マールスの記憶④
『そう最初からうまくいったら苦労しないっすよ』
「……理論上は上手くいってただろ」
シリウスはその夜、とある男と魔法で連絡をとっていた。
彼は約百年ほど前に軍で一緒だった男で、トリマンと言う。俺の友人だった。
彼もシリウスほどではないが長寿かつ優秀な魔法師で、特別魔法により不老であるとのこと。死のない人生を爆走中のシリウスとよく気が合い、また気を許していた。
例えば、もしもの時に大事な子供を任せられるくらいに。
『なぁんか、焦ってますよねセンパイ。あなたらしくもない』
「そりゃあ焦るだろ、期限付きなんだから。……レグルスの様子はどうだ?」
『変わりなく。良くも悪くも、ね』
「十分だ」
俺は短く返すと、ふっと息を吐く。もし何かがあれば連絡があるだろうから、わざわざ聞く必要はない。それは分かっているが、改めて聞くとホッとする。
レグルスをトリマンに預けて一年と三ヶ月。さすがにあれから一度も会っていないというわけでもないが、毎日くっついて眠っていた時期とは比べ物にならない。
トリマンも器用な男だから看病は俺以上にこなせるとは思うが、あいつはあいつで忙しい身だから全て任せることもできない。
あぁ、早くしなければ。
気持ちばかりが先に行く。研究は失敗の積み重ねだと知っているのに。
そもそも、俺の研究は賭けの部分が強い。魔法動物の魔法因子を抽出し、それを人体に取り込む。簡単に言うが、魔法因子を取り込んでも特別魔法が発現するか、というかそもそも病の治癒なんて魔法因子をピンポイントで取り込めるか、分かっていないのだ。
分からない。何も分からないなりに進むしかない。そう唱えてここまで進んできた。
実験方法も、手段も、素材も、何もかも変えて一番反応があった方法を繰り返し試した。
最初の冬で、俺は国中の魔物がいなくなるほど狩り尽くした。
スピカ自身が魔物を倒さなければ取り込んだことにならないのでは、なんて精神論的な思考で、春から彼女に魔法を本格的に教えた。
夏になる頃にはスピカは並の冒険者には負けないくらいになり、秋の頃には伝説級の魔物をも下せるようになった。
そして冬、また春。彼女は何度止めても無茶な戦い方をするようになった。
不出来な師匠と未熟な弟子の二人旅。追い詰められている自覚はあった。それをトリマンには悟られているのだろう、成果のない日々でも定時連絡は欠かさずしようと言い出したのは彼だった。
『あんま、無理しないでくださいね』
「あぁ、ちゃんと言っとく」
『……あんたもっすよ』
「はいはい。じゃ、頼んだ」
『はいよ』
トリマンの連絡が消え去るのを見届けてから目を閉じる。
暗闇の中で、近くで転がっているスピカの存在を感じる。
何も起きない、何も進展がないというのは、確かにシリウスの精神を疲労させていた。
まるで陽の届かない深海にいるような、酸素だけを奪われているような感覚。
そんな風に嘆いていたからだろうか。変化はその会話のちょうど一ヶ月後にやってきた。
最悪の形で。
ーーーーーー
『センパイ!スピカちゃん!今すぐ帰ってきて!レグルスくんが倒れた!』
トリマンの大声が響いたのは、今日の魔物に最後の一撃をくらわそうという直前のことだった。
さっと顔を青ざめ体を硬直させたスピカの代わりに魔物を灰にすると、俺は落ち着いて声に向き直った。
「状況は?」
『かなりまずいっす。……今晩が峠だと』
「っなんで、そんなになるまで気づかなかった……!」
そう咄嗟に口にして、自分でも何を言っているんだと頭を抱える。俺も大概冷静じゃない。
俺だって一年あの家で過ごしたので知っている。彼は騙し騙し生きているだけで、とっくの昔に限界だったのだと。
「いや、違う。悪い、その……」
『いいです。そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。それよりすぐ戻れそうですか?』
通信越しのトリマンは、俺と比べようがないほどに冷静だった。俺は必死にゆっくりと息を吐く。そして今いる状況を思い浮かべる。
今いるのは、隣国の端の端。トリマンのいる王都までの距離は……。
「……ギリギリになる」
