表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏急行 ~昼が来れば焼け死ぬ星で僕は仲間と旅をする~  作者: わけあり団子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/51

プロジェクト・ムーン

はじめまして、本作を開いて頂きありがとうございます。

本作品はカクヨムでも投稿しています。小説の内容は一切差はありません。

https://kakuyomu.jp/works/2912051599391516896

 夕飯が終わった後、論文の構想を説明するため、みんなに集まってもらった。集まったのはマーニーとルナ、アルテミシア。グリムとエドガーの5人。


「これが今考えている構想になります」

 コンソールを操作し、モニターにあらかじめ作成しておいたプレゼン用の資料を表示する。

 

「まず、この構想は全部で5つのフェーズで構成され、第一フェーズでは赤道上に人類の新たな拠点を建設します」

 モニターには赤道の下を走るレール網と街のイメージを映している。


「この研究は、材料工学の第一人者であったシュミット博士が50年ほど前に提唱したものですが、当時のアリアには資源的余裕がなく、後世に託されることとなりました。赤道直下にアリアを一周する地下鉄道網を敷き、街を築く。その第一の目的は資源の採掘が容易になることです。これは地球も同じですが、極地と赤道付近では採掘できる資源が大きく異なります。現在、赤道付近で採掘された資源は、両極地に運ばれた後、必要に応じて再送していますが、これはどう考えても非効率的です。赤道付近に人類の拠点ができれば、採掘した資源を備蓄し、必要に応じて両極へ送ることが可能になります」

 アルテミシアに聞いたところ、論文を書いたシュミット博士は既に亡くなっており、近年この論文が議論されることはなかったと言っていた。そのアルテミシアの手があがる。


「質問は最後にまとめて行ったほうがいいでしょうか?」

「いえ、大丈夫ですよ。質問をどうぞ」

 

「ホログラムを見ると、一箇所だけ地表に大きな建造物があるようですが、これは何でしょうか?」

「……確かに。これはかなりデカいな」

 

「これは第二フェーズで必須になるので先に第二フェーズの説明をしましょうか」

 コンソールを操作すると、モニターの中のアリアは小さくなり、アリアからまっすぐに伸びた一本の線が描かれる。


「これは……、もしかして軌道エレベーターか?」

「はい。第二フェーズは赤道上に軌道エレベーターを建設することです。この地表に出た部分は、軌道エレベーターの起点となる部分ですね。軌道エレベーターは大規模宇宙開発に必須と言える技術ですが、アリアではまだ建設されていません。理由は簡単ですね」

 

「極地に軌道エレベーターは建設できない」

 手を上げる代わりに軽く翼を広げて低い声を出したのはエドガー。


「その通りです。軌道エレベーターは『惑星に引っ張られる重力』と『惑星から離れようとする遠心力』、このふたつが釣り合うことで成立します。ですが、アリアにおける人類最大の2つの拠点、アクシスノース、アクシスサウスはともに極地にあり、遠心力が作用しない」

「赤道上であれば、遠心力が最も強く働く」

 

「そうです。そしてこれが第二フェーズの研究論文です」

 モニターが切り替わり、ある論文のデータがモニターに表示される。


「自転速度が遅いアリアでは地球に比べて遠心力が小さい。軌道エレベーターを建設するのであれば、地球のそれより何倍も大きなものになります。つまり建造物を作る素材は地球と同じ素材は使えません。新しい素材の開発が必要だと考えていましたが、アリアの軌道エレベーターに使える新しいカーボン素材を材料工学の専門家チェ博士が既に研究されていました」

 

「軽くて丈夫。カーボン素材の特徴だが、材料は確保できるのか? この資料によると軌道エレベーターは宇宙と地表を結ぶ約80万kmの巨大な建造物になる。材料はとんでもない量になるぞ」

 グリムの言う通り、実際に軌道エレベーターを建設することになっても、材料がなければ机上の空論に終わってしまう。だが、案はあった。


「……ふん、気づいていないのはお前だけだ」

 割って入ったのはエドガーだ。辺りを見ると、ルナ、アルテミシア、そしてマーニーも笑みを浮かべている。考えていた案を説明しようとすると、ルナに先を越された。


「グリム。ツカサさんは、あの山城一博士の御子息ですよ」

 答えは出さずヒントを出す、ルナのいつもの癖。いつものように頬の歯車はくるくると回っている。考え込むグリムを少し待つ。

 

