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スキル「ゴミ」いや、マジで (書籍化決定)  作者: 新川さとし
第8章 西の漫遊編

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第28話 研ぎ澄まされた

 サムと言えども、好奇心はある。


 皇室警備の責任者となれば、この先、自由な旅などできないだろう。


 かといって、皇宮にヘンな槍(ハルバート)を持ちこんで、得意になっている爺さまに、いつまでも任せっきりにも出来ないのは自明。


 この場合、鉢割ジョイナスの腕を信じるかどうかの問題ではない。実際、引退したとは言え、戦場に行けば、間違いなく、覇気と経験は別格だ。きっと、サムとは比べものにならないほど活躍するだろう。


 歳を取っても、ゴールズ・エレファント隊・元大隊長なのだから当然のことだ。


 しかし、護衛とは、狭い室内を想定するのが本来である。それなのに、なんでヤリを持ち出すのか、という話だ。


 そもそも、何重にも用意されている護衛を、正面切って乗り越えられる暗殺者がいるとは思えない。


 だからこそとサムは思う。


「暗殺者は小細工を狙う」


 そういう時に、ハルバートでは小回りがきかないのだ。


 かくして、サムは趣味と危機感を両立させるため、思いっきり南回りの旅をしつつ、全力で駆け続けたのである――可愛い子を見かけたとき以外は、であるが。


 そんな中、スコット家の「高速道路」を経て、トライドン家の領地へと入ったときだった。


 ここまで来たら、スコット家から帝都に向かう高速道路に戻るよりも、トライドン家に続く山を突っ切った方が速い。


「あっちは、軍事用だもんね」


 サムは、特権を使うのをためらわない。シーランダー王国への侵攻用の街道なら「駅」が整備されているのは常識。


 皇室警備の責任者となれば、替え馬を望むがまま用意してもらえるはずだ。


「ま、ネズミに困ったら、仔猫をもらってこ()ってやつだ」


 山越えまでの辺鄙な村を通過すれば近い。


 そして、サムなりの修行の成果なのだろうか。オウシンの山を出てから、サムは一度も足を止めない。時に、馬を下り、一緒に走ってまでして急ぐ。


 心に何かが囁くせいだ。


「急ぐのが使命だ」と。


 剣を帯び、荷は最小限。修行を終えた身体は軽い。


 借りた馬とは言え、よく走ってくれている。


 ――ひたすらに、急がせた。


 理由のわからぬ使命感のおかげと言うべきか。山裾の、その村に差しかかった時、異変はすぐに分かった。


 人の気配が妙だ。


 サムは、この気配を知っている。


『絶望のニオイだ』


 目に入るのは、道端で膝をついて泣いている老人や子どもたち。あちこち怪我だらけの男たち。おかみさんたちが、懸命に、手当てをしている。


「何があった」


 問いは短かった。

 サムの身なりはボロボロだが、山ごもりを経た眼光は、ただモノではないと一目でわかるほど。


 それに威圧されたかのように、ひとりのおかみさんが、オロオロとしながら答えた。


「娘たちが……さらわれました。ウチの子は、来月、祝言だというのに」


 それが口火となったのか。


 村人たちは、馬を囲むように口々に訴えた。


 十人以上が槍や剣を手にし、甲冑姿の者までいた。皆、ボロボロだった。

 

