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スキル「ゴミ」いや、マジで (書籍化決定)  作者: 新川さとし
第7章 南部編

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第95話 待機命令

 サンタがやってきた。


 と言っても、この世界には「クリスマス」の概念はない。


 サンタはサンタでも、筆頭将軍を務めるクロース男爵家の当主のサンタである。


 貴人に会う時の心得通り、いそぎ旅塵を落とすと、早速、イグナツ家の領館の貴賓室でクルシュナと向き合ったのだ。


「サンタクロースが何を慌てているんだ」


 まだ夏だぜ、という言葉をクルシュナは飲み込んだ。どのみち、この世界では通じないとわかっているからだ。


「まずは、無事のご帰還をお喜び申し上げます」

「いや~ 参ったぜ、しばらく、体中イモくさくなっちまった」


 イモの箱に隠れて国境を越えた。


 面白おかしく脚色された帰還の話については、この領館にいる者は全員が聞かされていた。

 

 もちろん、臣下の間では一種の英雄譚として語られているし、サンタも把握していた。


 深々と頭を下げたまま「さすが、大王様でいらっしゃいます。何人(なんぴと)たりとも出来ぬ偉業。まことにお見事としか申し上げられません」と硬い口調で言った。


「ははは。相変わらず、かたっくるしーな。楽に行こうぜ、楽に」

 

 クルシュナ王のフランクさには慣れたつもりだが、この後に話すべき内容を考えると、とてもではないが「気楽に」できないサンタである。


「早速でございますが、このたびは、ご出陣をお踏みとどまりいただき、感謝を申し上げます」

「そ! それなんだよ。あいつら(サスティナブル)をすぐに追いだしてやろうと思ったのに」


 極秘便で「監察を送る。出撃の見合わせを」という手紙がとどいたのだ。しかも、筆頭将軍自らが駆けつけるとあった。


 いくらクルシュナでも「ただごとではない」くらいは察する。


「実は…… 大王様がお大切になさっていらっしゃる娘が、産気づきました」

「え?」


 さすがに、目が点である。


「そんなのが緊急?」


 聞き返したが「どうやら、お世継ぎになる可能性がございます」といいつつ、サンタが、そっと紙を差し出した。


 なんだ、とクルシュナが声を上げそうになったところを、サンタは自分の唇の前に人差し指を立ててみせる。


「ご無礼を申し上げますが、大王様におかれては初めての事にて。くれぐれも、うかつに口にできませぬゆえ、急遽、私めが参りました」


 しかし、サンタの言葉などクルシュナは聞いてない。マジマジとテーブルに出された紙に大書された文字を見ている。


【声をお出しにならぬよう。謀反の恐れあり】


「おま、こ、これは?」

 

 クルシュナ王は目を見開いて口をパクパクさせていた。


「驚かれるのは、ごもっともなこと。まさか町娘だと思っていたのに、伯爵家の娘であったなど、わかりませぬから()


 明るい声を上げるサンタは、二枚目を滑らせるように差し出した。


【聞かれる恐れあり。気分を変えて外で話を聞くと、仰せを】


 クルシュナは、慌てて周りを見回し、机の下を覗き込む。


 サンタは、慌てて三枚目。クルシュナ王の普段を考慮して、念のため用意しておいた紙だ。


【地方貴族の館には盗聴のための仕掛けがあります】


「そんなモンがあるのかよ!」


 思わず口走って、慌てて口を抑えるクルシュナだ。


「いえいえ。さすがの大王様も、御嫡男ということで、驚かれたご様子。急いで参った甲斐がありましたな」


 ワッハッハ


 サンタは大仰に笑って見せた。


 このあたり、こちらの世界の貴族邸に疎いクルシュナにとっては驚きであるが、貴族であれば「貴賓室の盗聴装置」が置かれているのは当然のことだった。


 といっても、彫刻や絵画の裏側などに、見えぬように開けられた管があり、下の部屋や隣の隠し部屋で聞く原始的な装置だ。

  

「わかった。気分を変える。外で続きは聞く。ただ一つ、確認だけさせろ」

「は?」


 ここで、何かを確認するなら、意味がないだろ! と思ったが、臣下の身ではどうにもならない。


「その娘って言うのは、例の赤毛ちゃんで合ってるか?」


 サンタは、その声に演技とは思えない真剣味を感じてしまったのであった。


 そののち、中庭の東屋にて、クルシュナは「ボルタの不思議な動き」について一通りの説明を受けることとなった。


 その日の夕方、コフ内にいる全軍へシーランダー国王の名の下に命令が発出されたのであった。


 敵撃退のため、大軍を発す。

 よって三日間の待機を命じる。



※町娘と伯爵家の娘:この世界の常識で、手を付けた町娘の子どもには相続権がありません。逆に伯爵家以上の貴族の娘が男児を産むと世継ぎとなれます。今まで、クルシュナは町娘にだけ手を出していたため「嫡子候補」はいませんでした。そのため周囲が気を揉んでいたのは事実です。

  


ここで、いろいろしているうちに、ハコネ山の土運びが行われていました。


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