がすすめば、一気に大陸間の移動はエルディア号を待つ事無く頻繁に渡る事ができるようになるだろう。
「さて、開店10分前です。みなさん、準備は良いですか?」
『はーいっ!』
「なんで俺まで駆り出されるんだよっ!?」
「だまってはたらくにょ功。」
「俺が接客とか出来ると思うかっ?」
「うん!無理にょ!」
「ならさせるなっ!」
ユズハは最後の商品確認を行なっている。
春は以前セイラにもらったメイド服を着てやる気満々。そしてなぜかメティラも同じ服を着ていた。
「メティ可愛い!よく似合ってる!」
「そ、そうか?」
「うん!やっぱり素が綺麗だからなんでも似合うね!」
「春、あんまり褒めるな・・・恥ずかしい」
「まさか王姫様がメイド服着て薬局の店員してるとは、誰もおもわないにょ。」
「あぁ、あれかなり気に入ってるな。」
「にょ」
時計の針が開店時間を指した。
「じゃ!ユズハ薬局開店します!」
「いらっしゃいませーっ!」
そこには20人程の女性が並んでいた。
その理由は、(白い肌を維持する特殊軟膏)が販売されるからだ。
国立治癒研究院の薬師が作る特殊軟膏と大々的に宣伝したのだ。
「ありがとうごさいまーすっ!」
「二個ください!」
「はい、どうぞぉ〜!」
「私も二個!」
もけもけ鳥の串焼きでも買っているように、二個三個と買っていく女性達。
いつの時代もどんな世界であっても、女性の美に対する意識はかわらないのだ。
「あら大変、もうなくなりそうねぇ。」
「すごい人気だよ!」
「ちょっと作ってくるわね。」
「うん。お願い!」
「メティ、手伝ってくれる?」
「わかったユズハ。すぐ行く。」
先に二階に上がったユズハは手際良く調合していく。
遅れてメティラが、やってきた。
「なにをすれば良いのだ?」
「メティちゃん、そこの箱から白いの十匹取って。」
「わかった。」
(十匹?)
「ゆ、ユズハ・・・この中には何が入っているのだ?」
「えぇ?ただの白さの素よぉ」
「ははは・・・」
メティラは覚悟して箱の蓋を取った。
そして・・・気絶した。
「あらあら、メティちゃん大丈夫?」
「・・・」
「メティちゃん昆虫駄目だったかな?あれ?」
「・・・」
「怖いのかな?こんなに可愛くて白いのにねぇ」
そこにはウネウネとくねりながら這いずりまわる親指ほどの大きさの(ハノウライルシロムシ)が二百匹ほど入っていた。
仕方なくユズハは自分で取り出し、何の躊躇いもなくすり鉢ですり潰すのであった。
「これがお肌に良い白さを提供してくれるのにねっ!」
「ユズハ、もう三個しかないにょ!」
「もう出来るわ、ちょっとまって。」
「メティはこんな所でなに寝てるにょ?」
薬局はその後も大盛況。
痛み止めや傷薬もよく売れた。
「お客さん途切れないね!」
「この街の人はそれほど薬に飢えているのか!?」
「なんか、その言い方は危ないにょメティ。」
功も顔を引き攣らせながら応対している。
一方悠真はおばさま方に大人気であった。
「あら、いい男ねぇ。これちょうだいな。」
「あらほんと、私も貴方の持ってるその薬くださる?」
「ははは・・・ありがとぉーごさいまーすぅ・・・」
いつもは嫉妬で、赤い残響と赤い目で悠真につく虫を退治しようとする春は、この年代のご婦人には嫉妬しないらしい。
しかし、赤い残響と赤い目は輝いていた。
「ふっふっふ もっと売れぇ もっと売れぇ」
「は、春?いつも以上に変になってるにょ?!」
「ふっふっふ・・・カモどもが・・・」
「春!そんな事言っちゃだめにょ・・・怖いにょ・・・」
『キャーッ!』
突然黄色い叫び声があちこちで上がった。
同じくして馬車の音。
セイラ姫の登場である。
その高貴な姿と、一般人に対しても笑顔と優しさを振り撒くセイラ第一王姫はアルスティア国民から絶大なる人気を得ていた。
「皆様、ご機嫌よう。 我らが治癒研究院の薬師が作る薬ですから、安心してお使いくださいまし。」
