第26話 愛すべき赤毛ちゃん
非常に、好みの分かれる回だと思われます。もしも「クルシュナの好み」をお忘れの方は南部編の『第12話 マーダー&マザー』を見返してから、お読みいただくと楽しいかもしれません。
お願いです。石を投げないで……
「ご無事のお帰り、お喜び申し上げます」
メイド頭のフェフォが、いつものようにカバンを受け取りながら、素早く目で指図していく。
あちこちから、ワラワラと現れたメイド達が、歩きながら着替えをさせ、お茶を差し出してくるのは名人芸の世界である
部屋の真ん中で立ち止まると、ぬるめに入れたお茶をクワッと飲み干す。
クルシュナが、いたって上機嫌な証拠である。
「いや~ 今日はウケちゃってさ~」
「それはようございました」
フェフォは、カップを盆に受け取りながら返事をするが、もちろん、クルシュナが市井の安酒場に出没することに賛成は出来ない。
だが、半ば諦めてもいるため、小言はなるべく控えるようにしていた。
とはいえ、シーランダー王国において「王に小言を言える」のは、フェフォだけなのも事実である。
「今日は、どのような?」
「おぉ! 聞いてくれよ。最近始めた、人体切断マジックが超ウケでさ」
「まあ、怖い」
その瞬間のクルシュナの顔は「獲ってきたカブトムシを見せたら、母親に拒否された子ども」そのもの。
「いや、本当に切るわけじゃないんだ。箱に入れて切ったように見せて、半分だけ浮かせてみせる。そして、箱のフタを開けたら、はい、生還! ってことでさ」
ウソである。「実際に切れている」のだが、スキルによって「マジックによる切断だから元に戻る」という不思議な現象が起きているだけ。
何しろ、切られた本人からしたら、実際に上下真っ二つにされるのだから、たまったものではない。
真っ青になって、泣き叫ぶのが普通である。
たいていは「その酒場で、一番の強面」を選んで行う分だけ、客が大ウケするのがその秘訣だ。
出した手に、さりげなく、さっき預かったカバンを渡すと、ガバッと広げて見せるクルシュナである。
「な? ほら、すげぇだろ!」
満杯になった銅貨を見せるクルシュナの表情は、ガキ大将が宝物のガラクタを見せる時、そのもの。
そんな表情を見てしまうと、出発点である「マトゥラー国」時代からのメイド頭のフェフォは、母性が強く反応してしまうのも仕方ない。
これでは、小言どころではないのである。
とは言え、今日という今日はさすがに「母性」では…… いや、母性が働くからこそ許せないのである。
「大王様、しかしながら、今日はさすがに」
「え~ いぃじゃん。中々いないんだぜ、こんな良い子は」
はにかむ笑顔を見せるのは、最近の好み通りの、赤毛で、指先までほっそりとして、抱けば壊れそうに薄い肩。
そのくせ気品のある凜々しさを合わせ持つ美少年、そのものである。
「ボ、ボク、ですか? あのぉ。ボクのようなものにまで大王様から声をかけていただいて。あ、でも、ダメなら帰りますので!」
まだ幼さの残る高い声。いかにも最近のクルシュナ好みなのを理解するフェフォだ。
『もう~ いつからかしら。連れてくる子の好みが変わったのって』
以前は「街で見かけた女の子」で、美形で肉感的な子を好んだが、いつからか「赤毛で、美少年風のボクっ子」をターゲットにしてしまった。
今では、貴族達にも広く知られていることだ。おかげで娘の髪の毛を赤く染めるのが流行り、貴族の子女はこぞって「ボク」を一人称にさせ、パンツスーツで街を歩かせるのが流行っている。
みな、大王の縁続きになるのに必死なのだ。となると、この子も、どこぞの貴族の血筋なのかもしれない。
ギュッと、眉をしかめるとフェフォは、怒った顔を無理やり作るしかない。さすがに止めないと。
「大王様、しかし、さすがに今日の方は……」
「いいってことよ。せっかく仲良くなれたんだ。胸がないくらいで、遠慮するんじゃないぞ」
「そんなぁ、大王様ってば、えっち」
「ははは、いーんだよ。王様なんて、みんなエッチなんだからさ」
イチャイチャする二人に割り込む余地を探しながら、フェフォは、まだ諦めない。
「大王様? あの、本当に、あの、今日?」
「うん? あ、まあ、カタいこと言うなよ」
いつになくフェフォが止めようとするのを不審に思いつつ「そう言えば、オレのいない間にサンタが探してたって聞いたな」と頭に浮かぶ。
どうやら「オイタをしている場合じゃないでしょ」と、ママが叱っているつもりなのだろうと、クルシュナは理解した。
「なぁに、大丈夫さ。なんていっても、今日はクリスマスイヴだからな。ロマンチックにしないとダメさ。そのためには、オレ好みのかわい子ちゃんがベッドに必要なんだよ。なぁ、仔猫ちゃん」
「にゃーお」
指をクニッと曲げて、クイクイとネコのポーズまでしてみせる赤毛ちゃんである。少々恥ずかしそうな感じからして、クルシュナに因果を含められてしているポーズなのだろう。
「大王様、しかし、いくらなんでも……」
「いいんだよ! どうしても止めるって言うなら」
そこでニヤリ。
イタズラするぞ、と言わんばかりの顔だ。
どうにも、王宮では、いや、フェフォの前では子ども返りしてしまうのは、おそらく、国の危機を感じている反動なんだろう。
フェフォが、はぁ~と大ききため息をついてみせると、クルシュナは「勝った」と嬉しそうだ。
「じゃ、仔猫ちゃん、今晩は寝かさないからな」
「もう~ でも、ボク、殿方は初めてなので。優しく、お願いします」
「ケケケ、おじさんはね、おじさんはね? 初めてってのが大好物でね」
完全に狒々爺である。
ゲヘゲヘとだらしない顔をしたクルシュナが、赤毛ちゃんを寝室に連れ込んで十分後である。
「うぁああああ! 付いてる!」
「だいおうさまぁ、そんなぁ、一晩中ってお約束ですよぉ」
その後、何がどうなったのか、フェフォは知りたくなかったのであった……
すみません。お下劣ですけど、どーしても書きたかったんです。ごめんなさい。
サスティナブル帝国では、華やかなデビュタントが行われている頃、シーランダー王国では、見たくもない世界が展開されています、と言う、ちょっとしたネタ回です。