「……すまん、お手上げだ。ツカサ、種明かしを頼む」

「はい。カーボン素材の材料は言うまでもなく炭素なわけですが、父さん、いえ山城一博士は『巨大植物プラント』を作り、大量に植物を生み出すことで大気中の二酸化炭素を削減しました。ですが、植物はいずれ枯れます。枯れた植物は微生物によって分解され、二酸化炭素が大気にもどってしまう。これでは大気改善ができません」

「ああ、そういうことか。何となく分かったぞ。人類は植物が腐敗する前に熱処理を施して、炭にしたんだな。そして、その炭がこのアリアのどこかに大量に眠っている」

「正解です。聞いたところによれば、アクシスノースから少し離れた地下に巨大な貯蔵施設があり、そこには約20兆トンの炭が眠っているそうです。軌道エレベーター1基に必要な炭は概算で約5万トン。100基作ったとしても誤差のレベルですね。論文には記載されていませんでしたが、チェ博士の研究もこの炭を何かに利用できないかというところから始まっているのかもしれません」


「……ツカサの父親の論文くらい読んでおくべきだったな」

「私達はアクシスノースで暇な時間がいくらでもありましたが、グリムは修理とメンテナンスであまり時間がありませんでしたからね」

「まぁ、な」

 

「すこし話は変わりますが、僕がアクシスノースを見て感じたことは『人類はアリアへの入植にほぼ成功している』ということです。大気は改善し、人口は徐々に増加。植物も増え、資源の確保もできました。農業や畜産も成功しています。しかし、1点だけ。アリアが未だに地球に頼り切っているものがあります」

「エネルギー問題、ですね」

 すぐ反応があったのはマーニーだ。

 

「私も『人類はアリアへの入植に成功した』そう言って良い段階まで来ていると思います。ただ最後の課題と言えるのがエネルギーの自給自足です。アリアは発電の全てを核融合に頼っているわけですが、その燃料である重水素、ヘリウム3を自力で確保できていません。特に問題なのはヘリウム3の方で、磁場があり、大気の厚いアリアでは全く採れないわけです。つまり入植70年、アリアは地球から持ってきた燃料を消費し続けている状態が続いているのです」

「マーニーさんの言う通りですね。そして軌道エレベーターはそのエネルギー問題を解決する足がかりになります。軌道エレベーターができるということは大量の資源を地表から宇宙へ容易に運べるということ。宇宙港を建設し、タウセチ星系の別の惑星に行くこともできるようになるでしょう。つまり、第五惑星に行くこともできるようになる……」

「……以前、私がお見せしたお父様の映像の中でお話のあった件ですね。宇宙船が量産できるようになればタウセチ星系 第五惑星の開発ができる。つまりそれは核融合炉の燃料である重水素、ヘリウム3を採掘して帰ってくることもできるようになる……」

「はい、軌道エレベーターからアリア衛星軌道上に宇宙港を建設し、タウセチ星系への足がかりとする。それが第三フェーズです」

 ここまで話して、一度言葉を切った。話しておくべきことがある。

 

「実をいうと第一フェーズから第三フェーズまでの論文は、父がほとんど仕上げていたものになります。おそらくシュミット博士、チェ博士らと共に構想を練っていたのではないかと思います。ですが、未発表のまま、父が亡くなる少し前から更新されていないようでした」

