立場は弁えなきゃね
ポンコツ幼女が王女だった件。
もうポンコツとは呼べない。
「お兄様こそどこに行ってましたの?途中でパーティーを抜け出したので、こっそり後をつけていたらお兄様を見失ってしまい大変でしたのよ」
ん?
もしかして、途中でパーティー会場から出た兄が気になって尾行をしていたが途中で見失い、俺が見つけたあの状況になっていたのか?
なんだ、やっぱりポンコツじゃないか。
「色々と聞きたいこともあるけど…。イルメラ嬢がアンを会場まで連れて来てくれたのかい?ありがとう」
「…はい」
王女の名前はアンって言うのか。
愛称なのかな?
王女の愛称じゃない本名を教えてほしいとか、ここまで連れて来たのはイーナなんですとか言いたいことはあったけど、変に質問をして「こいつ頭おかしいんじゃねーの?」とか思われても嫌だから返事だけにしておいた。
しかも、相手は王子だ。
今まで何故か俺に話しかけてきたり、ダンスをしていたが王族に対しての礼儀は大丈夫だったろうか?
急に気になり出した。
うーん。
…。
これより脳内会議を始める!
まず、被告人『イルメラ・クラインベック』の行動を振り返る。
最初に話しかけられたとき挨拶してなかった。
ダンスの途中で転びそうになったときに助けてくれたお礼言ってない。
しかも、王子の顔を見て気絶した。
心の中で王女をポンコツと呼んでいた。
カンッ!カンッ!
判決を言い渡す!
数々の無礼な言動に情状酌量の余地なし!
被告を不敬罪により処刑とする!
………。
いやああああああ!
仕方ないじゃん!
初対面の人とまともに話せるわけないじゃん!
だってコミュ障なんだもん!
しかも王族相手ってどう話せばいいのか余計分からないし!
どうかお命だけは!
「…イルメラ嬢?どうしました?」
「ヒィッ!命だけは、助けて、ください」
王子に声をかけられて、咄嗟にイーナの後ろへ隠れた。
助命嘆願をする俺を見て、二人は驚いた顔をしている。
きっと「この後に及んでまだ助かりたいなんて、ふてえ野郎だ」とか思ってるに違いない。
「急にどうしましたの?怖い夢でも見たんですの?」
いや、寝てないが?
なんならさっきまで話し(?)をしてたんだが?
「ここには誰も貴女を傷つけようとする者はいませんよ。安心してください」
お前じゃあ!
お願いします。お命だけは。お命だけは。
「お嬢様、何がどうしてそのようなことを仰るのか分かりかねますが、おそらく考えているようなことにはならないかと思いますよ」
「…ほんと?」
潤んだ目でイーナを見上げると、イーナは口を手で押さえて顔を赤くした。
その反応は嘘をついたのだろうか。
がーん、と頭の中でショックの音が響いた。
「本当ですよ。殿下は寛大な方ですので、お嬢様が危惧するようなことにはならないかと」
「そうですよ。貴女は何も悪いことをしていないじゃないですか。私が危害を加えることはしません」
「ほっ…良かった」
イーナと王子の言葉を聞き、安心した。
命の危機は去ったのだ。
良かった良かった。
「そういえば、貴女ってイルメラというのね」
「え?アン、もしかして彼女の名前を知らなかったの?」
「忘れていましたの。でも、今お名前を知りましたので大丈夫ですわ」
何が大丈夫なのかさっぱりですわ。
はっ!喋り方がうつってしまった。
「すまない、イルメラ嬢。アン、ちゃんと名前を名乗らないと駄目じゃないか。…っと、そういえば私も名乗ってなかったね。もうご存知かと思いますが、スペルフォード王国第一王子『アルフォンス・スペルフォード』です」
「改めまして、わたくしはスペルフォード王国第二王女『アンネマリー・スペルフォード』と申しますの。よろしくお願いしますわ、イルメラ様」
おお、なんか今の王族って感じがしてかっこいい。
「お嬢様もお名前を」
うへー。
そうだった。
まだ名前を言ってなかった。
「イルメラ・クラインベックです。…クラインベック伯爵家の長女です」
ああ!
名乗ることも満足にできないなんて!
もう帰りたい。
いや、帰る!
「よろしくお願いしますね、イルメラ嬢。…ところでそちらは?」
俺がイジイジしていると王子がイーナに視線を向けた。
そういえば、全員名前言ってなかったもんね。
イーナは自分にも名を聞かれるとは思っていなかったのか、びっくりした顔をしている。
「は、はい。私はバルテル男爵の次女の『イーナ・バルテル』と申します。イルメラお嬢様の侍女をしております」
「そうなんだ。これからもイルメラ嬢をよろしくね」
「はい。お任せ下さいませ」
なんだか王子にイーナが認められたみたいで嬉しい。
そうです。
うちのイーナは凄いんです。
お菓子も作れるし、家事もできるし大体なんでも熟すスーパーメイドなのだ。
ただ、虫が苦手という欠点はあるけれど。
でも完璧よりも一つくらい苦手なものがある方が親しみやすいし、虫が駄目って女の子っぽくて可愛いし良いと思います。
あ、因みに俺も虫は苦手なのでよろしくお願いします。
と、そんな風に雑談をしていたが、あまり一箇所に留まりすぎるのは良くないとのことで、王子と王女の兄妹は国王の元へ戻って行った。
俺たちもクラインベック家の元へ戻って行ったが、途中でイーナにバルテル家の両親に合わなくて良いのか聞いてみたところ、俺が王子にダンスを誘われる前に会ってきたらしい。
家族に会えたなら良かった。
侍女をしてるとうちの屋敷に泊まり込みになって、実家に帰れないからね。
話しながら歩いていると、直ぐに両親の元に着いた。
兄はまだ御令嬢たちに囲まれているらしい。
モテる男は大変ですね。けっ。
「おお、イルメラ。もう大丈夫なのかい?突然倒れたと聞いてとても心配だったんだよ」
「良かったわ、すぐに向かいたかったけれど殿下のお披露目のパーティーだから抜け出すことができなかったのよ」
その主役の殿下はちゃっかり抜け出して来てたけどな。
自分の立場分かってるんだろうか。
でもなんでダンス中に倒れたからといって、たかが伯爵令嬢一人のためにパーティーから抜け出したんだろう?
そして、パーティーは終わり王都の屋敷へと帰ってきたのだった。
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次話は明後日の夜に投稿予定です。