夜更けに間に合うかどうか、と正直なところまでは言えなかった。それは近くで静かに息を潜める少女がいたからだった。彼女はひどく怯えていた。
『できるだけ、急いで』
トリマンは『無理するな』とは言わなかった。それが現状を明確に示していた。
俺はスピカに「荷物になるのは置いてけ」と言った。彼女はポケットのハンカチまで捨てると俺の手をそっと握った。久しぶりの感覚だった。
「し、ししょう」
スピカは青ざめていた。当たり前だ。俺は彼女に大丈夫と言ってあげたかったが、そんな気休めを言えるほど人間ができていなかった。
「とりあえず、すぐに馬車を手配する。とりあえず港だ」
運の悪いことに、その国は島国だった。しかも本国まではかなり大きな海を挟む。
昨日知り合ったおじさんが漁船を持っていると言っていた。彼に頼めるだろうか。もしくは幾らか払って、少しでも早い船を出してもらうことはできるか。
「ま、待って、空を飛ぶのは?箒ならすぐに……」
頭の中で算盤を弾いていると、スピカが慌てたように俺の袖を引いた。俺は首を振る。
「いや、無理だ。ここからだと遠すぎる。お前が集中力を切らさず王都まで行ける保証はないし、俺もお前を抱えてだとキツい。途中で事故る可能性が高い」
もし海上で墜落したらゲームオーバーだ。レグルスだって今際の際に駆けつけるためにこいつが死んだら死んでも死にきれないに違いない。
「で、でも……」
「ここからまっすぐ飛んで、最短で四時間だ。保つか?」
自分の実力不足というのは、誰かの悪意よりもずっと心にくるだろう。彼女は唇を噛んで首を横に振った。
「ほら、でもとりあえずこの森は飛んで抜ける。行けるな」
「うん……」
スピカは俺に倣って、手早く箒を手に取った。ポケットの中身から上着まで取り去って、文字通り身軽になった彼女はふと空を見上げる。
「私が、もっと空を自由に飛べたら」
「…………」
きっとそれは、誰かに問いかけるではなくただの独り言だった。
彼女の視線の先は、俺ではなくさらに上空、白く大きな翼を持った渡り鳥が、青空を悠々と飛んでいた。
「大切な人の元に、すぐに飛んでいけたら良かったのに」
それは、春が終わる頃。花が散り、動物が肥えだし、子供が笑う。そんな頃のこと。
バサァ
結論から言うと、俺とスピカは間に合った。太陽が落ちる前に王都に着いて、レグルスの手をしっかりと握ることができた。そしてレグルスはその夜峠をしっかりと超え、また新しい朝を迎えることができた。
そう、間に合ったのだ、俺たちは。
彼女が、その翼を背中に生やしたおかげで。
「センパイ……」
俺は、賭けに負けた。
彼女が発現した特別魔法は、病の治癒なんてものではなかった。
ただの、翼を出す魔法だった。
ーーーーーー
「この世の終わりみたいな顔してる」
「……終わりそうだよ」
取り繕う気にもなれずぶっきらぼうに返すと、「何言ってんの」とレグルスはかすかに笑った。
彼の、まるで薄っぺらい手の掴む。指に力を入れたら簡単に折れてしまいそうだった。
スピカとの旅の終わり。王都のトリマンの家に転がり込んだ俺たちは、そのまま彼の厚意でその家に滞在させてもらえることになった。
それから数日。俺はついに、レグルスのベッドサイドから動けなくなった。
スピカのように少しでも何かできないかと飛び回ることも、トリマンのように残りの時間を少しでも楽しめるようにと世話をやくこともできない。
ただ、この手の中の温度が消えていないか確かめ続けていた。
「後悔、してるの?」
レグルスが途切れ途切れに言った。俺は「当たり前だろ」と小さく返した。
「実験、成功したんでしょ」
「……実験自体は。でもそれでお前の病気が治せなきゃ意味ねえ」
口をついて出たのは、自身の研究が何よりも大事だった頃の、兄妹に出会う前の自分なら絶対言わないセリフ。しかし気にせず続けた。
「それに……あの翼は覚えがある。突然変異体のフェニックス……最初の春に出会った個体だ」
「…………」
「つまり、花開いていないだけで、あの段階で魔法因子は取り込めていた。……お前との時間を無駄に一年、奪っちまった」
「……」
彼は、そんなことないよ、とも気にしてないよ、とも言わなかった。
きっとそんなことを言われていたらもっと苦しかっただろうから、それに俺は確かに救われ、救われたことがまた苦しかった。
