よく転ぶ話
「盤隆中の子が、動画を取ってくれてただろう?」
哲の言葉に、健一はケーキを一口食べてうなずく。
「実は、あれ、まだどこにも公開してないんだ。警視庁で厳重に保管してる。警察と検察が動いてくれなかったら公開しようと思ってたけど、思いのほかすぐに動いてくれたし」
哲はフォークを皿の上に置き、ティーカップを持ち上げた。
「でも、今の時代、いつでもネットに流せる。それをしないのは、あの映像に少なからず価値があるからだ。あの親子が再び調子に乗り始めたとき、ためらいなく流せるようにしておきたい。まあ……そんな機会がくるかはわからないけどな」
哲は意地の悪い笑みを浮かべた。ロイヤルミルクティーを飲み干すと、和也の前に空のティーカップを置く。お代わりをご所望だ。
和也はにっこりと笑って、哲のティーカップにかいがいしくお代わりを注いだ。
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新名麻耶は警視庁の受付で、チャック付きポリ袋に入った自分のスマホを受け取った。受付の女性が、申し訳なさそうに言う。
「本来なら、担当の刑事から直接お渡しするべきなのですが、なにぶん今はその余裕がないようでして」
はあ、と新名は気の抜けた返事をする。受付は続けた。
「証拠になる動画のみ、取り出してます。悪用や流出を避けるため、そのスマホには残していません。三美神からの指示でやっていることですので、ご了承ください」
「……はい」
新名は自らのスマホを、チャック付きポリ袋から取り出した。電源は切ってあり、ボタンを長押しして起動させる。何の問題もなく、画面に起動中の文字が浮かんだ。
新名は受付に向かって口を開く
「あの……三美神の方々に伝えておいてくれませんか?ありがとうございましたって」
「……承知いたしました。そのように伝えておきます」
新名は受付の女性にお辞儀をして、その場を後にした。
外に出てしばらく歩く。スマホの画面を見ると、既にトップ画面が表示されていた。とんとんとタップして、アルバムを開く。受付の女性が言っていたように、あの動画だけが奇麗に抜き取られている。
新名はほほ笑んで、スマホをカバンにいれた。前を向いてさっそうと歩いていく。
スマホを持って来ていたことに対し、学校からのおとがめはなかった。三美神から何かお達しがあったのか、それとも議員があんな事態に陥ったからなのか、新名の知るところではない。
確かなのは、あのとき校則を破ったことも、教師の言うことを聞かなかったことも、決して間違いではなかったということだ。




