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スキル「ゴミ」いや、マジで (書籍化決定)  作者: 新川さとし
第7章 南部編

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第94話 研ぎ澄ませ。 え?

 素振りを見たオウシンは、静かにサムの前に立った。


「驚いた、と言わせていただこう」


 オウシンは、率直に言った。


 ある意味で「カイこそが最後の弟子」と思った後に、これほどの者と出会えるとは、という驚きだ。


 近所の子どもたちに手ほどきすることはあっても「オウシンの武術」を教える相手など、二度と現れることはあるまいと信じていた。


 今回も、いくら皇帝陛下からの依頼とはいえ断ろうと思った。もし二人の愛弟子からの手紙がなければ受け入れはしなかっただろう。


「アテナイエー様からも、カイからも、くれぐれも頼まれたゆえに、そなたを受け入れたのだ」


 弟子となるサムと向き合ったオウシンは静かに言った。


「皇帝陛下は、そなたを研ぎ澄ましてほしいとお望みなのだが」


 言葉を切ったオウシンは一つ首を捻る。


「不思議なことに、武技はすでに十分に長けているように思う。それを“研ぎ澄ませ”というのは、どういう意味なのか? まさか、カイやアテナイエー様をも超えよということなのか?」


 オウシンの表情には「それは不可能」と書いてある。サムも完全に同意だ。アテナやカイを超えるのはバケモノだけに決まっている。


 その時、サムは理由がピーンと来てしまった。


『それって、武芸じゃないだろ! 絶対、オレの趣味のことを言ってるよね?』


 父親のジムは、皇帝に登用されるに当たり、謎の試験を受けさせられた。


 二つの布きれを渡されて、どちらが、この布地(ハンカチ)の持ち主かと問われたらしい。


 父はそれを「イタズラ好きな皇帝陛下の話」として語ってくれた。


 その話を聞いた瞬間、サムは『冗談ではない!』と嘆きにも似た思いを抱いた。


『なんてもったいないことを! ショウ陛下ならぜったい、どっちかはメリディアーニ様のモノに決まっているのに! なんでもらってこないんだよ!』


 そんな不満は顔にも出さず、親子でそろって首をひねっただけだった。


『でもなぁ~ いまさら趣味は変えられないし。それに、今は可愛い、可愛いミヨがいるもーん』


 そもそも「政略結婚」に近かったが、婚約を結んだミヨにベタ惚れである。


 神聖国王の長女というブランドを持ちながらも、実につましい性格だ。美しく、サムとも信頼関係ができ始めている。


 一刻も早く皇都に戻って、イチャラブしたいサムである。


『ミヨちゃんてば、とーってもいーニオイだもん。へへん、これでもう、大丈夫だ~い!』


 ということを光の速さで考えたサムだが、オウシンの問いかけに、どう答えるべきかはわからない。


 しかし、オウシンは、ゆっくりとサムの顔を見つめ、瞬きを二回した後で言った。


「……ふむ。どうやら研ぐ必要はなさそうだな」

「え?」

「そなたには邪念が多すぎるのだろうと思う」 

「ええええ!」

「すなわち『澄む』ことが目的か……」


 ちょ、ちょ、ちょっと! と心の中で「顔を見ただけで邪念がなんて言われたくないよ!」と叫ぶサムである。


 穏やかな表情のオウシンは「我が家では」と言葉を繋げた。


「ご存知かどうかは知らぬ。母が近所の娘さん達に料理を教えている」

「はい」


 カイから聞いた話だ。そもそも、カイの美人嫁二人も、この家の家事手伝いだったらしい。


 期待、大! 料理上手で可愛くって、いーニオイの子がいるかもしれない!


 婚約者と会えない以上、ぜひとも別腹が必要なのだ。


「となると、そなたの修行の邪魔になってはいかん」

「へ?」


 思わず拍子抜けした声が出てしまう。


 その返事を聞いたオウシンは、微かに笑って見せた。


「すまぬな、期待を裏切って。そなたに武術の稽古はいらぬゆえ、私と二人で山に籠もることにしよう」


 ハイと返事をしたサムは、もう半泣きだったのである。



オウシン先生は、人の見極めがお上手です


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― 新着の感想 ―
なるほどサムが後送されて修行って何をするかと思えばw ……時と場合を弁えた自制ができるようになって貰わないと使い勝手悪いですしねw
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