「きゃーっ!セイラ様ー!」
「セイラ様〜!こっち向いてくださいっー!」
『すごい・・・』
「みんな、ご苦労様。大繁盛ですわね。」
「セイラ様、おかげさまで。」
「ユズハ、新しい薬もですが化粧品ももっとお願いしますわ」
「ですね。こんなに需要があるとは思っていませんでした。」
「そうでしょ?みな美に興味があるのですよ」
この白い肌を維持する特殊軟膏もセイラの案だった。
『恐るべし、第一王姫。』
「お姉様。なぜ地下を使わなかったのですか?」
「あら、ラティスちゃん!可愛いわぁ!」
「あ、ありがとうございます・・・」
「私が宣伝すればさらにみな買おうと思ってくれますわっ!」
『恐ろしい、第一王姫。春もにてるな・・・』
「す、すいませんっ!」
「いらっしゃいま―――」
幼い子を背負った男性が入ってきた。
背の子は苦しそうに息をして真っ赤な顔をしている。
「どうしたんですかっ!?」
「あのっ!娘をみてくれませんかっ!?」
「ん?ここは医者じゃなくて薬屋・・・」
ユズハは男性が手にした小瓶がきになった。
春が女の子を心配そうに背中をさすっている。
セイラもたまらす聞き返した。
「なにかあったのですか?」
「セ!セイラ姫様!?これはご無礼を・・・」
「かまいません。それより医者ではなくなぜここに?」
「あ、あのそれは・・・」
男が小瓶を握りしめた。
「すいませんっ!働き口がなくてお金が足らず医者にはいけません!熱を出した娘を何とかしようと裏路地にある看板の上がっていない薬局なら安い代金で薬が買えると聞いて・・・」
男は立ってられず膝をつき、女の子を抱きしめた。
セイラは男の近くに寄り、女の子の頭を撫でた。
「それで?」
「その薬屋に娘の病状をつたえたら、この薬をわたされました。(万能薬)だと。」
「万能薬!?」
「はい・・・代金も100レゾ。なんとかしてやりたかったのでかって飲ませました・・・」
「効果はなかった?」
「それどころか酷くなって!咳もとまらす!俺はどうしたらいいかっ・・・」
メティラはセイラと目を合わす。
街中で職がない、子が苦しんでいるのに、医者に行けないという大問題が起こっているのだ。これは彼女達皇室の。政治を行なっている者の失態でもある。
「なぁ、そいつはその万能薬ってのを飲めば治るといって売ったんだな?」
「はい・・・藁にもすがるおもいで・・・」
悠真も功も苛立ちを隠せなかった。
春は女の子を男の手から離し、横にして水布で頭を冷やした。
「その薬を見せてください。」
「薬師様、必ずお金は払います!どうかこの子を助けてやってください!お願いします・・・」
男は泣き崩れた。
小瓶を受け取り握ったユズハの右手が、翠色にうっすら光った気がした。
「これ・・・子供には毒になる下剤ですね。万能薬はまだ存在しない。騙したのよ、貴方を。」
「そ、そんな・・・」
「おい、その薬局は何処にあるんだ?」
一歩間違えれば、子供は命を落としたかもしれない。
今も苦しんでいる。
悠真と功は薬局に行こうとした。
「待ってください。私もいきます。」
ユズハはサッと紙に調合指示を書き、応援に来ていた研究院の薬師に渡した。
「そこに書いた物を調合し、この子に飲ませてあげて。」
ユズハは男性の前にしゃがみ、目線を合わせた。
いつものやんわりとした優しく包み込むような声。
「子供さんは大丈夫だからね。その薬局を教えて。」
「ユズハ?」
「悠真、私も行きます。」
男性が言った場所には、ただ古い長屋の一角だった。
悠真と功が中に入る。
そこは、怪しげな小瓶が並んだ小さな部屋で奥のカウンターにフード付きのローブで顔まで隠した男がいた。
「おやおや、今日は珍しく2件目の客だね。」
「お前がさっき子供連れの男に、万能薬だと言って薬を売った薬師か?」