「シリウスは」
彼は静かに言った。
「自分の研究に、賭けてたんだね」
「……まあな」
俺は、なんとなく目を逸らした。賭けた、賭けていたさ。
共同で研究していた友人たちから揃ってそっぽを向かれた出来であろうとも、軽く百年は探究してきた分野だった。
もしもこれが、レグルスを救うことになれば、きっと自分の何もかもも救われると思った。
これまでの苦悩に、意味ができると思った。
「シリウス僕はね、ずるいんだ」
レグルスは唐突に言った。彼は俺の手を引き止めるみたいに手の甲に軽く爪を立てた。
「僕、別に研究が上手くいかなくても、どっちでもよかったんだ。むしろ、失敗して負い目に感じてくれたほうが正直都合がいいと思っていた」
「……」
「僕ね、シリウスがスピカのことを弟子にしてくれたこと、それだけで良かったんだ」
「……自分が死んだ後のため?」
「言わせないでよ」
「…………」
彼は、もう体力が持たないのか最近は随分口数が減っていた。しかし今日は元気なのか、無理をしているのか。
「スピカが俺を拾ってきた時、受け入れたのも同じ理由か?」
掠れる声で尋ねると、彼は「懐かしいね」と笑った。答えになっていない。
「ごめんね、ずるくて」
「それは……」
それは、きっと、「ずるい」なんて言葉じゃなくて。
もっと心地の良い熱を持った感情だ。そう思ったが、正しい言葉が見つけられずに視線を彷徨わせる。
「もう、スピカは一人で大抵の魔法動物は倒せる」
そうして俺が選んだのは、話を逸らすことだった。ただの話題提供。しかし彼は「すごいね」と自分のことのように笑った。
「空も自由に飛べる。再来年には学園に入れる年になるし、入学試験を受けてみてもいいかもしれない。庶民でも魔法の実力があれば歓迎されるんだ」
「そっか、きっとその方がスピカにはいいかもね。お友達もできるだろうし。……でも普通の授業についていけるかな?」
「俺が教える。ま、大抵の学問は分かるよ」
「頼もしいね」
「だろ?」
「安心、だ……」
「……」
そんなつもりではなかった。話題を失敗したと思ったけど、あまりにも穏やかに言うので、何も言えなくなってしまった。
彼はもう疲れたのか、ほぼ目が閉じていた。俺はそのまま寝てしまえと、彼の目元に手を置く。触れた目元は、どこか冷めていた。
「……シリウスは?なんでうちに来てくれたの?」
彼は、もう半分夢の中だった。
俺は静かにあの日を思い出す。
スピカは言った。甘くて大きくて美味しい果実を探しているのだと。
俺の「理由」は、残念ながらレグルスのもののような暖かいものではない。
「マールスの取れる時期が、夏だったんだ」
本当になんてことないことだった。ただの気まぐれ。
途端に気まずくて、俺は目を逸らした。レグルスが驚いたように息を呑む音が聞こえた。
そして本当に、本当に優しい声で、言った。
「そっか、きっかけはきっと、なんでも良かったんだね」
ーーーーーー
「限界に近いっす。峠とか以前に、もうこれ以上良くなりようがないし、ズルズル悪くなってる」
「覚悟、決めてください。きっと数日中っす」
すっかり医者がわりになったトリマンにそう告げられたのは、夏の近づく気持ちの良い朝のこと。
スピカは泣き崩れた。そういえば、彼女がこうも泣くのを見るのは初めてのことだった。
「なんで、私じゃダメだったの?」
彼女は涙ながらに言った。
「お兄ちゃんもお母さんみたいに、私を置いていくの?」
その言葉に胸が詰まって、俺は彼女を抱きしめた。彼女は俺の腕を、縋り付くように強く握った。
「私、は、昔から風邪一つ引いたことなくて、お母さんがしんどくても、お兄ちゃんが流行り病にかかっても全然平気で。……お兄ちゃんの分の元気も、私が取っちゃったのかなって」
「……そんなわけないだろ」
「うん。……こんなこと言ったらお兄ちゃん怒るよね。でも、でもね。置いていかれるのは、悲しいよ……」
「……そうだな」
そうだな。置いていかれるのは悲しい。
俺もそう思う。
その日から、ベッドサイドに縋り付く人影がもう一つ増えた。
枯れゆく切り花を見ているようだった。
トリマンにそう溢すと、「そんなに儚くないでしょ」と笑った。そうかもな。