 逆に言えば、亡くなる少し前まで更新していたということだ。コンソールを再び操作するとモニターの中、アリアの側に宇宙港が現れる。


「そして、第四フェーズ。これまでは父の研究でしたが、第四フェーズからは新たに研究する必要があります」

 モニターが再び更新され、軌道エレベーターの先端に球体が加わる。


「この軌道エレベーターの先端に加わった丸い物体はなんでしょうか」

「宇宙港か? いや、それにしては丸いな」

 質問を投げたのはルナで、続いたのはグリム。


「これは月です」

「月……?」

 グリムが疑問を浮かべるのも当然かもしれない。この発想は自分でもどうかと思うところがある。だからこうして集まってもらった。


「第四フェーズでは、アリアに月を作ります。タウセチ星系は太陽系と違い岩がゴロゴロとしているのでそれらをかき集め、アリアの1000分の1の大きさの衛星を作ります」

「1000分の1……、ざっと6×10¹⁸トンか」

「とんでもない質量ですね」

「……それは、一体何のために……」


「何のために……、それが第五フェーズですね」

 コンソールを操作すると、追加された月が軌道エレベーターから切り離され、アリアの周りを回転し始める。


「作成する月の大きさはアリアの質量の1000分の1。この月を……、アリアの衛星軌道上で公転させます」

「まさか……」

 最初に声を出したのはグリムだった。


「アリアと月、この2つの天体は互いに引力で引かれ合い、潮汐ロックが発生します。そして作った月が高速でアリアの周りを公転すれば、アリアも釣られて自転速度を上げる」

「カァ」

 そしてエドガー。

 

「……可能なのか?」

「……理屈は通っています。ただ、これが実現可能かと言われると、私では……」

 そう言ってルナはマーニーとアルテミシアの方を見る。


「私に聞かれてもわかりませんよ。ツカサさんからも同じ質問をされましたが、オートマタの私ではデータも演算能力も不足しています。それに私の本体で計算しても答えが出るかわかりません。多分、アルテミシアも同じではないでしょうか」

「そう、ですね。タウセチ星系のデータは充分に集まっているとは言えません。宇宙望遠鏡は衛星軌道上に存在しますが、特に小惑星帯の調査はほとんどできていない状況です」


「僕の簡単な計算では、アリアの1000分の1の月を作り、核融合ロケットを使って回転させれば……。約10000年後、アリアの自転速度は地球と変わらない程度まで加速します」

 計算した数式が、モニターに映しだされる。

 

「10000年後……」

「自転速度は……、改善されますね。ですが……」

 前者はアルテミシアで、後者はルナ。

 

「両極地だけじゃなく、アリア全土に人が住めるようになるな。だが……」

「カァ」

 

「もちろんプロジェクトの完了時、僕は生きていません。ですが、未来のアリアのことを考えれば、この構想を進める意味はある。そう判断しました。と言っても解決すべき問題は山積みで僕だけではとても対応できませんが。……なので、みんなの力を……、貸してください」

 ゆっくりと頭を下げる。

 この案を思いついた時、いや、父さんの書きかけた論文を読んだ時か。僕ひとりならこの論文の続きを書こうとはとても思えなかっただろう。でも僕には、ちょっと自慢をしたくなるような仲間達がいる。そんなみんなとなら、この構想を実現できるかもしれない。そう思った時、続きを真剣に考えてみよう、何となくそんな考えに至った。同時に、父さんもシュミット博士やチェ博士のような仲間がいたから、この論文を書きはじめたのではないだろうか。そんな気がした。


「私は構いませんよ。少し前にツカサさんからこの話を聞いた時、『とても面白そう』だと感じました」

 真っ先に答えが返ってきたのはマーニーだった。


「私もです。ぜひお力にならせてください」

 続いたのはアルテミシアだ。


「俺達にやれることがあるとは思えないが、協力は惜しまないぞ」

「カァ」

 グリムとエドガー。


「私も構いません。ツカサさん」

 最後にルナ。


「ありがとうございます。と言ってもまずは論文を書き上げてからになるのでしばらく先になりますが」

 マーニーの手が上がる。


「ツカサさん。この構想に名前はあるんですか?」

「名前……ですか。まだ論文も書き上げてないので、少し恥ずかしいのですが……、ひとつ考えているものがあります」

 

「何ですか?」

「僕達は地球から月の女神に導かれアリアへやってきました。しかし、ツキに見放されたアリアはゆっくりと自転していた。今度はそのツキを女神の力を借りて取り戻す」

 アリアに月を作り、潮汐ロックから解放する。そんな壮大なプロジェクト。

 

「『プロジェクト・ムーン』、というのはどうでしょうか」


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


もし「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ページ下部より【ブックマーク追加】や【☆☆☆☆☆】の評価(星)で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