「あぁ、そうだよ?もう楽になってる頃じゃないかい?」
「楽―とは?」
「ひぇひぇひぇ 金がないのに、このままいても更に苦しくなるだけじゃないかい?だから楽に行かせてやれば、親はこれ以上苦しまなくてすむだろう?」
「お前・・・自分が何を言ってるかわかってるのか?」
「何って、これが現実じゃないか。金のある物は不自由なく生活できる。病にかかれば医者に行き、治療を受け薬を買う。」
「金がない奴はさっさと死ねと?」
「正解だよ、そしたら何も苦しまなくてすむからねぇ。一瞬の苦しさで後はもう何も考えなくていいんだよ。」
「・・・」
「私わねぇ、その手助けをしてるだけさ」
「こいつ・・・もぅ我慢できねぇわ」
功が守斬を抜こうとした時、ユズハが止めた。
そして二人の前にでて、男を見つめる。
「おやおや、薬師さんまで。貴方ならわかるんじゃないかい?」
「えぇ、確かに。」
「おいっ!ユズハっ!」
功はユズハが言った言葉に不安を感じ、詰め寄ろうとしたが、悠真が止めた。
「そうだろう、そうだろう。」
「確かに、いっそ死んだ方がってなる人もいるかもね。でもね・・・あの親子は死ににきたんじゃないの。生きる為に助けを求めて薬屋に来たの。」
「でも助けるにも薬を買う金がないんだから、生きてたって苦しいだけじゃないか。」
「そうね。でもそれを決めるのは薬師では無い。決めるのは本人達。生きようとする人を見捨てる。ましてや楽にする?貴方は人の命を左右できる神なの?」
「そうだねぇ、そうなのかもしれないねぇ、ひぇひぇひぇ」
男は座っていた椅子から立ち上がってナイフを出した。
フードが脱げた顔は髪が抜け落ち歯もほとんどなく、目は泳いでいた。
「あんたも薬師ならその力があるんじゃないか?」
「そうね、あるわね。私にもそんな薬を作る事は可能よ」
「ほら、同じじゃないか」
ユズハの目が翠色に光りだした。
胸の前で組んだ手も光っている。
「だから私はね。そんな薬が死をもたらすではなく、生をもたらす為にはどうしたら良いのか考えるの。」
「何を言ってるのかねぇ」
「わからない?例えば貴方のその症状。どう見たってさっきの女の子に飲ませた下剤の副作用よね。」
「ほぅ よくおわかりで ひぇひぇ」
「あの下剤に含まれる麻痺の成分を過剰に接種すれば、脳が過剰に反応して快楽を感じれる。」
「なんだい?あんたもやった事があるのかぃ?」
「まさか。いずれ正気を失い死んでしまうもの。」
「ひぇひぇひぇ」
「でも知らない?そこにね、子供用の嘔吐薬につかう苦味草をたすとね・・・脳はそれを嫌がり快楽をやめるのよ。」
「それがどうした?」
ユズハが目を見開き、手を男にかざした。
―神薬調律 【和】――
男の体が翠色に光り、手にしたナイフを落とす。
ブルブルと震え出し、それは数十秒でとまった。
よろめき机に手を付いた男の、泳いでいた目は正気に戻っていた。
「身をもって知りなさい。」
「な、何をした・・・」
「そうね。神はいなくとも、神の力は存在するかもね。」
「神の力・・・バカな・・・」
「今までの悪行を償いなさい。」
その言葉に男の脳内は数々の行いを読み込んでいた。
しばらく沈黙が続き、顔色が失せていった。
「俺は・・・なんて事をしたんだ・・・・」
男は泣き崩れ、セイラより指示を受けて待機していた騎士に連行されていった。
薬局へ戻ると、穏やかな顔でスヤスヤと眠る少女がいた。
「もう、大丈夫ね。」
メアナ国で新たな仲間【ユズハ・カルベート】と、新たな翼【アストレア号】を得たヴォルテクス・レゾナ。
物語の舞台は再び、悠真達の故郷――【瑞穂皇国】へと移る。
□□□□□ラティの日記□□□□□
◯月×日
ユズハはすごい力を持っていたんだな!
神薬調律ってすごいな。
もう我々ヴォルテクス・レゾナに怖いものは無い!
これで第三章が終わりなのか?
第四章は何が起こるのだろう・・・




