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私も成長したよね

 朝、目を覚ますと二度寝の誘惑に負けないようにのそりと起き上がる。

 寝癖を直すついでにシャワーを浴びて、髪を乾かし着替えを済ませて朝食のパンを食べる。


 そうこうしているとそろそろいい時間になってきたので、鏡の前に立ち身嗜みを確認すると、そこには転生してから約10年間見てきた少女の姿があった。


 あの王都であった6歳の子息・令嬢のお披露目パーティーから時が経ち、15歳になって学園に入学することになった。

 そして今日は入学式当日である。

 遅刻するわけにはいかない。


 鏡に映る自分の美しさに満足して、持ち物の最終チェックをした鞄を持ち学生寮を出る。

 因みに学園の寮には男子寮と女子寮があり、もちろん私は女子寮に入っている。

 男子寮なんてむさいところに行きたくないし、今の私は女だし。


 この10年程で心の中でも一人称は私を使うことにした。

 以前うっかり作法やマナーの家庭教師の前で「俺」と言ってしまったことがあり、その後のことは思い出すだけでもぞっとする。

 今では立派な淑女になってしまった。


 そんな風に自惚れているといつの間にか校舎へと到着し、中に入ると新入生の名前と所属クラスが書かれた紙が貼られていて、それを確認しようとしたが人だかりができており近づくことができなかった。


 なんとか見ようと背伸びしたり、ジャンプをしたりと頑張ってみるが結果は芳しくない。

 身長が慎ましい者には優しくないなちくしょう。


「おはよう、イル。何をしてるんだい?」


 ぴょんぴょんしていると、後ろからここ10年間で聴き慣れた声が聞こえてきた。

 振り返るとやはり思った通りの人物、王太子になったアルフォンスが笑いを堪えるように私を見ていた。

 私はアルと呼んでいる。



 あのお披露目パーティーのアルから「婚約者になってほしい」と言われたとき、突然の申し出に困惑して混乱した私は思考放棄をして肯定botと化してしまったため、翌朝正式に陛下から婚約についての話しをするから王宮まで来るようにと使者が来た。

 婚約の口約束をした翌日の朝に正式な使者を送ってくるなんて、行動早すぎてこわい。


 もちろん両親はとても驚いていたけど、「イルメラ、もし嫌だったら言うんだぞ。私が命に代えても婚約の申し出を断ってやるから」とか言い出して、母もそれに同調しだして2人とも悲壮な感じになっていたのは中々に笑えない出来事だった。

 娘が王子の婚約者になるかも知れないと言うんだからもっと喜べ。


 私も当時は「王子と結婚すれば楽に暮らせそう」という余りにも楽観的な考えだったので、特に嫌だと言うこともなかった。

 男と結婚と言ってもあの時は私も王子もまだ6歳だったし、そんなに性差がなかったというのもあるかも知れない。


 そして私とアルは婚約することになり、今に至るという訳だ。


 今はもうなんか男と結婚とかどうでも良くなったけど。

 性別ってやつを超越してしまったのだろうか(TS)。

 まあでも、アル以外と結婚するのは嫌だなとは思う。


 それはそうとアルよ、丁度いいとこに来たな。


「あれ、見えない」

「クラスが書かれた紙だね。私が見てくるから少し待っててね」

「うん」


 そうしてクラスの確認はアルに任せて、少し離れて見ているとスイスイと人並みを縫うように進んでいき、確認したらまたスイスイと出てきた。

 何その王太子らしからぬ動き。

 普通は「道を開けよ、我王太子ぞ?」とか言ってモーゼの十戒みたいにやるんじゃないの?


 でもあの動き漫画とかで出てくる強者っぽくてかっこいいから後で教えてもらおう。


「おかえり」

「ただいま。私とイルは二人とも1組だったよ」

「そう、ありがとう」

「どういたしまして」


 一緒に1年1組の教室まで行き、扉を開けて中に入るとザワザワと聞こえていた話し声がピタリと止んだ。

 そして皆んなこっちを呆然と見ていた。

 なんだよ、そんなに見ないでくれ!


 どうしたのかと見つめ返していると、皆んなの視線が私の手元ーーアルと手を繋いでいることに驚いて見ているようだった。


 なんか手を繋ぐのが癖になってるみたいで、気がついたら握ってるんだよね。

 イーナと手を繋いで散歩してたからかな?

 アルも特に嫌がってないようだし別にいいよね。


 でも見られるのは恥ずかしいので手を離そうと思ったけど、アルが手を離してくれなかった。

 顔に熱が集まるのを感じてアルを盾にして視線から逃れようとするが、席へ向かわなければならないので結局は見られてしまう。

 でもアルがさりげなく視線から守ってくれて、無事に席に到着した。


 席に座り顔を隠すようにして今日の日程表を見ていると、教室内が未だに静まり返っているのに気がついた。

 静かなのは好きだけど、この空気はなんだか居心地悪い。


 さっきまでのザワザワはどうしたのかと問いただしたい。

 やらないけど。


 だが、そんな時間は長く続かずに扉を開け教師が入ってきた。


「新入生の皆さん、おはようございます。そして、入学おめでとう。これから大講堂で入学式を行いますので、そちらへ移動します。廊下に整列してください」


 出席番号とかはまだ分からないので廊下に適当な順番で並んでいるが、先生は何も言わないのでこれで良いんだろう。

 背の順だったら私が1番前になりそうなのは気づかないフリをした。


 そして、大講堂で入学式を行いまた教室へ帰ってきた。


 学園長の話しは9割以上覚えてないけど、アルが新入生代表の挨拶したのは覚えてる。

 アルが壇上に上がった瞬間、女子たちがキャーキャー言ってたときは「あの人私の婚約者なんですよ」って隣にいた人に思わず自慢してしまうとこだった。

 話しかけるとか無理だけど。


 そして、教室で皆んな席に着いて後はもう帰宅かな?と思っていると先生が衝撃の発言をした。


「では皆さん、それぞれ自己紹介をしていただきましょうか」

お読みいただきありがとうございます!沢山のブクマ、評価ありがとうございます!

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