ノアが思い出した日
家庭教師の男がグチグチ嫌味を言っていた時ふと思った。
なんか部屋暗いな・・・
外は雨が降っている。厚い雲に居覆われた空は雷が鳴りそうだ。電気もっと明るくならないの?
子供部屋で勉強するには暗すぎじゃね?
・・・電気?
見上げる壁に付けられている魔導灯。
魔獣の核となる魔導石をエネルギーとしている灯りをともす魔導灯。
魔獣、魔導石、魔道具、魔法、魔力・・・・
この世には魔獣がいて魔導石が取れて魔道具が作れて魔力によって魔法が使える・・・
魔法・・・?
電気・・・?
ぼんやりだった記憶が、二重にずれていた記憶がピタリと一つになった瞬間なんとなく前世を思い出した。
前世って思い出すことあるんだ・・・
感動しているのに横でごちゃごちゃうるさい家庭教師の男。悪いが先ほどまでのノア・ハワードではない。
前世思い出したから思うんだがこの男、家庭教師と言うには怠慢過ぎる。
やたらと優秀な兄と比べ出来損ないと罵る罵る。教育者が兄弟と比べて出来損ないだとか言う時点で俺的にアウト。人はそれぞれ能力が違うんだから出来るところを伸ばしてあげようとか思わないのかな?
とりあえずうっとうしいのでお引き取り願いたい。
今俺がやりたいのはこの魔導灯をもっと明るくしたい。
暗すぎる部屋は心も沈む。魔導灯に仕込まれている魔方陣を改良したい!
とりあえずはこの男を部屋から出す!そう心に決め男を見つめて家庭教師はもういらないと解雇した。
帰り際に何やら文句を言っていたようだが聞いていなかった。部屋が静かになって良かったという感想しかなかった。
それから書庫に行って魔方陣の参考となりそうな本を探し、ノートに実現出来そうな魔方陣を書いていたらいつの間にか夕食の時間が過ぎていた。
いつも居るのか居ないのか分からない位大人しかったので居ないことに気づかれなかったようだがそんなこと今更なのでどうでも良かった。
二日ほど集中して魔導灯の改良を試みていると父に呼び出された。
家庭教師を勝手に解雇したことを怒っているようだ。
あの人はこちらの話を全く聞く気がない。どうせ家庭教師が腹いせに報告した事を全部鵜呑みにしたのだろう。正直面倒くさい。いつもどおりしょんぼりして
「ごめんなさい」
と言えばそれで時間も過ぎそうだけど、再びあの家庭教師に教えを乞わなければならなくなるかと思うとここはなんとしても拒否したいところだ。
大体あいつは家庭教師と言う割に何も教えない。
出来ないことを罵り何がどうなってこういう計算になるという事すら教えずただ持ってきた本を読み上等のお茶を飲み、お菓子を食べる。
あいつにとって俺の授業時間は息抜きだ。ついでに日頃の鬱憤を目の前の子供に向けてはらす。
八つ当たりされた方はたまったもんじゃない。
それでも今までは小心者で大人しく言い返すことも出来なかった子供だったので甘んじて受け入れてきたが前世の俺は大人しくしているのが性分に合わない性格だったらしく思ったことがスラスラ口から出ていった。
大体ちゃんと働きもしないで給金はしっかり受け取るってなんなんだ。自分の手柄でもないのに自分の手柄のように振る舞うのも許せなかった。搾取という事がなにより嫌いだ。そしてそれに気づかず兄上が優秀なのはザイール先生のお陰ですと持ち上げている両親にもうんざりする。
前任のドワーズ先生は優しかった。
生徒でもないおまけの俺にも文字の読み書きを片手間ではあるが教えてくれた。
兄上が学園に行ったら俺もドワーズ先生に教えてもらえる物だとわくわくしていた。
親に見向きもされなかった俺はドワーズ先生に懐いていた。ドワーズ先生が来る日は朝から玄関ホールでそわそわしながら待っていた。しかし残念なことに持病が悪化したドワーズ先生は家庭教師を辞めてしまった。ショックすぎてその晩は部屋で泣いた。
「私はノア様にお教えすることは出来なくなってしまいましたが、次の素晴らしい先生がきっとノア様の得意なことややりたいことを教えてくれるでしょう」
ドワーズ先生はそう言って王都を出て領に帰って行った。
ドワーズ先生のうそつき・・・




