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身代わり少女の生存記  作者: K.A.
前日譚:初等部2年
31/88

オリダンとはこうして生まれるのか

 夏季休業とは比べ物にならないほど短い春季休業を終え、私たちは再び学舎に集っていた。

 学舎、というと些か語弊があるか。まだ始業式も授業も始まっていないので学ぶ気ゼロである。私たちが集っているのは。

「それでは!第一回、クロダン会議を始める!」

 クロダンの団室、通称「秘密基地」だ。


 この学園では体育祭の時、全生徒を身分の垣根を越え四つの組に分ける。私やベガ、リゲルのいるクローバー、アルのいるスペード、カペラちゃんのいるハート、あとはカペラちゃんの婚約者であるカノープスくんのいるダイアモンド。

 ただしその組は体育祭の時に限らず普段話すことのできない身分差のある同級生や上級生との交流の場として使われている。縦割り学級だとか中等部からあるというクラブ活動に近いかもしれない。しかも初等部の一年に決まった組から高等部を卒業するまで持ち上がりなため卒業後の進路や家紋同士の繋がりとして利用される。このように今後の社交として大きな意味を持っている。

 そして団室というのは四つの団がそれぞれ持つもので、その場所は団にとって城のようなもの、一つの団を除き団員と団の担当教員しか場所を知らないという徹底ぶり。


 秘匿義務もなければ言ってしまえばただの子供たちのお遊び。どうせ団員しか知らないと言っても学園で暮らしていれば自然と先輩とかから話を聞くようになるかと思ったが、生徒たちは腐っても貴族。学園全体が社会の縮図であることからしてそう言った秘密も漏らさぬよう教育されているのか一年暮らしていてもその場所を聞くことはなかった。

 先輩たちも同様、団室に関する言い伝え?のようなものが残されているのみだそうで。それを教えてくれたのは一つ上の学年のシトゥラ先輩だった。

 彼女は懐からメモ帳を取り出して歌うように読み上げた。


「騎士道スペード、王のお膝元で出番を待ち

 華麗なハートはどこにでもありどこにもない

 ダイアモンドは全てにその門戸を開き

 クローバーには知っていても辿り着けまい」


「詩、ですか?」

「そうね」

 いまいちピンとこない私に先輩は上品に笑った。

「でも、結構的確に各団室のことを表してるって聞いてるわ。なにしろ私たちより二十くらい前の代の生徒、通称ガガーリンが特別魔法で初等部、中等部、高等部の団室を発見したと言うの」

「中等部からも団室って今と似たように作られてるんですか?」

 私は思わず聞いてしまった。なにしろうちの団室はオブラートに包んで少年少女の夢の詰まったような部屋だからだ。

「ええ。少なくともうちは大体同じ」

「へえ……」

 私は最近大人っぽくなりつつあるアルにはこの部屋のことをバレないようにしようと思った。

「まあ、この言い伝えも大体合ってるじゃない?うちと、あとダイアモンドは」

「ダイダン……全てのものに門戸を開き?」

「うん。ダイダンの団室って第四棟の一、二階にあるの。知ってた?」

「まあ、聞いたことあります。行ったことはないですけど」

「行ってみるとわかるけど団員ごちゃ混ぜになってるわよ、あそこ。ただの多目的室みたいな。もちろん人数的にはダイダンが多いけれど」

「へえ。今度行ってみます」

 身分もごちゃ混ぜな団制度までごちゃ混ぜか。どうなってるんだろう。

「いいと思う。本当にいろんな人と話ができるし」

「あとは……知っていても辿り着けまい」

「そう思わない?例の探検家ガガーリンも発見はしたものの中に入ることはできなかったそうよ」

 彼女はウィンクと共にそう答えた。

 それは果たして名誉なことなのか分からないけれど。


 クロダンの団室が第三棟の半地下にあるというのは、前に何度か話したと思う。いつも授業を受ける本校舎から歩いて大体十分くらいのところにあるレンガ作りの三階建ての建物、その中の四季折々の花々が咲き誇る普通教室くらいの大きさの中庭。

 まあ半地下と一口に言ってしまえばそれまでだが、入り口までの道のりがかなり困難である。

 まず庭の木々の中でも一番大きなクスノキの裏側にいかにも重そうな岩がある。実はこれ、ハリボテであるのでそれをどかす。そうすると人一人が潜れるくらいの穴が出てくる。その中の梯子を伝って下に人一人分くらい下に降りる。(ここでハリボテの岩についている紐を引っ張って偽装しておく)