レグルスは強い。特にスピカの前ではそうだった。
「お兄ちゃんしてる」とも取れるし、弾ける前の花火のようにも見える。
しかし現状何一つ良くならない。あと何日も残っていないだろうし、明日は目覚めないかもしれない。
そしてその「明日」は結局すぐだった。
「死ぬのか」
声は多分、震えていなかった。
夕飯を食べて、ろうそくの火をぼんやりと眺める。いつもよりも少し風の強い夜だった。
スピカは、夢の中だった。まだ七つの彼女にしては頑張った方だった。
しかし眠っている間も、何かあった時に気づけるようにと兄の体にピッタリと寄り添っていた。ここ最近はずっとその眠り方だった。
しかしレグルスは、妹が目を離した隙に天界に旅立とうとしていた。
俺の問いに、レグルスは目尻だけで笑った。もう声も出ないのだろう。
「おい、スピ……」
俺は咄嗟にスピカを起こそうとして、それに対して悲しそうな顔をするものだから、俺はスピカの肩を叩く手を止めざるおえなかった。彼はこれまで出会ったどんな強者よりも、俺の行動を縛る術を持っていた。
「見られたく、ないのか?」
レグルスは眉を下げて、懇願するように俺を見た。彼は確かに、妹の前では強がるばかりだった。
「スピカが泣くぞ」
しかし口ではそう言いながら、穏やかな顔で眠るスピカを起こす気力は確かに俺にはなかった。
きっと、素敵な夢を見ているのだろう。
「スピカを、俺に任せて安心したか?」
俺はレグルスの、スピカが捕まえているのとは反対の手をそっと持ち上げた。もう片方の手でスピカの手を握りしめる。
「勝手なやつめ」
俺はその二つに額をつける。いつか、三人で並んで寝た時に感じた二つの熱は、今や一つだけになってしまってた。
「ふざけるなよ」
感情のまま吐き捨てると、レグルスは困った顔をした。
「俺が、気を許したのも、世話してやりたいのも、弟子にして魔法を教えたいのも、全部、一人だけだと思うなよ」
「死ぬなよ」
その時俺は、ストンと滑り落ちるように、唐突に理解した。
「愛してるんだ」
この可愛くて悲しい兄妹を、宝物のように思っていた。それは陳腐でありきたりな、ただの愛だった。
俺の震えた声が、空気に消える。その直前、彼の瞳からするりと雫が一筋流れた。
ーーーーーー
「ま、そう言うわけで偉大なる魔法使いシリウスは愛という永遠の宝を知ったのでした。めでたしめでたし」
「……え?」
「うん?どうしたギナン、豆鉄砲でも喰らったような顔をして」
「え?え、終わり?」
「そうだな、終わり。めでたしめでたしっつったろ?」
「え、死んだんだけど」
「死んだなー」
「え、え?」
ギナンが俺の言葉に目を白黒させる。素直な反応に面白くなって混ぜ返してやる。いつもレグルスがこいつを揶揄う気持ちが少し分かって、ちょっと微妙な気持ちになった。
場所はいつものように魔法学準備室。いつものように準備室でだらけるギナンに、今日は昔話を聞かせてやっていた。
しかし気づけばもう夕方。まあかいつまんだとしても、数年分の話だ。時間はかかるのは当たり前だが、もうすぐレグルスの授業が終わる時間だ。流石に彼の前で昔話はできないので、そこそこのところで終わらせることにした。
と言ってもギナンの顔は疑問符で塗りたくったような様相だった。これでは何かがあったことが丸わかりである。
レグルスの様子を魔法で探り、まだ教室でクラスメイトと話していることを確認すると、俺は改めて口を開いた。
「死んでねぇよ、レグルスとは昨日も会っただろ?」
「あ、うん。なんだったら今朝も一緒にご飯食べたけど」
「仲良いなー」
「ハニトラ中だから」
忘れていた。それもあるんだった。まあ、それはとにかく話を終わらせてしまおう。
俺はあの時のことを思い出しならが言った。それは何度も振り返った景色だった。
「まあ、とにかくあいつは死んでない。なぜかって言うとまあ、俺の思いつきだ」
「思いつき?」
そう、ただの思いつきだ。しかしそれが奇跡的にうまくいっただけ。
しかし思いついたのだ、スピカがレグルスや二人の母親と同じ遺伝子を持ちながらあんなにも健康体なのは、膨大な魔力を有しているからじゃないかって。
