ノアが出会った日
「ノア、誕生日おめでとう。」
ヘンリーは王城に行く日の朝、ラッピングされた細長い箱をノアに渡した。
初夏の今日は、ノアの誕生日だった。
「・・・誕生日・・・忘れてた。ありがとう」
そう言ってヘンリーからプレゼントを受け取る。
毎年誕生日にヘンリーはプレゼントをくれる。ヘンリーにとってノアは物静かで無表情だけど自分にだけはたまにニコッと笑ってくる素直なかわいい弟であった。
家族の中で自分だけに心を開いてくれていると思うとちょっと優越感があった。
ノアの誕生日を両親は祝わない。ヘンリーの誕生日はいつも豪華な料理とケーキでお祝いされるがノアの誕生日はいつも通りの普通の日としてハワード家では過ごされていた。前世を思い出す前までは親から祝われない事に寂しさを感じていたが前世を思い出した今は
『子供の扱いに差が有りすぎて親としてくそだな』
と思うだけであった。
「ノア様、おじいさまとおばあさまからプレゼントが届いております。」
家令に言われて見るとラッピングされた箱が二つ。
誕生日を祝ってくれる人は居る。
兄上と祖父母だ。もうその3人に祝われているだけで十分幸せである。
「ありがとう。部屋に置いといて。これから僕は王立図書館に行ってくるよ。」
「でしたら馬車のご用意を致しますのでしばらくお待ちください。」
自分で歩いて行くのは貴族としてだめらしい。貴族って面倒くさい。伯爵としてのメンツもあるのだろうか護衛まで付けられる。一人だけど。
もう家の書庫では参考にする本が足りない。
王立図書館はノアが暮らすクラーク王国一の図書館でコアな専門書なども豊富に置いてあり、ノアの最近のお気に入りだ。前世を思い出してから勉学の方は歴史と魔法学以外は問題がなくなった。
あとは自主勉をしているがそれはもうコツコツ頑張るしかないだろうなぁと思っている。
もう訳の分からない家庭教師とか勘弁して欲しい。出来れば下位の貴族でも平民でもいいから優秀な人に家庭教師になって欲しい。前回みたいに高慢ちきな高位貴族のボンボンとか御免被る。
なんて考えながら着いた図書館の受付カウンターで、半泣きになって頭をペコペコ下げている人を見た。
チラッと見ると焦げ茶の天然パーマに丸メガネ、そばかすの散った顔にこれでもかと眉毛を下げた20代前半の男が受付の人に
「そんな!この間は採用っておっしゃいましたよね。取り消しってどういうことですか?」
と聞いていた。
「すまないね、この前は君にお願いしようと思ってたんだけど王城の文官様がご親戚のご子息を採用してあげてって頼んできたんだよね。ウチとしてはやっぱさ~王城の文官様に頼まれたら断れないよね、だからキミを採用するのは無かったことにして欲しいんだよ。ごめんね、そこ邪魔だからもう帰って」
お先真っ暗・・・って感じてフラフラと歩き出す男がノアの居る入り口付近にやってきた。
どこもかしこも縁故かよ!
ノアはいきなり前に出て丸メガネの男に声をかけた。
「ねえ!商業ギルドに申し込むのはだめなの?図書館は駄目でもどこか他に仕事あるんじゃないの?」
仕事関係は商業ギルドってなんとなくそんな気がしたから聞いてみた。
丸メガネの男はびっくりした様子だったが、すぐに目の前の子供の質問ににっこり笑って
「あそこの椅子に座って話そうか。あのね、商業ギルドは登録すると人材の不足している仕事を紹介してくれるよ。でもね大半がどこかの建設業の作業員とか大きな商店の従業員だね。たまに貴族様の使用人の募集も有るよ。」
「僕は今僕の家庭教師になってくれる人を探してるんだけど,商業ギルドに申し込めばいいわけ?いきなりこんなこと聞くのも申し訳ないんだけど僕その辺詳しくなくて・・・お兄さん親切そうだし教えてくれない?」
そろそろ父親が家庭教師はどうするとうるさくなってきたので、出会ったばかりのこの不幸そうなお兄さんに質問してみることにした。答えてくれたらもうけもん位の気持ちでいると、
「キミの探している家庭教師っていうのはまず無理だと思うよ。商業ギルドに登録する人は大体平民か下位貴族だね。後継出来ない貴族とかが多いよ。家庭教師って貴族間の紹介とかツテが多いでしょ。高位貴族は登録しないんだよ。」
答えてくれるんだ。そしてやっぱりツテとか紹介か・・・ザイールもそうだったな。
ふーーーーん しよーーーーもなぁーーー
「僕はね、力仕事が無理だから商業ギルドには登録できないんだよ。」
がっくり肩を落としながらも丁寧に教えてくれる丸メガネの男。
「お兄さんは図書館の司書にでもなるつもりだったの?」
先ほど断られていたけど、一応聞いてみた。
「こんな話キミにしても仕方ないんだけど、僕ね王城で文官として働いていたのよ。僕これでも貴族なの。男爵だけどね。男爵ってさー下位じゃない、だから仕事高位の貴族の人に押しつけられるわけよ。仕事は押しつけられて帰るのも毎日遅いし、給金は変わらないしね。おまけにミスまで押しつけられちゃって仕事辞めなきゃならなくなっちゃって・・・僕ね兄弟が多いのよ。弟たちにも王立学園に通わせてあげたいし仕送りしてたんだけどね・・・」
つらーーーこんな話子供の俺にしないで欲しい。聞くけどさぁ。で、また俺の嫌いな搾取の話か。
「へぇ立派なお兄さんですね。でも文官辞めちゃったらこれからどうするんですか?文官やってたんだから優秀なんじゃないの?」
「だから図書館の司書募集のポスター見たときはコレだって思って面接も受けたのよ。学園時代の成績とかも見せて採用って言われたから今日から仕事だって来てみたら取り消しってさぁ!どう思う?」
くそだと思う。
とは言えず
「じゃあ、お兄さん優秀なの?学園時代の成績ってどんな感じなの?」
「僕の実家ね貧乏なのよ。コレと言った名産もないしね。だからね勉強したのよ。自慢じゃないけど成績良かったのよ。ほら」
と言って見せられた成績表、見方がよくわからない。だって俺10歳、学校も行ってないんだぜ。
「なんかよくわからないな。説明してよ。」
そう言うとハッとして
「あ。ごめんね。そうだね見たことない人にはわかりにくいね。ここが全校生徒の数だよ。そしてここが順位だね。」
馬鹿にすることもなく丁寧に教えてくれるいい人だ。そして成績なんだけど450人中1ってのがずっと並んでるんだけど!すごい!
あと剣技はからっきしだった。




