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神々の残響  作者: 蒼凪 悠
アルスティア国編

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第二十一話 ある物ない物

ポピンは倒した椅子を戻し、座り直した。

それから俯いたまま話し始めた。


「私は十四歳の頃に蒼の神霊石(レゾナイト)を発見してから一年で人工レゾナイトを開発した。今まで、それを増強させる事しか考えてこなかった」

「ポピン?」

「だから私が開発した殆(ほとん)どの物が蒼のレゾナイトに関係するものばかり」

「でもそのおかげで、俺たちは知り合えたんだ」

「初めて蒼以外のレゾナイトを悠真達に見せてもらった時も凄く興奮した。でも興奮しただけでそれ以上はなかったんだ」

「ポピン…」


コンが空気を察したのか、ポピンの頭の上に飛び乗り、尻尾で顔を撫でた。

少し笑顔を見せたポピンは再び話だす。


「自分が開発した人工レゾナイトが一番だって。三色の神霊石も私がすぐに作ってみせると」

「だが、結局できなかった」

「そう、どんな鉱石を使っても、どんな宝玉を使ってもできない」

「それはまだ研究時間が足りてないだけでは無いのか、ポピン」

「ううん、違うのメティ。今悠真が教えてくれた事だよ」

「どう言う事です?」

「私は共和国の素材だけで神霊石を作ろうとしていた。私の中の世界でしか物事を考えてなかったの」

「あぁ、つまりだ。二つの大陸それぞれにしか無い鉱石があるかもって事だ」

「二つの大陸が元々は一つと言う伝説が本当ならば当然の話」

「だから無の神霊石(レゾナイト)ができないと?」


「そう。だって水晶という鉱石は共和国にないもの」


「ポピン、水晶が皇国にしか無いなら輸入できるようにすればいいのでは?」

「にょ!」

「ははは、やっとにょが戻ったな。でも正式な国同士の話し合いになるだろうからかなりの時間がかかりそうだ。さ、反省会は終わりだ」

「そうだな、私はすぐに戻ってお父様に進言してくるよ」

「なら私も行くにょ!」

「少しづつでいいんだよ、前に進めば」

「悠真ありがとにょん」


◇◇◇◇◇◇


メティラとポピンはすぐにアルスティア城へ向かった。

もう外には月が出て、心地よい風が吹いている。


「風呂でも入るか」


悠真は四階に作った大浴場に向かった。自分の居住区にも風呂はあるのだが、やはり大きな風呂場は心地よい。

10m四方程の広さで、十人は一度に入れる湯船には源泉掛け流しの温泉までついている。

これは地下を掘っている最中で湧き出て来たのだというが、どれだけ深く掘っているのか。

悠真の常識がどんどん失われていくのであった。


「悠真様ー、お背中お流ししましょうかぁ!?」

「しなくていいわっ!」

「えーっ、誰もいませんよ?」

「そういう問題じゃないから!」


ふふっと笑い声を残して春は家へ戻ったようだ―――


『悠真兄様ぁ!春ね大きくなったら悠真兄様のお嫁さんになる!』

『おお、春がなってくれたら俺も嬉しいな』

『そうでしょ!?いーっぱい美味しいご飯作ってあげるね!』

『うん、ありがとう春』

『約束だよ!兄様!』

『うん約束だ』


 そんな子供時代もあった。

 それからずっとあいつは俺のそばで助けてくれている。

 でも春が六歳の頃か。

 もう忘れているかな。はははっ



ガラッ!