 梯子を降りると鍵の掛かったドアが見えてくる。団員全員に支給されている鍵を使って開錠し、ドアノブを右に二回左に一回右に一回捻ると開く。

 そして開けた先にまたもや出現したドアに四桁の番号でダイアルを合わせると扉が開く。四桁の番号は団長の権限で不定期に変わり(変更の知らせは第三棟の屋根に飾られている旗が黒からオレンジに変わることである)、本校舎二階の東階段裏の人気のない掲示板にひっそり貼ってある学園新聞の裏側に一日だけ数字の書かれた紙が貼られる。なのでその数字と、同じ方法で掲示されていた前回の数字を足し合わせた数字でその鍵は開く。

 で、扉が開きその扉を潜ると団室、ではなくなんの変哲のない社会科準備室に出てしまい、そっちからのドアノブはないため先ほどの部屋には戻れなくなる。そのためその扉ではなく鍵を開けたドアの右隣の壁をスライドすることで団室へと入れる。


 いや、長い。超長い。こんなにも策を講じなくてもと思わなくもないが長い歴史の中で体育祭でふざけすぎて団室没収なんてことになりかけたこともあるらしく、教師ですら入れないようにこの作りにしたのだそう。ちなみにクロダンは他の団と違い担当教員の影響を受けない団経営なので担当教員もここのことを知らないそう。

 そしてすごいところはこれら全てに魔法を使っていないことだ。なので魔力の跡を辿って侵入するというのができなくなる。中等部・高等部からは魔法痕の隠蔽に長けてくるのでどんどん魔法を使っていくのだが。

 いや、言わせてくれ。技術の無駄遣いだろ。

 ただしそんな面倒な侵入方法でありながら面白い物好きのクロダン団員には大ヒット。誰も文句を言うことなくかなりの頻度で団室に通っている。まあ中の快適さもその一因ではあると考えられるが。


 閑話休題。


「じゃ、会議を始める。みんな揃っているか?」

「おうよ」

 やる気に満ちた新団長・カイにリゲルが熱血に応える。ただその言葉とは裏腹に彼の視線は目の前の駄菓子の山に奪われていた。

 各々大っぴらに食べれないような健康に害のありそうな食べ物を持ち寄っている。ここは絶対に教員の目が届かない場所。備蓄の菓子は良家の子息子女が周りの大人の目を盗んで食べなくてはいけないものばかり。入手先は身分の低い団員で、逆に彼らは良家の子が持ってきたとろけそうなお菓子に舌鼓を打っている。等価交換だ。

 そしてこの場の常識で言うと身分に非常にそぐわないいい値段のするおいしいお菓子を口に運びながら、私は声に出さないまでも思った。

(いや、お菓子出した時点で話し合いなんて進まないだろ)

 そして私の予想通り、イイコな子供たちは口にものを詰めたまま話せないのでやっと本格的に話し合いが始まったのはみんながあらかた満足した約一時間後のことだった。


「で、クロダン会議?だっけ、何すんの?」

 あまりに帰ってこない返事にしょんぼりしたカイに代わって話を仕切り出したのはその親友アンカーだ。クロダンの団員かつ少人数の魔法学の授業のクラスメイトなので、彼とはよく話す。この前は他の魔法学クラスの数人でショッピングに行った。

「今日はもう食事会で終わってしまうのかと思った」

「ふふ、感謝しろよ」

「ああ」

 カイとの相性は良好。アンカー曰くカイは放って置けない舎弟らしいが身長差も相まって親子にしか見えない。譲って年の離れた兄弟。親はカイ。


「それで今日の議題なんだが、オリダンで何をするかを話したいと思う」

「へえ。今?」

 オリダン、オリジナルダンス。体育祭の二年生の競技の一つだ。ダンスの形をとっていればなんでもオッケーという自由度の高い演目は三年生の組体操に次いで人気のあるものとなっている。

 確かにそれに伴い各団が本気を出し準備も相当かかるものとは思うが体育祭本番は六月の頭三学年合同の練習が始まるのも五月に入ってからである。だからこの、春休みもギリギリ終わっていないような四月の初めに話すことでもないだろう。