特にあの時レグルスを苛んでいた症状は、二人の母親を天に送った時のそれとあまりにも酷似していたらしい。まあだからこそレグルスを亡くなった母親に重ねてスピカは苦しんでいたし、レグルスは諦めていたのだが。
そして俺は思いついて、試した。膨大な魔力が病魔を退けるという仮説を立て、レグルスに膨大な魔力を宿るようにした。
早い話、彼にシリウスの魔力をぶち込んだのだ。
今思い返しても随分な賭けだ。もしそれで病気が治っても、他者の魔力を注がれた拒絶反応は大きいし、それにレグルスの弱りきった体が耐え切れる可能性は低かった。
しかし俺は、その賭けに勝った。
流石にシリウスはスピカほどの魔力量を有していなかったので、その回復は地道なものだったが、今ではご存知の通り、だ。
彼は病魔に打ち勝ち、俺の弟子になった。
「ふーん、なるほど。それでハッピーエンドってこと?」
「まあ、そこで本を閉じられれば確かにハッピーエンドだな」
その先の物語は、きっとギナンは知っているのだろう。様子を伺えば困ったように微笑んだ。
俺はその顔に少し安心する。あの時のことを改めて説明する気力はなかった。
あの後。
レグルスは俺の弟子になり、俺は二人の弟子を抱えてその後生涯で一番温かな日々を送ることとなる。しかしそれは一瞬のこと。
それはスピカが成長し、俺の勧めで王立学園の入学試験を受けたことにより崩壊する。
入試を受ける庶民用の魔法検査具、『魔力測定器・バージョンナイン』にて検査をされて、彼女の特別魔法が発覚するのだ。
特別魔法。それは空を飛ぶための羽を生やす魔法と、そしてなぜかもう一つ。……時を止める魔法。
彼女が取り込めていた魔法因子は、二つあったのだ。
その時代ただでさえ危険視されていた特別魔法が二つ、しかも二つ目は時を止めるなんて強大な力。魔女裁判にかけられるのもすぐだった。
本当に早かった。何もかも早くて、全て後手に回った。
彼女が裁判にかけられるのも、お尋ね者になるのも、国に捕まるのも、……処刑されるのも。
そして俺は何もかもに間に合わなかった間抜けだ。
学園に入学するよう勧めたのも、彼女に二つの特別魔法を植え付けたのも、魔力測定器を作ったのですら俺だったというのに。
そんなことどう伝えればいいのか。どんな顔をして言えばいいのか分からない。俺は情けないことに、この全てに向き合えていなかった。
「まあ、つまり何が言いたいかって言うとだな」
俺は無理やり話をまとめにかかる。ギナンは猫のような瞳をこちらに向けて、ゆったりと構えた。その動きだけで、きっとこれからの説得は無に帰す予感がした。
しかし言わなければならない。
「俺やレグルスは、小さい女の子に弱い。それはスピカを思い出すからだ。庇護対象として見てるし、それはお前みたいな態度のデカい神様でも変わらない」
「……私あいつに初対面で首絞められたけど」
「それは敵だったからだろ。今は違う」
「……うん」
彼女はどこか気まずそうに頷いた。
「だからこそ、レグルスがお前に性愛を抱くことはないよ」
彼女は元々は高等部の学生くらいの年齢だったと言うから、この言い方でも伝わるだろう。実際ギナンは俺の言葉に、真剣な顔で考え込んだようだった。
「ふーん、でも別に、恋愛対象としての愛じゃなくてもいいんだよ。まあ、恋人って分かりやすく『一番』っぽいからそれがいいってだけで」
「むしろそっちの方がきついだろ。例えば家族愛みたいな、……妹みたいに愛された場合どうなる」
つい、言葉尻が強くなる。しかしどうしても譲れない。
「二度も、あいつに妹を失わせるつもりか?」
死者創造の儀式。
自身の心臓を保険にかけ、唯一神に五つの供物を捧げることで成る。
五つの供物。
一つ目は無垢な乙女の血。場を浄化するために使われる。
二つ目はマールスの木。種を植え、術者の魔力のみで木を漲らせる。一年かけて行うことにより、その場に簡易的な結界を張る効果が期待できる。
三つ目はその実。神をその地に呼び寄せる媒介となる。
四つ目は人体錬成のための素材。材料となる。
五つ目はこの世で術者が最も大切な人を一人分。最もこの場合術者自身は除く。
また、最後の供物となる生贄には、その体に贄の印となるマールスの花弁を咲かすこととなる。