「お、おい!いいって言ってるだろ!」

「何がだ?」

「なんだ、功か。」

「?」

「いや、なんでもない」


功は体を流し、湯船に入ってきた。

二人で湯船に浸かっているのも随分と久しぶりだ。


「お前、春と間違えただろ」

「そんな事はない!」

「嘘つけ、さっき笑いながら戻っていく春を見かけたぞ」

「……」

「どうするつもりだ?」

「何がだよ?」

「このまま春を侍女、いや幼馴染でほっとくのか?」

「……」

「あいつの気持ちはわかっているのだろう」

「……」

「ま、俺はどっちでもいいけど、春を泣かすなよ」

「それはわかっている」


ポチャンと天井から水滴が落ちる。

少し間ができた。


「ところで功」

「なんだ?」

「最近お前、存在感薄くない?」

「…………」


功は湯の中に消えていった。


◇◇◇◇◇◇


家に戻った悠真はまだ何かしている春をチラッと見る。

あんな話をされたら、多少なりと意識してしまう。頭をブンブンふり、いつも通りを装う。


「あ、お帰りなさい悠真様。」

「お、おう」

「どうかされました?」

「いや、別に」

「そうですか?変ですよ、いつも以上に」

「やかましいわ」


春はまたクスクス笑いながら家事をこなしていた。

よく働く侍女だ。


「春、酒あるのかな?」

「ありますよ、すぐに準備しますね。おつまみも必要ですか?」

「あれが食べたいな、春が昔からよく作ってくれる、きゅうりの辛いやつ」

「あぁ、承知しました」


長椅子に腰掛けてしばらく、春が酒と注文したつまみを持って来てくれた。

背の低い机に並べられたおつまみがどれも美味しそうだ。


「きゅうりのピリ辛と、ついでに葉っぱ入り卵焼きです!」

「葉っぱって…言い方」

「ふふふ、別に道で拾った葉っぱじゃないですよ。大葉です」

「仕事はもう終わりか?」

「はい!さすが最強侍女でしょ?」

「じゃぁたまには一緒に飲むか?」


春が少し動揺した。

幼馴染から、侍女と雇い主の次男の関係になってもう五年ほど経つが、そんな事言われたことがなかったからだ。


「どうしたのです?突然」

「いや、なんとなく」

「じゃ、いただきましょうかね」

「子供の頃はよく、牛の乳を二人で飲んだなと思い出してさ」

「そんなこともありましたね」


悠真は注いでもらった酒を一気に飲み干した。

何も話すこともせず、お互い飲んでは注ぎ合いを繰り返していた。

数杯のみ合ったところで、悠真は春を見た。

そこには、少し目を落とし頬を赤め、嬉しそうに微笑んでいる春の姿があった。


「春…」

「はい…」


二人の座る距離が心なし近づいた。


「お前にはずっと助けてもらって感謝してるんだ」

「そんな、何を言ってるんです」

「もうここは瑞璃の本家ではないんだ。せめてこの家に二人でいる時ぐらいは昔のようにしないか」

「?」

「雇い主と侍女はやめてさ、幼馴染の俺たちに戻らないか」

「悠真様…」


悠真はよく子供の頃に春にしていたように頭を撫でた。

春は昔を思い出すかのように、幸せそうに目を閉じた。

そして春の右手が悠真の頬にそっと触れた。


「昔に戻っていいの悠真…」

「あぁ、二人の時だけだぞ」


春は溶ろけた目で悠真を見つめる。

悠真も初めて見る春の妖美な姿に心奪われる。


「じゃぁ…悠真」

「なんだ……」


「……お前さ万氷樹(まんひょうじゅ)の山脈から戻る時さ、メティといい感じだったよなぁ」

「え…」

「今日だけは何も言うな?はぁ?ふざけんなよ?」

「春?」

「お前さ、私が今まで怪我した時あんな抱き方したか?」

「したんじゃないかな…」

「膝擦(ひざすり)りむこうが、木登りで落っこちようが、(唾付けときゃ治る!)とか言ってたよな!」

「そ、そうだったか?」

「チッ!お姫様抱っことかしやがって!そりゃメティは本物のお姫様かもしれねぇけどよ!」

「お、おぅ」

「降りるまでずーっと抱っこしたまま心配そうな顔で見つめやがって」

「あ、あれは仕方なく…ほら、騎士のみんなも怪我してたっぽいしさ」


春は立ち上がり悠真の前に仁王立ちする。

ビクッとなる悠真。


「んなもん知らねーよ!姫様を守るのが騎士の仕事だろうが!」

「確かに」

「どうせ私にはメティみたいに、品も綺麗さもないですよ!ある者にない者がっ!悠真から離れろとか言えるわけないじゃん!」

「いやいや」

「それに…それにさ…」


突然春の声が震える。


「氷の塊飛んできた時、悠真は私を守って全部受けただろうがょ…」

「…」

「なんの結界も使わずにさ…全部当たってさ…」

「あんなもの、大した事ないさ――」


春は悠真を強く抱きしめた。

春は泣いていた。


「ばか!悠真が死んじゃったらどうすんだよ!いつもいつも無茶ばっかり!」

「春…」

「自分の事はどうでもよくて、いっつも人のこと庇(かば)って怪我して…」


悠真は春を抱きしめ返した。

暖かい温もりと小刻みに震える感覚が伝わってくる。


「大丈夫だ、大丈夫だから春。心配してくれてありがとう」


思いを吐き出して、スッキリしたのか立ったまま春の力が抜けた。

そう、普段から飲まない春は酔いが回って立ったまま寝落ちしたのだ。

悠真は横に座らせたが、そのまま春は滑り倒れ、悠真の膝枕で寝息を立てている。


「ゆうまぁ……」

「本当に言いたいことだけ言いやがって…ありがとう」


悠真もそのまま眠ってしまった。


◇◇◇◇◇◇


もう外には太陽が登っていた。

目が覚めると春の姿はなく長椅子に横たわり、薄い毛布がかけられていた。

机には置き手紙。


(買い物に行ってくる!起きたら顔洗えよ! ―春―)


言われた通り顔を洗い、水を飲む悠真。

昨日、春に怒られた事が嬉しくもありその中で春が言った、ある者ない者という言葉に思う事があった。

皇国と共和国。お互いにまだまだわからない事だらけだ。

共和国にあって、皇国にないもの。または逆。今俺たちに必要なのは(者)ではなく(物)だな。


自分の部屋に戻り、窓を開ける。

眩しい太陽が悠真を照らす。家の入口にはポピンの研究室工事に関係する人が出入りしている。

受付には本来執事を置くが、今は国の騎士が変装して代わりをやっている。

周辺にも私服騎士が数人常に警備に当たっている。それほど重要な拠点をポピンが作っていると言うことになる。

いっその事、酒場をもう少し縮小して騎士部屋にして在駐してもらったら、俺たちも楽なんだが。


向こうから手を振りながら、春が帰ってきた。 

今日は機嫌が良いみたいだ。

しかし、周囲の通行人は少し引いている。


「あいつ、あんな華奢な体でどこにあの力があるんだろ」


春は満面の笑みで(もけもけ鳥)を担いでいた。




□□□□□ラティの日記□□□□□

◯月×日

ポピンが珍しく反省した。にょんを忘れて反省していた。

でもいいじゃないか、前に進んだのだから!

色々難しいようだし、任せるしかない。

私は鍛錬をもっとしなければ!

最近はようやく腹筋の割れが綺麗になってきた!

次は広背筋をきたえよぅ!

でもお姉様には見せれないな

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