 腕を巻いた布に、血を滲ませた男は村長だと名乗り、こう言った。


「やつらは、シーランダーの敗残兵だ。こっちに逃げてきたんだろう」


 もはや略奪だけを行う獣と化し、女たちを売るつもりだろうと。


 サムは、静かに頷いたのだ。


「どっちに行った?」


 老人が震える指で、山へと続く獣道を示す。


 サムは、迷わず駆けた。途中、分かれ道や、木の枝で隠された道もあったが、一切迷うことなく、道を選び、隠し道をあばいて突き進んだ。


「女たちを連れている分、動きは遅いか……」


 間に合う、とカンが教えてくれている。


 だからこそ急がねばならない。


 それは、昔の砦跡だったのだろう。目立たぬように手入れが成されていた。


 廃屋に近いとは言え、元は砦である。


『先生はおっしゃっていた。義を見てせざるは勇なきなりと』


 自分なら出来る、と言い聞かせねばならなかった。負けるとは思わないが、怖いものは怖いのである。


 見張りは甘い。


 戦場帰りの兵の気配だが、統制はとれてないのだろう。


 サムは抜刀して近づいた。山ごもりでは、毎日、山を歩いた。


 どんな場合も、落ち葉を踏んで音を立てることも、葉を揺らすことも禁じられていただけに、男の後ろに付くのは容易い。


「げへへ。オレは、あの栗毛ちゃんな」

「ばーか。あれが一番可愛かったじゃん。おめぇなんか、一番へちゃむくれで十分だろうがよ」

「なんだと!」

「まあ、顔と身体はともかく、それなりに若い女たちだ。金にもなるだろうな」


 下卑た笑いを立てる男たちの後ろ。


 一歩、二歩……


 刃が煌めく。男たちが崩れる。


 正義の心が込められた剣閃は正確。迷いなど……ない。


 そして、砦の様子をうかがえば、女たちは奥に閉じ込められているらしい。


「かーかっかっ、どたまが、いーだろ」

「確かにな。裸にひんむいとけば、ヤツらだって逃げられねーぜ」

「ま、今のうちに覚悟を決めさせるのも良いかもな」


 男たちが酒らしきものを飲みながら笑っている。その間には、女たちが身につけていたと思われる衣類が、そこかしこに散らばっている。


『なんてことを!』


 サムの怒りが、沸点を超えた。


 真の意味で「怒る」ことなど、ほとんどなかったサムが、である。


 次の瞬間、室内に、旋風が起きた。


 恐らく男たちは、何が起きたのかわからなかっただろう。


 次々と、バタン、バタンと倒れていた。最後の一人になって、ようやく異変に目を剥いたほどの時間である。


「お、おめぇは、いったい!」

「誰であろうと関係ない。なんというヒドいことをするんだ!」


 せめて最後の一人にくらい、文句を言いたかったサムである。


「お、オレは下っ端で。だから、えっと、えっと」

「問答無用。こんなもったいないことをするヤツなど……」


 サムが生涯でただ一度、殺意をもって吐いた言葉である。


「死ね」


 その剣の「柄」は、他の男たちと同じように、正確に眉間へと打ち立てられ、男の意識を刈り取ったのである。


「この場で、血を流させるわけにはいかないからな」


 もちろん、男たちを生かしておくつもりなどない。だが、室内で切り捨てると、床に散らばった衣服に、血が飛ぶことを恐れてのことだった。


 奥の扉ごしに声をかけた。


「私は、皇室警備のものである。みなさんはサスティナブル帝国の保護下に入った。安心めされよ」


 中にいたのは、村からさらわれた女性たち。ほとんどが婚約者や結婚が決まったもの、そして若妻だった。


 恐怖と疲労で座り込んでいるようだが、命に別状はないらしい。


 というのは、サムとしては意外なほどに「紳士」となり、中を一切見なかったからである。


「もう大丈夫だ。少々待っていろ」


 自分で服を取りに来させると、万が一、目覚められた場合に厄介だと、自分では理由を付けている。


 手早く衣服をかき集めると、造作なく「一人分」ずつにまとめると、背中を向けたまま言った。


「約束しよう。私はこっちを向いている。目も閉じていよう。安心して、順番に服を取りにきなさい」


 彼女たちは、しばらく呆然としていたが、ようやく、泣き声が治まってきたところだ。


 最初の一人が、オズオズと近づいてきた。


 振り返るまでもなく、女との距離はわかる。背中を向けたままとは言え、目も閉じているのを、女たちは信用するかどうか。


 サムは、紳士なのである。


 クンクン


 近づいた匂いに、一つ頷くと、迷うことなく、一山を手に取り、頭越しに渡した。


「ありがとうございます。あの、でも、混ざって…… あれ? 全部、これ、私のだ」

「でしょ? じゃあ、次の人」


 次の女が、興味深げに、近づいてきた。


 間髪入れず、頭越しに服のカタマリを渡す。


「え? な、なんで分かるんですか!?」

「とうぜん。だってこの服と同じだから。はい、次」


 また一人、また一人。


 女たちは、何が「同じ」なのかもわからない。


「はい、これが、あなた」

「ちょ、ちょっと待ってください!? いったいどうやって!」

「え? わからないはずないだろ。私は、皇室警備の責任者なのだから」


 迷いのない断言。なによりも、誰一人、どれ一枚、間違いなく渡されては、女たちも、肯くしかなかったのだ。

 

 最後のひとりに渡し終えた時、女性たちは完全に顔を引き攣らせていた。


 それであっても助けてくれた礼は、別の話。そそくさと服を着た女たちは、まとまって、頭を下げ、お礼を言った。


 さらに、ひとりずつ礼を言った後で、年かさの女が、恐る恐る聞いた。


「剣士様って、何で、そこまで分かるんですか」

「修行の結果だ」


 真顔で言った。


(……師匠には、黙っておこう)


 帝都へ続く道を、サムは再び急いだ。


 剣は冴え、邪心は――別の形で研ぎ澄まされているらしい。



※ネズミに困ったら、仔猫をもらってこい:サスティナブル帝国に王国時代から伝わる諺。ショウ君の前世だと「急がば回れ」となります。


やはり、サムは怒ります。当然です。そのあたりに散らばらせておくなんて、絶対に許せません…… 

弱き人を助け、紳士的な振る舞い。修行の成果を遺憾なく発揮しましたね、オウシン、センセ(笑)

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