「早くない?」

「慌てんぼうかな?」

「可愛くないよ。いくら言葉が可愛くても言っている人は可愛くならないんだよ」

「ただし可愛い子に限るってか」

「ヘゼ言ってみて」

「あわてんぼう?」

「かわいい!」

「かわいいか?」

「慌てんぼうって言葉のかわいさがあんまり分からないまである」

 発言の自由がこれでもかと許された秘密基地。各自いい紅茶で口を湿らせながら思い思いを口にする。それが静まるのを待ってカイは口を開いた。


「この団に『自由』なんて言葉を与えて、そんなにすぐにまとまると思うか?」

 ごめん……。




「まず今年のオリジナルダンスにおける目標を発表させてもらいたいと思う。今回は勝手ながら自分が決めさせてもらった。これを見てくれ」

 カイは分厚めのファイルを数冊みんなに配った。私はベガとリゲルと一緒に冊子を覗く。

「オリダンのページを見てくれ。十五ページだ。制限時間は年によって多少変わるが例年五分。三学年の合同練習前に正式に発表があるが、多分今年もそうだと思う。どんな物を使ってもオッケー、どんだけ金を使おうと何をしようとかまわない。まあ明言していないだけで限度はあるというか各々の良心に従ってって感じだけどな。そしてそのふわふわした法律の隙をつくのがクロダンだ。次のページを見てくれ」

 ページを捲ると『オリダン一覧』と題されたページに筆記の違う数十人分の書き込みが入っている。

「代々のクロダンが何をしたかの一覧だ。オリダンが体育祭の競技に加わった約四十年前から毎年欠かさず書いているみたいだぞ」

 カイは続けた。

「例えば一個目、これは最初の年だな。内容は盆踊り。演目時間十分。まあこの時は制限時間は特に設けられていなかったみたいだからそんなもんだろ」

 お、だいぶ大人しいな。まあ最初だからそんなもんなのだろう。

「本格的な太鼓を持ち込み敷地近くの川で花火を打ち上げ出した。近隣住民の迷惑になったとして説教対象者、団長、副団長」

 ……うん。これでこそ、これでこそだよな。

 私は密かに安心してしまった。

「ま、こんな風に初期は大人しい」

(((大人しい???)))

 カイ以外の全員の胸中は一致したが気にせずカイは近くのラーンちゃんを指名した。


「ところで、オリダンの三原則、言えるか?」

 三原則。そこそこ有名かつ渡された資料内にも書いてあるそれ。すぐに思い至ったラーンちゃんは笑顔で即答した。

「『ダンスであること』『安全を守ること』『制限時間内に収めること』!」

「正解だ」

 カイは満足気に頷いた。

「それを踏まえて見てほしい。第二十三回目を見てくれ。内容は書道パフォーマンス。演目時間約四分。流石に『ダンス』と言う名前の入った競技でダンス以外の発表というのはいかがなものかと言う意見もあったが当時はそれに関する明確なルールがなかったため説教対象者はなし。ただし団長に厳重注意」

(……?)


「次は第七回目だ。内容はアクロバティックなダンスだ。演目時間約一分。魔法が使えないからと火薬の爆発で火柱を立てるなどしたため開始直後に止められた。当時これも安全管理に対するルールがなかったため審査対象外にならなかった。ただし説教対象は団長・副団長と二年団員。全団員に厳重注意並びに団室の使用禁止」

「やばー」

「大事になってる……」

「まあ団室の使用禁止は慣れたことだったから普通にみんな使っていたが。使ってもバレないし」

「おい!」

(……あれ、安全面?)


「最後に第十回目。演目はアドラステア。南方にある『緑の手』と呼ばれる民族に代々伝わる伝統舞踊だ」

(へぇ、民族舞踊か。大人しいな、審査員ウケも良さそう)

「演目時間約一時間」

(……!)

「当時制限時間は一応あったが目安程度の役割しかなく、減点などのペナルティはなかった。ただし会の進行を妨げたとして説教対象は団長・副団長」

(時間……!)


「前置きが長くなったな。まず、今回の目標を発表する」


「目標は『新しいオリダンのルールを作ること』。これを元に演目を考えたい!」

 カイが、いやクロダン新副団長様がニヤリを笑った。彼はどんなに真面目そうでも彼もクロダン。つまりはそういうことである。


「暴れてこそクロダン、だろ?」





『親愛なる当主様

 今日は体育祭でやるオリジナルダンスについて話し合いました。

 先に謝っておきます。ごめんなさい』

二年生編、始動ーーーー

体育祭は何書いても楽しいです

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