しょせん、異端者 2
持っていた段ボールを投げ捨て、神父へと駆け出した。
「この人でなしがぁあああああああ!」
ボストンバッグで頭を殴りつけたと同時に、女性たちの悲鳴が起こる。
「おまえ! おまえに何がわかる! 」
神父の胸ぐらをつかみ、今度は素手で顔を殴った。メガネが吹き飛び、衝撃で倒れ込む。
保護者たちがここぞとばかりにアーチ門を越えて、神父にせまっていった。
「ひいぃ!」
神父を見下ろす保護者達の顔は、阿修羅のように憤っている。
「ふざけるなこの野郎! おまえらのせいだ! 娘がいなくなったのはおまえらのせいだぁあああ!」
父親たちは神父に手を伸ばして服をつかみ、順に殴っていく。母親たちはたまりにたまった不満を、つばとともにまき散らした。
「あんたほんとうに神父なの! 神父ってのはこんなにも人の心がないものなの?」
「よく教育機関として成り立つもんだわ!」
「こっちは娘の命がかかってんだ! プライバシーも守秘義務もあるかクソがぁあ!」
神父が何度も殴られる音と、事務員と学生の悲鳴が響き渡っている。
その場にいた警察官二人が止めようとするも、多勢に無勢。
「やめなさい! やめなさいってば!」
馬乗りにされて殴られる神父は、遠目から見ている三美神に向かって手を伸ばす。
「助け……助けて……ぶっ」
言葉はちゃんと聞こえていたものの、三美神の表情は変わらず、その場から一歩も動こうとしない。
「ひっひいいいいい……殺される……警察……」
遠くからサイレンが聞こえはじめ、パトカーが数台、大学の前に停まる。出てきた警官たちが一斉に暴動を止めに入った。
「何をしてるんだ!」
「やめなさい! 落ち着いて!」
神父を殴っていた父親たちは、警官たちに引きはがされていく。
「くそっ、離せっ、はなせぇえええ!」
応援に駆け付けた警官によって、保護者たちは門の外に引きずられていった。
「悪いのはあいつらだ! 俺の娘をっ……娘をぉおおお……」
「落ち着いて! わかった、わかったから!」
最後まで抵抗していた男性は、門の外で地べたに組み伏せられた。
「大丈夫だから! あとでちゃんと話きくから!」
手の空いている警官が、震えながらうずくまる神父のもとへ駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「ああ、よかった……助かった」
安どの表情を浮かべ、神父は警官の手を取って立ち上がる。それもつかの間、警官を見すえ、顔をゆがませた。
「ああああああ! 汚い男が中に入ってくるんじゃない!」
「……は?」
「すぐに出ろ! 汚らわしい! はやく門の外に出ろ!」
「いやでも被害届など出されるなら」
「うるさい! 今はそんなことどうでもいいんだよ! はやくでろっていってんだ!」
神父の勢いにおされるがまま、警官は門の外へと追いやられる。その場にいる警官たちはみな、いぶかしげな顔を神父に向けていた。
門の外で組みふせられた男性を見下す神父は、笑う。
「やはり、低能の親も低能でしたな」
「なんだと……!」
保護者達が再び神父へ向かおうとするものの、警官に抑えられて動けない。
神父は嫌みったらしい笑みを浮かべたまま、背を向けた。その際、門のわきにいた三美神に目をとめる。
「ちっ。言うほどにもない役立たずどもめ」
そのまま、礼拝堂へと向かっていった。グチグチと、不満を垂れ流しながら。
「何が三美神だ……名ばかりのやつらが。あんなもの邪神でしかないんだ」
神父に続くように、事務員や学生たちもそそくさと離れていく。門を通る学生の中には、組み伏せられた男性を冷たく見下ろすものもいた。この大学にとって、異端は彼らのほうなのだ。
「う、うう……ううう……」
組み伏せられた男性の口から、嗚咽が漏れる。
「わかるだろ……あんたらだってわかるだろ……。こっちは、娘がいなくなってんだぞ……。娘がいなくなって……俺たちが、どんな気持ちで……。ううう……」
悲痛な声に、周囲の警官たちは何も返せなかった。
遠めに眺めていた三美神は、近寄ることもなければ、優しい言葉をかけることもない。




